
3.牧畜王国の口蹄疫
口蹄疫とは?
今やほとんど収まって、とくに日本では狂牛病さわぎで忘れられている口蹄疫。口蹄疫=Mouth
and Foot Diseaseは、ひづめが2つある動物(牛や羊や豚など)がかかり、いくら餌を食べても太らなくなってしまうという病気だ。狂牛病のように人間が感染することはない。しかし、食べても太らないというのは、牧畜で生計を立てている人にとっては、たいへんな問題だ。被害を広げないために、牧場を横切るフットパスが立入禁止になったり、道路にタイヤをふき取るためのマットが敷いてあったりした。
大問題!
自分では調べてもみなかったので、行くまで何も知らなかったのだが、この病気が最初に出たのは、湖水地方、しかもニア・ソーリーのすぐ近くだったのだ! 私が行った6月には、だいぶ収まりつつあったが、少し前までは、あちこちの牧場から立ちのぼる煙が見えたという。感染した家畜を処分している煙だ。添乗員のOさんは、「イギリスは安全だって、宣伝してくれ」とよく地元の人に言われたそうだ。生計を支える家畜を処分しなければならない牧場の人、観光客へのサービスで生計を立てている人。どちらにも、大打撃だったろう。
モーターウェイを走っていると、この国に、牧畜と観光以外にどんな産業があるんだろう?という錯覚に陥る。そんなイギリス、口蹄疫がどれほど深刻な問題か、行ってみて初めて、身にしみて分かった。
TOP
Closedのヒル・トップへ
湖水地方のフットパスはほとんどすべて閉鎖中で、ヒル・トップ農場も公開されていない、と聞いたのは、イギリスに着いてからだった。
もともとツアーの行程にヒル・トップは入っていなかったので、自由時間に自力で行くつもりではあった。が、閉まっているのでは…。しかも、自由時間は少ない。行ってもすぐ帰ってこなければならない。それでも行くか? 迷っていた私に、添乗員のOさんが言った。「それが楽しみで来たんでしょ?なら、絶対行った方がいいよ!」それで、決心がついた。偶然にも、解散になった「ベアトリクス・ポターの世界」の出口に、日本語で書かれたヒル・トップ行きのフェリーとバスの時刻表が!!(→Info
ニア・ソーリーへの行き方) 時刻表をひっつかんで、フェリー乗り場に急ぐ。ちょうど、次の船がすぐ出る時間だ!
チケット売り場でその時刻表を差し出して、「ヒル・トップに行きたい」と伝えると、“Hill
Top is closed.”と言われる。それでも往復のチケットを買う。やがてやってきた、とっても小さな船に乗り込む。乗客は私と、子ども連れの家族1組だけ。ごま塩頭のしぶいおじいさんが舵をとるワンマン・ボート(?)だ。対岸について、バス乗り場を探す。が、それらしきものは見あたらない。そばの売店で聞くと、また、“Hill
Top is closed.”と言われる。教えてもらったところで待っていると、バス…というよりワゴン(見たい方はこのサイトをチェック→Mountain
Goat)がやってきた。運転手さんにニア・ソーリーに行くというと、またまた、“Hill
Top is closed.”降りるときにも、ほんとにここでいいのか?と心配される。笑顔で「いいんです」と言うと、タワー・バンク・アームズの場所を教えてくれ、そこは開いてるよ、と教えてくれた。
こうして、ついにやってきたニア・ソーリー村(→Walk
ニア・ソーリー)は、観光客はおろか、道を歩いている人もいない、本当に静かな村だった。静かすぎて、物見遊山でやってきたことに後ろめたさを覚えるほどだった。あらためて、口蹄疫の被害に思いいたる。
だけど、これが本来の姿なのかもしれない、とも思う。ポターの物語で有名になる前は、ずっとこんなふうに静かに暮らしていたのだろう。いやいや、有名になった今も、やっぱり静かに、大地にしっかり根を張って、暮らしている人たちがいるのだ。そうでなければ、日本の明治時代の風景が、そのまま残っていることなど不可能だ。
羊はやっぱりいなかった。ヒル・トップでも感染した羊が処分されたのかもしれない。口蹄疫のことを知ったら、ポターはさぞ嘆くだろうな…と思う。口蹄疫にかぎらない。昔の景観を苦労して守っていても、地球の汚染はどんどん進んでいる。ここだけが楽園でいられるわけはないのだ。
さて、そろそろ帰らなければ。最終の船に乗り遅れたら、路頭に迷ってしまう! 帰りは景色を楽しみながら歩こう。…と、ふと見ると、茶色い丸いものが目に入った。うさぎだ!よく見ると、あっちにも…。あれ、こっちにも…。手のひらにのりそうなかわいいうさぎたちが、いっぱいいる! これはもしかしたら、口蹄疫のおかげなのでは? あるじである羊たちがいなくなった牧草地を、わがもの顔ではねまわるうさぎたち…。ピーターの子孫たちは、今もやっぱりたくましく、この地で生きていたのだった。
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