Written by 春日野 馨
わたしはいつものように診察室にいた。
時間はお昼前。多分、次の患者さんが午前中最後かしら。
「次の方、どうぞ」
「深沢さん、深沢 真由美さん。診察室へどうぞ」
今日の診察の補助をしてくれているのは小野寺さん。
診察室のカーテンを開けて顔を出したのは内科にいた真由美ちゃん。
「フィリス先生、こんにちは」
ぴょこっとお辞儀をする。そのしぐさがとっても可愛らしい。
「こんにちは、真由美ちゃん。調子はどう?」
「はい、とってもいいです。お友達もたくさん出来たんですよ」
「よかったわね。で、好きな人なんて出来たの?」
「……えへっ……」
顔を紅くする真由美ちゃん。
「その様子だといるわね。ねぇ、どんな彼なの?」
小野寺さんが声をかける。
「同じクラスで、とっても優しいんですよ。あーん、恥ずかしい……」
そう言いながらも真由美ちゃんは嬉しそう。
「ねぇ、フィリス先生もいいことあったんですか?」
「……どうして?」
「だって、先生、とっても綺麗だから。わたしも先生みたいに綺麗になりたいなぁ」
「そうですよ。この前からとっても綺麗になられたなぁってナースの間でも評判なんですよ」
「やだ……恥ずかしい……でも、いいことと言えばいいことだったのかしら」
二人が興味津々といった感じで身を乗り出してくる。
「先生、聞かせて」
「そうですよ。そんないい話の独り占めなんていけないんですから」
「……んもう……わかったわ、話します。その代わり一緒にお昼、食べましょ」
「わあっ、うれしい」
「じゃ、わたしは準備しますね」
お昼は二人にこの前の北海道の話をしないといけないわね。
わたしはそんなことを考えていた。
わたしはあれから夜も恐くなくなった。
昔の夢を見ることもなくなった。
でも、当直の時には恭也くんに来てもらっている。だって、恐くなくなったから来なくていいなんて言えないもの。
そして、わたしの中で明らかに何かが変わっている。まだそれが何なのかはわからない。
でも、わたしを今までと違うわたしへ突き動かす原動力になっているのは確か。
きっと……それはみんなの力……わたしは一人じゃない。
いつもみんなと一緒……
だからわたしは幸せなの。
だからわたしの日常はとても楽しいの。
だから……みんなに言いたいの。
いままでありがとう。これからもよろしくね。
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