第三話 戦慄の歌姫(中編)


Written by 小島


>さざなみ寮
 寮の玄関前に、真雪の運転する黒いランドクルーザーと耕介の乗るメタリックレッドの大型バイクが止まる。
 耕介は黒いフルヘルメットをかぶっておらず、そのフルヘルはなぜか耕介のタンデムに乗っていたゆうひがかぶって
いた。
 実は、展望台からさざなみ寮に向かう時こんな出来事があったのだ。

「あー、先生はここまでバスで来たのかい?」
 真雪が、咥え煙草のまま聞いてくる。
「いえ、バイクで来たんですよ」
 そういって、少し離れた場所に停めてあるメタリックレッドをベースにしたカラーリングの大型バイクを指差した。
「そうか、バスだったら車に乗せてやろうかと思ったんだけどな、じゃあ先生案内するからバイクでついてきなよ…、ゆう
ひ早く車に乗りな」
 そう言うと真雪はランドクルーザーの助手席側のドアを開けようと身体を捻ろうとするが、ゆうひがそれを呼び止め
る。
「あっ、ちょっとまってな、真雪さん。」
 それからすばやく耕介の方に振り替えると、にこにこと笑いながら言葉を切り出した。
「あの、先生、うちオートバイって乗ったことないんやけど、試しに乗せてくれませんか?」
 真雪は、普段男を側に寄せ付けないゆうひが急にこんな事を言い出したのに少々驚いたが、すぐに何かを悟ったみ
たいに人の悪い笑みをニヤリとばかり浮かべると、耕介が何か言う前にさっさと自分の車を発進させて展望台の出入
口の方へいってしまった。
 耕介はそれを見るとまあ仕方ないかと思い直して、ゆうひにむかって少々苦笑を交えながらついてくるように声をかけ
ると、停めてあったバイクに向かって歩き出した。
 そして、当然のことながらヘルメットを持っていないゆうひに、自分のヘルメットを渡してかぶらせた。
「それじゃあ、しっかり掴まってください」
 タンデムシートに座ったゆうひ(彼女は薄い黄色を基調としたサマードレスを着ていたのでスカートを捲り上げて座ら
せるわけにもいかず、横座りでタンデムシートに座っている)にそう声をかけ、ゆうひが自分にしっかりしがみつくのを確
認すると本人にもう一度声をかけてから、真雪の車の方へとバイクを走らせたのだった。

 真雪のランクルの後をついて走りながら、耕介は軽く考え事をしていた。
(なんだか、おかしな事になったな。でもまあこれもカモフラージュ工作の一環だと思えばいいか……それにしても椎名
さん本当にしっかりつかまっているよなあ……そっそんなに強くしがみついてくると…その柔らかい感触が…)
などと、非常に羨ましい状況を楽しみながらバイクを走らせた耕介は、展望台から7分くらいの場所にあるさざなみ寮に
ついたのだった。


>さざなみ寮地下「地球侵略前線基地」バイオボーグ制作室
「さてと、それじゃあ今度はこっちを仕上げないとね」
 チカはそう言うと、先程とは別の手術台に横たわる男に声をかけた。
「ごめんねぇ、お待たせしちゃって。なんだか今回は色々やることがあってたてこんじゃってるのよね」
 そう、明るく声をかけるが男からの反応はない。それもそのはず、手術台に横になっている男……氷村遊は、自分が
一族から追放になることも知らずにのんきに寝ているのだった。というか、遊よ、この状況下で逃げ出すことも考えずに
寝ているとは、もはやサザナーミ皇国軍の誇るリサイクル怪人の地位に満足しているようだね君は……。

>海鳴駅駅前商店街
 大輔は逃げていた。
 友人達と昼食をとるためにゲーセンから喫茶店へ向かう途中で、彼は最も恐ろしい敵と遭遇してしまったのだ。
 最初彼女の連れの人物を見たときはそばに寄らなきゃいいかと思ったのだが、次の瞬間、彼女が視界に入り、大輔
は身を隠そうとした、そこに、こういう状態では最悪の声がかかる(声をかけた人物が1人だったら嬉しかったが)。
「端島君、こんにちは、何をしてるの?」
「の、野々村!!」
 突然の事につい大声をあげてしまう大輔。彼はすぐに失敗に気付き逃走を始めた。突然の大声に驚き硬直してしま
った小鳥を小脇に抱えたまま。

 そして、それに周囲の人間が気が付かないわけもなく、先程大輔が見つけた二人の人物も事態に気付くと共に、猛ス
ピードで大輔の追跡を始める。
「いくぞ、鷹城!!野々村が危ない」
「うん、いづみちゃん!!」
 二人は大輔に追いつくために、障害物(人間・車等)を強制的に排除しながら追いかける。
「邪魔だぁ!!」
 いづみの影丸が道を塞いで歩くガングロ女子高生を打ち倒し、走行中の車のタイヤをパンクさせる。
「邪魔、邪魔ぁ!!」
 唯子が有り余るパワーを駆使して突然の事態に驚き右往左往している、バーコード頭の親父や、ヒーローショウと勘
違いして群がってくる子供を弾き飛ばす。
 駅前商店街は、今、阿鼻叫喚の場と化していた。
 ちなみに小鳥は今だ硬直していた。

>さざなみ寮 リビングルーム
「ただいまー、お客さん連れてきたよー」
 耕介を玄関に待たせて、寮に戻って来たゆうひはリビングルームにはいるや否やそう告げた。
 ちなみに、一緒に戻って来た真雪は仕事をするからといって自室に戻っていた。
 ゆうひがリビングルームに入ったとき、リビングルームにはさざなみ寮のオーナーという肩書きを持っている槙原愛
と、管理人という肩書きを持つ槙原神奈の二人がいた。
「お帰りなさいゆうひちゃん。お客様ってどなたですか?」
 ソファに座って紅茶を飲んでいた愛がゆうひにそう聞くと、その後で、侍女のように(実際本来の彼女の役目は侍女達
の纏め役なのだ)給仕を務めていた神奈が顔を顰めながら言葉を続けた。
「ゆうひさん、ここが本来どういう場所なのかわかっていますか?」
「アハハ、そない怖い顔しないでもええやない。たまたま展望台の所で、薫ちゃんの担任の先生に会ったから、このまま
帰すのも悪いかなと思って、お連れしたんです」
 ゆうひが少し引き攣った笑顔で言うと、神奈はとたんに表情を変えてニコニコと笑顔になって、ゆうひにお客様をリビ
ングに連れてくるように頼み、自分はキッチンに向かっていった。

 耕介がリビングに入ると、そこには明るい茶色の髪を三つ編みにした暖かい雰囲気を持った美女がソファから立ちあ
がって挨拶をしてきた。
「はじめまして。私この寮のオーナーで槙原愛と申します」
「はじめまして。神咲さんの担任をしている槙原耕介と申します。今日はお休みのところを突然お邪魔してしまって申し
訳ありません」
 耕介も軽く頭を下げて挨拶をする。
「ああ、良いんですよ。お客さんがいらっしゃるのは大歓迎ですから。それにしても同じなんですね苗字、どういう字を書
くんですか?」
「リッシン偏に、真実の真の"槙"と原っぱの"原"です」
「あら、じゃあ同じ字を書くんですね」
 耕介と愛が立ったまま談笑をしていると、耕介をリビングに案内した後どこかに姿を消していたゆうひがリビングに入
ってくる。
 着衣に変化がある所を見るとどうやら部屋で着替えてきたらしい。
「先生、立ったままで話していないで、座ったらどうです?」
 ゆうひは耕介と愛の様子を見ると素早く耕介の片腕を取り、数人で座れるようになっているソファに座らせ、自分はそ
の隣に腰を下した。
「すいません、立たせたままにしちゃって」
 そう言いながら愛は先程座っていた1人掛け用のソファに再び座る。
 それを見計らっていたようにキッチンから新しく入れなおしたお茶と、お茶菓子を持って神奈が入ってくる。
 一通りお茶を出すと、神奈が挨拶をはじめる。
「はじめまして槙原先生。私、当寮の管理人をしております槙原神奈といいます。オーナーの愛さんの叔母にあたりま
す」
「あっ、こちらこそはじめまして。槙原耕介と申します」
 こうして、突発的に始まった家庭訪問はお茶会へとなだれ込んでいった。


>海鳴駅駅前
「あー、咽喉痛い」
 買い物を終えた瞳達は海鳴駅まで戻ってきていた。
 各員、満足のいく買い物をして結構大荷物になっている。
 もっとも、瞳は薫にファッション講座をしていたためあまり自分の買い物をする時間がなく、比較的荷物は少なかっ
た。
 反対に薫は瞳が講座で薫に似合うだろうと言っていた物を全て買っていたので1番の大荷物だった。
(薫は名門貴族の家の当主なので、当然お金持ちである)
「神咲さん、その荷物じゃあ山の上までは大変でしょ?手伝うわ」
「……千堂、ありがとう」
 瞳が薫を心配して手伝いを申し出ると、薫は一瞬躊躇したがここは1つ素直に瞳の好意に甘える事にした。
 そんなやり取りの後、駅前の商店街(なぜか妙に荒れていて、あちこちに血が飛んだ跡や事故の跡が見られた)に自
宅のある友人と別れるのをきっかけに解散となり、二人でバス停に向かうのだった。


>綺堂家 リビングルーム
「さくら、夕方になったし、今日はもう帰るよ」
 少々疲れたような表情で、暇を告げる真一郎。
 彼は、さくらにせっつかれて結局来週の日曜にデートをする約束をしてしまった(さすがに告白はしていないが、もうし
ているようなものだったので、今回はさくらが見逃してくれた)。
「先輩、そんなに急がなくてもいいでしょ?今夜は私が夕食を作るのですけど、先輩も御一緒にいかがです?」
「いや、でも女の娘の家に遅くまでいるのは悪いよ」
 できる事ならさくらの手作りの夕食を食べたいとは思うのだが、会ってからそれほど時間が経っていない少女の家に
遅くまでいるのは礼儀を知らない人間だと思われるといけないと思い、断腸の思いで断る真一郎。
「構いません。それに先程の電話でお父様が今夜は泊まってくると言っていたので、材料が余っているんです。駄目に
しちゃうといけないので、御一緒して頂けませんか?」
 さくらが、少し潤んだ瞳を上目遣いで真一郎に向ける。真一郎はそんな彼女を見てあせってこたえる。
「う、うん、そういう事なら頂こうかな?そうだ、一緒に作らない?ただ待っているのも退屈だし、俺も料理するの好きだ
から(うう、可愛い、壮絶なまでに可愛い)」
 真一郎の言葉を聞いたさくらは満面の笑みでこたえる。
「はい、一緒に作りましょう(フフフ、ライバルは多そうなのでここは既成事実をつくって一気に恋人の座をゲットです)」
 真一郎危うし!!
 あれ!?逆だったかな?


>さざなみ寮 リビングルーム
「ただいま戻りました」
「お邪魔します」
 薫と瞳がそう言ってリビングルームに入るとそこには信じられない光景が広がっていた。
「にゃはは、大きいのだ」
 耕介の肩の上では、耳と尻尾を隠した美緒(ようやく隠せるような術を覚えた)が耕介に肩車されていた。
「あらあら、美緒ちゃん良かったわね」
 いつのまにか耕介の左隣に席を移した愛が耕介の左腕をその豊満な胸谷間に抱きかかえたまま、フォークで耕介に
ケーキを運んでいる。
「おお、ほんまに良かったな美緒ちゃん」
 最初に座った耕介の右隣から位置を変えることなく座っていたゆうひが、やはりその豊満な胸の谷間に耕介の右腕
を抱きかかえたままコーヒーの入ったカップを愛と交互に口に運んでいる。
「あっ、お兄ちゃん、これ私が作ったんだけど、味見してくれる?」
 遊の改造が終わったらしい知佳が、なぜか耕介をお兄ちゃんと呼びながら、急に焼くことにしたクッキーを持ってキッ
チンからやって来る。
 ちなみに当の耕介はどうしてこんな状況に成ったかわからないけど、美人2人の柔らかな感触は嬉しいなぁと思って
いるらしく、微妙にニヤケた困惑顔をしている。
「耕ちゃん、ここで何しているの?」
 絶対零度の冷たさを持った瞳の声がリビングルームを凍らせる。
「そうです、槙原先生。女性を回りにはべらせているなんていい御身分ですね?」
 溶岩のように粘着質のある熱気が1名を除いた、一堂に(冷や)汗をかかせる。
「「説明してもらいましょうか!!」」
 怒気を纏った二人の鬼神が今、さざなみ寮のリビングルームに顕現した。

「な、なんだ、知佳ちゃんが槙原先生をお兄ちゃんて呼んでたのは、かっこいいお兄ちゃんが欲しかったからなんだ」
「うん、そうなんだ」
 知佳は真っ青な顔で薫の言葉にカクカクと首を縦に振る。
「ふーん、美緒ちゃんていったっけ?亡くなったお爺さん位大きかったからつい登っちゃったんだ。でも見ず知らずの人
に登ったら駄目だよ」
「う、うん、わかったのだ、もうしないのだ(うう、妖怪やかまし小姑が二人に増えたのだ)」
 美緒は、半べそをかきながら瞳の言葉に肯く。
「愛さんはふざけただけなんですか?」
「ええ、ゆうひちゃんがやっているのを見て面白かったからつい」
 愛は…どうやら状況が良くわかってないらしく、いつものようにニコニコと微笑みながら薫に答える。
「ゆうひさんと仰いましたっけ、あなたもふざけたんですか?」
 瞳が一見すると優しい笑顔、その実その目線は視線で人が殺せたらとばかりにゆうひを睨んでいる。
「うちはふざけたわけやないよ。うち耕介君に一目ぼれしたんよ。だから積極的にアピールしただけや」
「駄目です!!耕ちゃんは私と婚約しているんです!!他の人を探してください!!」
 瞳が大声で叫ぶ。
「そ、そうです。槙原先生にはちゃんと千堂と言う相手がいるんです。椎名さんは手をださんでください」
 薫は少し辛そうな表情でゆうひを嗜めた。
「耕介君、それほんま?」
「ああ、親同士が決めたといっても正式なものだからね」
 耕介が済まなそうにそう答える。
 しばらく何か考えていたゆうひだが、ポンと手を打つとこう言った。
「なら、うちは2号さんになるな」
(て、手強い)
 瞳はゆうひに戦慄を覚えた。

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なかがき

うう、ようやく書き終わりましたシェフダー三話中編。
本来は、シェフダー強化月間という事で、今月の頭には書きあがっている予定でいたんですが……なぜか月末に。
これも皆電波が来ないのが悪いんや。

という事で、とにかく今月中に三話を終わらせたいと思っています。
みじかいですがこれで。

それではまた、アディオス!!

メールアドレス:mk_kojima2@yahoo.co.jp

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