Written by タケ
―はじめに―
この物語は、「とらいあんぐるハートシリーズ」のヒロインの一人、神咲 薫の「祖父」に焦点を当て、自分なりに「神咲一
灯流」に関する"自然な物語"を作れないか、と考え執筆したものです。
この物語が神咲一灯流の"自然な物語"であるかどうかは、「物語の全て」を読んでいただいた上で、お読みいただい
た皆さんのご判断に委ねたいと思います。
それでは、つたない物語にどうぞ、お付き合いくださいませ。
―消し難い"負の記憶"というものが、もしあるとするならば、彼にとってそれは何であるだろうか?―
"悲島"の記憶・序章
鹿児島県鹿児島市。
「彼」はそこにいる。
自宅の縁側に座り、くつろいでいる。
傍らには、孫からの手紙が置いてある。
彼はその手紙を読み終えたばかりだった。
送り主の名は「神咲 那美」。彼にとっては血のつながりこそないものの、大事な孫娘である事に変わりはない。
ふと見ると、那美の双子の弟「北斗」が、学校から帰ってきた。
「ただいま帰りました」
「うん」
微笑みながらそう応える彼の顔は、孫達が可愛くてしかたない、一人の好々爺でしかない。
今は遠く、海鳴に住む那美からの便りには、彼女の近況が少し丸みを帯びた、しかし丁寧な文字で綴られていた。
学校での出来事、下宿先の「さざなみ女子寮」の事、神社の事や"仕事"の事、最近できた友人が、兄妹揃って「御神
流」という剣術の使い手である事。
そして、久遠との"約束が果たされた"事・・・・・・。
那美はどうやら、向こうでちゃんとやっているらしい。
「北斗」
「はい?」
「那美から、手紙来ちょっぞ」
「え?那美姉から?」
北斗は、笑顔満面で那美からの手紙を受け取ると、そのまま隣に座って姉からの手紙を読み始めた。
手紙に目を通していたおかげで、すっかり冷めてしまった茶をひとすすり。
彼は思う。今、こうして生きているからこそ、孫を可愛がる事ができる。
たとえ、娘夫婦に「子供達ば、甘やかしちゃならんとです」と言われようが、これは譲れない。
あれから何十年、経った事だろう。
彼は、ゆっくりと思い出す。
決して忘れる事の出来ない、戦地での記憶を。
―"悲島"の記憶を―
"悲島"の記憶・序章 了
以降、物語は昭和19年〜20年のフィリピン・ルソン島に舞台を移します。
薫の祖父が「何を見て」「何を感じ」「如何なる行動を取ったのか」・・・・・・。
そして、皆さんが"それをどう感じるのか"・・・・・・。
すべては、皆さん次第です。
では。
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