たまには休日を……外伝 庭とひまわりと私
(「海鳴堂書房」HP25000HITオーバー記念SS)


Written by 小島



この作品はJANIS/ivoryより発売されているとらいあんぐるハートシリーズを元ネタとしております。
・この作品は、ネタばれを含んでいます。
・この作品における方言はかなり適当です、こんなの関西弁(鹿児島弁)じゃないという方がいてもおおめに見ていただ
けると嬉しいです。



 燃えるように暑い日差しが連日大地に降り注いでいます。
 八月に入ってからの天気はおおむね晴れ続きで、雨はたまに夕立が降るぐらい。
 シルヴィの話では、今日は雲ひとつない快晴で真っ青な空が何処までも続いているようだとか。
 おかげで気温は鰻登りらしく、朝のニュースで今日は今年の最高気温をマークするだろうということでした。
 それぞれの学校が夏休みになり、さざなみ寮は毎日お祭り騒ぎです。
「陣内―――――!!今日という今日は決して許さん、そこになおれ!!」
「やだよーーーだ!!妖怪小言オババ、鹿児島の山中に帰れー」
 やれやれ、毎日毎日よく喧嘩のネタが尽きないものですね、耕介様も大変ですね、みんなが騒いだあとを片づけるの
は。それにしても薫は本当に明るくなりましたね。これもこの寮に住む心の暖かい人達のおかげでしょうか?
 一番の原因は耕介様とお付き合いするようになったことでしょうけれど。

 私は寮内の騒ぎから抜け出し、庭に出ました。
 外に出たとたん、湿気を大量に含んだ熱い空気が私の身体を包みます。
 霊剣「十六夜」の剣霊であり生身の身体をもたない私ですが、暑さ寒さを感じたり、軽いものなら持つこともできます。
 特に視覚という感覚を持たず霊体ゆえにめったに物を食べられない、つまり味覚が意味を成さない私は他の聴覚・嗅
覚・触覚が鋭敏なようです。
 だからでしょうか?私は日本特有の湿気でべた付くような暑ささえ愛しいと感じます。

 庭の片隅からはカチャカチャと金属がぶつかったり、擦れあったりする微かな音が聞こえて来ます。
 今年も、愛様は恒例のミニちゃんの整備を行っているようです。
 愛様のことですからミニちゃんの整備に夢中になって、寮内の騒ぎの音は聞こえていないのでしょう。
 私は愛様のいる所から少し離れた場所にある花壇へ向けて身体を浮かせて移動し、植えてあるひまわりを手で触れ
て様子を見ます。
 毎朝水をきちんとあげているので、瑞々しい葉と少しきつめの甘い香りを放つ花、その大輪の花をしっかりと支える頑
丈な茎がひまわり達が元気だということを私に教えてくれます。
 しばらく私がひまわりの香に包まれていると、寮の方から誰かこちらに来る気配があります。
「姉様、何をしているのですか?」
 気配は私の弟、シルヴィでした。
 どおりで足音がしなかったはずです。
 遠い昔に死に別れてしまったはずのこの子に再び会えたのもこの寮にきた後でしたね。
 偶然が重なったとはいえ、こんな奇跡がおこるとは……。
 そんな事を考えつつもシルヴィの質問に答えます。
「ひまわりの花の香を楽しんでいました」
「姉様、僕も一緒にいていいですか?」
「ええ、もちろん」


 花壇の辺りには座るのに良い場所がないので、少し離れた木陰に移動して話をする事にしました。
 私は目は見えませんが、この寮に庭の事は熟知しております。どこに木が生えているかに始まり、どこの地面が抉れ
ているかとか、反対に隆起しているかとか、草叢・バスケットコート・水道、なんでもござれです。
 木陰に落ち着くと、寮の方から風に乗って寮内の騒ぎが聞こえてきます。ここまで届くのですから、今日はかなり大き
な騒ぎになっているのですね。

「てめえら、うっせいぞ!!こちとら今日締め切りだったんで(原稿はあがった)徹夜してたんだ。少しは静かにできねぇ
のか!!」
「仁村さん、それは申しわけなかけど、今日という今日はこんバカ猫にきちっとした躾をせんといかんのです」
「よけいなおせわなのだ!!薫はオーボーなのだ!!」
「だから、五月蝿いって言っているだろうが!!」
「まあまあ、真雪さんも落ち着いて。うちだって寝ている所を起こされたのを我慢しているんですから、真雪さんも我慢し
ましょう」
「休みで帰ってきたら日がな一日寝ているか歌っているかのおめーと一緒にするな!!」
「まゆお姉ちゃん、ゆうひちゃんに失礼だよ!!」
「でも、当ってるよね」
「リスティ!!」
「そうや。うちだって『うたうたい』としての修練をきちんと積んでるんやよ」
「でも、そう見えないからそう言われるんだよね」
「そうですね、うちから見ても椎名さんは弛んでる様に見えます」
「か、薫ちゃんまで……でも、リスティにしろ美緒ちゃんにしろ、うちよりもっと弛んでるやないか!!」
「ム、ゆうひまであちしを責めるのか!!」
「No!!今のゆうひにそう言われると僕の性格が疑われるじゃないか!!」
「まあまあ、皆さん落ち着いて……」
「耕介(君・さん・お兄ちゃん)は黙ってて!!」
「はい…(泣)」

 遠くから聞こえるいつもの喧騒が蝉時雨と交じり合い、不思議な事にとても風流なものに聞こえますね。
「姉様、何か良い事があったんですか?」
 私が遠くの喧騒に耳を傾けているとシルヴィがそんな事を聞いてきました。
「いえ、いつも通りでしたが……シルヴィ?私がどうかしましたか?」
「いえ、姉様が嬉しそうに微笑んでいらしたのでどうしたのかなと思いまして」
 どうやら、いつのまにか微笑んでいたようです。
「そうですか、微笑んでいましたか……シルヴィ、私は薫が本当に明るくなったのを嬉しく思いますし、同時にこの寮に
住む皆様の暖かく優しい心が大好きで、そんな皆様にお会いできたことが嬉しかったのです」
 私はシルヴィの存在を感じられる方に顔を向け、そして、頭のあるあたりに手を伸ばして、その柔らかい髪を撫ぜな
がら言葉を続けます。
「そして、あなたと時を越えてまた共にすごせること、みんなみんな偶然がくれた奇跡、そんな事を考えていました。それ
から、今微笑んでいた直接の原因はたぶん、寮から聞こえる声と蝉時雨が交じり合って聞こえた喧騒、なんだかそれ
が風流に思えてしまったのがおかしかったのでしょう」
 私が語り終えるのを待ってシルヴィが抱き付いてきました。普段は余りこういう事をしない子ですが、私と二人きりにな
ると時折こうして甘えてきます。もっともそれが可愛いのですが…。とにかく抱き着いてきたシルヴィの頭を撫ぜていると
シルヴィがなんだか眠そうな声で話しはじめました。
「姉様、僕は姉様とまた会うことができて幸せです。それに薫様、愛様、真雪様、ゆうひ様、知佳様、みなみ様、美緒、
そして何より耕介様と会えて幸せです。初めて皆様と会った時はあれほど迷惑をかけたのに、今はこうして僕を受け入
れてくれている…本当に…ほん…と…うに…し……」
 どうやら寝てしまったようなので、膝枕をしてあげる事にしました。
 再び吹いた風がひまわりの香りを運んできます。あの花は一夏思いきり咲いて、種という形で子孫を残していきます。
 私はもはや子を成す事ができません…だから、神咲の子供達をいつも私の子と思い接してきました。
 そして、これからもきっとそうするでしょう。私はまだ見ぬ薫と耕介様の御子を思いながら頬が緩むのを感じました。
 今はまだ子供っぽいシルヴィも、いつか私と同じように感じる時が来るのでしょうか?
 きっとこの子も色々と悩むでしょう。その時は私が少しでも力になりたい…なれればいいと思います。
 だから今は御眠りなさい…この暖かなひまわりの咲く庭で。



 気がつくと夕方でした。
 どうやら私も寝てしまったようです。
「十六夜、目が覚めた?」
 隣には薫が座っています、シルヴィは…まだ寝ているようですね。
「姉弟の仲が良くて、よかね。でももうすぐ夜になるし一度寮に戻ろう。」
「はい、そうですね…シルヴィ、シルヴィ起きてください」
 私がシルヴィの肩をゆすると案外あっさり起きたようで、すぐに返事が聞こえました。
「あれ?姉様すいません。膝の上で寝てしまうなんて」
「良いのですよ。それよりもう夜になりますから一度寮にもどえりましょう」
 慌てて起きあがったシルヴィにそう言うと、私も立ちあがり寮へと向かいます。
「それにしても十六夜と御架月が寝ているのを見ると姉弟というより親子みたいな感じがすんね」
 薫が少し笑っているような声で私に話しかけてきます。
「そうですか?私としては早く薫と耕介様の御子を抱いてみたいのですが…」
「あっ!!僕も早く抱いてみたいです。薫様、いつ赤ちゃんが生まれるのですか?」
 子供がどうやってできるかという事をよく知らないシルヴィらしい言葉ですね。
「まだ先の話ですよ、シルヴィ。耕介様はともかく薫はまだまだ子供を育てるだけの余裕がありませんから」
「そうなんですか?姉様はよく御存知ですね」
「当たり前です、私は長い間神咲の家を見てきたのですから。だから薫、一生懸命女を磨きなさい」
「な、なんね急に」
 どうやら照れているのでしょう、少し慌てたような感じの声が返ってきます。
「耕介様は素敵な殿方ですから、誰かに取られちゃうかもしれませんよ…たとえば私とか」
「な!!い、十六夜!!」
「ね、姉様、姉様は耕介様が好きなのですか?」
 二人とも、随分慌ててますね。たまにはこういうのも面白いものですね、真雪様。
「冗談ですよ」
「「はぁ〜」」
 そう、冗談ですよ。
 でも私が生きた生身の人間でしたらきっと耕介様を愛したと思いますけど……。
「まったく悪い冗談言わんね」
「そ、そうですよ。僕は姉様を応援しようか薫様を応援しようか本気で悩んだんですから」
 ああ、頬が緩むのがわかります。
「ごめんなさい。でも耕介様がおもてになるだろうということは間違いないと思いますよ。だからしっかりと耕介様を掴ん
で離さないようになさい」
「うん、十六夜母さんの言う通りにするよ」
「♪」
 少し涼しくなった風が吹いてきました。秋が近い証拠ですね。これからひまわりは種を付け枯れていきます。
 少し寂しいけど、来年もまたきっと会えるから。だから、今日より明日を目指していきます。神咲の子らと共に。



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あとがき

こんにちは、小島です。
はじめましての方は、はじめましてですね。

まずは、管理人様HPの25000HITオーバーおめでとうございます。
このSSは私がメインで投稿している海鳴堂書房HPの25000HITオーバー記念のお祝いの贈り物です。
駄作ですいません。

まあ、十六夜さんのお話なんですけど…難しい。
普段、甘すぎるラブラブ話や、壊れギャグしか書いていない私の作品とはちょっと方向性がいがうので苦労しました。
今後より修練を積むための一環としてという事で今回はこんなところで御勘弁を。

さて、「たまには…」も残す所外伝の美緒編を残すのみとなりました(えっ!!超外伝…あれは別物に近いから)。
残り僅かとなりましたが、これからもよろしくお願いします。

それではまたお会いしましょう、アディオス!!

2002/8/13
小島

メールアドレス:mk_kojima2@yahoo.co.jp



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