Written by 小島
この作品はFalcomより発売されているイースシリーズ(1・2・3)を元ネタとしております。
・この作品は、ネタばれを含んでいます。
・この作品には、いくつかのオリジナル設定を導入しています、イースというゲームの世界観を壊すから、オリジナルは
駄目と言う方はご遠慮ください。
「見えた、あれがフレアロスの村だよ」
故郷の村へ向かう間道にある小さな丘の頂に立つと、小さな村が一望できた。
「話には聞いてたけど、本当に小さな村だな」
俺のやや後ろを歩いていたドギが、遠慮なく言い放つ。
「でも、見たところ以前より民家の数が多いし、これでも大きくなったんだと思うよ」
そう、眼下にあるフレアロスの村には以前より建物の数が増えており、過ぎ去ってしまった時間の長さを感じさせてい
た。自分が住んでいた家の建物は一応残っているようだが、すでに人手に渡っているに違いない。なんとなく寂しいと感 じるのは、きっと心の片隅にこの村への愛着が残っていた所為なのだろう。
「さて、いつまでも村を眺めていてもしょうがない。上手くいけば夕飯の時間には村にたどり着けそうだ」
心の内に湧きあがる郷愁を、振り払うと、俺はドギにそう話しかけながら歩き出した。
「おお!!そうだな、美味い物と酒が待ってるぜ」
そう言うと、やけにだらしない顔でおおじるドギ。きっと心はすでに村で飲む酒の事でいっぱいに違いない。そう、俺の
故郷フレアロスの村は酒作りの村なのである。
夕刻、村が赤く染まる頃、村を円く囲む柵に設けられた村の入り口に俺達はたどり着いた。どうやらこれから門を閉
めるつもりだったのか老人と青年の2人が扉に向かって立っていた。
老人は、見事に禿げ上がった頭の両脇に僅かばかり白髪を残している。髭は生やしておらず、腰も曲がっていない
が粗末な杖を突いている。どことなくきびきびとした印象の元気な老人という感じだ。
青年のほうは、中背だが、太って見えるぐらいに筋肉をつけている。恐らく相当な力持ちだろう。
しかし、こちらは老人と違ってなんとなく横柄な雰囲気が感じられる。
「済まない、門を閉めるのはちょっと待ってくれ」
俺がかけた声に、門の前の2人が一斉に振り向く。その老人の方の顔に見覚えがあった、村の門番を務めていたギ
ャゼット爺さんだ。正直もう亡くなっていると思っていた俺はちょっと驚いた。
「あんたら、どこから来なすった?見たところ腰に剣なんか下げていて、酒の買い付けに来た商人には見えないがね」
ギャゼット爺さんが話しかけてくる、隣にいる青年は剣を下げていると聞いて警戒したのか僅かに身構えている。
「いえ、10年振りぐらいに帰郷してきたんですよ、ギャゼット爺さん」
その言葉に、しばし考えた後、俺の紅毛に視線を止めたギャゼット爺さんは、とたんに笑顔を見せた。
「その真赤な髪、10年振りと言うことは、おまえアドルだな?やんちゃ小僧のアドル・クリスティンだな?」
「ハハハッ!!やんちゃ小僧は酷いな。そうです、アドル・クリスティンです。こっちは、俺の冒険者の先輩でドギといい
ます」
俺がそうドギを紹介すると、ギャゼット爺さんも自己紹介を始めた。
「おお、ドギ君というのかね。アドルが面倒を見てもらっているようだね、ありがとう。わしはこの村で門番をしているギャ
ゼットという者じゃ。アドルの亡くなった祖父とは懇意にしとったんでの。今は亡きあいつとその息子夫婦に替わって礼 を言うよ」
「いや、俺は大した事をしてない。それにこいつはもう冒険者として一人前だ」
そう大人の挨拶をした後、自己紹介は続く。
「それで、こっちはわしの孫のライナスじゃ。ほれ、アドル覚えておらんか?」
「ああ、ガキ大将のライナスか?久しぶりだな」
ライナスは、こちらを見ると小馬鹿にしたよな表情で、口を開いた。
「ああ、久しぶりだな。もっとも会いたくもなかったけどな。余所者の餓鬼がいなくなって清々してたのによ、いまさら帰っ
てきやがって」
そう言うとライナスは、地面に唾を吐いてからさっさと立ち去ろうとした。
「あっ!これライナス、なんじゃその態度は!!、待て!!待つんじゃ!!」
ギャゼット爺さんがそう声を張り上げるが、ライナスは振返りもせずに路地裏に消えていった。
「済まんのう、ここ数年村の外から移り住んでくる者がおおくての。ライナスは余所から来た人間を嫌っていて、おおか
たおまえさんも余所者の女が生んだ子供だから、余所者だと思っているんじゃろうよ」
まったく心の狭いやつじゃ、とか言いつつ孫が立ち去ったほうを見るギャゼット爺さんの目はなんだか酷く悲しそうだっ
たが、一瞬でもとの表情へ戻り、俺達に話しかけてきた。
「そうじゃ、おまえの家じゃがな、今は別の人間が住んどるんじゃ。だから村長の所にでも泊まるといい。場所は覚えて
るだろ?」
「ええ覚えてますよ。ありがとうございます」
「村長は代替わりして、先代の息子のトーヤになっておる。旅の話とかも聞きたいが、今日はもう疲れただろう?明日に
でも酒場で語って聞かせておくれ」
そう言うと、門を閉めようとし始めた。
「手伝います」
「おおよ、力仕事は俺達に任せて、爺さんはゆっくりしているといい」
そう言うと、俺達はギャゼット爺さんの替わりに村の門を閉めた後、爺さんと別れて、村長の家へと向かった。
村の中央の広場の傍にある一際大きな建物が村長の家だ。と言っても大きな街と違って、建物は大きくても粗末な造
りをしている。
俺は村長の家のドアの前に立つと、軽くノックして呼びかけた。
「すいません、旅の者ですが宿をお願いしたいのですが?」
俺のその声を聞くと、村の外れからここまで、物陰からこちらの様子を見ていた者や、少し離れて興味津々の眼差し
を送っていた者達が、急に興味を失ったように離れていった。
「アドルよ、なんだかおかしくねえか?この村」
「うん、ちょっと様子が変だな」
俺達が小声で話していると、村長宅の扉が開かれる。
「はい、遅くなってすいません」
中から出てきたのは、20歳ぐらいの女性だった。
少し低めの背丈と、襟の辺りでバッサリと切られたブラウンの髪。瞳の色もブラウンで、どことなく活動的な印象をした
娘だ。
扉を開けた後、僕ら二人を見た女性は一言、「家は、村長なんてしてますけど貧乏ですよ」と言った。
「ハハハ…、山賊は酷いな」
中から出てきた女性は、村長のトーヤさんの娘で、ミレナだった。
俺が村を出た時には10歳だったが、ほぼ10年経った今でも子供の時の面影があり、すぐにわかった。もっとも俺が
10年振りに村に戻って来た人間だとはまだ話していない。
ミレナは、最初の一言の後、山賊行為をするなら、もっと大きい村でやってくれとまくしたてて来たが、なんとか宥める
事に成功し、家に入れてもらう事ができた。
今は村長宅の居間にあるテーブルを囲んで、村長のトーヤさんが酒場から帰ってくるのを待っているところだ。
「ごめんなさい、でも、ドギさんでしたっけ、ドギさんが凄い怖かったんですよ。本当に山賊かと思っちゃいました」
そう言われて、ドギが渋い顔をする。
ちゃんと面と向かって見るとドギも結構男前なんだけど、背が高いから大抵上から見下ろすように話しかける事が多
い所為で、威圧感を与えてしまう事が多い。
本人も結構気にしているのであまり言及しないようにしているが、こういう時はおかしくても笑えないのが少し辛い。
「で、アドルさん達って、この村にどんな用事があるの?」
「実は…」
ミレナの質問に答えようとした所で、玄関のドアが開き、細身の中年の男性が入ってくる。
村長になったというトーヤさんだろう、ブラウンの髪に白髪が混じっており、しわも刻まれ始めているが、昔の面影は
充分に残っている。
「あ、お父さんお帰り、お客様がきてるよ」
ミレナがそう言うのに合わせて、挨拶をしようとして椅子を立とうとしたが、トーヤさんの身振りによってとめられる。
「やあ、アドル君お帰り、よくこの村に戻ってきてくれたね」
トーヤさんのこの言葉にミレナはちょっと驚いた表情をしていたが、口は挟まなかった。
どうやらトーヤさんは、酒場でギャゼット爺さんから俺たちの話を聞いてきたらしい。
「お久しぶりです、トーヤさん。帰郷を歓迎してもらえて嬉しいですよ」
それから、隣に座っていたドギを紹介する。
ドギとトーヤさんがお互いに挨拶を交わした後、本格的に話にはいる態勢になった。
「それでアドル君、ギャゼットさんから君が冒険者になったと聞いてきたが、本当にそうなのかね?」
「ええ、13の時に村を飛び出した時は、最初から冒険者になるつもりでした。もっともその当時は憧れだけで、実際の
冒険者がどういうものかはぜんぜんわかっていませんでしたが」
俺は、ここで言葉を切って、改めて続きを話そうとしたが、ミレナの声に中断される事となる。
「あの、アドルさんて、雑貨屋さんの隣に住んでいたあのアドル君なんですか?」
「えっ、ああ、そうだよ。覚えていてくれたんだ?」
俺がそう答えると、ミレナは真赤な顔をして俯いてしまった、どうしたんだろう?
その俺たちのやり取りを見ていたトーヤさんが、ミレナに優しい視線を送りながら話し始める。
「ミレナは10歳の頃、『雑貨屋の隣に住んでいる、アドル君のお嫁さんになるの』と言っていたからね。思わぬ再会にび
っくりしたんでしょう」
その言葉を聞いたミレナは、「お父さんの馬鹿!!」と言うと居間を出ていってしまった。遠くからドアのしまる音が聞こ
えたから自室にでもこもったのだろう。
「アドル、オメーはガキの頃からもてるねー」
そう、ドギにからかわれるはめになってしまった。
まあ、自分でも頬が熱くなってるのがわかるからしかたがない。
しかし、ドギの言葉に興味を持ったのか、トーヤさんが身を乗り出す。
「アドル君はそんなにもてるのかね?」
「おうよ、俺が知ってるのはこいつが15の時エステリアに来てからだけどな、まー行く先々で、こいつに惚れる女が続出
だぜ、見たり聞いたりしただけで、フィーナ、レア、リリア、バニー、カーナ、エレナ、ニーナ、ネード、テラ、綺麗どころば っかりだぜ」
「ちょっと待ってよ、ドギ」
ドギの言葉はちょっと変だ、フィーナやリリアの事はわかるけど、他の人はそんな風には見えなかったから、話を大げ
さにしようとしているのをとめようと声を続ける。
「フィーナとリリアの事は、わかるけど、他の人は違うだろ?そんな風には全然見えなかったけど」
俺のこの言葉を聞いて、ドギは肩をすくめた。
「そりゃ、おまえさんが鈍いだけだ。人づてに聞いただけのバニーとネードに関してはともかく、実際に会ったレア、カー
ナ、エレナ、ニーナ、テラは間違いなくおまえに惚れてたね。思いの深さはそれぞれだったけどな」
ドギにそう言われて、俺は言葉を失った、本当にそうなんだろうか?
「しかし、凄いですね、確かにアドル君の外見はかなりカッコイイですけど、そこまでとは……」
トーヤさんもビックリしたみたいだ……まあ本人が驚いてるから当然だろう。
「まあ、確かに見てくれもあるけどよ、こいつはその上、その剣で幾多の魔物を打ち倒し、勇敢で、不屈の闘志を持って
いるからな、そんな姿を間近で見たらコロリといっちまってもしかたがないな」
ドギのその言葉に、トーヤさんの表情が変わる。
「先程エステリアと聞いた時は、偶然かと思いましたが、魔物を倒したと聞いて確信しました。エステリアを救った『赤毛
の勇者』とはアドル君、君の事なんだね」
「俺は、勇者なんて呼ばれるがらじゃないですけど、そう言ってくれる人達がいるのは確かです」
俺がそうトーヤさんに言うと、トーヤさんは真剣な表情でこう切り出した。
「君達に頼みたい事がある。実は最近この村の周辺に山賊が出没するようになってね、それを追い払って欲しいんだ」
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フェルガナ地方(V)
イースVの冒険の舞台、大陸の南方の方にあり、宝石の産地として有名なレドモントの街がある。
ドギの故郷でもある。
領主の名はマクガイアと言うが、街の人間達からは嫌われている。
レドモント(V)
宝石を産出する鉱山のそばに造られた街。
切り立った崖のそばにあり、街の唯一の門は、崖側に造られていて、長い吊り橋を渡らなければ、街に入る事ができな
い。
産出する宝石は、紅玉(ルビー)、藍玉(サファイア)、清玉(ダイアモンド))、黒玉(ブラックダイア)の4種。
チェスター(V)
エレナの兄で、ドギと同じ村の出身者。
幼い頃、住んでいた村を領主マクガイアの手の者に焼き討ちされ、その復讐の為に、身分を偽り城務めするようになる
が、なかなかマクガイアの傍に近づけない為に村が隠しとおしていた秘密の彫像のありかを教え、回収するようにな る。
ED近くに、復讐の愚かさと、自分が侵してしまった大きな過ちに気付き、魔王ガルバランを永久に封印するために、ガ
ルバランと共に海に沈んでいった。
マクガイア(V)
フェルガナ地方を治める王。
宰相ガーランドに騙され、周辺の町を併呑して、皇帝となることを夢見て、魔王ガルバランを利用しようとしたが、ガーラ
ンドの正体が魔物であり、騙された事を覚ると、あっさり意見を翻し、アドルに助けを求める事となる。
ガーランド(V)
魔王ガルバランの腹心で、ガルバランの復活のためにマクガイアに近づく、最後はアドルに切られて死ぬ。
ガルバラン(V)
古の勇者によって、「死者の島」に封じられていた魔王。
千年の時を経て、かつての戦いで滅ぼされた肉体を再生し、甦ろうとしていたが、アドルによって倒され、チェスターの
自己犠牲によって「死者の島」ごと海の底へ沈められ、今度こそ完全に封じられる事となった。
四つの彫像(V)
イースVにおけるキーアイテムで、それぞれ「落日の彫像」「円月の彫像」「流星の彫像」「暗黒の彫像」と名付けられて
いる。
実は、ガルバランを「死者の島」に縛り付ける効果があり、それ故に魔物たちによって狙われていた。
フレアロス(オリジナル)
大陸の北方にある山の麓にある村で、アドルの故郷。
名物は、村で作っている酒で、遠くから酒の買い付けに来る商人もいて、近隣ではもっとも大きな村である。
村の主な施設は、村を囲む柵の出入り口、村長宅、共同浴場、雑貨屋、教会、醸造場がある。
ギャゼット(オリジナル)
村の門番をしている老人。
密かに作者のお気に入り。
酒と噂が大好きな元気な老人一号。
ミレナ(オリジナル)
フレアロス村村長の娘。
今作のヒロインの予定。
明るく、元気な少女で、初恋の少年がカッコよくなって帰ってきたので舞い上がっている。
ライナス(オリジナル)
ギャゼットの孫の筋肉馬鹿。
村1番の力自慢であり、村の門番の後継ぎ。
トーヤ(オリジナル)
フレアロスの村長。
知性派の男で、亡き父の後を立派に継いでいる。
現在の悩みは、最近出没する山賊と、いつまで経っても結婚しない娘についてである。
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こんにちは、小島です。
まだ、本格的に話が動き始めていませんので、あまり書く事もないのですが、アドルの知名度に関してだけ書こうと思い
ます。
アドルの知名度は、アドルという名前は、ほとんど伝わっていませんが、「赤毛の勇者」に関してはだいぶ人の口に登る
ようになっています。
さすがに、人類の危機を何度もっ救った事はありますね。
それではまたお会いしましょう、アディオス!!
メールアドレス:mk_kojima2@yahoo.co.jp
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