第2話前編


Written by 青大将(藤木 高志)


藤木が赴任して一月後、海鳴では今までに無い事件がおきていた。
「また銃で一撃か……」
藤木はぼやく真一郎の横で被害者の亡骸に付いた傷を見ていた。
「……急所に一発…プロだな。しかし今まで重傷者止まりだったのがついに死者が出てしまったか。」
「まぁ私らが捕まえなければ被害者が増えるだけだ。」
真雪の言葉を聞き藤木は過去を思い出してぼやいた。
「……あの時と同じだ…。」
「藤木さん顔色が良くないですよ?」
青褪めた藤木の顔を見て葉弓は心配そうに声をかけた。
「ああ…心配無用、神咲さん。少し昔の事件を思い出してね。」
藤木は苦笑いをしながら心配をする葉弓に礼を言った。
その頃現場の反対側では薫と楓が吉野課長と話しをしていた。
「吉野課長。最近の連続傷害殺人事件の近くにバイクが乗り捨ててありますね」
「そうだな…バイクを調達して現場まで来て被害者を襲っている感じだな。」
吉野と薫が話をしている先で楓は現場に乗り捨てられたバイクを観察していた。
「あー。やっぱり直結でエンジンかけとる。前の手口と一緒やな。鑑識さん指紋よろしゅうに。」
楓の言葉に鑑識班はバイクに残った犯人の手がかりを捜し始めた。
「そうそう薫君。一課に新しい人が着たのだったな。」
「ああ…藤木巡査部長ですか。」
「藤木…はてどこかで聞いた名前だな…。まさかあの藤木君かな。」
吉野は薫の言葉に少し考えて過去に出会った若い刑事のことを思い出した。

数分後吉野と藤木は顔をあわせて再会をしていた。
「やっぱり藤木君か。久しぶりだな。元気にいていたか。」
「吉野課長…お久しぶりです。その節はお世話になりました。」
「あの二人はお知りあいなのですか?」
藤木と吉野の再会を見て、葉弓は吉野に質問した。
「ああ葉弓君、彼とは昔捜査で一緒になってな。」
「ええ…あの時はお世話になりました。それにしても吉野さん…この事件2年前の事件に酷似していませんか…。」
藤木の言葉に吉野は顔を渋くして言った。
「そうだな…藤木君には辛いだろうがあの時と一緒だ。」
「そうですか…真一郎君。すまんが仏さんは科捜研に回してくれ。俺はチョット行くところがある。」
「え?藤木さん何所に行くのですか?」
「秘密だ…。」
藤木は真一郎に言い残すと公園の外に出て行った。

「あれ…藤木さん車に乗ってどこか行ったけど、どうしたのだ?」
「あいつ…おさぼか?」
公園の外で聞き込みをしていた耕介と真雪は藤木と途中ですれ違ったあと公園内に居た瞳に質問した。
「それは無いでしょう。誰かさんじゃ無いのですから。」
瞳は真雪の言葉に少し毒を吐いて答えた。
「千堂…そんなこと言ったら真雪さんにかまわれるけん、やめとき。」
丁度残りのメンバーと歩いてきた薫は瞳に突っ込みを入れた。

「そう言えば吉野課長…2年前の事件って藤木さんと話していましたが何かあったのですか?。」
「ああ…今回の事件に酷似した事件があってな…。」
真一郎の言葉に吉野は少し言葉を濁した。
「2年前…あの拳銃連続殺人事件ですか。」
真雪の言葉に吉野は眉を少し動かした。
「そうだ…あの時の被害者の中に「綾崎紅葉」と女性が居てな……その娘には婚約者が居た…その婚約者が藤木君
だったのだよ…。」
吉野の言葉にその場に居た全員は言葉を失った。

「此処まで話したのだから全部話すが…2年前たまたま本庁に短期で出向したとき藤木君に出会った。まだ今の藤木
君とは全然雰囲気が違ったな…バリバリの駆け出し刑事だった…。」
吉野は少し遠くを見るように話を始めた。
「彼にはまだ大学生の彼女が居て幸せそうだった…容姿は丁度葉弓君にそっくりだったな…気が効く子でよく藤木君に
お弁当を持ってきていた。それで同僚達からからかわれていたよ彼は。」
「だが、桜の咲く前の季節だったかな…連続射殺事件の犯人を追い詰めた時だった。犯人は人質を取って大学内に立
て籠もりを起こした。その中に紅葉ちゃんが居てな…藤木君は狙撃手として犯人を撃つ役目を任された。」
「そしてどうなったのです?」
真一郎の言葉に吉野は顔を伏せた。
「藤木君は…スコープ越しに自分の婚約者が撃ち殺されるのを見てしまったのだよ…。彼も犯人を撃とうとしたが逆に
犯人に腕を撃たれて負傷した。犯人の逃走後、藤木君は自分が怪我をしているのにもかかわらず彼女の亡骸をずっと
抱きしめていたよ…涙をながしながら。」
その言葉を聞いた瞬間、その場に居た全員がなぜ藤木がその場から姿を消した理由を理解した。
「それからか…あんなに不真面目で暴力的になったのは…そしてライフルを握れなくなったのもそれが原因だったな
…。」
吉野は悲しそうに、近くにあったまだ蕾の固い桜の木を見つめて言った。
「吉野さん。藤木の射撃の腕はそんなすごいんかい?」
「彼のライフルの腕前はオリンピック代表に選ばれる位だった。結局事件が元で辞退したのだがね。」
真雪の言葉に吉野は苦笑しながら話を続けた。

その頃藤木は海鳴郊外にある小高い丘の墓地に一人佇んでいた。目線の先には、最愛の人だった女性の名前の刻
まれた墓石があった。
「あの事件から2年……今年の桜が咲く頃に俺達は一緒になる予定だったな…紅葉。」
藤木は返事が帰ってくるはずの無い墓石に、ポツリと声をかけた。
「こんな事言ってもお前は帰ってこないのだよな…わかっているのだが何度も言ってしまう。やっぱり俺は駄目だな…。
お前を殺めた相手がまた目の前に現れたというのに…。」
「思えば此処がお前の故郷だったな…俺達が出会う前は…今度は決着をつける。だから空の上から見ていてくれ。」
藤木はそう言い残すと、その場からそっと離れていった。

次の日、藤木は真一郎と科捜研に来ていた。それは被害者の司法解剖結果と銃弾の鑑定結果を聞くためだった。
「藤木さん、幾らなんでも結果を聞きに行くのが速くないですか。」
「速くなければ困るんだ…それに知り合いが居るから急ぎといっておいた。」
藤木の鬼気迫る声に真一郎は少し驚きながら車は一路、科捜研に向かっていた。
科捜研に到着後二人はとある女医との面会を待っていた。
しばらくすると奥の部屋から一人の女性が現れて藤木に手を振った。
「久しぶりね。高志。でも急ぎだなんて困ったわよ。他の仕事も有ったから。」
女性は苦笑しながら藤木に親しく話しかけてきた。
「ああ、悪かったな夏美…。でも今回は急ぎなんだ本当に…。」
二人の慣れた会話に真一郎は頭に疑問符が浮かんだ。
「藤木さん、この方は知り合いなんですか?」
真一郎の言葉に藤木は、はっとなり正面にいた女性との会話を辞めた。
「ああ悪い…皆が集まってから紹介するよ。」
藤木は苦笑しながら、真一郎に伝えた。

数十分後、科捜研の一室には海鳴署捜査一課の面々がそろっていた。
「えっと、被害者の体内から取り出した弾丸の鑑定結果なんですが…7.62mmの弾丸でした。それと近くに落ちてい
た薬莢から使用された銃は旧ソビエト製のドラグノフです。」
夏美の言葉に藤木は眉をピクと動かし言葉を発した。
「夏美…それは2年前の事件に使われたものと一緒なのか?」
夏美は溜息をつくと重々しく口から藤木にとっては残酷な言葉を重々しく語り始めた。
「ええそうよ。紅葉ちゃんを撃った銃と線条痕が一緒だったわ…容疑者は同一人物と見てほぼ良いわね。」
夏美の言葉に藤木は無言で席を立つと部屋の入り口に足を進めた。
「藤木…何所に行く?」
その様子を見ていた真雪は藤木に声をかけたが、藤木はその声が聞こえないかのようにドアノブに手をかけた。
「高志…彼方が一人暴走した所でどうにもならないのよ!!」
「五月蝿い!!少し一人にしてくれ!!」
その瞬間夏美の怒号が響いたが、藤木は一言を残して部屋の外に消えていった。

「ふう…相変わらずね…高志は。」
藤木が部屋から去った後、捜査一課の面子の間には妙な空気が漂っていたが、夏美の一言でその空気が和らいだ。
「そう言えば監察医さん。藤木さんと親しそうに話していましたがお二人は知り合いで?」
「そうそう藤木さん皆がそろった後に紹介するといっておいて出て行っちゃいましたし」
耕介と真一郎の言葉に夏美は苦笑した。
「私のことは夏美で良いわ。それと私は高志とは幼馴染よ。そして高志の婚約者だった紅葉ちゃんも…。」
夏美は遠い目をしながら耕介と真一郎の質問に答えた。
「あー…夏美さんできれば藤木とその紅葉って娘の馴初めを聞きたいな〜。藤木のせいで場の空気が悪いし。」
真雪の言葉に夏美は苦笑しながら話を始めた。
「ええ良いわよ。高校生の時だったわ。紅葉ちゃんが引っ越してきたのは…私と高志の家は隣同士で紅葉ちゃんがお
向かいに引っ越してきたのよ。高志の従妹で2つ年下の可愛い娘だったわ。私も昔から高志の家に紅葉ちゃんが遊び
に来ていたから、引っ越してきた時にはまるで妹が出来たみたいだったわ。」
「で、藤木さんは紅葉ちゃんに何で惚れたんや?」
楓の一言に夏美は笑い出した
「ふふふふ…最初は高志のこと「お兄ちゃん」って呼んでいたのよ。私のことは「夏美お姉ちゃん」だったけど…一目惚
れとかじゃなくて兄妹といったほうが似合っていたわね。」
「藤木さんが「お兄ちゃん」ふふふふ…あははははは。」
「千堂…笑いすぎるのは藤木さんに失礼じゃけんよ。」
「そういう薫も笑っているじゃない。」
瞳の笑い出した姿に薫は一言注意を入れたが、流石に普段の藤木が「お兄ちゃん」と言われている姿を想像すると、
薫も笑をこらえるようになった。
「丁度私達が大学に上がる年だったかな。バレンタインに紅葉ちゃん、顔環真っ赤にして高志に「私と付き合ってくださ
い!!」って私達のクラスの前に来て大告白。そりゃもう高志は豆鉄砲くらったような顔していたし。」
皆が笑える話をした後、夏美はふと暗い顔をして話を進めた。
「まあその後、付き合い出してあれよという間に高志は今の警察官に、紅葉ちゃんは大学2回生になったときあの事件
が起きたのよ…桜の蕾が開こうとしていた季節、卒業したら結婚する予定だったのにね…私も妹を失ったようで一晩中
泣いたわ。」
「それでは、藤木さんは未だにそのことを背負っているのですか?」
葉弓の言葉に夏美はさらに悲しい顔をして話を続けた。
「そうよ。しかも、今回の事件が同じライフルが使われたとはっきり判ったから、荒れているのよ。二年前をおもいだし
て、だから皆も勘弁してあげて。」
夏美の言葉に捜査一課の面々は頷くしかなかった。
「丁度そろっているな。」
夏美の話が終わった頃、課長が箱と長いケースを持って現れた。
「課長。なんですその箱とケースは。」
「県警のお偉いさんがこっちの拳銃使ってくれということで送ってきた。」
真一郎の言葉に課長は苦笑しながら箱の中身を取り出ながら話を続けた。
「リボルバーじゃ心許ないからオートを送ってくれたのさ。コルトガヴァメントだが。相川巡査と槙原巡査部長はこの拳銃
を使ってくれ。」
箱の中から拳銃が取り出された瞬間、今回の事件がただ事ではないことに全員が改めて目の前の事実を突きつけら
れた。
「それと葉弓くんには状況によってはこれを使ってもらう。」
課長は一言告げると葉弓の前に長いケースを置き開いた。
「狙撃用のレミントンM700ですか。判りましたが出来れば使いたくないですね。」
葉弓はそのケースからライフルを取り出すと溜息交じりに呟いた。
「以上だ、葉弓君はライフルに慣れてもらうためにも警察学校の射撃場に向かってくれ。その他は聞き込みに当たって
くれ。」
「「「了解!!」」」
課長の声が発せられると捜査一課の面々は部屋から出て行った。

その頃部屋から飛び出した藤木は警察学校の射撃場に居た。
「扱えないライフルをも持ち出して俺は何をやっているんだ…。」
藤木の目の前には一丁のスコープの着いたライフルが置かれていた。
そのライフルは2年前の事件の時、実際藤木の握ったライフルであった。
「レミントンM700改……紅葉の最後を見たライフル。俺に握れるだろうか。」
藤木は静かに呟くとそのライフルを手に取った。

第2話前編<完>

後書き
ども。またもやかなり間が開いてしまった上に第二話が前後編化してしまいました青大将です。流石に書き上げるスピ
ードを上げなければと思う今日この頃です。
今回オリキャラが2名登場です。一人はいつか使おうと思っていたキャラクターですが、
もう一人はイメージとしては出来上がってたのですが名前を知り合いに命名していただいたキャラクターでございます。
さて…今回も色々とマニアックなものが出てきますので最後に注釈を設置いたします。
あとは…上手ではないSSですが読んで下さい。でわでわ。
注釈
ドラグノフ:1958年旧ソ連軍の要請でイェフゲニー・フェドロビッチ・ドラグノフ氏が設計したスナイパーライフルで1963
      年に旧ソ連軍によって制式化された。 ドラグノフは軍用として軽量で耐久性を兼ね備え、且つ命中精度を追
      求した狙撃銃として開発され東側諸国の代表的スナイパーライフルとなっている。
レミントンM700:ライフルメーカーとしては老舗のレミントンが生産している狩猟用のレミントンモデル700はヴェトナム
      戦争で米軍スナイパーが使用したことでも有名である。狩猟用高性能ライフルであるM700は当時ヴェトナム
      戦争で苦しんでいたアメリカに狙撃銃として注目され即座に使用された軍用のアサルトライフルとは比較にな
      らない高い命中精度を持っておりその後も警察の狙撃チームなどでもこれを真似て採用している。
コルトガヴァメント:コルトガバメントシリーズは1900年代にアメリカ軍の新型軍用ピストルとして誕生した軍用オートマチ
      ックピストルである。1906年に開発が開始されたこのピストルはシングルアクションで7発装填のボックスマガ
      ジンをグリップ内部に持ち45口径を使用する事が決定された。45口径の弾丸は専用に設計された45ACP(オ
      ートマティックコルトピストル)で、1911年には大規模なテストが行われM1911としてアメリカ軍に制式採用され
      た。






戻る
戻る