平成12年寄乙第2号・懲戒免職処分取消請求事件
審査請求人  ×  ×  ×  ×
処  分  者    千葉県教育委員会
最 終 準 備 書 面
平成14年2 月 2 0 日
干 葉 県 人 事 委 員 会  御 中
審査請求人代理人    
弁 護 士   ○  ○  ○  ○
 
第1.処分者の主張する処分事由と、審査請求人の主張する処分事由
(正確には処分された事由)とは、相違していることについて。
 
1. 処分者は、信用失墜行為としての処分の対象となる行為につき、
「それは高校の教諭が、その担任する女子高校生と同棲し、性的閑係を
 続けた事実を指す」と主張する。
 ところが、審査請求人は、処分者の主張する上記処分事由は存在せず、
 処分事由(審査請求人からみれば処分された事由)とは、「高校の教諭
 とその担任する女子高校生とは恋愛関係にあり、その恋愛と不即不離な
 ものとして二人の間には性的関係が存在したものであり、同棲(審査
 請求人からみると、後述のとおり同居と表現するべきと考えられる)に
 ついては、審査請求人も認めるものであり、且つ、同居中に二人の間に
 性的関係が存在したことは認めるものである」と主張している。
 なお、ここで、「高校の教諭」とは審査請求人のことであり、「女子
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 高校生」とは○○○○で(以下「○○」という)のことである。
 そうすると、客観的事実として、処分者の主張する処分事由と審査
 請求人の主張する処分事由(正確には処分された事由だが、以下処分
 事由としておく)との、いずれの処分事由が存在していたかを、先ず
 確定する必要がある。
 なぜならば、審査請求人においても、高校の教諭とその担任する女子
 高校生徒の間に恋愛が存在せず、この二人が単に遊び心で、同居(処分
 者のいう同棲)し、性的関係を続けたのが客観的事実ならば、処分者に
 おいて高校の教諭(嘗査請求人)を懲戒免職処分にしても、何ら異議・
 不服を申立てる意思はないからである。
2.客観的事実として、いずれの処分事由が存在したのであろうか。
(1).処分者は、審査請求人が淫行容疑事実で逮捕・勾留されたこと、
  起訴猶予という不起訴処分を受けたこと、乙第1号証・乙第4号証・
  乙第6号証・乙第11号証の1乃至6などの事実から、審査請求人と
  △△との間には恋愛は存在せず、審査請求人の違法行あにより、最大
  限譲歩しても、二人の間の遊び心より性的関係を結んで同棲したもの
  として、その主張する処分事由の存在を認定したものと考えられる。
(2).しかし、処分者はその主張する処分事由を認定するに際し、利害
  関係人からの事情聴取を十分にしなかったため、その事実認定を誤り、
  客観的事実とは相違する処分事由を認定したと判断せざるを得ない。
(3). 審査請求人は、乙第2号証において淫行容疑事実を認めておらず、
  反対に恋愛を裏づける、結塘をしようとの詰も出ていた事実を学校
  側に話している。
(4).審査請求人は、乙第3号証においても淫行容疑事実を否認し、
  △△とは恋愛閑系にあった状況で性的関係を結んだこと、二人の間
  では結婚するつもりであったこと、△△の友人・■■は二人の同居
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を知っていたこと、及び、○○が被害届を出した理由がわからない
し、同人は意図的に嘘を言っている等と、処分者側に陳述している。
(5). 乙第10号証によれば、○○の法定代理人でもない●●●が平成
  12年2月28日来校して、二人の性的関係等を主張し、同人は、
 「今のうちに認めるなら、内々で済ませる」等と発言していること、
    校長はの●●●来校目的を、恐喝目的と理解したこと(第1回
口頭審理速記録22頁)、審査請求人も●●●への対策として同僚
の□□教諭に、「脅迫されているので弁護士を紹介してほしい」と
依頼している(乙第3号証)ことが認められる。
(6).○○は、乙第9号証の面談結果報告書(平成12年3月13日付)
  の内容が虚偽であったこと、及び、その訂正した内容の書面を松戸
  秋山高校に送付していることが認められる.
  処分者としては、上記(ア)乃至(エ)の諸事実を認識していたと考えられる。
  それに加えて処分者は、審査請求人を懲戒免職処分という、教諭
  の身分剥奪という、極めて重い処分をするとの予測を立てたならば、
  処分者は、審査請求人・○○・同人の母線・■■■■・●●●・
  その他の利害関係者から、十分な事情聴取をすべきであったと思われる。
  とりわけ、審査請求人が現在においても、処分者の異常な行動と
  して忘れ去ることができなのは、以下の事実である.
  つまり、処分者は、審査請求人が平成12年3月8日に逮捕され
  てから3月28日の釈放の日までの21日間、逮捕・勾留されてい
  たことを諒知していたものであり、しかもこの期間、審査請求人が
  淫行容疑事実を否認していたことも知っていたものであり、さらに、
  逮捕・勾留は審査請求人に対し、精神的にも肉体的にも非常に苦し
− 3 −
い拘禁生活を強いるものであることを理解していたはずである。
しかるに処分者は、上記20日間もの悲惨な拘禁生活により、
精神的にも肉体的にも疲れ切っていた審査請求人に対し、その釈放
された日の3月28日に、松戸警察署から処分者を、あたかも連行
する形で連れ出して、事情聴取をして、乙第3号証の書面を作成し
たものである。
しかも、この乙第3号証の書面を審査請求人に読み聴かせの機会
も与えず、同人の署名・押印もない。
処分者の上記異常な行動は、その当時、千葉県の学校教育界で
   教諭の不祥事が続発していたこと、それに対する世論の動向を意識
し過ぎて、処分者は神経が過敏になり過ぎていて、早急に審査請求
人を問答無用的に、懲戒免職処分にしようとの意図があったことを
推測させるものである。
処分者が冷静になり、上記利害関係人から十分な事情聴取をすれ
ば、処分の対象となった処分事由は、処分者側の主張するそれでは
なく、審査請求人の主張する処分事由にあったと考えられる。
(3).審査請求人が主張する、処分の対象となる処分事由は、以下の事実
である。
つまり、審査請求人と、その担任する女子高校生である○○とは
恋愛関係にあり、その恋愛と不即不離なものとして、二人の間に性的
関係が存在したものである.
また、二人は平成11年6月上旬から同年10月初旬まで同居し、
その同居期間中に、二人の間に性的関係が存在していたものである。
そして、審査請求人の主張する上記処分の対象となる事実(処分
事由)が、懲戒免職処分に該当するか否かを判断されたい.
審査請求人が上記のように主張するのは、審査請求人と○○との間
一 4 −
に恋愛関係が存在したからである。
審査請求人と○○とが、遅くとも平成11年1月から恋愛関係に
あったこと、並びにこの恋愛関係に基づき二人は性的関係を結んだこ
とは甲第2号証・甲第3号証・甲第7号証・甲第8号証・甲第9号証
・甲第19号証・甲第20号証・甲第21号証・甲第22号証、及び
甲第29号証から明らかである。
第2.教諭とその担任する女子高校生、言い換えれば、審査請求人と○○との
恋愛は許されないものか否か.
 1.結論として、審査請求人と○○との恋愛関係は許されるものである。
   言い換えれば、二人の恋愛は、地方会務員法第33条の信用失墜行数
   や第29条第1項第3号の非行に該当しないといえる。
(1).本来、恋愛というものは、予期せぬときに予期せぬ場所等で生じる
ものであり、二人の間の職業・身分関係・二人の間の置かれている
立場とかに関係なく発生するものであり、本件では、たまたま教諭と
その担任する女子高校生との間に恋愛が生じたというにすぎない。
(2).女性は16歳になれば、親の同意を条件に婚姻できるものであり、
   婚姻の前提には、二人の恋愛が不可分に結びついている以上、女性は
   16歳になれば一般的に恋愛することが認められていることになる。
   ○○は本件が問題になったとき、すでに17歳になっており、且つ
   精神能力も同年齢の女子と比較して、遜色なかったものである。
   従って、○○が恋愛すること自体、問題視されることはない.
   問題は、その担任の教諭である審査請求人が、恋愛の相手だった点
   である。
   恋愛は、相手へ無償の愛を捧げるとともに、恋愛により心の安らぎ
   と生きる活力を得られるものである。
− 5 一
また、恋愛状況にあるとき、人は純粋無垢の精神状態になれるので
あり、恋愛はその当事者に、人の一生の間で最も清浄な体験を附与す
るものである。
通常人は、恋愛の持つ上記のような機能・効用を、意識的もしくは
無意識に理解してると思われる。
そのため、恋愛当事者が教諭とその担任する女子高校生だった場合
でも、その教諭に対する信頼を喪失することはないと考えられる.
言い換えれば、一般人たる県民は、審査請求人とその担任する○○
との恋愛を知ったからといって、審査請求人に対する信頼を喪失した
とはいえない.
それを裏づけるものとして、甲第1号証(生徒の要望書)と、甲第
30号証(千葉県松戸秋山高校前教諭・××××先生に対する懲戒
免峨処分取消の要望書)に記載された多数の署名者の要望書、および
甲23号証乃至甲26号証の保護者や市民から、激励の手紙や電子
メールがある。
2.恋愛と性的関係とは、不即不離に結びついている.
明治時代から昭和50年ころまでは、性的関係の伴わない、いわゆる
プラトニックラブという枚念も、人々に胎灸されていた.
しかし、そういう概念の存在がこの20年から30年の間に、世間で
は消失した印象があるうえに、もともと恋愛というものには、性的関係
が不即不離に結びついているものである。
恋愛状況を表すものとして、身も心もひとつになっているとの表現が、
数百年前からある位であり、恋愛と性的関係とを分離して考えるのは、
性的関係(セックス)を罪悪視しているからにほかならない。
3.  従って、審査請求人と○○との間に恋愛関係が存在し、それに基づき、
   二人の間に性的関係があったとしても、二人の恋愛が信用失墜行為に
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  該当しない以上、恋愛に基づき二人の間に性的関係があったとしても、
恋愛と性的閑保とは不即不離のものであるから、審査請求人の行為は
信用失墜行為に該当しないといえる.          ・
4. 処分者は、審査請求人と○○との恋愛に基づいた性的関係につき、
ことさらに性的関係のみを抽出して、それを「特別なこと」、「けがれ」で
あると設定し、まして、審査請求人が教諭であり、その担任する教え子
に手をつけたとの一方的な嫌悪感により、審査請求人を過重に懲戒処分
したとの印象を捨てきれない。
5. 教諭と教え子とが恋愛から婚姻に至った事例で、懲戒免職処分に至っ
た処分例は見当たらない。
このことから、本件のように教諭と教え子とが婚姻に至らない恋愛で
終絃した事例の場合、過去の事例集の流れからみて、懲戒免職処分に
相当するのだろうか。
恋愛したならば必ず婚姻に至る、ないし、婚姻しなければならないと
の論理は成立しない。
なぜならば、恋愛はそれぞれの当事者の多様多努な事情を包括して
進行するものである以上、婚姻に至らない恋愛当事者が出現するのは何
ら異とするに当たらないからである.
それは、恋愛から婚姻し、その後、離婚に至るケースが間々見られる
ことからも理解できる。
第3.審査請求人と○○とが同居して性的関係を結んだことは、信用失墜行為に
  該当しないか。
1. 二人の間に恋愛関係があるからといって、同居し、性的関係を結んだ
  ことを単に外形で捉えれば、○○には母親とその居住場所がある以上、
  何らかの信用失墜行為があると判断できる。
一 7 −
2.   しかし、本件においては、○○の母親は年下の若い男と婚姻関係には
ないが同居していること、経済事情から母親よりアルバイトを強いられ
ていること等から、○○には心の置場たる家庭がなかったこと、さらに
は、審査請求人は母親から○○の保護をまかせられたこと(以上は、甲
第19号証と甲第20号証より認められる)から、やむなく○○と平成
11年6月下旬から同年10月初旬まで同居したものである.
従って、審査請求人と○○との上記同居は、形式的には、ある程度の
信用失墜行為に該当するが、緊急避難行為として上記同居は違法性が
阻却されると考えられる。
仮に、上記緊急避難行為が認められないとしても、母親と同居できる
家庭環境がなかったうえに、非常にセンシティブな○○がその当時、他
の教員を含めて多くの他人を信じられなくなっていたところ、唯一信頼
できる審査請求人に対し、精神的にも肉体的にも安心して休める居場所
を求めてきたものである。
従って、審査請求人として、○○と同居する以外に適当な方法がな
かったという点では、審査請求人には期待可能性がなかったと判断でき
る。
その結果、仮に、上記同居と信用失墜行為に違法性があったとしても、
期待可能性がない、つまり、有責性がないといえる
3. 以上の点から、審査請求人と○○とが同居して性的関係を結んだこと
  は、信用失墜行あに該当しないといえる.
第4.審査請求人が、千葉県立松戸秋山高校の校長からの調べに対し、同居はし
  たが、○○とは性的関係はない旨の虚偽の報告をしたことが、地方公務員
  法第32条の、「上司の職務上の命令の忠実に従わなければならない」と
  の規定に違反するか.
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1. △△校長から審査請求人が事情聴取をうけた当時、審査請求人と○○
とは恋愛関係にあったものである。
しかし、△△校長からの命令とはいえ、「○○と性的関係があったか」
との質問自体が、二人のプライバシー侵害していると考えて、事実とは
異なる答弁をしたものであり、従って、違法な上司の命令に従う義務は
ないと判断したものであるから、虚偽の報告をしたからといって違法性
はない。
2.仮に、矢島校長の上記質問(取り調べ)が適法な上司の命令だったと
 しても、審査請求人はこの場合、地方会務貝法第32条の上司の命令に
従うとの義務と、他方では、○○のプライバシー(性的に係る諮問逢に
つき、第三者に知られたくないとの法的利益)を保護しなければならな
いとの義務の衝突に、遭遇したものである.
この場合、後者である○○のプライバシーを守る義務の法益の方が、
前者の義務を守る法益より優越することから、上記虚偽の報告は違法性
を阻却すると考えられる。
従って、審査請求人の上記虚偽の報告は、地方会務貝法第32条の
規定に形式的に違反するが、違法性がない点より適法なものとなる.
第5.乙第14号証は、措信し難いといえる。
乙第14号証の中の「2」で、「授業の欠席率(正確に言えば欠課率と
いう)」について記載されている数字がある。
それによると、平成11年4月から平成12年1月までの期間(○○の
高校3年生での欠課率)の授業の欠課率の数字は正しいとしても、この
数字を1月当たりの平均に換算すると43%ととなる。
すると、授業出席率は57%となってしまう。
しかし、卒業に最低限必要な出席率は66.7%である。
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そうすると、処分者の記載した、上記欠課率の数字の大小を論じること
は意味をなさなくなり、処分者は上記数字のトリックを使って、あたかも
○○の休みが多いような心証を与えようとしている。
第6.本件懲戒免職処分により被害を受けたのは、審査請求人だけでなく、○○
も同じく被害者となっていること。
○○は、●●●の脅迫・監視のもとで、虚偽の事実を話さざるをえな
かったこと、そのうえ、処分者は真相究明に必要な利害関係者からの事情
聴取を殆どせず、性急に、極めて不当な処分である懲戒免職処分をしたも
のである。
結局、処分者は、審査請求人と○○とが恋愛関係に絃びついた性的関係
という真相を把捉することなく、過重な処分を行ったことになる。
恋愛関係にあった審査請求人と○○のうち、地方公務員である審査請求
人に対してのみ懲戒処分がなされたのは、法律上、その是非は別として
誤りではないが、大切な視点が抜け落ちていることを貴委員会においては
認識してもらいたい。
つまり、処分者は、審査請求人を懲戒処分にしたことにより、恋愛関係
にあった相手方である○○に対しても、筆舌に厚くし難い苦しみという
処分を与えたことになる.
なぜならば、○○は、●●●の脅迫と監視のため、虚偽の事実を話させ
られた結果、審査請求人の懲戒免職と二人の名誉が著しく傷つけられたこ
とに、修復し難い痛手を受けたからである。
そこで、貴委員会においては、審査請求人に対する審査請求の当否を
判断なされる場合、その裁決内容如何によっては、審査請求人だけでなく、
○○に対しても、極めて重大な影響を及ぼすものであることを認識される
ようにように、切に要請する。
-10 −
第7.結論。
1. 第1で主張したとおり、審査請求人の主張する内容の処分事由が、
処分の対象事実となるものして貴委員会が判断するならば、審査請求人
の行あは非行、および信用失墜行為に該当しないものである。
処分者は、県民の信頼を傷つけたと主張するが、それに関する証拠が
全く顕出されていないのに反し、甲第1号証と甲第30号証から明らか
な如く、現在においても、多数の県民は審査請求人を信頼しており、
その職場復帰を要請してることが認められる。
2. 仮に、審査請求人の主張する処分の対象事実が、信用失墜行数に該当
するとしても、懲戒処分としての免職処分は過重であり、重くても減給
処分が妥当な緑であると思料する。
その理由は、審査請求人の大きな働きにより、○○が高校を卒業でき
たものであり、次に松戸秋山高校での教育者として、申し分のない教育
活動(甲第5号証・甲第27号証等)、さらには、甲第1号証や甲第
30号証より明らかなとおり、多数の保護者・卒業生・生徒らの県民が
免職処分の取消しを要望していることが認められるからである.
以 上
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