Written by 春日野 馨
「ただいま……」
答えの返ってくるはずのないドアを開けて中に入る。時間はもう八時過ぎ。
今日は当直あけ。なのにしっかりこんな時間まで病院でお仕事だったからちょっと疲れ気味。
こんなときはあっさりしたものを食べてお風呂入って、早く寝るのが一番よね。ここのところ忙しかったせいもあって少
しまいっているみたいだし。
わたしは上着とバッグをいすの上に置いて、冷蔵庫の中を一瞥すると適当に食材を引っ張り出す。
あんまりお肉を食べられないわたしの副食はどうしても野菜系中心になってしまう。
調理台の上には野菜がいくつかとウインナーソーセージが少し。今晩はこれで炒め物かな?
どんな味付けにしようかなぁ。
そうそう、この前高町さんのところのレンちゃんに簡単な中華の味付け教わったんだ。
美味しそうだったし、ちょっとやってみようかなぁ。教えてもらって結果報告しないのも何か悪いし。
思いたったらさっそく調理開始。
片手の中華なべ(北京なべって言うんだって。これもレンちゃんの受け売り)をレンジにかけて煙が出るまであっため
て、さあやるわよ、と気合が入ったところで携帯がなった。
「あん、もういいところなのに……」
ちょっと気勢をそがれちゃった。でも電話に出ないわけにもいかないから。もし病院からだったら大変だし。
レンジを止めて電話に出る。
液晶画面には良く知ってる電話番号。病院からじゃない。ちょっと安心。
「はい、矢沢です」
わたしの患者さんでこの番号を知っているのはフィアッセとレンちゃんと美由希ちゃんと……ふふっ、みんな高町さん
のところばっかりね。
そして、こんな時間に電話をくれるのは彼しかいない。
「こんばんは、恭也です」
やっぱりそうだった。わたしったら声を聞いただけで嬉しくなってる。
「恭也くん……」
「当直お疲れさまでした。もうお帰りかなと思って」
「もしそうじゃなかったら?」
ちょっとわたし意地悪。答えなんか知ってるくせに。
「そうですね、だったらお仕事終わる頃に迎えに行きます」
恭也くんってこういうことを何の気負いもなく言ってくれる人なの。
「ありがと、大丈夫よ。ついさっき帰ってきてごはん作ってたところなの」
「じゃあ悪かったですかね」
「えっ、何?まだ作り始めたばかりだから大丈夫よ」
「いや、うちの中華料理長が腕によりをかけて作りはじめたはいいんですが、ちょっと張り切りすぎましてとてもうちの者
だけでは食べられそうにない分量になりそうなんですよ。で、もしお食事がまだでしたらと思って」
あら、珍しい。あの玄人はだしのレンちゃんが分量間違えるなんて。
「でも、いいのかしら。わたしお伺いしたらお邪魔なんじゃない?」
「そんなことないですよ。先生でしたらうちは大歓迎です」
一応遠慮してみる。
これがリスティだと二つ返事で
「じゃ、行くよ」
なんて言っちゃうのよね。
でも、プロ級の人の味付けを勉強するいい機会かも。それに一人のごはんはやっぱり寂しいから。
なんてちょっと考えて返事をする。
「そうね。じゃあ、お邪魔しちゃおうかしら」
ちょっと悪いかもなんて思ったけど、でも高町さんのところはそんなことを感じさせない雰囲気がある。
なぜなんだろう。
とっても明るくって、とっても居心地がよくって、とっても普通で……
そんなことを考えていると、電話の向こうでレンちゃんの声がする。台所からかしら。
「あー、フィリス先生、お待ちしてます。うち張り切って作りますんで」
「カメ、自分の失敗棚にあげて人に迷惑かけるんじゃねえ」
これは晶ちゃん。
「なんやと、このおさる」
「おー、この城島様にたてつく気か?」
「あー、ふたりともけんかしちゃだめ。なんで仲良く出来ないんですか?」
ふふっ、この声はなのはちゃんね。
「というわけで、あいかわらずさわがしいんですが」
「いいえ、明るいのってわたし好きだから。あっ、でもどうやって行こうかしら?」
そう、足がなかった。いつも頼りにしてるリスティは今日に限って出張でいないときている。
「じゃ先生、お迎えに行きますよ」と恭也くん。
「自転車で?でも着くのが遅くなっちゃうんじゃないかしら?それだったらタクシーでも拾うから」
「実はこの前免許とりまして……フィアッセの車で行きますから。十五分くらいで着くと思います」
「あっ、そうなんだ。じゃ待ってるわね。ありがと」
電話を切る。
そうと決まれば準備しないと。
わたしが恭也くんと始めて会ったのは一年半前、医者と患者としてのこと。
わたしの担当で同じHGS患者のフィアッセの紹介だった。
彼は昔壊した膝のせいで身体じゅうに歪みがきていて、それをフィアッセに相談されたのがきっかけだった。
そうして彼の膝を主治医として診ているうちに彼の妹さんの美由希ちゃんを診て、そしてレンちゃん、晶ちゃん、桃子さ
ん、なのはちゃん、いつのまにか高町さんのところのみんなを診るようになっちゃって、気が付いたらわたしは高町さん のところのホームドクターとなっていた。
縁ってなにか不思議。
そして、わたしは恭也くんに惹かれ、彼も少なからずわたしの事を想ってくれていて自然とお付き合いするようになっ
た。
リスティに言わせると
「ワーカホリック(仕事中毒)のフィリスにはこんな話なんてないと思ったよ。こんなチャンス二度とないんだから離しちゃ
だめだからね。そうそう、シェリーにもメールしてあるから」
だそうで、シェリーは
「フィリス、おめでとう。彼がいい人みたいで私も嬉しいです。私にもそういう話があるといいんだけど。でも、リスティに
はこんな話はありそうにないかしらね」
なんて、本人が聞いたらふくれっつらになりそうなメールをよこすし、どっちにしてもこの話は二人には格好の会話のネ
タにされてしまっていた様子。
どうやら二人は夜中じゅうメールでこの話に盛り上がっていたらしい、というのはさざなみ寮の仁村真雪さんからきい
た話。
仁村さんはペンネームを「草薙まゆこ」さんという売れっ子の漫画家さんで、妹さんの知佳さんがわたしたちと同じHG
S患者なのだ。そして、知佳さんはリスティの一番大事な親友でわたしたち三姉妹の命の恩人だったりする。
今でも知佳さんは検診のために時々病院に来るのだけれど、そのときは必ず真雪さんが一緒についてくる。とっても
妹さん思いで情に厚くってわたしも大好きな人。
ただ、リスティの現在の性格とタバコはきっと仁村さんの影響が大きいだろうからそれだけはちょっと、なんだけど。特
にタバコは医者の立場からは……
表で車の止まる気配。恭也くん着いたのかしら。そして、ドアチャイムの音。
「はぁい」
出てみるとやっぱり恭也くんだった。
「すみません、遅くなりまして」
「ううん、そんなことないです。じゃあお願いします」
そういって助手席に乗り込む。
恭也くん、どんな運転するのかしら。きっと彼の事だからすごく慎重な運転なんじゃないかな。
別に確信なんてものはないけど、そんなふうに思えてしまう。
「それじゃ、行きます」
そういうと彼が車を出す。
思ったとおりすごく慎重な運転。リスティの運転とは全く違う。
「ふふっ」
隣にはすごく真剣に運転する恭也くんがいて、わたしはなぜか嬉しくなってきてしまってる。
「先生、どうかしましたか?」
「あっ、ごめんなさい。ちょっと思い出し笑い」
「そんなにいい事あったんですか。いいですね、俺はちっともそんなことないです」
「ううん、別にそんなことがあったわけじゃないんだけど」
剣術以外のことに真剣になっている恭也くんの表情が嬉しかったからなんていえないものね。言ったら気悪くしそうだ
し。
それから高町さんのところに着くまでの十五分、わたしは嬉しさからこみ上げてくる笑いをこらえるのに苦労してい
た。
だって、一生懸命に運転してるのに気を散らさせちゃ悪いから。
「ただいま」
恭也くんが戸を開ける。
「あらー、フィリス先生いらっしゃい。無理にお呼びだてしちゃったみたいですみません」
「いえ、わたしこそすみません、こんな時間にお邪魔しちゃって」
「いいえ、そんなことないんですよ。フィリス先生は他人じゃないんですから。さあ、どうぞ」
「すみません、お邪魔します」
高町さんのところの世帯主さん(という言い方が一番いいみたい)の桃子さんが出迎えてくれる。
海鳴商店街の喫茶「翠屋」の店長さんで洋菓子職人さん。
ご結婚される前は東京の超一流ホテルでパティシエをされていたという。女性のわたしから見てもとっても可愛らしい
方。
あんなふうになりたいなって無条件に思えてしまうところがすごいっていつも思ってしまう。
桃子さんが翠屋の店長さんだって知る前からわたしは翠屋さんのケーキ(特に翠屋シュークリーム)とココアは大好き
で学生の頃から良く通っていた。
最近は仕事が忙しくなってしまってあんまりお伺いできなくなっちゃったけど。
仁村さんも言っていたけど、海鳴大の学生で翠屋さんを知らない学生はモグリだと言われているくらい人気があっ
た。
そして、その頃学生だった人たちが後輩たちをつれてきて、その後輩がまた後輩を……
おかげで翠屋さんは大繁盛で、この界隈で一番ケーキの美味しいお店という評判が定着してしまった。確かにどこに
出してもおかしくないくらいのケーキだと思う。リスティが出張に行くときには必ずホールのアップルパイを買っていく気 持ちがよくわかる。
でも、そのせいで大好きな翠屋シュークリームがなかなか手に入らなくなってしまったのはちょっぴり哀しい。
食堂に案内されて、席に着いて食事が始まる。
「いただきます」
本当にこれをレンちゃん一人が作ったんだろうかと思うくらいたくさんの料理が食卓に並んでいる。
「先生、お口に合うかわかりまへんけど」
「そうだよな、カメの食事は人間には合わないよな」
「おんどりゃぁ、何ぞゆうたか」
「ん〜、気のせいじゃねえのか?」
「このおさる、あとできっちり殺したる」
レンちゃんと晶ちゃんのかけあいもいつものとおり。
そして、レンちゃんのごはんは……
「レンちゃん、とってもおいしい」
「そですか。うちうれしいです。まだまだぎょうさんありますから遠慮なんかせんといてください」
「どうもありがとう、そうさせていただくわね。あとでレシピ教えてくれない」
「ええですよ。簡単にできるようにしときます」
「ほんと、レンといい晶といい、かーさんといい、フィアッセだってそうだったし、うちはみんな料理上手いんだよね。なん
で私だけできないのかな」
美由希ちゃんがちょっとあきらめモード。
「おねえちゃん、大丈夫だよ。なのはもまだできないから」
「でも、なのはもレンと晶に教わっているから上手になりそうだし、そうなるとここのうちで料理できないのは本当に私だ
けになっちゃう」
あっ、美由希ちゃん、深みにはまりそう。
「ねえ美由希ちゃん、わたしも実はお料理ぜんぜんできなかったの。でも必要に迫られたら自然と覚えちゃって、何とか
自分の分くらいはできるようになったからきっと美由希ちゃんも時期が来ればできるようになるわよ」
「そういうものなんでしょうか」
「そういうものだと思うわよ。レンちゃんや晶ちゃんが上手すぎるくらいなんだから」
「そうよ、美由希。かーさんだって結婚決まるまではお菓子くらいしか上手にできなかったんだから」
「うん、そうだね。先生、かーさん、ありがと」
納得してくれたみたい。よかった。
美由希ちゃん、ちょっとしたことを考えすぎちゃう性格だから、そういうときには早めに助け舟出してあげないとどんど
ん深みにはまっちゃう。
そう、これもいつものとおり。不思議なくらいに変わらない高町さんちの日常。
それになぜかわたしはほっとしてしまう。
なぜなんだろう。こんなにほっとできるなんて。
なんでいまのわたしはこんなにほっとしているんだろう。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした。レンちゃん、とってもおいしかったわ。ありがとう」
「どういたしましてです。うちは料理が一番好きですから喜んでいただけるんがいっちゃん嬉しいです」
「先生、今度はおれが当番のときに是非。レンの料理なんかよりも数段上のをご披露しますから」
「ほ〜、中国四千年の歴史と伝統にかなう思うとるんか。あほやあほや思うとったけどおさるの頭にはやっぱりさる知恵
しか入っとらんのやなぁ」
「なんだと、やるか」
「おお、望むところや。今日という今日はこのおさるの息の根止めたらな気ぃすまへん」
「そのまま返り討ちにしてやる、明日の朝はカメのスープだな」
あら、高町家名物、真剣ドツキ漫才が始まっちゃいそう。
「あー、ふたりとも……」
「レン、晶、やるのは構わんがやるなら表に行ってやってくれないか。フィリス先生がいらっしゃるんだし」
なのはちゃんが二人を止めようとする前に恭也くんが水をさす。
「お師匠……」
「師匠……」
「どうした、やらんのか」
二人があっけにとられてる。
「すみません」
「すんません、お師匠」
「ならいいんだが、ま、二人ともあんまりあつくなりすぎるなよ」
「は……い……しゃーない、今日のところはお師匠とフィリス先生に免じて命預けといたるわ」
「おう、命拾いしやがったな」
「あら、今日は静かねえ。明日雨にならないといいけど」
「桃子ちゃん、それきっついですわ」
「桃子さん、勘弁してくださいよ」
「静かな二人にというわけじゃないけど、食後のケーキにしましょうか。先生は確かシュークリームとココアお好きでした
よね」
「あっ、ありがとうございます」
にっこりとしながらケーキを配る桃子さん。ちゃんと覚えていてくださったんだ。嬉しい。
ああ、やっぱりいつものとおりなんだ。
いつものとおりで変わらない日常の中にいるからわたしはほっとしているんだ。
でも、なぜ日常の中にいるとほっとしていられるのかしら。
わたしにとっての日常っていったい何?
「すっかり遅くまでお邪魔してしまってすみません」
「いいえ、こちらこそ遅くまでお引留めしてしまいまして。もしよろしかったらまたどうぞ」
「はい、ありがとうございます。それでは失礼します、おやすみなさい」
「失礼いたします、おやすみなさい。じゃあ恭也、たのんだわよ」
「了解、じゃ先生、どうぞ」
助手席に乗り込んでシートベルトを締める。恭也くんはそれを確認してから車を出す。
「先生、何か心配事でもおありなんですか?」
走り出してからすぐに彼が訊いてくる。
かなわないな、恭也くんには。普段何も言わない人なんだけどこういうところは実に鋭いから。判っちゃったかしら。
「ううん、別に心配事って訳じゃないんだけど。ねえ恭也くん、日常って何だと思う?」
「日常、ですか?」
「うん。恭也くんにとって日常って何なのかなって」
「そうですね、俺の日常は御神流の鍛錬なんでしょうか。それとうちと大学での生活と」
「恭也くんの日常っていつも違うものなの?」
「いつもとは言えないでしょうけど、きっと同じことが多いと思いますよ。代わり映えしませんけれど」
「……じゃあ、日常ってあんまり変わらない普通の事なのかしら」
「そうかもしれないですね。あんまり変わってしまったら安心できなくなって日常じゃなくなるかもしれませんから」
「そう……じゃ、わたしには日常ってあるのかな……」
「えっ?なんですか?」
「ううん、独り言。変なこと聞いちゃったわね。ごめんね」
「いえ、こちらこそ」
わたしには日常があるのだろうか……
朝起きて、ご飯食べて病院に行って患者さんを診察して、仕事が終わると帰ってきて、晩御飯食べて休む……それは
確かに日常なのかもしれない。でも、高町さんのところで感じたようなほっとする感じはない。これも日常なんだろうか。
安心できない日常……
恭也くんは安心できなくなったら日常じゃなくなるかもって言っていた。もしそうだとしたらわたしには日常はないのかも
しれない。
「医者なんていつもが……」
いつのまにかつぶやいていた。
「先生?」
車はちょうど信号待ちで停まっていた。恭也くんが心配そうにわたしを見る。
「ごめんなさい、当直明けでちょっと疲れてるみたい」
「それじゃ、お誘いしちゃって本当に悪かったですね。すみません」
信号が変わって車が走り出す。
「ううん、いいの。とっても楽しかったから」
そしてしばしの沈黙。
そう、とっても楽しかった。わたし一人のときでは考えられないくらいに。
レンちゃんと晶ちゃんのかけあい、美由希ちゃん、なのはちゃん、桃子さん、恭也くん、みんながそれぞれ自分の日常
を持っていて、それぞれが日常を楽しんでいる。
その日常がとてもほっとできるのがわたし一人のときと一番違う。
やっぱりわたしには日常なんてないのだろうか。
わたしが医者だから?それともわたしが他の人とは違うから?……
よくわからない。
なぜなのかわからない。
人のことを診る以前にわたし自身の事でこんなに悩んでいるなんて、これじゃカウンセラー失格よね。
車が停まる。
「先生、着きましたよ」
「あっ、ありがとう。ごめんなさいね。送り迎えまでさせちゃって」
「いえ、俺は構いませんから。それより先生、何か悩み事でもおありなんじゃないですか?」
もう一度訊かれる。
「ううん、別にないけど……」
嘘、言っちゃった。
恭也くんの気持ちはとっても嬉しいのだけれど、これはやっぱりわたし自身で何とかしなくちゃいけないことだから。
「ならいいんですけど、もし何かあったら必ず話してください。俺は聞くだけしかできませんけれど」
「う・・ん……ありがとう」
いつもと変わらずに恭也くんはわたしに接してくれている。だからわたしもそれに応えないと……
「じゃ、もう遅いですから俺はこのへんで。おやすみなさい」
「ほんとうにありがとう、おやすみなさい」
お互いにそう言ってからおやすみのキス。
そして恭也くんは帰っていった。
わたしは家に入り、ココアを淹れてメールをチェックする。
ダイレクトメールと仕事のメールが合計で五通。
そしてリスティからもメールが来ていた。
「ハイ、フィリス。出張なんてきついことさっさと終わらせて帰りたいよ。ホテルの食事なんて飽きちゃって、耕介のごはん
が恋しいね。今日、知佳と偶然仕事中に会ったんだ。相変わらず元気そうだった。フィリスに会いたいなっていってた よ。アドレス教えておいたからメールくれるんじゃないかな。そっちはどんな感じ?いろいろと上手くいってるかな?帰っ たら状況聞かせてもらうからね。それじゃぁ」
ふふっ、あいかわらずのマイペース。そこがリスティなんだけど。
なぜか今日は疲れちゃった。高町さんのところに行ったからじゃないんだけど。
いつもとは違うちょっと変な疲れ方。昨夜はいつもより急患が多かったせいかもしれない。
お風呂入らなきゃ。でも、お湯張ってる間に寝ちゃいそう。仕方ないけどシャワーかしら。でも、本当はゆっくりお湯に
つかりたい。
ちょっと考えてしまう。
やっぱり明日に疲れを残しちゃだめよね。ちょっと遅くなるけどお風呂にしよう。
そう決めるとリモコンのスイッチを入れてお風呂の準備をする。
二十分くらいで沸くはずだから今のうちにベッドメイクと明日の準備しておかなくちゃ。
明日は論文の一次締切日。プリントアウトは医局でさせてもらえばいいから忘れずにMO持っていかないと。
あとは内科に入院中の真由美ちゃんに約束していた本を持っていこう。今日回診に行ったときとっても楽しみにしてた
から。
お風呂から上がるともうまぶたが握手しそう。ものすごく眠い。
冷蔵庫から出した冷たいミネラルウォーターを一口飲む。使ったコップを洗ってシンク脇の籠に入れて台所から寝室
に向かう。
廊下を歩いていてもふらふらしてるのが自分でもわかってしまう。相当疲れてる。
寝室のドアを開けるとそのままベッドへ倒れこんでしまった。
明日はこんなに疲れない一日だといいな。
そんなことを考えながらわたしは眠りに落ちていった。
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