Written by タケ
―はじめに―
この物語は「とらいあんぐるハート3 〜Sweet Songs Forever〜」のヒロイン、フィアッセ・クリステラのシナリオを基に執
筆されており、なおかつリリちゃ箱も参考にしています。
その為、「フィアッセシナリオ」「リリカルなのは」をクリアしてからお読みいただく事をおすすめします。
また、前作「〜リビング〜」と殆んど代わり映えしないストーリーとなっていますが、その辺りは筆者の「本来書きたい作
風」に従った故である事を、あらかじめお断りしておきます。
以上の事柄を御了承頂いた上でお読み頂けると、幸いであります。
では、つたない物語にどうぞ、お付き合い下さいませ。
一羽のヒヨドリが高町家の庭の木に佇む昼下がり。
パチッ、パチ。
「・・・・・・・・・」
パチ・・・・・・パチッ。
「・・・・・・ふむ」
満足げに恭也がひとりうなずく。
五葉の松に鋏を入れ、ちょっと見た目には判らないほど微妙に葉の先を整えていく。
高町恭也・・・・・・海鳴大生にして御神流の剣士。趣味は昼寝、釣り、そして盆栽いじり(笑)。
大学生の趣味が釣りはともかく「盆栽いじり」というのもちと違うような気もしないでもないのではあるが、まぁそれはさ
ておき。
葉の先を整えていくのは、言い換えると例えば理(美)容師が髪の毛の毛先を揃えるのにも似た美的感覚が要求され
るのであろうか。だとするならば、そんな見方からしてみると、恭也の美的感覚は実はかなりのものであるのかもしれな い。枝振りの良さもそうだが、葉の先が全体的にきちんと形良くおさまっているのは確かに映えて見える。
天辺の辺りに少しだけ鋏を入れると恭也は一息つく事にした。縁側に腰掛け、かねて用意しておいたお茶を一口。
「にゃあ〜ん」
「・・・・・・・・・・・・」
そこに縄張りの巡回から帰ってきたのか、高町家お抱え(?)の猫「小飛(しゃおふぇい)」が近付いてきた。
小飛は恭也の足元に座ると何か言いたげに恭也を見上げる。
「・・・・・・待っていろ」
「にゃ」
恭也は心得たかのように一度自分の部屋に入ると小さな座布団を持って戻って来た。
自分の腰掛けた横にその座布団を置き、軽くとん、と叩く。
「にゃん」
小飛は一声鳴くと座布団の上に飛び乗り、すぐに丸くなった。
「・・・・・・ふむ」
恭也はうなずき、再び茶を一口。どういう訳か、恭也と小飛はある一定の"意思疎通"ができるらしい。高町家の「家
族」が揃って首を傾げる事に、恭也の言う事には小飛も従うのだ。
午後を回り、多少日差しは強くなっているが暑いと思うほどではなく、むしろ眠気を誘うほどの心地よさである。
「・・・・・・春眠、暁を覚えず・・・・・・か」
ふとつぶやく。孟浩然の漢詩の一節だが、何故か恭也が言うと違和感がないのは彼が実年齢以上に、"精神的に老
成"してしまっているからなのであろうか?美由希にちょくちょく「年寄りじみてる云々」と言われるのも無理の無い事か もしれない。美由希も実は、あまり人の事を言えなかったりするのだが(笑)。
時折、小飛の身体を撫でながら陽に当たっているうちに、何とはなしに眠気を覚える。
小飛ごと座布団の位置を少しずらし、冷めかけた茶を飲み干して、湯飲みを自室の机に置いてくると、恭也は縁側で
おもむろに横になった。
一人と一匹の規則正しい寝息が立つのは、それからすぐの事である。
・・・・・・・・・・・・。
気配を感じた。
どれ位時間が経ったであろう。
近付いて来る。
うっすらと眼を開ける。
敵意は・・・・・・全く無い。いや、この気配は。
「・・・・・・フィアッセ?」
「あ、恭也!?起きてたんだ?」
アイリーンの買い物に付き合っていたフィアッセが一足早く帰ってきた。以前はアイリーンの部屋と高町家の往復、と
いう生活だったのが、フィアッセは今や、高町家に入り浸りである。
恭也はつい先日、「恭也ぁ、あたしすんごい悲しいわぁ。ルームメイトがああも薄情だったなんて」とアイリーンが"嘘泣
き"していた事を、ほんの一瞬思い起こした。
苦笑しかけて、それを"おくびにも出さない"様に努力しながら、フィアッセに応える。
「・・・・・・いや、気配でな。少し、横になっていた」
「そのまま寝てても良かったのにぃ。ただいま、恭也♪」
「おかえり」
小飛も目を覚まし、フィアッセに向かって鳴く。
「にゃ〜」
「あはっ、ただいま小飛。恭也と一緒だったんだ」
「にゃ」
小飛は短く応えるとあくびをひとつ。再び座布団の上で昼寝モードに入る。
「まだ誰も帰って来てないんだ?」
「ああ」
美由希は那美と共に図書館に出かけ、なのはとかーさん、晶、レンは揃って買い物に出かけている。数日前から逗留
している叔母の美沙斗さんも一緒であった。ちなみに喫茶店「翠屋」は本日臨時休業。買い物一行の道中はさぞ賑や かであろう。
ちょくちょく高町家に遊びに来る忍はというと、今日一日、メイドのノエルの「メンテ」だそうな。
と、フィアッセはふと思い出したかのような表情をするとおもむろに口を開いた。
「そう言えばさ、恭也」
「?」
「家でこうして"二人きり"って、今まであまりなかったんじゃないかな?」
「・・・・・・そうか?・・・・・・いや・・・・・・そうかもな」
記憶を辿ってみる。初めて会った時。この家が、幼い頃の遊び場になっていた時。父・士郎がついに還らなかった、あ
の時。再びフィアッセがここに"戻ってきた"時。
そして、それから。
互いに結ばれてからも、外で二人きりになる事はありこそすれ、家でこうした事はあまりなかったような・・・・・・せいぜ
いあの時、水溜りに突っ込んで熱を出した時やら、数える位ではなかったか。
「うふふっ。恭也♪」
フィアッセは恭也の隣に座ると、腕を絡めて身体を恭也に密着させる。甘えるフィアッセの笑顔が、恭也には眩しくも
あり、愛しくもある。フィアッセは恭也の左肩に頭を乗せ、夢見心地になったような甘い声を上げる。
「恭也ぁ・・・・・・わたしね、恭也の側にいると、すごく落ち着くの・・・・・・♪」
「・・・・・・・・・・・・」
「歌を歌っててもね・・・・・・必ず恭也の事を想って歌うの・・・・・・」
日差しが柔らかくなる。暖かい空気が二人を包む。
「そうするとね、とても勇気が出るの」
「・・・・・・・・・・・・」
「でも、ほんとはね?こうしていつでも、大好きな恭也の傍にいたいなって、そう思ってるんだよ」
目をつむり、そうつぶやくフィアッセ。
恭也と結ばれ、海鳴公演をスタートとしたクリステラ・ソングスクールのワールドツアーから戻ると、フィアッセは純粋な
「歌の仕事」を除き表舞台に立つ事をしなかった。「光の歌姫」と絶賛され、メジャーデビューすればトップアーティストに なるのは確実、とまで言われながら。
仕事で離れる事は多くとも、恭也と共にこれからを歩みながら歌を歌っていきたい・・・・・・そこには、そんなフィアッセ
の想いがあった。
「フィアッセ・・・・・・」
恭也のフィアッセに対する心は何があろうともたったひとつに収斂されている。
「・・・・・・フィアッセがこれからどんな道を歩もうと、俺はフィアッセを愛し、守り抜く・・・・・・」
御神流の剣士として、フィアッセを愛する男として。
「・・・・・・だから・・・・・・ん・・・・・・フィアッセ・・・・・・?」
「すう・・・・・・すう・・・・・・」
春の陽気が、フィアッセをどうやら「眠りの園」に導いたらしい。全てを恭也に委ねきった美しい寝顔がすぐ傍にある。
恭也は自分の左手に添えられた、フィアッセのきれいな手を自分の空いた右手で包むと、優しく慈愛に満ちた眼差しで
微笑みかけて・・・・・・そっと、つぶやく。
「・・・・・・だから、安心して自分の道を進んでいい。ずっと、傍にいるから・・・・・・」
今ようやく、恭也も少しずつではあるが笑顔を見せる事が出来るようになっていた。フィアッセはその事を素直に喜び
ながらも、
「でも、恭也が他の女の子に笑顔を向けるのを見るのは、やっぱり複雑だよ?」
と、ちょっとした本音を言ったものだ。
しかし今の微笑は、あくまでも"愛するフィアッセの為だけ"に向けられるもの。
恭也とフィアッセが寄り添う隣で、小飛は安眠の中にいる。多少寝ぼけたのか、舌をほんの少しだけ口から覗かせて
いるのはご愛嬌。
恭也もフィアッセの寝息に誘われ静かに目を閉じる。
肩に、身体にかかるフィアッセの確かな温もりが、心地良い。
・・・・・・しばらく、こうしていよう。
ああ・・・・・・今日も、いい天気だ・・・・・・。
・・・・・・春の、とある一日。
それは、高町家の午後の"情景"である・・・・・・。
情景 〜高町家〜 了
いかがでしたでしょうか?
初の「とらハ3」もの。
当作品は「情景シリーズ」の、四作目にあたる作品となっております。
「3」や「リリちゃ箱」をプレイしていてふと思った事。
「恭也とフィアッセの、"ちょっとしたひとコマ"というのもいいかも♪」
これが執筆のきっかけです。ところがきっかけは出来たのに、肝心かなめの文章化が思うように進まず、結構難渋しま
した。
いよいよ、ただでさえ少ないネタが尽きてきたかな?自分(笑)。
それでも何とか立ち上がりを救ってくれたのは、恭也の「五葉の松」でした(笑)。
盆栽に感謝(自爆)。
ときに恭也といえば「戦闘(あるいは手合わせ)シーン」というのが、我々には結構定着しているかと思いますが、この作
品ではそれを敢えて削ぎ落としてみました。
何故なら、自分が「情景」なる作品(群)に求めたのは、テーマも何も無い"日常の、ほんのひとコマ"であるからです。
当作品の場合、一応は恭也の描写をメインとしている格好ですが、ここで必要としたのは「とある一日の、日常の恭也
の描写」だったのであって、「戦う恭也の描写」は全く必要なかったのです。
そしてパートナーにフィアッセを選んだ理由は・・・・・・平たく言えば、筆者の「3」での一押しヒロインだからです、はい
(笑)。
まぁ、相変わらずの描写不安定作品(笑)ですが、こんなもんかと読み流していただければ幸いです。
さて、この辺りで筆を擱く事にいたしましょう。
ではでは。
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