第三話 戦慄の歌姫(前編)


Written by 小島


>海鳴駅駅前広場
 先週末に起こった事件から、ようやく地球人達の間にもサザナーミ皇国と名乗る集団の驚異が広まってきた。
 それはそうだろう。宇宙刑事を名乗る存在に破れたとはいえ、軽々とアスファルトを砕きクレーターを作るみなみの姿
は強力なインパクトをもって人々の心に刷り込まれることとなったのだ。
 すでに、当事国である日本では警察と自衛隊合同の対サザナーミ特別部隊の編成が急がれていると同時に、サザナ
ーミと敵対していると思われる宇宙刑事を名乗る人物との接触が図られている。
 もっとも、サザナーミを驚異と思っているのは世界中のどの国でもそうだが、被害にさらされている日本に援助をしよ
うとする国は一つもなかったが……。
 特にアメリカなどは在日米軍にサザナーミ皇国関連の事件はこちらに被害が及ばない限り傍観せよと命令を送るくら
い明確に関与を嫌っていた。
 彼らにしてみれば、今のところ日本という島国の内部で起きていることで未だ自国に不利益があるわけではないし、
できれば危険なことに関わりたくないと言うのもあるだろうが、結局の所他人事だからだろう。
 サザナーミ皇国の起こす事件が日本国内に収まっている今、下手に刺激して自分たちの国が脅威にさらされるは勘
弁して欲しいというところだろう。

 耕介は駅前広場の修復工事を眺めながらこの1週間における状況の推移について考えを巡らせていた。
 今日は日曜日で学校は休みなので、本業である宇宙刑事の仕事であるサザナーミ皇国の地上基地の探索をしてい
る最中である。
 本来なら瞳も一緒にこの探索行に加わるべきなのだが、カモフラージュとして学生という立場にたってしまった以上、
友人との付き合いを疎かにして余計な関心を持たれるのを避ける為今日はクラスの友人達と遊びに出かけていた。
 もっとも、瞳は十分にその行為を楽しんでいるのだが……。

 耕介は少しの間そんな考え事をした後、駅前広場の状況に注意を戻す。
 ミナミが作ったクレーターはようやく埋め立てが終わったらしく、今はアスファルトで舗装をしたり、歩道部分をタイルを
貼って見栄えをよくしたりしている。もう2・3日すればあの戦いの傷跡はすっかり消えてなくなるだろう。目に見える範囲
のものに関してはだが……。
 そうやってしばらく工事の様子を見ていた耕介は、やがて道路脇に停車しておいたバイクに乗ると次の目的地へと向
かった。



>矢後市・矢後駅駅ビル・UMINE
 瞳と薫は数人の友人達と連れ立って海鳴から少し離れた矢後市にあるデパートに来ていた。
 海鳴駅前にあるデパートのALCOでもよかったのだが、たまには遠出してみようという意見が出て、それもいいかと皆
が思った結果ここに来る事になったのだ。
 今回の買い物の目的はゴールデンウィークも過ぎたのでそろそろ夏物を買い揃えようかという事らしい。
「ねえねえ、瞳これなんかどう?」
 クラスメートの一人が自分の身体に服を当てて瞳に意見を求める。
「うーん、美代は髪の色が凄く綺麗な黒でしょ、その色使いより同じデザインでもこっちの方がいいわよ」
 瞳は思った通りの事を意見として言うが、ヘタに『似合うよ』などと軽く言われるよりもずっと頼りになると先程から皆か
ら引っ張りだこである。
 そんな中で薫は皆の様子を眺めながら瞳の隣でボーっとしていた。
 サザナーミ皇国でも地球でも女性の性癖は変わらないのか、より自分を美しく見せるために服装にこだわるのが普
通だが、幼い頃よりサザナーミ皇国の重鎮にして軍閥のカンザッキ家の跡取として厳しい戦闘訓練を受けてきた薫は
こういった場合にどのような服を買っていいのか皆目見当がつかなかった。
 ひとしきり友人達の質問攻めにあっていた瞳がようやく解放され、薫に話しかけてきた。
「薫、あなたもボーっとしてないで、服を選んだら?」
「うん……、千堂、頼みがある」
「あら、珍しいわね、薫が誰かに頼るなんて」
 いつも生真面目な薫がこれでもかと言うほど真剣な表情で自分に頼み事してきたのを瞳は口ではそう軽口をたたい
たが、内心非常に喜んでいた。
「その、うちは自分で服を選んで買った事がなか。だからどげんして服を選んだらよかか教えて欲しか」
 薫のその言葉に、瞳は一瞬この娘どこのお嬢様なのかしらと頭を悩ませた。


>海鳴駅前商店街 ゲームセンター
「だから、俺はロリコンじゃないって言ってるだろ!!」
 そう叫んだのはこのシリーズではお馴染みのこの人、端島大輔だ。
 大輔は親友の相川真一郎を除いたクラスの仲の良い友人達とゲーセンで遊んでいた。
 ちなみに真一郎は、大輔の誘いを『わりぃ、俺その日デートなんだ』と断って朝からどこかへ出かけてしまっていた。
 まあ、一人抜けたからといって遊ぶ計画をやめるわけもなく、こうしてゲーセンに繰り出してきたのだが、ゲーセンの
端っこにあるクレーンゲームコーナーに●学生くらいの女の子がいるのを見かけた仲間の1人が、御剣いづみの薫陶
通り大輔の身柄を確保(地面に両膝を揃えてつき、上体を倒し、背後で両腕を拘束した状態)した時に出た叫びが先程
のものである。
「いや、だって、鷹城さんもおまえが野々村さんの使用済み下着を欲しがってたって言ってたしなぁ」
「あっ!!それ、俺も聞いたことある」
「俺も俺も」
 作戦失敗に対する唯子の罰なのか、ずいぶんとこの話を話して回っているらしい。
「だから、俺はロリコンじゃない!!俺はただ女性の好みのストライクゾーンが広いだけだ!!」
 大輔が血涙を流しつつ声を上げる。どうでもいいが大輔よ、それは決して褒められる事じゃないぞ。自分から節操無
しだと言ってどうする。
 しかし、友人達一同は涙を流しながら彼を褒め称えた。
「よくぞ言った。俺はおまえの中に真の漢をみたぞ」
「大輔、おまえは漢だぜ!!」
「大輔、おまえはなんて凄い奴なんだ」
 その褒め言葉を受けながら、大輔は爽やかに言い放つ。
「だから、放してくれ」
「だめ!!」
「あの、●学生が危ないのは変わらん!!」
 大輔にとって現実はとてつもなく過酷だった。


>国守山・展望台
 耕介はバイクをとばして海鳴を一望できる展望台にやってきていた。
 この展望台はバス停にもなっているらしく、今も一台のバスが展望台に入ってきたところだ。
(この街のどこかに彼女たちは姿を隠しているはずだ。早く見つけないと徒に被害が増えていくだけだ)
 耕介は真剣な表情で街を見下ろしていた。

 風がでてきたようだ。標高が高い所にいるため少し肌寒い。

 その視界を何かが一瞬遮った。
 よく見ると、それは帽子のようだった。
「ありゃ、落ちてもーた」
 耕介は背後から誰かが近付いてきたのがわかった。声からすると女性だろう。
 先程入ってきたバスの乗客なのだろう。
 先程の帽子の持ち主だろう、帽子を拾ってきてやろうと思い、一声かけるために耕介は振り向くとその女性を視界に
納めた。

 最初の一瞬はそこに女神が降臨したのかと思った。なぜなら、彼女が光り輝いて見えたからだ。
 直ぐに光線の加減によっての事とわかったが、それでも「彼女」は女神と言っていいほど美しかった。
 直ぐには言葉がでなかった耕介だが、何とか気を取り直すと「彼女」に声をかけた。
「あの、さっき落ちていった帽子の持ち主の方ですよね?」
 その女性は耕介の背の高さにびっくりしていたらしく足を止めて耕介を見つめていたが、その言葉を聞いて気を取り
直したか軽く首を振ってから耕介に向き直った。
 ちなみに耕介は、そのとき髪から漂ってきた香りを嗅いで、なんて甘い香りなんだろうと心をときめかせていたのだっ
た。
「はい、そうです」
「ちょっと、下まで落ちちゃったみたいだから俺が取ってくるから待ってて」
 耕介はそう言うと、女性の制止を待たず軽々と展望台の柵を乗り越え下に降りていった。
 残された女性はその耕介の姿を見て、こう呟いた。
「見かけはちょう、おっかないけど優しいんやね。うん、素敵やね。」


>矢後市・矢後駅駅ビル・UMINE
「だから、薫は少しきついイメージがあるから黒とか青の寒色系の色で強調して、クールさとして売りに出すか、もしくは
黄色とかオレンジの暖色系の色できつさを打ち消して、可愛らしさを売りに出すかという2通りの戦略が考えられる訳
よ」
 UMINEの洋服売場では瞳によるファッション講座が開かれていた。
 生徒は薫だけではなく、他の友人達や一般の買い物客の女性も何人か参加していた。
 ちなみに薫に至ってはどこからか取り出したメモ帳に真剣に瞳の言葉を書きとめている。
「まずはクールさを売りに出す場合ね。薫は姿勢がいいから実際よりもスタイルが良く見えるのよね。だからそれを利
用してこういった少しだけ胸元にカットが入った服を着るとさらにその効果が増すわけ」
 そう言って、瞳は講座にはいる前に売場を回って集めてきた服の一つ、黒いサマーセーターを手に取ってみせる。
 瞳が言うように、襟が少し深く切れ込んでいて胸元が見える作りになっている。
「千堂、うちはこういう格好はちょっと…」
 その胸元の切れ込みを見て薫が難色を示す。
 もっとも、薫が心配するほど胸元は開いておらず、実際に着てもほんの僅かに胸の谷間が見えるかどうかというぐら
いである。
「まあ、そう言わずちょっと着てみなさい」
 そう言うと瞳は薫の手を取ると、側にあるフィッティングルームへ二人で入っていく。
「千堂、ちょ、ちょっと」
「私にファッションの事を教えて欲しいんでしょ!!だったら覚悟を決めて私の言ったとおりにしなさい!!」
 そう言うと、瞳は薫が戸惑っているうちに薫が着ていた白い半袖のポロシャツを手早く脱がせてしまう。
 そしてサマーセーターを手渡して身振りで着るように指示する。
 上半身がベージュのブラ一枚になってしまった薫は仕方なくそのサマーセーターを着る。
 薫がちゃんと着ると、瞳は鏡の方に薫を向かせてからその後ろに立ってきちんと薫に確認させた。
「どう、感想は?」
「う、うん、なんだかちょっと大人っぽい気がする」
 薫がちょっとびっくりしたように答えると、瞳は嬉しそうに笑って、
「当然よ。そう見えるようにコーディネイトしたんだもの。」
 そう言うと、今度はくるりと回って立つ位置をいれ変えると薫をせかした。
「さ、みんなにも見てもらって、意見を言ってもらいましょう」
 どうやらファッション講座はまだまだ続きそうだ。


>国守山・展望台
 耕介は素早く帽子を拾うと、持ち主の待つ展望台へと戻ってきていた。
「はい、帽子」
 女性は耕介の顔を見ながら極上の笑みをその顔に浮かべてお礼を言った。
「ありがとうございます。助かりました」
 耕介はその笑顔に見惚れながら返事をする。
「いえ、困ったときはお互い様ですよ(綺麗な人だな、それにこの笑顔、なんか心が暖かくなる)。」
 後頭部を無意味に掻きつつかえって恐縮したように答える耕介の姿に、女性は少し頬を赤く染めながら自己紹介を
始めた。
「うちは、この国守山にあるさざなみ寮という所の寮生で椎名ゆうひいいます。天神音楽大学の新入生です」
 耕介も、あわてて自己紹介をする。
「ああ、私は私立風芽丘学園で家庭科の教員をしている槙原耕介といいます」
 それから、自分が担任をしているクラスの一人で瞳の友人である少女のプロフィールを思い出し言葉を続ける。
「さざなみ寮というと神咲さんが入っている寮ですね。学校での彼女の印象を見ると少し肩に力が入っているように感じ
るのですが、寮でもそんな感じなんでしょうか?」
 ゆうひは思わぬ所で出てきた薫の名前にちょっと驚いたが、薫から聞いていた大きくて優しい担任の先生との名前が
一致したから直ぐにその噂の当人だと認識した。
「ああ、うちの薫ちゃんがいつもお世話になっています」
「いえ、神咲さんはまじめで優秀な生徒さんですから別段私が世話をするなんてことはないのですが。ただ、先程も言っ
たようにちょっと肩に力が入りすぎているような気がしまして……」
 なんとなく三者面談か家庭訪問のような話を始めてしまった二人だったが、再び強めの風が吹いてきた事で我にかえ
った。
「先生、せっかくですから寮に寄ってお茶でも飲んでいかれませんか?」
「いえ、ここで降りたという事は何か御用時でもあるのでしょう?それに厚かましくも初対面の女性の家に上がり込むわ
けにはいきませんよ」
 ゆうひが誘うが、耕介は女生徒の家、しかも女子寮に上がり込むのは少しまずそうだと思い遠慮したのだったがそれ
はうまくいかなかった。

 耕介の断りの言葉を聞いたゆうひは泣き落としでもしてみようか等と考えていたのだったがその時後ろから車のクラ
クションが鳴った。
 ゆうひの少し後ろに止まったランドクルーザーから黒髪のショートカットで、眼鏡の女性、仁村真雪が顔を出してゆうひ
に呼びかけてきたのである。
「ゆうひー、こんな所でどうした。逢引きか?」
「いややわー、真雪さん。こちら薫ちゃんの担任の先生でうちはたまたまここで会ったんですよ」
「ええ、そうなんですよ。えーと、さざなみ寮の方ですか?私、風芽丘学園の家庭科の教員の槙原耕介といいます」
 真雪の言葉に慌てて否定する耕介と余裕でかわすゆうひ。日頃の鍛え方の差であろう。
「あー、あたしはこいつと神咲と同じ寮の仁村真雪。職業漫画家、あんた漫画とか読む方?」
「以前は結構読んでいたんですけど、就職してからはちょっと読む暇がなくて」
 耕介は申し分けなさそうな表情をして真雪を見るが、当の本人が言ったのは次の台詞だった。
「まあ、そんなもんだよな。あたしも最近は資料として読む以外他人の書いた漫画は読んでないからな。まあそんな事よ
りもだ、せっかくここまで来たんだ。寮に来て神咲と岡本の普段の生活の様子を知っておくのもいいだろ、先生」
「そや、せっかくだから寄っていって下さいよ」
 耕介はこう言われると断れなかった。何しろ先生としての大義名分もあるし、タイプの違う2人の美女のお誘いは確か
に魅力的だったからだ。


>綺堂家 リビングルーム
「はい、遊はサザナーミ皇国に協力しているみたいです……。はい……やはりそうですか、それじゃあ遊は一族から抹
消ということですか?」
 さくらは用事があって出かける両親の許可をとり、真一郎を招いて二人きりですごしていたのだが、つい今しがた父親
から電話がかかってきて、その内容は一族の恥さらしである氷村遊を一族から除名する事が決まりそうだというものだ
った。
「それで氷村の小父様と小母様は?」
『ウム、一人息子が一族除名になって落ち込むかと思ったのだがな、むしろ進んで除名を働きかけてたよ』
 ついに両親にも見捨てられたか遊よ。
「御二人とも遊の日頃の行いに頭を痛めてましたから、今度という今度は堪忍袋の尾が切れたのでしょう。よろしくお伝
えください」
 どうやら、さくら自身は遊の一族除名に対し何の感慨も抱いてないようである。
『そうだ、真一郎君が来ているのだろう?彼は勇敢で優しく、それに見た目もかなり良い。私は、真一郎君を気に入った
よ。ぜひ彼を息子と呼んでみたい。さくら頑張りなさい。』
「はい、お父様。それでは失礼しますね」
『ウム、真一郎君によろしく言っておいてくれ。』
 そう話した後、電話は切れた。
「相川さんすいません。お待たせしてしまって」
 そう言って、頭を下げるさくら。
「いや、いいよ、なんだか重要な電話だったみたいじゃないか」
 ちょっと心配そうな顔でさくらに聞いてみる真一郎。
「本当に大した事ないんですよ。ただエロ蝙蝠の素が、一族除名になっただけですから」
 そう、身も蓋もない表現で遊をこきおろすさくらに冷や汗をかきつつも言葉を返す真一郎。
「そ、そうか、一族除名って結構重大事だと思うんだけど…」
「いえ、今回の事が無くてもいずれ一族を除名されたと思いますから彼は……。そんなことよりせっかく二人きりなので
すからもっと楽しいお話をしましょう」
「え、えっと、具体的にはどんな話がいいの?」
「そうですね、次の日曜日にどこかへデートに誘っていただけるとか、私の事をどう想っていらっしゃるのかという事を私
としては話したいです」
 口許に軽く微笑みを浮かべたまま少々過激な事を言ってのけたさくらは、少し冷めてしまった紅茶(品の良い明らか
に高級品とわかるティーカップに入っている)を口に運んだ。
 真一郎は後頭部に大量の冷や汗をかいていた。


>さざなみ寮地下「地球侵略前線基地」バイオボーグ制作室
「はい、これでいいよ」
 チカは手術台に乗っている男に声をかける。
「ああ、終わったのか?これで俺は強くなれたのか?」
「うん、私が持っている技術の全てを盛り込んだんだから当然だよ。それよりも本当に良かったの?仲間を裏切って?」
 ちょっと心配げに男を見るチカ、小首を傾げた仕種が愛らしい。
「いいんだ。俺はあの人に全てを捧げると決めたのだから……ところで、これからは俺の事をお兄ちゃんと呼んでくれる
と嬉しいな」
「あはは…」
 シリアスな雰囲気をぶち壊す男の台詞にチカは冷や汗をかきつつ笑うしかなかった。

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なかがき

皆さん、おはこんばんちわ(ふっ古)、小島です。
シェフダー三話前編をお届けします。
前回のあとがきで切られた首もようやくつながりました。
やれやれです。

今回は、タイトルで一発でわかる方の本格的登場です。
何やら、セクハラ大魔王も出ていますが、彼女の本格的登場はもう少し待ってください。

何やら色々動きがあるせいか、今回も3部構成になりそうです。
それでは、宇宙刑事シェフダー 三話中編をお楽しみに。

それではまた、アディオス!!

メールアドレス:mk_kojima2@yahoo.co.jp

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