第二話 小さな重戦車(後編)


Written by 小島


>マンション料理天国701号室
 耕介が部屋に戻ると、部屋に明かりはついていて、夕食の準備もできているのに瞳の姿がない。
 自分の部屋に何か取りに戻ったのかと思い、先に着替えるために自室に戻るためリビングを横切ろうとした耕介は
視界の端に何か見慣れない物をとらえ、不審に思いそちらに目を向けるとソファーに女性ものの衣服と下着が掛けら
れているのを発見する。
「な、何でこんな物が……」
 突然の事に混乱して、ちょっと考えればわかる事すら脳裡に浮かばず、さらに普段では絶対とりそうもない行動をして
しまう。
 そう、思わず下着を手にとって眺めてしまったのである。
「耕ちゃん……、その…ちょっと変態っぽいからしげしげと下着を観察しないでくれない?」
 耕介は背後から突然かけられた言葉に慌てて、下着を手放し、振り返る。
 そこには、フロあがりの瞳がバスタオルを巻いただけの格好で立っていた。
「うわっ!!瞳、誤解だ!!誤解!!」
 大慌てで、意味不明なボディーランゲージを交えて言い訳をする耕介を見ながら瞳はくすくすと笑ってしまった。
「耕ちゃん、冗談だからそんなに慌てなくても良いわよ」
「ヘッ、じょ、冗談だったのか?」
 口を開けて呆然とする耕介を見ながら、なおも笑いつづける瞳。それでも大声で笑わないように懸命に押さえている
のが、震える肩からもわかるが、しだいに我慢しきれなくなってきたのか笑い声が段々大きくなってきている。
「瞳!!いつまでも笑ってないで早く服を着ろ!!」
 その怒鳴り声に、ついに我慢の限界がきたらしく大声で笑い始めた瞳だが、その時その身を隠していたバスタオル
が、はらりと解けて落ちた。
「あら、落ちちゃったわね」
 そう言って、落ちたバスタオルを拾って再び身体に巻いた瞳は、ものすごく冷静だった、彼女にしてみれば耕介には
いつか見られるのがわかっていて、それなりに心の準備ができていたからであるが、だからといって羞恥心がないわけ
ではなく、湯上りで火照った頬を、よりいっそう赤くしていた。
 一方耕介は、心の準備もできていない所に続けざまに、衝撃を受けて鼻血を噴出しながら気絶してしまっていた。
「もう、意気地なしなんだから」
 瞳は寂しそうにそう呟くと、持ってきておいた着替えの入ったバッグを開けると、着替え始めるのだった。


>風芽丘学園花壇
「誰かー、助けてくれーーーーーー!!」
 耕介が、瞳の裸身を見てノックアウトされていた頃、風ヶ丘学園の校庭に助けを呼ぶ声が響き渡っていた。
 花壇に首から上を残した状態で埋められている大輔が助けを求めているのだ。
 そう、昼休み、結局小鳥に近寄らないと誓わなかった大輔は、その次の休み時間に、いづみの手によって拉致され、
そのまま花壇に生き埋めにされていたのだ。
「は、腹減った、お願い、誰か気付いてくれ、ヘルプミーーーーーー!!」
 しかし、大輔の助けを呼ぶ声に反応するものは誰もいなかった。


>風芽丘学園
 さくらの真一郎訪問があった翌日から、2人の乙女の猛攻が始まった。
「あっ、相川君、相川君が見たいって言ってた映画のチケットを2枚手に入れたんだけど、土曜日に2人で行かない?」
 みなみは、部下の人間を使って、手にいれたチケットを真一郎にちらつかせながら話しかける。
「ごめん、その日は用事が有るから、日曜じゃ駄目?」
 真一郎も、行きたいとは思ったがさくらとの約束があるために別の日を提案するが、そのさくらとの約束を破らせるた
めの行為だから、みなみにしてもちゃんと言い訳は用意していた。
「あー、私は日曜日にどうしても外せない用事が有るから、この映画日曜までだよね。勿体無いし、行こうよ土曜日
に?」
「うーん、残念だけど、本当に土曜日は駄目なんだ。また今度誘ってよ」
 みなみ、撃沈。

「あっ、真一郎!!今度の土曜日さ、小鳥と3人で遊ばない?」
 満面の笑顔で真一郎に話しかける唯子。
「あれ?土曜日って、おまえ護身道部の練習あるんじゃなかったか?」
「うん、顧問の先生の都合でその日は休みになっちゃったんだ」
 真一郎の疑問に答える唯子。その顔を見るとよもや断られるなんて一ミリたりとも思っていないことが伺える。
「唯子、せっかく誘ってもらったのに悪いけど、土曜日はもう予定が入ってるんだ」
「えー、誰と遊ぶかわからないけど、その人も一緒に遊べばいいと思うけど」
 あからさまに、『私、不満です』という表情をしながら、譲歩を求める唯子。
「うーん、ちょっと理由があって、遊ぶという雰囲気じゃないんだ。向こうが先約だし、悪いけど唯子、諦めてくれ」
 唯子、撃墜。

 その後も2人は手を変え品を変え真一郎にアプローチをかけるがことごとく失敗に終わってしまった。
 そんな事をしているうちに瞬く間に2日過ぎて、金曜日の授業が終わってしまった。


>金曜日放課後 風芽丘学園花壇
「ああ、はらへった」
 大輔は、埋められた後、園芸部の生徒が花壇の水遣りにきた時浴びた水を飲むだけで今まで過ごしていたのだった
 (気がついても助けてもらえなかった)。
 そんな大輔の傍に1つの影がやってきた。
「端島君、助けてあげようか?」
「おお、鷹城か。頼む。助けてくれ!!」
 大輔が懸命になって横を向き、健康的な長い脚に沿って上を見上げると、大輔を見下ろす唯子がいた。
「でも、1つだけ条件があるんだけど、良い?」
「どんな条件でものむ!!だから助けてくれ」
 大輔は涙を流しながら、唯子に懇願していた。
「OK、ちゃんと約束守ってよ」
 そう言うと、唯子はスコップを使って大輔の周りの土を掘り始めた。
 その様子を見ていた大輔は、ある事に気がついた(やり!!鷹城のスカートの中丸見えじゃん……白地に人参のプリ
ントか、やっぱり子供っぽいのはいてるな)。
 大輔の両手が自由になる所まで掘った唯子は、やけにニヤケた表情をした大輔の視線がスカートの中に注がれてい
るのに気がついた。
「この変態、痴漢。人の恩を仇で返すな!!」
 そう言って、持っていたスコップで大輔を殴り倒すのであった。


「後は自分でやってね。まったくもう……」
 そうしてブツブツと文句をいっている唯子にぼこぼこにされた大輔は、泣く泣く自分で地面を掘り始めた。
 それから1時間ほどして、なんとか自由を取り戻した大輔に唯子が話しかける。
「あのね、明日の放課後真一郎を訪ねて中学生の女の子が来るんだけど、その娘をナンパして、真一郎との約束を破
らせて欲しいんだ。成功したら報酬も出すから」
「さすがにそれはちょっと気が引けるんだが……」
 唯子が言った依頼内容に、親友の恋路を邪魔しそうな要素が入っている事を感じた大輔は難色を示すが、次の一言
でコロリと態度を変えた。
「成功したら、小鳥の使用済み下着を上下セットであげるから」
「必ずや成功させてみます!!」
 やっぱりロリコンだったか、大輔よ。それにしても目的のためには親友の下着を平然と差し出すとは……恐るべし唯
子。


>さざなみ寮地下「地球侵略前線基地」バイオボーグ制作室
 金曜日の深夜、寮の住人が寝静まった後、部屋に侵入してきた影がある。
 犀に似た獣を模した胸甲を持ったプロテクターを着けたその影は、改造済みの遊の姿を見ながらそっと呟いた。
「こんな事したくなかったけど、相川君が悪いんだからね」


>土曜日放課後 風芽丘学園近辺路上
「ねえ、薫、今日は何を食べて帰る?」
「うちは蕎麦がよか」
「それじゃあ、そうしましょう」
 瞳と薫だ。たまには一緒に買い物でもしようかと2人の意見が一致したため、駅前に出て、まずは腹ごしらえをしよう
ということになったらしい。
「同じ寮の後輩の岡本が駅の近くに美味い蕎麦屋を見つけたから、そこに行こう」
「良いわよ。美味しいところを知っておけば、耕ちゃんとデートする時に役に立つし」
 瞳がそう笑顔で答える。
(う、うらやましか、うちも槙原先生とデートがしたか!!)
 薫は、その言葉に心の底でそう叫んでいた。

「すいません、急いでいるんです。退いてください」
 2人が歩いていると、前方から言い争う声が聞こえてきた。
「ちょっとくらい、つきあってくれても良いじゃないか」
「だから、急いでいるって言っているじゃないですか」
 さくらと大輔だった。大輔はさくらの片手をつかんで、あわよくば、このまま連れ去ってしまおうという態勢だった。
 それを見た瞳と薫は一斉に飛び出した。
「クズめ!!」
 薫は飛び込みざまに打ち下ろした手刀で、さくらの手を握っていた手を打ち落とすと、そのまま振返りざまに裏拳を大
輔の顔面に叩き込む。
「乙女の敵!!」
 薫の裏拳に吹き飛ばされた大輔の右手を取った瞳が一瞬のうちに内懐まで入り、受身もとらせないくらい強力な背負
い投げで大輔をアスファルトに叩きつけた。
 埃を払うかの様に手をたたいた後、薫と瞳はバ●ム・クロスをしながら不敵な笑みを交し合った。
「やっぱり強かったんだ、薫」
「千堂こそ凄かよ、あの投げ技」
 そこにさくらが声をかける。
「あの、ありがとうございました。私、綺堂さくらと申します。あの人しつこくて困っていたんです」
 そうして丁寧に頭を下げたさくらの礼儀正しさに、2人は好感を覚えた。
「別に良いわ。私はああいう奴が大嫌いなの。そうそう私は千堂瞳。よろしくね」
「うちも同じ。だから気にしなくてもよかよ。それからうち、名前は神咲薫」
「そう仰られても……そうだ、御二人は昼食はまだとられていませんか?」
「ええ、まだだけど?」
「実は今日、お世話になった方を御呼びして昼食会をするんですけど、一緒にいかがですか?」
 さくらの提案に、あんまり断っても失礼かと思った2人はその提案を飲むことにした。
「それじゃあ、申し訳ありませんが、私は一度風芽丘学園に行かなくてはならないのですが…」
 さくらが、どうするか悩んでいると、瞳が助け舟を出す。
「それくらい、付き合うわ」
「すいません、せっかくここまでいらしていたのに」
「気にせんでよか、大した距離じゃない」


>風芽丘学園校門
「ねえねえ、真一郎、まだ来てないの?きっとすっぽかされたんだよ(そう、絶対に来ないんだから)」
 唯子は、無邪気な顔をして、真一郎に声をかける。
「ふぅ、まだ授業が終わって30分も経ってないだろ?向こうだって授業が終わってからこっちに来るんだからもう少しか
かるに決まっているだろ」
「ふんっ!!もういいよ。真一郎なんか、いつまでも待ってればいいんだ!!」
 唯子はそういうと走り去ってしまった。
(ごめん、唯子。唯子の気持ちには応えられないよ)
 心の中でそう呟く真一郎だった。


>風芽丘学園調理室
 耕介は調理室で、顧問となった料理研究会の部活の準備をしていた。
「すいません、槙原先生」
 そう言って、英語教師の佐伯が調理室に入ってくる。
「飯村先生がしつこいんで、ここで匿ってくれませんか?」
 佐伯がしかめっ面をしてそう言うと、耕介はくすくすと笑いながら承諾をした。
「そうですね。じゃあすいませんが、今日はうちのクラブの手伝いをしていただけませんか?」
「はい、喜んで」
 なんだか良い雰囲気の2人だった。


>風芽丘学園校門
「すいません、遅くなってしまって」
 真一郎が校門で待っていると、瞳と薫を連れてさくらがやってきた。
「いや、たいして待ってないよ」
「それでですね、相川さん。先ほど変な男の方に絡まれていた所をこちらの御二方に助けていただいたんです。それ
で、この方達も一緒にという事になったんですけど……」
 ちょっと申し訳なさそうに言うさくらに笑って応える真一郎。
「別に構わないよ、さくらが必要だと思ったんだろ?それならそれで良いと思うよ」
 それからふたりに向かって頭を下げる。
「1年C組の相川真一郎です。今日はよろしくお願いします」
「2年A組の千堂瞳よ。こちらこそよろしくね」
「千堂と同じクラスの神咲薫です。よろしく」
 そうやって、四人が和やかな雰囲気を作っているところに馬鹿笑いが響き始める。

「ハハハハハハハハハハハハハハハ…」
「この馬鹿笑いは、この間のエロ蝙蝠!!」
 真一郎が思い当たった名前を大声であげると、学園の校門向かいに建っている民家の屋根から声がかかる。
「ええい、その名で呼ぶな!!」
 屋根の上に立っていたのは、分厚い甲羅に身を包んだ人面亀だった。
(ち、またミオーが持ち出したのか?)
(困ったわ、これじゃあ変身できないじゃない)
などと考える二人の前で、さくらと真一郎、そして遊の間で舌戦が始まる。
「遊!!またそんな面白おかしい格好をして、恥かしくないの?」
「さくら、あの元エロ蝙蝠、今度は河童みたいだからエロ河童かな?と知り合いなの?」
「エロ河童、言いえて妙ですね。残念な事に義理の兄なんです。」
「だー!!人を目の前にしてくだらん話しをするな!!」
「すいません御義兄さん。ちょっとこちらの話が終わるまで待ってください」
「そうですよ遊。他人の話に割り込むのは、良くないですよ」
 その言葉に、屋根から飛び降りてきて地団駄を踏む遊。
「こちらの用件のほうが先だろう!!第一、貴様ごときに義兄呼ばわりされるいわれはない!!」
「相川さん、そんな大胆な」
 遊を義兄と呼んだ真一郎の言葉に頬を染めるさくら。
「その、俺、まだ会ったばかりなのに君の事好きになっちゃたんだ。恋人として付き合って欲しい」
 遊を義兄と呼んだのはたださくらの義兄という意味で呼んだので、ちょっとした誤解だったが、それを利用してさくらに
告白する真一郎(結構したたかだよなこいつBy作者)。
「こら!!人を無視してラブコメをするな!!」
 ますますヒートアップして怒る遊。そこに新たな声が響く。
「いつまでじゃれあっているんですか、デバガメ!!さっさとその小娘を殺してしまいなさい!!」
 その声に反応して、さくらに襲い掛かる遊改めデバガメ。
「すまんな、さくら。これも運命だ!!」
 ちなみに、そう言いながらも顔は笑っている。
「危ない!!」
 とっさに反応し切れなかったさくらを隣に立っていた真一郎が突き飛ばす。
「きゃあ!!」
 さくらは、尻餅を着いただけだったが、真一郎はさくらの代りに殴られて、吹き飛ばされる。あわや壁に激突という所
で、瞳がその豊かな胸をクッション替わりにして受け止める。
「大丈夫、相川君?」
 瞳はそう聞いてみるが、どうやら真一郎は気絶しているようだ。無理もない、人間よりも何倍も力の強いバイオボーグ
の一撃を受けたのだ。身体が軽かったのが幸いして吹き飛ばされる事でダメージが軽減されていたが、それでも相当
なものだろう。
 真一郎が気絶した事に気がついた薫が、瞳に声をかける。
「千堂、綺堂さんの事は任せて!!相川君を保健室に連れていって」
「わかったわ、薫。無茶しないでね」
 そう言うと瞳は真一郎を背負うと、保健室へとむかった。
「綺堂さん、ここは逃げるしかなか!!」
「はい!!」
 そう言うと、2人は瞳達とは反対に駅を目指して走り始めた。


>風芽丘学園保健室
 瞳は真一郎をベッドに寝かせると、保健医に後のことを任せて人気のない女子トイレに駆け込んだ。
 そして、通信機を出すと耕介を呼び出すのだった。
「耕ちゃん、サザナーミの奴らが出たわ。知り合いの娘達が追われているの。すぐに私は向かうから、できるだけ早く来
て。駅の方面に向かったみたいよ」
 そう一方的にまくし立てると、もう1度回りを確認してから変身の為のキーワードを叫んだ。
「着装!!」

 一瞬後に白い光の玉が、風芽丘学園の校舎から飛び出し、駅へとむかった。



>風芽丘学園調理室
 集まった料理研究会の生徒達の前で、今日作る料理の調理手順と、その時注意すべき点や上手に調理するための
コツを一通り説明し終わった耕介が調理の開始を宣言すると同時に耕介の通信機の呼び出し音が鳴る。
「はい、槙原です」
 耕介がそうして、携帯電話に似せた通信機で話しているのをボーっと見つめていた佐伯は、耕介の表情が急に険しく
なったのを見て、何かよくない事が起ったのを察した。
「槙原先生、何か急用みたいですね。後は私が見ていますから用事を済ませてきて構いませんよ」
「すいません、佐伯先生。御言葉に甘えさせていただきます」
 通話が終わったのを見計らってそう耕介に話しかけてきた佐伯に耕介は感謝しつつ、急いで人気のない場所を探し
に出るのだった。


>海鳴駅前
 デバガメが、バイオボーグとしては低速だった事が幸いして、薫とさくらは駅前まで逃げてきたが、その目の前に立ち
塞がる者がいた。犀に似た獣をもした胸甲をつけたその人物は、サザナーミ皇国近衛軍第1大隊隊長のミナミ・オカモ
ットだった。
「人の恋路を邪魔する小娘!!死ぬがいい!!」
 そういうと、ミナミは刺刺がいっぱい生えている鉄球に金属製の長い柄をつけた棹状武器「モール」を構えた。
(不味い。ミナミめ、嫉妬で周囲の事が目に入っていない。犀じゃなくて猪をエンブレムにすれば御似合いだったのに)
 薫は、胸の内でそう毒づいたが、だからといって自分が正体を現す訳にもいかず、動きがとれなくなった。
 そこに白い光の玉が飛んできて、今にもさくらへ襲い掛かろうとしていたデバガメを吹き飛ばす。
 薫はこれ幸いとさくらを連れて後へ下がる。
「誰、人の恋路を邪魔するのは!?」
 白い光が街灯の上で実体化する。
「宇宙刑事スワン、ただいま参上!!」
 そう名乗りをあげるとライトニングウィップを引抜き起動させ、ミナミへめがけて飛び降りながら振り下ろす。
 ミナミは素早く後に大きく跳んでかわすと、着地したばかりのスワンめがけて突進する。
「ウォリャーーーーーーーー!!」
 気合と共に振り下ろされたモールをスワンは横っ飛びにかわす。今までスワンが立っていた場所は砕け散り、小さな
クレーターができていた。
(ちょっと、何それ。かすっただけでも大怪我するじゃない!!)
 心の内で文句を言うと、ライトニングウィップを素早く何度も打ち振う。
 その全てをかわす事ができず、2度3度とライトニングウィップをくらうミナミだったが、歯を食いしばって再びスワンを
めがけて突進する。
「セリャーーーーーーーーーー!!」
 再び、大地を震わしながらモールがクレーターを作り出す。
 今度はぎりぎりで見きってかわしたスワンは、ミナミが態勢を崩したのを利用して強力な投げ技を使ってミナミを地面
へとたたきつける。
 だが、ミナミは軽く頭を振うと再びモールを構えるのだった。

 一方、白い光の玉となったスワンに吹き飛ばされたデバガメは、すぐに立ちあがると、命令であるさくら抹殺の為にさ
くらにめがけて突進する。
(しかたない、ここはうちが…)
 覚悟を決め、正体を明かしてでもさくらを助けようとした薫だが、その行為を間一髪で止める者がいた。誰あろうか真
紅の光の玉となって飛んできたシェフダーだった。
 光の玉によって再び吹き飛ばされるデバガメ。光の玉は先ほどスワンが降り立った街灯の上に降り立つと片足立ち
で大見得を切る。
「宇宙刑事シェフダー!!」

 ここで時間を戻って耕介の行動を振り返ろう。調理室を出た耕介はまっすぐ裏庭にむかい、誰もいないのを確認する
とポ−ズをとりつつ変身用のキーワードを叫んだ。
「着装!!」
 そして真紅の光の玉となったシェフダーは一路駅前を目指すのだった。

 さて、現在の状況に再び戻る。大見得を切った後ジャンプして飛び降りながら腰のレンジバスターを抜き撃ちする。
「レンジバスター!!」
 レーザー光線が続けざまに5発、デバガメに吸い込まれる様に命中するがデバガメは小揺るぎもしない。
「ハハハハハハハハハハハハ、なんだそれは。痛くも痒くもないぞ。今度はこちらの番だ。フラッシュショット!!」
 馬鹿笑いをあげた後、こちらも大見得を切ってから目くらましの閃光を放つデバガメ。
「ジェットスピンアタック!!」
 閃光によって一時的に視覚障害を起したシェフダーに向かって、全身を甲羅の中に引っ込めたデバガメが、四肢が
出ていた場所よりジェット噴射をしながら体当たりをする。
「グオ!!」
 たまらず吹き飛ばされるシェフダー。しかし、この間に視覚障害は回復し、レンジバスターの替わりにレーザーブレー
ドを引抜いたシェフダーは、ジェットスピンアタックのために収納した四肢と頭を再び出していたデバガメに切りかかる
……が、激しい火花を上げてレーザーブレードが弾きかえされる。
「な!!くそ、なんて硬さだ」
「ハハハハハハハハハハハハハ、もうお終いかね」
 必殺のレーザーブレードすら弾きかえす甲羅の前に苦戦を強いられるシェフダー。


 一方、スワンとミナミの戦いはようやく帰趨が決しようとしていた。
 度重なるスワンの攻撃をものともせずに立ちあがってきたミナミだが、さすがに全身がボロボロで、プロテクターのい
たる所から煙を噴出している状態だった。
「ま、負けない。一撃、一撃さえいれれば、わたしの勝ちなんだから」
 事実その通りではある。ミナミの放つモールの一撃を食らえば、コンバットスーツを着ていても致命傷となるだろう。
 その証拠となるのが、駅前広場を瓦礫の山と化した無数のクレーターである。
 しかし、すでにプロテクターが壊れ、かえってミナミの邪魔しかしないような状態となった今、ミナミの勝ち目はほとんど
無かった。その為、ミナミは相打ちの一撃を狙ってモールを構えていた。
 しかし、スワンもその事には気付いており、止めの一撃を加えるために慎重に隙をうかがっている状況だった。


 シェフダーは、ジェットスピンアタックをかわしながら策を考えていた(このままだとジリ貧だ、くそ、亀料理なら作った事
があるが、レーザーブレードでは難しいな。そうか、レーザーブレードで難しいならレーザーブレードより小さいアレなら
上手くいくかもしれない)。
「コード:TETSUJIN…召還コックコートアーマー」
 シェフダーの叫びと共に、異次元空間に待機している「キッチンコロシアム」よりシェフダー用特殊装備が転送される。
 その装備はその名の通り、コックさんが着ているコックコートを模した形の真紅の追加装甲だった。
「ハハハハハハハハハハハハ、なんだそれは?私に敵わないから料理番として雇って欲しいという事か?」
 デバガメが勝ち誇りながらかけてくる揶揄を無視して、コックコートアーマーより1つの武器を取り出すシェフダー。
「レーザー包丁!!」
 レーザー光線が、包丁の形を作り出す。
「ハハハハハハハハハハハハ、茶番はもうお終いだ。死ねシェフダー!!」
 これまでになく強力なジェットスピンタックルを放つデバガメ。
 だが、シェフダーはこの時を待っていたのだ。ジェットスピンアタックをかわしつつ、甲羅の継ぎ目に正確にレーザー包
丁を突き立て、切り裂く。
「なに!!」
 回転を落として着地したデバガメの甲羅は割れ落ち、本体が剥き出しとなる。
「レーザーブレード!!」
 再びレーザーブレードを引抜いたシェフダーがレーザーブレードのエネルギーを全開に解放しつつ、ジェットホバーで
デバガメに接近する。
 真紅に染まったレーザーブレードを頭上に掲げジャンプする。
「必殺!!シェフダークリムゾンフラーーーーーーーーーッシュ!!」
 真っ二つにされたデバガメの背後、少し離れた場所にシェフダーが膝を付いた形で着地すると同時にデバガメが大
爆発を起こす。
 レーザーブレードを腰に戻したシェフダーがスワン達の方を見る。

 シェフダーが必殺技を放つのと時を同じくしてスワンもしかけた、ライトニングウィップを構えて一気にミナミへと走り寄
る。
 ライトニングウィップとモールが交差するかと見えた時、スワンはライトニングウィップを手放し、跳躍してモールの一
撃をかわす。そして空中で腰から引抜いたスタンロッドを落下の勢いを加えてミナミの肩口に叩き込んだ。
 その一撃はミナミの意識を奪うには充分な一撃であった。

 薫は、目前でミナミが巡察官の一人に敗れるのを見ることとなった、ミナミの軽率な行動が原因だとしても、昔からの
仲間である後輩が捕まるのは辛いものだった。
 しかし、ミナミがもう少しで捕まりそうになった時、強力な閃光がスワンへと襲い掛かる。
 素早く飛びのいたスワンは、倒れ伏したミナミの隣に銀髪の少女が立っているのを見つけた。
「悪いけど、ミナミを渡すわけにはいかないんだ。今日はこれで帰るけど、次は容赦しないからね」
 そう言うと、少女とミナミは一瞬の内に姿を眩ましてしまった。
「クッ!!」
 スワンはその事を確認するとシェフダーと共に光の玉となって立ち去ってしまった。


>海鳴駅前
 宇宙刑事と犯罪者、その双方が立ち去った後、物陰で変身を解いた瞳は薫とさくらを見つけて合流した。
「良かった。2人とも無事だったんだ」
「ええ、ちょっと危ない場面もあったけど、この間風芽丘学園に来た宇宙刑事さん達が助けてくれました」
「うん」
 瞳の言葉に返事を返すさくらと薫。
「あの、相川さんはどうでした?」
「ああ、相川君は保健の先生が見てくれた。打ち身はあるけど他に大きな怪我は無いって。」
「ああ、それはよか事だね」
「はい、良かったです」
 本当に嬉しそうに微笑むさくらを見て、瞳と薫は視線を交わした後微笑んだ。
「さ、それじゃあ相川君を迎えに行きましょうか?」
「はい!!」


第三話に続く


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第二話終了あとがき座談会

こんにちは小島です。
耕介「主役の耕介だ」
瞳「正義の乙女、瞳です」

耕介「今回は後編出すまで随分かかったな」
瞳「本当ね。中編じゃあすぐにもでそうな事書いていたくせに」
うう、実は電波が来なかったんだよ。
瞳「あきれた。あなた、このシリーズ本当に電波に従って書いてるのね」
耕介「主体性が無いんだな」
ほっとけ!!
瞳「まあ、良いわ。ところで作者さん、覚悟はできてるわよね?」
耕介「バカな事やったな。まっ。自業自得だな」
ま、待て、瞳君話し合おうじゃないか。
瞳「フフフッ」
ああ、そんなライトニングウィップ持ってこっちに来ないで女王様。
瞳「死になさい!!」
クリティカルヒット!!
小島は首を切り落とされた。

耕介「瞳、やり過ぎじゃないか?これじゃあ三話を書けなくなるぞ」
瞳「甘いわ、耕ちゃん。この位でおとなしく死ぬ玉ですか、この作者が!!」
まあ、その通りなんだけどな(首を小脇に抱えて立ちあがる)。
ここらで三話の予告にいくか?
瞳「まあ、いいわ」
耕介「おまえ気色悪いからこっち来んな」
本当に態度でかいね、君達……それじゃあ三話の予告です。
次の話は、椎名ゆうひ嬢の本格登場の予定です。
タイトルは「戦慄の歌姫」
御期待ください。

それじゃあこのへんで座談会を終わりにしたいと思います。
3人「ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました!!」

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