たまには休日を……外伝 新たなる闘争の幕開け
(「海鳴堂書房」HP20000HITオーバー記念SS)

Written by 小島


この作品はJANIS/ivoryより発売されているとらいあんぐるハートシリーズを元ネタとしております。
この作品は、ネタばれを含んでいます。
この作品における方言はかなり適当です、こんなの関西弁(鹿児島弁)じゃないという方がいてもおおめに見ていただ
けると嬉しいです。
この作品は拙作「たまには休日を…」シリーズの外伝にあたり、先にそちらを読まれたほうが、少しは面白くなるかもし
れません。
今回は、演出上の関係で「岡本みなみ」嬢が、少しダークな雰囲気をまとっています、そういうのが嫌いな方や、常識を
わきまえない方は見ないことをお勧めします。

 
 



 
 少し強い風が、校舎の屋上を吹き抜ける。
「うわ、めっちゃ寒!!」
 そう言いながらも、あたしは屋上から降りる気はなかった。
「相川君遅いな、何やってんだろう」
 そう、あたしはここで相川君に告白しようと思って待っているからだ。
 今日1時限目と2時限目の間の休み時間に、相川君に大事な話があるから放課後屋上に来て欲しいと伝えてある。

 後は彼が来るのを待つだけ……。

 相川君に初めて会ったのは風芽丘学園の入学式の日だ。
 最初見た時は背の高さが極端に違う二人の女の子と話している、なぜか男子の制服を着た変わった趣味の女の子
だとばかり思っていた。
 だけど式が終わり教室に入った時、その変わった女の子がいっしょのクラスだったので少々驚いた。
 もっとも、その変わった女の子が実は正真正銘男の子だった知った時はもっと驚いた。
 だから相川君の第一印象は変わった女の子で、第二印象は、女の子みたいな男の子だった。

 もっとも、この印象はあることを契機に訂正される事になった。
 それは、彼は、最初男子の制服でもブレザーを着ていたのだが、制服が比較的自由なこの学園らしく、ガクラン、そ
れも上着の丈が短い短ランと呼ばれる不良っぽい格好で登校した時だった。
 それまで彼とは出席番号の関係で近い席にいた事もあったせいで、比較的女子生徒と過ごす時間の多い彼と話す事
もよくあったが、それはどちらかというと同性の友人と話すのに近い感覚でだった。
 その彼が、ちょっと硬派な、いわゆる「男」ではなく「漢」を思わせる格好をしてきたのにあたしはなぜか胸の高鳴りを
覚えたのだった。

 それまでも、『意外と男らしいところもあるんだ』と思う事は何度かあったが、彼を異性として強く意識したのはこの時
だと思う。
 それからもあたしたちの関係は表面上は変わらなかった。
 確かに彼を異性として意識しだしたという事はあったが、仲の良い友人達の一人という位置は簡単に崩れるものでは
なかったし、彼と恋人同士になるのは彼の幼なじみの少女のどちらかだろうと思っていた事もあった。
 実際、彼の周りにいる少女達の中でも彼女達は別格だったし、その他の少女達もそれが自然に思えていたので、自
分の持ったほのかな恋心を押え込んでしまうことが多かったようだ。
 実際にそう聞いたのは自分と同じ女子バスケの部員の一人から、ちょっとした女同士の話の合間に出てきた言葉だ
けだが、よく彼の周りの少女達を見るとそうじゃないかな?と思える少女達が何人かいたのも確かだ。

 そして2年生になって、彼とクラスが分かれてからも時折教室を行き来したり、廊下でばったり会っては話し込んだりと
いう事がよくあり、明確に恋人を定めない彼にもどかしさとちょっとした安堵を覚えたりする、そんな平和な日々が続い
ていった。
 しかし、いつまでも平和は続かなかったのだ。最近急激に彼の付き合いが悪くなってきているのがわかる。
 背の低い彼の幼なじみに聞いてみると、
「真君ね、最近御執心な女の娘ができたんだよ」
と寂しそうに答えた。
 寝耳に水だった。もう一方の幼なじみである少女も彼との仲が進展した様子もないのを見ると、いったい誰なのだろう
か?
 自分の知っている彼に恋心を抱いていた少女達の顔を思い浮かべてみるが、どの少女にしてもそういった様子はな
かった。
「あのね、綺堂さくらちゃんっていって、1年生の娘なんだ」
 まるで●学生のように背の低い彼女、小鳥ちゃんは、寂しそうだけどどこかほっとしたような顔でそう教えてくれた。
 この時、あたしの心の奥にあった箍が外れたのがわかった。

ナンダ、コノコタチハカレトコイビトニナルキガナカッタンダ。ソレナラワタシガコイビトニナッテモイイハズダヨネ。
ダッタラカレノコトヲヨクシラナイソノコヨリアタシノホウガゼッタイニイイハズ。

 そう、あたしの心の奥底に眠っていた、醜い独占欲が湧き出てきたのだ。
 あたしはもう止まれない。この想いに決着がつくまでは……。

 そして今日、あたしは彼をここに呼び出したのだった。
 自らの想いに決着をつけるために……。




 校舎内へと続く屋上のドアが開いた。
「岡本、大事な話って何?」
 彼はいつになく真剣な表情であたしを見つめる。でも、その奇麗な瞳に浮かんでいるのは悲しみだった。
 彼は、あたしが何を言おうとしているのかを理解している。そして、その答えももう用意してあるのがわかった。
「あのね、相川君…あ、あたしね……相川君の事ずっと好きだったの……」
 相川君はやっぱりという表情をした後、絞り出すように言葉を出した。
「岡本、ごめん!!俺、今気になる娘がいるんだ。だから、岡本の気持ちには応えられない」
 そう言うと真剣な表情であたしの顔を見る相川君。少し前ならそう言われたら、仕方ないとあっさり諦められただろう。
でも、もうそれは無理。あたしの箍は外れてしまったから。
「ううん、謝らなくてもいいよ。小鳥ちゃんから聞いてたから。だからこれはけじめをつけるためだけなんだ。だから明日
からはまた元のまま友達でいてくれる?」
 あたしが本心を隠したまま笑顔で相川君にそう言うと、相川君は少し笑顔になっていった。
「もちろん」
 あたし達はそのまま別れて家路についた。

 夜、わたしはさざなみ寮の自室に篭りたくさん泣いてしまった。知佳ちゃんや椎名さんが慰めてくれたので、少し気持
ちが楽になったけれど。
 でも、泣いたのはふられたからじゃなくて、今までの弱い自分を哀れんでなのだ。そう明日からは戦いの日々が待っ
ている。綺堂さんという少女から相川君を取り戻すため、愛の闘争を始めるのだから……。

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あとがき

皆さんこんにちは、そしてはじめましての方ははじめまして。
駆け出しのとらハSS作家の小島です。

このSSは、いつもお世話になっている「海鳴堂書房」HPの2万HITオーバー記念に同HPの管理人様に御贈りしたも
のです。
管理人様2万HITオーバーおめでとうございます。

「たまには…」外伝のみなみ編いかがでしたでしょうか?
今回は、ちょっとシリアスなお話にチャレンジしてみました。
皆様のお気に召したかちょっと心配です。
俺のみなみちゃんはこんなにひどい娘じゃなぇ!!と御怒りの方も多いのではないでしょうか?
書いた私にしても、本当の彼女はもっと、明るくて優しい強い娘だと思っていますが、そこはそれ、「たまには休日を…」
というお話の中でのみの演出だということなのでご勘弁を。

それと、私のSSでは、みなみちゃんの不幸率が高い状況にありますが、私がみなみちゃんを嫌いだからというわけで
は決してありません、この事はここに明言しておきます。
「私、小島はとらハワールドに存在するメインキャラはもちろん、端役から悪役まで全てを愛しております!!」

それでは短いですが、この辺で終わりにしたいと思います。
また次の作品で御会いしましょう。
それではまた、アディオス!!

2002/6/27
小島

メールアドレス:mk_kojima2@yahoo.co.jp


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