Written by タケ
――はじめに――
この物語は、「とらいあんぐるハート さざなみ女子寮」のヒロイン、神咲薫のシナリオを基にして執筆されたものです。
従って、薫シナリオをクリアしてからお読み頂く事をお薦めします。
また、多少「お国言葉」が顔を覗かせますが、結構いい加減なので、その辺りはお目こぼし頂けると幸いです。
それでは、つたない物語にしばし、お付き合い下さいませ。
「耕介さぁ〜ん?」
先週は、どういう訳か雨の日が多かった。
ようやく晴れてきたと思ったら、早くも落ち葉が風に吹かれて舞を舞っている。
心なしか、肌寒い様な気もする。やはり、山の中腹にあるからか、それともそんな季節だから、なのだろうか。
空は、雲も無くよく晴れていたが、やはり風が少し冷たい。
はらはらと、赤、あるいは黄色に染まった幾枚もの落ち葉が、空を舞う。
普段、本当に時間が空いていて、しかも本当にやる事が無い時、「彼」はリビングで猫達の相手をしているか、自室で
ヒマを潰しているかどちらかである。
ところが、その日はそのどちらかなはずの「彼」がいない。
「耕介さぁ〜ん?」
何故か、本当に何故か、「彼」がいない事に寂しさを感じる。
リビングから「彼女」は外を見やる。地上に降り立った落ち葉の数が、それほど"多くない"事に気付くまで、さほどの
時は要さなかった。
ふわり、ふわりと舞う落ち葉。
「彼女」はリビングから外を見るのを止めて、自分も外に出ようと思った。
玄関に直行し、外靴を突っかけて玄関を開け放つ。
強くは無いものの、涼しい、という言葉で片付けるにはいささか寒い風が、「彼女」の全身を覆う。
「あ、流石にこん格好じゃ、少し寒か……」
一度玄関を閉めて外靴を脱ぎ(きちんと揃えていくのは、いかにも「彼女」らしい)、階段を上がって自分の部屋へ。暫
くして、上着を羽織った「彼女」がぱたぱたと階段を下りて来ると、再び外靴を履き表に出る。
そのまま、「彼女」は庭を越えて裏手に回る。
パチパチ、パチッ……ガサッ、ザザ……パチッ……。
「耕介さん」
「ん……ああ、薫。丁度良いとこに来た」
「えっ?」
薫に声をかけられた耕介は、薫に向かって手招きする。
集められた沢山の落ち葉が、焚き火になっている。その側に古びたパイプ椅子が二つあり、耕介はそのひとつに座っ
ていた。
「まぁ、座りなよ、薫」
「あ、はい」
耕介は、自分のすぐ隣にもうひとつのパイプ椅子を持ってきて、軽くほこりを払うと薫を促す。薫は素直に耕介の隣に
座った。
「ふふふふ、もうちょいだからね」
「え、何ですか、耕介さん?」
「ホントなら、出来上がってから部屋に持っていってやろうかな? とか思ってたけど、薫が来てくれたんで手間が省け
たよ」
と、火箸棒でつんつんと焚き火の中をつつく耕介。
薫には、それで合点がいった。
「もしかして、焼き芋ですか?」
「御名答♪……さぁてと、そろそろ頃合かな?」
既に下ごしらえは済ませてあるらしく、この辺り流石は耕介、ぬかりがない。
「よぅし、これはいいかな」
直ぐに頃合の良いものをひとつ、取り出してきた。
「うあぁ、あぢあぢあぢぢぢ……っとっとと……薫、早速……あぢっ……半分こしよう」
「え、いいんですか、耕介さん?」
「あぢ、あぢ……いや、いいも何も、その為なんだから」
「あはっ、じゃあいただきます、耕介さん」
「ぃよし、それじゃあ」
半分に分けられた芋は、美味しそうな黄金色の実を見せ、暖かな湯気を出している。
「ほれ、薫」
耕介は二つに割った焼き芋の大きい分を、そのまま薫に手渡す。
「あ、頂きます……うぁ、熱っ、あつあつ……ふぅ〜っ、ふぅ〜っ、はふ……♪」
出来立てほやほやの焼き芋を一口頬張って、薫の表情が見る間に緩む。
「あぢ……はふはふっ……んん、ふまひ(美味い)」
耕介も焼き芋を頬張り、出来に満足している。
「美味しいです、耕介さん」
「はふ……だろ?……やっぱり秋は焚き火、焚き火と言えば焼き芋、焼き芋は出来立てに限るのさ」
「はい♪」
相好を崩して応える薫。
それからしばし、二人は焼き芋に舌鼓を打っていた。
焼き芋はあっという間に無くなり、薫が食べているのが最後の半分だった。
食べている様が、とても可愛らしく見える。
――薫は普段、「"真面目"が服を着て歩いている」と言われかねない位、自らを律している。容姿が美しい分、それが
際立つわけだ。
薫に憧れる、あるいは言い寄る連中は、
「その"硬質の美しさ"がいいんじゃないか」
もしかしたら、そう言うのかもしれない。
だけど……俺は知っているんだ。薫の本当の美しさとは"そんなもの"でない事を。この微笑はどうだ、薫がこれほど
心からくつろいだ微笑みを見せる事を、そいつ等は知っているだろうか?――
耕介のほんの一瞬の"優越感"に気付く様子も無く、目を細めながら焼き芋を頬張る薫。
……ああ、いけないいけない。危うく自信過剰になるとこだった……。
薫の表情を見て耕介はふっと、ついさっきのささくれた心を思い出して苦笑する。
「……耕介さん、どうか、しましたか?」
表情を見咎めたのか、薫が声をかけてきた。
「うん、いやぁ……そうやって焼き芋頬張ってる薫、すごい可愛いな、とか思って」
それは、元々苦笑をごまかす為の言葉ではあったが、同時に耕介の本心でもある。
「え、あ、そのぉ……こ、こ、耕介さん……」
焼き芋を持ったまま、顔を赤らめて恥ずかしがる薫が、耕介にはひどく愛しく映った。そのまま薫の肩を抱き寄せ、一
曲口ずさんでみる。
垣根の、垣根の、曲がり角ぉ〜♪
焚き火だ、焚き火だ、落ち葉焚きぃ〜♪
「……このまま、暫くあたってようか?」
「……はい、耕介さん♪」
薫が耕介の肩に頭を預け、腕を絡め甘えてきた。全てを委ねきった薫の髪から甘い香りが漂い、耕介はそれを感じ
て薫の頭を優しく撫でる。
薫は、自分の心が温かく満たされていくのを感じていた。
――ああ、耕介さんがいるだけで、うちはこんなに、幸せになれる――
パチッ……パチパチパチッ……。
「なぁ、薫?」
「……はい?」
「今日の晩飯、何がいい?」
「え?……うちは、耕介さんの作るものなら、何でも良かです」
「あははは……じゃあ、そうだなぁ……"サフラン"にはまだまだ及ばないけど、メインはハンバーグ、それに鶏肉と根菜
のクリームシチューなんてどうだい?」
「あぁ……美味しそうです」
「シチューは昨日の作り置きだから、期待しててくれよ?」
「はい♪」
秋の青い空の下、二人の心は暖かく寄り添っていた。
「うにゃ……?」
「……ことら様、今は行ってはいけませんよ?」
「あははは……姉様、僕達お邪魔ですね……」
「ふふっ、そうですね……さ、シルヴィ、次郎様、ことら様、私達も散歩に行きましょう」
「はい、姉様」
「にゃ」
「にゃぁ〜ん♪」
――それは、とある一日の「情景」である――
情景 〜焚き火〜 了
|