情景 〜駅前〜


Written by タケ



――はじめに――

この物語は「とらいあんぐるハート」のヒロイン、御剣いづみのシナリオを基に執筆されています。その為、いづみシナリ
オをクリアしてからお読みいただく事をおすすめします。

それでは、つたない物語にしばし、お付き合い下さいませ。










 海鳴駅前ロータリーの一角。

 相川真一郎は、一見すると所在なさげにぽつねんと佇んでいた。
 とはいえ、別にヒマを持て余してそこにいるのではなく、待ち合わせの時間より若干早く着いた為、待ち人を待ってい
る……そんなところであった。
 待ち合わせの時刻まで、およそ10分程の時間が空いている。
 駅前のロータリーは車の往来も多く、人の行き来もまた多い。真一郎は駅舎の壁に寄りかかると、その流れを何気な
く見ていた。その外見がどうしても、ヒマを持て余しているショートカットの「ボーイッシュな美少女」に映るのは、彼の容
姿に起因するところ――始末の悪い事に、真一郎本人の責任では全く無い(笑)――が殆んどであろう。
 「男性はともかく女性をもだませる」と評されて久しい真一郎の"美少女っぷり"(爆)は、何故かこのところ、益々磨き
がかかっていたりする。ついこの間も、化粧品関連の客引きにしつこく声をかけられて、その時たまたま一緒だった唯
子と小鳥にもう何度目だろうか、"哀れみの目"で見られ、ただただ笑うしかなかった。

「ああ、時間までまだちょっとあるかぁ。うぅん、少し早く来ちゃったなぁ……」
「――なら、俺達と遊ばねぇ?」
 真一郎が声のした方向を見ると、いかにも"軽くて頭の悪そう"な、ガラの悪いアンちゃんが二人、ニヤニヤと真一郎
を舐め回すようにして見ていた。
 真一郎は、ちょっとの間を置いて「はぁ〜あ」と長い溜息を吐いた。

――あぁあ、またかよ……もう――

 相川真一郎、こんな外見でもれっきとした"漢"……いやもとい「男」である。しかもちゃんと彼女がいるのだ。



 さて、他方。
「うわぁ〜っ、時間、間に合うかな!?」
 人ごみを抜けて走るGパンの"美少年"……もとい、こっちがれっきとした「ボーイッシュな美少女」こと、御剣いづみで
ある。実際その服装に、後頭部の下の方で髪の毛を結わえているから、ちょっと見た目には「ロングヘアを結わえた美
少年」に見えてしまう(笑)。
 もっとも、いづみはその特殊な生い立ちから、というわけではないにせよ――彼女は「蔡賀御剣流忍術」の家元の娘
なのだ――普段行動的な服装をしている事が多いし、普段の言動もどちらかと言うと"男っぽい"ので、そう見えても仕
方がないところだろう。何せ、かつて「駅前"逆ナン"女」などという異名も奉られたくらいだし(笑)。彼……もとい彼女の
「隠された一面」を知っているのはごくごく僅かな人間のみであったりする。

 御剣いづみ、こんな外見でもれっきとした「女性」である。しかもちゃんと彼氏がいるのだ。

 いづみはいわゆる「忍者」であるから、忍術を使えば、当たり前な話だが一気に距離を詰める事が出来るし、すぐに
待ち合わせの場所に着く。だが忍術は「本来"私的"に使うべきではない」シロモノ。だからこそ、いづみは待ち合わせ
時間に間に合うかどうかで焦っていた。

――あぁあ、こんな事なら昨夜のバイト……定時であがっておけば良かったかも――

 実はバイトを頑張ったまでは良かったが、おかげで寝坊してしまったのである。それでも実は待ち合わせの時間ま
で、6分強の余裕があったりするが、駅前ロータリーでの待ち合わせ時間前に着いておきたかったいづみは、そんな事
を考えていた。

 ようやくロータリーを視界に収めて一時停止したいづみ。ひとつ大きく呼吸して時間を確認すると、安堵の息を吐い
た。

 待ち合わせている人を捜す。

 いた。

 パッと笑みが浮かんで……すぐに「あらら」という顔になった。
 その場所にいたのは、二人のガラの悪いアンちゃんに絡まれて、いい加減うんざりした表情をしている"ショートカット
の美少女"。
「相変わらずなんだから……」
と小さく呟いて苦笑すると、今度は競歩に近い足取りで歩き始める。



 更に他方。

 こちらは、とことんヒマを持て余した「日焼け系アンビリギャル」(笑)の二人組。
「あぁあ、っタルぅ〜」
「ったく、どっかにいいオトコ転がってないかなぁ〜?」
などと駄弁ってる二人の目に入ってきたのは、後頭部で束ねた髪の"美少年"(笑)。
「!?……ちょいちょい、ねぇねぇ、あれあれ」
「ん?何よ……って……い、いいわぁ♪」
「いくない?」
「引っかけてみる?」
「もち!」
 要は"楽しめれば"それでいい、というわけで、逆ナンパされて有頂天にならないオトコなんていない、増してやアタシ
達の「美貌」をもってすれば……などと思って行動に移る二人組。しかし黒い肌にやけに明るいメイクが、自分の外見、
ひいては全体の印象を"台無しにしている"事に気付いていないのは、全く悲劇……いやいっそ喜劇と言うべきか。
 "美少年"に近付き、
「ねぇ、キミぃ」
と言いかけたところで、二人の狙う"美少年"が右手を大きく上げて――










「しぃんいぃちろう"様"あぁ〜〜〜〜〜♪」











――その一瞬、周囲一帯が石化した(爆)。

「うわ、うわぁ!?」
 真一郎は慌てふためいていづみのもとに駆け寄り、
「い、いづみ……ちょ、ちょっと(汗)」
「はい?どうかしました?真一郎"様"♪」
「だああぁぁぁぁあっ!?い、いいから、い、い、行こう(滝汗)」
 真一郎はいづみの手を掴んで引っ張ると、直ちにロータリーから遁走した。後には呆然と見送る「石像の群れ」と、あ
まりのショックに身動きすら取れず、ただただ見送るガラの悪いアンちゃん、そして声すらかけない内に"衝撃的発言"
を叩きつけられたアンビリギャルのそれぞれ二人組が残されていた……。



 十数分後。

 真一郎といづみは、喫茶店「翠屋」の中にいた。
「……ああぁ、心臓止まるかと思ったよ……」
と苦笑する真一郎。
「あ、あははは……す、すまん……つい、口を滑らした(汗)」
恐縮しきりのいづみ。
「ああ、まぁいいんだけど……でも"あれ"って、二人きりの時以外では使わないんでなかったの?」
「ああ、うん、そう、そのつもりぃ……だったん、だけど……」
「……だけど?」
 真一郎の問いに、もじもじしながらいづみは答えた。
「う、うまくは言えないんだけど……そ、そのぉ……やっぱり、す、好き、だから……かな?」
 しまいには真っ赤になって口調も微妙に変わり、
「今の自分の、というかわたしの中で、もう"相川"でなくて"真一郎様"が刷り込まれてしまってて……そのぉ、弓華の一
件の後……し、しちゃってから……」
 さすがにこう言われては、真一郎もつられて真っ赤になってしまっていた。
「あ、あ、あははは……」
「何か、自然に"真一郎様♪"って呼ぶのが当たり前になっちゃって……」
「……なら、構わないよ」
「え!?」
「だって俺、いづみの全てをひっくるめて好きになったんだから。今まではちょっと恥ずかしかったし――いや、今でも"
様"で呼ばれるのはちょっと恥ずかしいけど――でも、いづみがそう呼びたいなら、俺は構わないよ」
「…………」

 しばらくして、
「お待たせいたしました、こちらチョコケーキセットとマフィンセットになります」
 ウェイトレスが注文したセットを置いてさがると、いづみは真一郎に満面の笑みで応えた。





「はい……はい!真一郎様♪」










 ……かくて、周囲に"激震"を巻き起こす事になるカップルの、それは「情景」である(爆)。





情景 〜駅前〜 了









後記

いかがでしたでしょうか?
「情景」と銘打たれた作品の、通算五作目となるネタでございます。

当作品では、御剣いづみが真一郎の恋人になった、として物語を構築しておりますが、あのシナリオをプレイしてみて、
びっくりした方も多いんではないでしょうか?

「真一郎様♪」

――この台詞は、はっきり言って「瞳ちゃん」こと千堂瞳の名言「コロスわよ!」(爆)に、充分匹敵する強烈な台詞では
なかろうか?と(笑)。
誰かが七転八倒したとかしなかったとか、後で聞きましたが、それを衆人環視の駅前ロータリーでやったなら?という構
図が何故か浮かんできて、後はどうやって書き上げたのか、全く記憶にございません(笑)。

……気が付いたときには、こんなんなっていました(爆)。

相変わらずの描写不安定ですが、そこはそれ、軽く読み流していただけると幸いです。



読者諸賢には、またどこかでお会い出来る事を願って、筆を擱く事にいたしましょう。
ではでは。



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