I wish……

Chapter 4 (前編)



Written by 春日野 馨


 ポーン。
 チャイムが鳴ってベルトサインが消える。
 機内がなんとなくざわついてきた。キャビンアテンダントさんたちも動き始めた様子。
「皆様、本日は全日航六二五便をご利用くださいましてありがとうございます。私は当機機長の山上でございます。これ
から新千歳空港まで皆様のご案内をさせていただきます。当機は東京羽田空港を定刻どおり離陸いたしました。新千
歳空港到着は十三時五十分の予定となっております。短い間ではございますが、空の旅をお楽しみくださいませ」
「皆様、本日は当全日航六二五便にご搭乗くださいまして誠にありがとうございます。私は当機のチーフパーサーを勤
めさせていただきます……」

 わたしは北海道に向かう飛行機に乗っていた。
 座席はずいぶん前のほう。隣の通路側の席には恭也くんが座っている。
「お客様、お飲み物はいかがでしょうか」
 アテンダントさんが尋ねる。
 恭也くんは左手でわたしを軽く制して言う。
「こちらにはホットココアを。俺には緑茶で」
「はい、かしこまりました」
 一礼してアテンダントさんが下がる。それにしてもこの座席って他のよりも広いし、もしかして……
「恭也くん、あの……」
「先生、お疲れでしょう。ゆっくりお休みになってください。夕べはほとんど寝ていらっしゃらないんですから」
「……ええ……」
 あんまりきかない方がいいかもしれない。きっと恭也くんには恭也くんの考えがあってのことだろうから。
 わたしはアテンダントさんが持ってきてくれたココアを飲んで、座席を倒すと目を瞑った。

 昨夜のこと、わたしは、仮眠中見た夢のあまりの怖さに恭也くんを呼び出してしまった。
 恭也くんは取るものもとりあえず駆けつけてくれて、朝まで一緒にいてくれた。
 そして、突然北海道に行こうと誘われたのだ。
 ううん、それは正確じゃないかも。むしろ、恭也くんはわたしをどうしても北海道に連れて行きたかったみたい。なぜか
はわからない。
 朝になって医局長先生が出勤してこられると、恭也くんは医局長先生のところへ行って事情を説明してわたしの休暇
まで手配してくれたみたい。病院から帰るときに医局長先生が
「ゆっくりしてくるといい。フィリス先生は忙しすぎだったからね」
と笑顔で送り出してくださったのが少なからず気にはなるのだけれど。

 それから恭也くんに家まで送ってもらい、大急ぎで準備をしてまた恭也くんの車に乗って空港へ。で、北海道行きの機
上の人となったわけ。
 しかし、座席を倒して目を瞑ってもなかなか寝られない。仕方ないかも。だって、夕べの今日だから、またあの夢を見
そうで怖くって……
 薄く目を開けると恭也くんは座席を立てたまま、目を瞑っている。眠ってるのかしら。
「……恭也くん……」
 小声で呼んでみるとすぐに返事が返ってくる。
「……なにか?」
「……あのね……手、握ってていい?」
 恭也くんは軽い微笑を浮かべて
「……はい」
と答えてくれる。
 わたしは右手で恭也くんの左手をきゅっと握った。恭也くんもわたしの手を握り返してくれる。
 ああ、わたしは一人じゃないんだ……なぜかほっとしてしまう。
 そして、いつしかわたしは眠りに落ちていた。

「……先生、もうすぐ到着ですよ」
「……う……ん……」
 恭也くんの声で目が覚める。いつのまにか毛布が掛かっていた。
「……やだ……寝ちゃってた?」
「はい、気持ちよさそうに」
 恭也くん、笑ってる。
「……寝顔、見たでしょ」
「まぁ、それはその……」
「……恭也くんの……ばか……」
 ちょっぴり膨れっ面で言ってやる。女の子の寝顔を黙って見るなんて……もう、恥ずかしいんだから……
 でも、この状況じゃ仕方ないのかな?わかってはいるんだけど。

 ポーン。
 チャイムが鳴ってアナウンスが始まる。
「皆様、機長の山上です。当機はまもなく着陸態勢に入ります。シートベルトをお締めになり、座席のリクライニングを戻
されてテーブルは収納くださいますようお願いします。それでは着陸後に再びご挨拶いたします」

 機体にガクンという軽いショックがあり、エンジン音が大きくなる。着陸したみたい。
 ポーン。
「皆様、機長の山上です。当機はただいま新千歳空港に着陸いたしました。これからターミナル方向へ向かいます。機
体が停止するまでお席をお立ちになられないようお願いいたします。本日は全日航をご利用いただき誠にありがとうご
ざいました。またのご搭乗をお待ち申し上げております」
 しばらく地上を走って、機体がターミナルの前で停止する。定刻どおりの到着。ドアが開いて、みんなが降り始める。
 その列にわたしたちも加わって飛行機を降りる。

 ターミナルで手荷物を受け取って、レンタカー乗り場へ。
 すでに予約をしてあったのか、カウンターで二言三言話しただけで恭也くんが戻ってくる。
 係の方が車を出してくれて、わたしたちはそれに乗り込む。恭也くんが運転席でわたしは助手席。恭也くんが早速車
を出す。
 ふと時計を見るともう三時近い。
「ねえ、恭也くん、これからどこまで行くの?」
「一応、今日は高速に乗って旭川までの予定です。明日はちょっと山のほうに入りますけど」
「ふうん、じゃあ今日はそこで一泊?」
「はい、そのつもりですが」

 そうなんだ。今日はお泊りになっちゃうんだ。
 最近は病院の当直以外のお泊りなんてなかったから、本当に久しぶり。いい気分転換になるかもしれない。昨日あん
なことがあったばっかりだから余計に……ね。
 でも、お部屋はどうなるんだろう。もしかして恭也くんと一緒?
 わたしはそれでもいいけれど。だって、いつも当直のときは医局で一緒に仮眠したりしているから。わたしがソファで
恭也くんが肘掛け椅子なんだけど。
 
 わたしは恭也くんとだったらいいって思っている。というか恭也くん以外の人ってわたしには考えられない。もちろん、
初めての人が恭也くんだったというのもないわけじゃないけれど……
 でも、恭也くんがわたしのことをどう思っていてくれるのか……それは少なからず不安だったりする。確かにお付き合
いはしているし、義父さんや義母さん、桃子さんにも認めていただいているんだけど、わたしが一方的に恭也くんに甘え
ているだけみたいに思えて仕方がない。
 間違いなくわたしにとって恭也くんは絶対に必要な人。ううん、そんなレベルじゃない。
 恭也くんがいないなんてわたしには考えられない、そんな存在。わたしの日常には恭也くんが不可欠なのだ。
 でも、恭也くんにとってわたしはどんな存在なんだろう。医者と患者の関係でしかないのかな?わたしたちって本当に
恋人同士になれているのかしら……
 あぁ、考えはじめたら訳が分からなくなっちゃった。
 少なくとも言えるのは、今、こうやって恭也くんと一緒に北海道まで来ているってこと。
 でも、これは日常じゃない。ちょっといつもと違う特別な日。それだけのことでしかない。

 目の前には高速道路の単調な風景。
 車の心地よい振動もあって、なんだか眠くなってきちゃった……でも、恭也くん、運転してくれているのよね。ここで眠
っちゃ……悪いのに。……フィリス……眠っちゃ……だめ……ねむっちゃ……だ……め……
 そんな抵抗も空しく、いつのまにかわたしは眠ってしまっていた。

「先生、着きましたよ」
 恭也くんの声。あっ、いけない、また寝ちゃってたのね。
「……恭也くん、ごめんなさい」
 目を開けると、恭也くんは反対のほうを向いている。気にしてくれていたんだ……
「いえ、いいんですよ。先生はお疲れだったんですから」
「うん……でも……恭也くんの方がずっと疲れているのに……」
「俺は慣れてますから。VIPのガードだと二晩三晩の徹夜なんてしょっちゅうですし」
「二晩三晩って……お願いだからそんな無理しないで。ね、お願い」
「……努力します」
 恭也くんは相変わらず反対のほうを向いたまま。悪いことしちゃったな。
「……恭也くん、飛行機の中ではごめんなさい。起こしてくれてありがとう」
 上体を起こして恭也くんのほっぺにキス。
 恭也くんの顔が見る見る赤くなる。
「……あれは俺のほうこそ……すみません……」
 そして、わたしたちは車を降りると一軒の温泉宿に入っていった。

 お部屋は結局一緒になっちゃった。団体さんがいらしているとかでお部屋の空きがなかったんだそう。なにか恭也くん
は緊張気味。
「お客様、お食事とお風呂とどちらをお先になさいますか」
 部屋に入ってお茶を飲みながらくつろいでいると、物腰の柔らかそうな仲居さんがやってきた。
「そうね……恭也くんはどっちがいい?」
「風呂が先のほうがゆっくり出来そうですよね」
「それじゃぁ、そのようにお願いします」
「はい、かしこまりました。お風呂は廊下を左にずっとおいでになった突当りになります。ごゆっくりどうぞ」
 仲居さんが下がる。

「それじゃぁ、わたしはお風呂に行ってくるわね」
「ごゆっくり。俺はちょっと確かめたいことがあるので」
 浴衣とお風呂のセットをもって部屋を出る。ここの旅館のお風呂は露天の岩風呂なんだって。空いているといいな。

 教えてもらったとおりに廊下を進むと入り口がある。右が男湯で左が女湯。脱衣所に入ると誰もいない。嬉しいな……
…貸切になっちゃった。
 わたしは服を脱いで洗い場に向かう。
 洗い場にも湯船にも人影はない。そうよね。脱衣所に誰もいなかったんだから。
 お湯を浴びて、湯船に浸かる。
 うーん、気持ちいい。うちのお風呂も良いけれど、やっぱり大きいお風呂はゆっくりできる。特に今日は飛行機と車で
ずっと座りっぱなしだったから手足を伸ばしたかったし、本当にいい気持ち。
 でも、恭也くん、何でこんな旅館を知っているのかしら。
 うん、お仕事で来たことがあるのよ。きっとそう。だって、いろんな方のボディガードをする機会がたくさんあるんですも
の。中には温泉がお好きな方だっているはずですもの。
 恭也くんにお礼言わなくっちゃね。今日はどうもありがとうって。だって、わたしの気持ちを和らげようとしてここまで連
れて来てくれたんだから。

 手足を伸ばしてゆっくりとお湯に浸かっていると、日ごろの疲れが溶け出していくような気がする。
 あんまり大声じゃ言えないけれど、実は医者って結構な肉体労働なの。時間だって不規則だし、精神的にもきついし
……だからある程度病院で経験を積むと開業されたくなるのよね。だって、そのほうがずっと時間的にも精神的にも楽
だから。
 でも、わたしは海鳴大学病院が好き。いろんな人たちと会えるから。ナースの小野寺さん、内科にいた真由美ちゃ
ん、フィアッセ、レンちゃん、晶ちゃん、美由希ちゃん、桃子さん、なのはちゃん……そうそう、義父さんと初めて会った
のも病院だったし、恭也くんとも……

 そう考えるとわたしってとっても恵まれている。
 わたしがこうやって平和な日常を享受できるのも、知佳さんと会えて助けてもらえたから。
 そして、わたしがこうやって医者として生きていられるのは義父さんと会えて、養女にしてもらえたから。
 もしわたしが医者じゃなかったら……ううん、もしあの時、知佳さんに助けてもらえなかったら、きっとわたしは生体兵
器のままで、恭也くんとも会えなかったはず。
 でも、たまたま訓練でわたしとシェリーが生き残ってリスティのところに行かされていなかったら……そう考えると、ど
れだけの偶然が重なったんだろう。
 日常はそんなたくさんの偶然の上に成り立っているんだと思ってしまう。だから、わたしはそんな偶然の一つ一つに感
謝しなくちゃいけないのよね。

 がらっ……
 脱衣所のほうから引き戸を開ける音がする。
 誰か入ってきたのかしら。残念。せっかくの貸切だったのに……
 でも、女の人にしては背も高いし、湯気でぼんやりしているけれどシルエットがなんとなく……えっ……
「……き……恭也くん……?」
「えっ……先生……?」
「あの……ここって女湯じゃぁ……」
「ここって男湯じゃないんですか?」
「……」
「……」
 わたしと恭也くんはお互いに固まったまま顔を見合わせてしまった。

「なんだ、入り口と脱衣所だけ別なんですね」
「あは……中で一緒だったのね」
 二人で湯船に浸かりながらお互いに状況を確認しあう。結局、お互いの思い込みみたいなものだったのね。ほっとし
ちゃった。
「でも、びっくりしました」
「わたしもびっくりしちゃった。でも、恭也くんでよかった。他の人だったらどうしようって思っちゃった」
「……俺も先生が入っていらっしゃるときに他の人が入らないでよかったと思ってます……」
「……恭也くん……」
 恭也くん、真っ赤。お湯のせいだけじゃ……ないみたい。何か、かわいいっ。
「……恭也くん、ありがとう……」
「……いえ、どういたしまして」
 しばらく無言でお湯に浸かる。

 前からやってみたいな〜って思ってた事があるんだけど、今なら大丈夫かな?思い切って言ってみよう。
「ねえ、恭也くん、お背中、流そうか?」
「えっ……そんな……結構です……」
「いいじゃない。わたしがしたいの。ねえ、いいでしょ?」
「……いや、やっぱり……いいです……」
「ふ〜ん、じゃ、この次の診察のときには整体を思いっきりハードにしちゃおうかな〜」
 ちょっと意地悪。だって、どうしてもやってみたいんだもの。このくらいはいいわよね。
「それは勘弁してください」
「じゃ、お背中流させて」
「……しかたないですね……はい」
 しぶしぶ承諾してくれる。
 うふふ、一度やってみたかったの。恭也くんの背中流すの。

 湯船から洗い場に出て、恭也くんには椅子に座ってもらい、わたしはバスタオルを体に巻いて、タオルに石鹸をつけ
る。
 力をいれて、ごしごし……
 わぁ、やっぱり広い。いつも診察のときには見ているんだけれど、こんなに広く感じたのは初めて。それにいくら力いっ
ぱい洗ってもびくともしない。これが男の人の背中なんだ……改めてびっくり。
 でも、恭也くん、くすぐったいのかしら、体をよじって逃げようとしてる。
「あの……先生、くすぐったいです……」
「うーん、力いっぱい洗っているんだけど」
「ちょ……ちょっと勘弁してください……」
「もうちょっとで終わるからね。ちょっと我慢して」
「……そ……そんな……無理です……勘弁して……」
 くすぐったがる恭也くんの背中に桶でお湯をかけて、完了。
「はい、おしまい。ごめんなさい、くすぐったかった?」
「……もう、この次はないです」
「そんなぁ……またさせて……ね」
「次はありません」
「ぷぅ……残念……」
 でも、またやらせてもらおうっと。楽しみだなぁ。

 そんなこんなでお風呂から上がってお部屋に戻るとご飯の用意が出来ていた。
 お膳の上にはきのこ尽くしの料理が並ぶ。
 きのこのお刺身、きのこのグラタン、きのこのお鍋……とっても美味しそう。で、一つのお膳にはお銚子が一本。片方
にはラムネ。
 恭也くんは迷わずラムネのあるほうのお膳の前へ。ということは、このお銚子ってわたしのなのかしら?
「先生、どうぞ」
 立ったままのわたしを促すように恭也くんがお銚子を取り上げる。
「……あっ……はい……」
 わたしが座ってお猪口を持つと恭也くんがお酌をしてくれる。
「ありがとう。それじゃ、ご返杯ね」
 わたしはラムネを持って恭也くんの持つコップに注ぐ。
「じゃ、お疲れ様でした」
「恭也くんもお疲れ様でした。いただきます」
「いただきます」

 ご飯はとっても美味しかった。お酒もお銚子一本でちょうど良かったし、きのこってあんなに美味しかったのね、再発
見。
 特にお鍋のまいたけが本当に美味しかった。お鍋は鶏のお出汁に醤油味だったんだけど、そのお出汁をまいたけが
いっぱい含んで、でもきのこらしいお味でとっても好き。海鳴に帰ったら商店街の八百屋さんに頼んで取り寄せてもらお
う。
 いつもの量よりもいっぱい食べちゃったし、もう満腹。太っちゃいそう。またリスティにからかわれちゃうかしら。

 食後は何にもすることがなくてぼんやり。
 今ごろの時間はいつもなら病院から帰ってきてご飯を作っているか、食べに行っちゃっているかのどちらか。で、その
あとはメールをチェックしたり、資料をまとめたりしている。
 あっ……いけない、メールチェックしなきゃ。携帯のメールボックスに転送してもらうようにしていたんだけれど……そ
う思い出して携帯を見てみると圏外。まあ、メール自体はしっかり保存されているはずだし、一日ぐらいチェックしなくて
も大丈夫よね。せっかく北海道まで来たんだし、お仕事のことは忘れちゃおうっと。
 ということで、ぼんやりを決め込んじゃうことにする。

 あれからまた仲居さんがやってきてお布団の準備をしてくれた。わたしたちは窓際の椅子に座ってなにをするでもなく
ぼんやり……
「ねえ、恭也くん……」
「はい?」
「あのね、きょうはありがとう……」
「……いえ、どういたしまして……」
 あっ……恭也くん、照れてる。いつもぶっきらぼうなくらいだから照れた表情がとっても新鮮でかわいく見えちゃう。
「明日はもうちょっと山のほうへ行くって言ってたわよね、先に何かあるんだ。」
「ええ、どうしても行かなければいけない場所があるんです」
「そこって、恭也くんが行かなくちゃいけないの?」
「俺もそうなんですが、先生にどうしても行っていただきたくて……」
「わたしに?」
 ちょっと疑問……
 確かにわたしが、いろいろなことがあって落ち込んでいたのは事実。でも、今日ここに連れて来てもらって吹っ切れた
はず。絶対にそう。そうなんだけど。
「はい、先生の悩みの根本に関わることですから」
「わたしの悩みの根本……?」
「はい……とりあえず今日はもう休みましょう。長距離を移動しましたし、何もすることもないですから」
「……そうね、休みましょう」
 恭也くんに促され、床に入ることにする。
「明かりは点けたままにしておきます、おやすみなさい」
「……うん、ありがとう、おやすみなさい」

 そうは言ったものの恭也くんの言葉が気になってなかなか寝付けない。
 わたしの悩みの根本に関わること……悩みの根本……
 それってもしかしたら……なにか気持ちが高ぶってきてしまう。もしかしたら……ううん、きっとそう。そうに違いない。
 確信めいたもの、それと不安……だんだんと心の中で大きくなっていく。

「……恭也くん……」
 小声で呼んでみる。
「……はい……」
「……手、握ってていい?」
「……はい」
 わたしは右手をお布団の外に出して恭也くんの左手を握る。
 温かい。握った手から恭也くんの温かな気持ちが流れ込んでくるのが判る。
「恭也くん、ごめんなさい。これじゃまるでライナスの『安全毛布』ね……」
「『ピーナッツ』ですか……あれは俺も好きです」
「……恭也くん、いつもありがとう、わたしね……」
「さっ、続きは明日にしましょう。明日は早いですから」
「……うん、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 今日何回目だろう、わたしはまたいつの間にか眠りに落ちていた。


To be continued





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