復活


Written by タケ


―はじめに―
 
当物語は「とらいあんぐるハート」の、いづみシナリオを元にしています。
その為、いづみシナリオをクリアした上で読んで頂く事をお勧めいたします。
 
では、つたない物語に、どうぞお付き合い下さいませ。
 
 
 





 
 
  私は、何の為に、生きてきたのだろう……?
 
 
 
 
 
 今、私の周りは、まったくの闇。
 
 
 誰かが、死後の世界の事をまことしやかに言っていたけれど、あれは嘘だ。
 
 
 だって、私は今、闇の中にいる……。
 
 
 
 
 
 
 「家族」の中に生き、"掟"に従い、そして……。
 私は、闇の中にいる。
 
 
 
 
 
 
 私に「信じるものの為に戦う」事を、「正しい道」を教えてくれた、真一郎といづみ。
 闇に死すべき私を、救ってくれた二人。
 その二人が「家族」、いえ、"龍"に狙われた時……。
 私の心も身体も、ためらう事はなかった。
 
 銃声。
 
 焼けつく「痛み」が身体に食い込む感覚。
 
 「守った」という確かな充足。
 
 いづみと真一郎、そしていづみの兄、火影様の切迫した声。
 
 
 ……ああ、何もかもが、少しずつおぼろげになっていく。
 全てが闇の中に飲み込まれていく。
 それでもいいかもしれない。私は、確かに「大切なもの」を得て、それを「守った」のだ。
 私の生命は失われる。でも、私は「守った」のだから。
 
 
 闇に沈まんとする弓華の意識に、どこからか、聞こえてくる声がある。
 その声は、弓華に呼びかける。
「それで、本当にいいのか?」
 声は呼びかける。
「それで本当にいいのか?お前は、無駄に生まれたんじゃない!お前は無為に生き、苦しんだんじゃないんだ!」
 その声が、何故か火影の声のように、弓華には聞こえた。
 
 
 私の心が、突き動かされる。
 否応もなく、その声は、私の心を突き動かす。
 
「いいワケが、ないでス!!」
 
 私は叫ぶ。闇の中で、叫ぶ。
 
「私ハ、いづみやしんいちロウ、みんナともット、仲良くなリタい!」
 
 言葉のひとつひとつが、私を動かす。
 ……私に「愛する事」を教えてくれたいづみの兄様、火影様。
 
「火影様ノ声をモッと聞きタイ!甘えたイ!」
 
 そう、私はもっと生きていたい。私には、まだしたい事、やりたい事がある。
 私は、自分の"想い"を何一つとして伝えていない。
 そう、何一つ。
 
 
 不意に、闇の中から光が現れる。
 暖かさを伴った、それは確かな「光」。
 少しずつ、光は闇を圧倒していく。
 
 
 いづみ、真一郎、火影様……。
 
 
 光が、闇を押しのけていく。弓華が「想う」ごとに、光は勢いを増していく。
 感覚が戻ってきているのだろうか?
 「左手に"暖かさ"を感じている」のが判る。
 
 ああ、この暖かさは……。
 
 
 火影様。
 
 
 光が、闇に打ち勝った。
 
 
 
 
 
 最初に視界に入ってきたのは、白い天井。
 左手に感じる暖かさと、身体に感じる疼くような痛み。
 視線を変えた先に、いづみと真一郎がいた。
 涙を拭う事も忘れ、安堵の笑みを見せている。
 
「弓華、良かった……良かった……!」
 
 視線は左手の先に移る。
 火影が、精悍な顔を涙で濡らし、微笑んでいる。
 弓華の左手は、その大きく暖かい両の手に包まれていた。
 
 弓華は微笑んだ。
 涙が自然に目尻からあふれ、流れ落ちる。
 後はもう、止め処もなかった。
 
 
 
 
 
 診察が終わり、二人に気を利かせて病室を出たいづみと真一郎は、弓華の手術を担当した医師と話していた。
 医師のネームプレートには、「伴 満(とも・みつる)」と名前が書かれている。
 いづみが伴医師に礼を言う。
「先生、ありがとうございました」
「いや、何、お役に立てて何よりだ。それにしても……」
 伴医師は一度言葉を区切ると、
「学会から帰ってきたと思ったら、いきなりあの娘だ。ここは本当に人使いが荒い。ふふっ」
と憎まれ口を叩く。
 その表情はしかし、生命を救った充実感からか、柔和にほころんでいた。
「君達は、あの娘の友達かね?」
「はい、そうです」
 伴医師の問いに、真一郎が応える。
「ふむ、そうかね、うんうん」
 上機嫌の伴医師は、なおも言葉を続けようとしたが、
「ああ、ここにいたか、探したよ」
「おお、矢沢先生。何か?」
「何か?じゃないよ。学会の報告、まだだろう」
「ん?ああ、そうだった。それでは行こうか」
 伴医師は二人に向かって、
「では、な」
 と言うと、矢沢医師と共に、別棟へ続く廊下を歩いていく。
「……まったく、報告より先にあの娘を頼む、って言ったのは誰だい」
「いや、それについては勘弁してくれ。私も手が離せなかったし、それに緊急時だからって、今まで報告を後回しにして
もらったんだ。まぁ、頼りになるのは君だった、という事さ」
「へいへい。ああ、時に君のとこのフィリス君とセルフィ君、元気かい?」
「ああ、元気だよ……」
 
 
「真一郎様……」
「うん」
「良かった、グスッ、本当に、良かった」
 真一郎は、いづみの肩を抱き寄せ、そのままいづみの頭を撫でる。
 そして二人はしばし、寄り添っていた。
 
 
 病室の窓から、柔らかい日差しが差し込む。
 
「火影様?」
「うん?」
「闇の中デ、私に呼びかケタ声……私ニは、火影様ノ声に聞こエまシタ」
「……何て、言っていた?」
「私ヲ、呼び戻シテくれまシタ」
「うん」
「……私、生きテイても、良いノですネ?」
「ああ、もちろんだ。決まってるじゃないか」
 それから、少しばかりの静寂の後。
「火影様?」
「何だい、弓華?」
「償イが終わっタラ、甘えテも、良いでスカ?」
「………」
 火影は、顔を真っ赤にして言葉を詰まらせたが、少しして優しく微笑むと、
 
 
「……今、甘える事を考えろ、弓華」
 
 
 
 
 ……その日。
 
 弓華は「復活」した。
 
 やがて、弓華は過去の"罪"を償い、後に火影と結ばれる事になるが、それはまた別の物語である。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「―そして、あなた達の心は喜びで満たされるであろう。その喜びは、誰もあなた達から奪い去る事は出来ない」
―ヨハネによる福音書より 第16章第22節―
 
 
 
 
 
 
 
 
 
復活 了
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
後記
 
いかがでしたでしょうか?
弓華です。火影さんです。弓華のセリフ使いが滅茶苦茶なのは、この際勘弁してもらえるとありがたいですが(笑)。
いづみはともかく、弓華は中々SSの題材に取り上げられにくい、という印象があるような。
そんな感じが自分の中にはありまして。
折角ヒロインのひとりとして位置付けられているにも関わらず、これではあんまりだ、などと思って執筆したはいいけれ
ど、
「文面の始まりからして"あんまり"じゃないかい?」
なんて(笑)。
でも、元々がハッピーエンド主義な自分としては、何とか話としてはまとまったんではないかなぁ〜……なんて。
さて、この物語はクラシック音楽に「ありもしない霊感(笑)」を得て書かれています。
まぁ、分かる人には分かるでしょうが……。
 
グスタフ・マーラー
交響曲第2番「復活」
 
この最終楽章の歌詞の一節に、自分がこの物語を書こうと思ったきっかけがあります。
 
おお、苦しみよ!それは全てにしみとおる!
私はそれから逃れたのだ
おお、死よ!それは全ての"征服者"だ!
今こそ、おまえは征服されたのだ!
私は、その勝ち得た翼をもって、
燃える愛の力の中、
いかなる目も届かぬ光のもとに、
舞い上がるであろう!
 
 
……これからの弓華に、幸多き事を祈り……。
 
ではでは。


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