Written by 青大将(藤木 高志)
異動命令から数日後…藤木はある場所に居た。
「此処が今度の職場か……今度はどうなるやら…」
藤木は半分溜息をつきながら署の玄関を通過した。
「捜査一課…捜査一課は…おお此処か…失礼…」
藤木は挨拶をしようと思ったが一瞬固まってしまった…そう捜査一課の面子を見てである。
「此処は面白そうなところだ…」
藤木は苦笑しながら捜査一課の面々を見ていた。
そこにはババ抜きをしている眼鏡を掛けた女性とショートカットの女性、大柄でポーニーテールの似合う女性と、小柄で
女の子みたいな男性。それを注意するロングの女性とそれを静めようとする同年代の女性二人が藤木の目に入った。
藤木が入り口で、捜査一課の面々を見ていると大柄な男性が話し掛けてきた。
「あの、何か御用で?」
藤木は大柄の男性に声を掛けられると我に帰ったように答えた。
「いや…今日此処に異動になった者なのですけど、此処は何時もこんな感じ何かな?」
藤木の言葉に大柄な男性は苦笑しながら答えた。
「ええこんな感じです。事件の無い時は。」
「それで本題だけど課長さんは?」
藤木の言葉に大柄な男性は答えた。
「ああ…あそこで転寝しているのが課長ですよ。」
大柄の男性の答えに藤木は少し不安になった。
藤木は転寝している課長のところへ行くと肩をゆすり課長を起こすと挨拶をした。
「本日付けを持ちまして海鳴署捜査一課に配属になりました藤木高志巡査部長ですよろしくお願いします。」
こうして藤木の海鳴署での生活が始まった。
「さて此処のメンバーを紹介しましょう…仁村君からどうぞ。」
課長の一声でメンバーに自己紹介が始まった。
「仁村真雪っす…よろしく。」
「槙原耕介ですよろしく。」
「以上2名が君と同じ巡査部長だよ。」
「はい解りました。」
課長の声に藤木は答えた。
「「「神咲薫、神咲葉弓 神咲楓ですよろしくお願いします藤木巡査部長」」」
藤木は3人の声に驚いたが同じ苗字ということで兄弟と思った。しかし課長の説明で謎が解けた。
「そしてこの三人は互いに従姉妹同士だから。名前で呼んだ方が良いかも…その方が神咲君たちも混乱しないだろう
し。」
「はぁ…わかりました3人がそれで良いならそうします。」
それと千堂君と相川君と鷹城君、自己紹介を。
「千堂瞳巡査ですよろしく藤木巡査部長」
「鷹城唯子巡査ですよろしく。」
二人の後に小柄で女の子のような男性が挨拶をした。
「相川真一郎巡査ですよろしくお願いします。」
「後サポートで椎名ゆうひ、野々村小鳥両巡査でうちの捜査員は全員だよ藤木君。君は相川君とコンビを組んでもらう
から。」
課長の声に二人は向き合い握手をした。
「よろしく相川巡査。」
「こちらこそ、藤木巡査部長」
「あ、そうそう…家はあんまり階級で呼び合わないから。」
課長の声に藤木は少し拍子抜けしてしまった。
その夜、藤木は勤務時間後、捜査一課で過去に扱った事件の調書等を読み漁っていた。
それは此処ではどのような事件が一番多く起きるかを早く知るための近道であるからだ。
「ふむ…此処は平和な街だな…。 大きな事件があまり無い…。」
藤木がこう思うのには訳があった。前の赴任地では殺人、強盗などが多かったからなのである。
「お茶どうぞ。」
藤木の後ろから笑顔を見せお茶を差し出したのは神咲葉弓であった。
「ありがとう、神咲さん。」
藤木はお茶を受け取り、葉弓に海鳴での事件の状況を聞いてみることにした。
「神咲さん。資料を見る限り海鳴は平和な町ですね。凶悪事件が少なくて。」
藤木の言葉に、葉弓はくすくすと笑いながら答えた。
「ええ。海鳴は平和な町です。ですがその平和を守っているのは私達の仕事なのですよ。」
「それは違いないな。」
藤木は自分のした質問が当たり前すぎることに苦笑するしかなかった。
次の日、藤木はコンビを組むことになった真一郎に市内の案内を受けていた。その中で二人は談笑をしていた。
「藤木さん、さざなみ寮って知っています?」
「いや…知らないがどういうところなんだい?」
「うちの真雪さんや薫さん達が住んでいるところですよ。耕介さんも管理人をしていますし。一応女子寮ですから。」
藤木の質問に真一郎は素直に答えた
「そうか。一度伺いたいものだな。」
藤木は言葉をすべて言い終わると同時に、前方の小競り合いをしている婦警達といかにもと思わせる外車に乗った男
に目をつけた。
「真一郎君暇だから助太刀しようか〜♪」
藤木の楽しそうな声に真一郎は不安になるのだった。
「ええか、ココは駐車禁止や。大人しく切符受け取り?」
「ウルセエな姉ちゃん。切符なんか受けとらねえよ。それより俺達と遊びにいかねえか?」
「はわわわわ…あ、真くん」
二人の婦警のうち、小柄な女性が真一郎を見つけ名前を呼んだ。
「小鳥。椎名さんと取り締まりか?」
「うん。そうなのだけど…真君、隣の人は?」
小鳥は藤木を見て真一郎に質問した。
「ああ。紹介まだだった。今度うちに来た藤木巡査部長だよ。」
「藤木です。よろしく。ところでナンパされている彼女は?」
藤木は小鳥に挨拶と一緒にゆうひのことを質問した。
「椎名さんといって私のパートナーです。ただ…今はナンパされていますが。」
小鳥は苦笑しながら藤木に答えた。
「ええかげんにしとき?それとも何か隠し事でもあるんか?例えばこの車盗難車とか?」
ゆうひの鋭い突っ込みに一瞬男達は気まずい顔をした。
そして小鳥と一緒に歩いてくる藤木と真一郎をみると。表情は完全に動揺の色を浮かび上がらせていた。
「椎名さん。相川巡査と藤木巡査部長が応援に来ましたよ。」
「ああ小鳥ちゃん、おおきにや。隣の刑事さんは見ない顔やな。」
「俺か。俺は藤木高志、今度異動でお世話になることになった巡査部長です」
ゆうひの声に藤木は自分の自己紹介をした。
「で…こいつらが職務中の警察官をナンパしようとした奴らか。」
藤木は苦笑しながらゆうひに問いかけた
「そうや。切符も受け取らんで、うちをナンパしたんや。一応ナンバーの照会してみたほうがええかな?小鳥ちゃん?」
「そうですね、念のために…って椎名さん車、動きだしています。」
小鳥の声に皆が振り返ると、今まで静止していた車は後輪をホイールスピンさせながら、
猛スピードで逃走を始めた。
「真一郎君追うぞ!!」
「はい。藤木さん!!」
藤木の声に反応して真一郎は近くに止めてあったパトカーの助手席に飛び乗り赤色灯を屋根に置いた。
そして藤木は真一郎が赤色灯を置くのを計ったかのように、逃走車と同じ用にホイールスピンをさせつつパトカーを急
発進させたのであった。
「小鳥ちゃん。うちらは他の人達に応援を要請やね。」
「はい。えっと各車に通達。盗難車発見。現在、海鳴港方面に藤木巡査部長と相川巡査が追跡中。付近を走行中のパ
トカーは応援に向かってください。」
対照的に小鳥とゆうひの二人はいたって冷静なのであった。
港湾部に向かう幹線道路ではその頃、他の車両の間を縫うようにカーチェイスが行われていた。
そんな中真一郎は恐怖を感じていた。なぜなら藤木が120km以上の速度で走るパトカーを、まるで普通に走る車のよ
うに非常に安定させて走らせていたからである。
「ふ、藤木さん。こんなスピードで追いかけて大丈夫なのですか?」
「ん。別にまだまだ出そうと思えば出せるのだが?」
「いいえ。これ以上出さないでください。」
藤木の飄々とした言葉に、真一郎はさらに恐怖を感じていたのだった。
「藤木さん?神咲葉弓と楓です。いま港の入り口に居ます。千堂さんと薫ちゃんも一緒に居て入り口を閉鎖しています。
真雪さんと耕介さんは藤木さんの後ろに居ますよ。」
葉弓の無線からの声に藤木はバックミラーで後ろを確認すると真雪と耕介の乗るパトカーが後ろに控えていた。
「……真一郎君…一応拳銃の弾を確認しておいてくれ。葉弓さん達にも頼む。」
藤木は少し考えると真一郎に拳銃の確認を伝えた。
「判りました葉弓さん他の人達にも拳銃の確認を伝えてください。」
真一郎は無線で伝えると、藤木に質問をした。
「…でも使う必要ないのじゃ。」
「万が一ということが有るだろう?」
真一郎の戸惑いの声に藤木はさらりと答えた。
「じゃ…幕引きをしようか…」
藤木はサイドブレーキをひくとハンドルを左に切り、道をふさぐような形でパトカーを止めた。その瞬間、真一郎の顔が
恐怖に引き攣ったのは言うまでも無かった。
「拙い…前も後ろも塞がれた…」
直線区間を閉鎖されたことにより、犯人は車を中間点で止めた。
「後ろに戻ったほうが良いかも…強行突破を…。」
犯人は意を決したのか車の向きを変えると藤木と真一郎を目掛けて猛加速を始めた。
「ヤル気満々だね…あの犯人」
藤木は、苦笑しながら真一郎の方を向いた。
「そんな余裕無いでしょう。僕らに向かってきているんですよ。」
真一郎は半泣きの状態で拳銃を構えていたが握る手は震えていた。
「真一郎君。それだと容疑者に当たっちゃうから…まあ此処は任せて」
そういうと藤木は警官には似合わない大型の拳銃を懐から抜いて、迫る車に向けて2連射した。
放たれた弾丸は車に吸い寄せられるかのように初弾はボンネットフードを開けさせ、次弾エンジンブロックに食い込み
車を走行不能にして藤木たちの目の前に停車させた。
「藤木さん射撃得意だったのですねって何でそんな大型の拳銃持っているのですか!!」
「旧チェコ・スロバキア製のCZ75だが?そんなに驚くこともないし気にするな。」
「気になりますって!!」
真一郎の怒号とも取れる言葉に藤木は飄々と答えた。
「あー…お二人さん話は後にしてこいつ捕まえて良いかな?」
「そうそう捕まえないと終わらないから。」
藤木と真一郎の後ろで真雪と耕介が苦笑しながら話しかけた。
「あ…うちらが手錠はかけましたからよかですよ。」
「そうそうちゃんと逮捕しないとまた逃げられちゃうから、といっても犯人伸びてるし。」
運転席で伸びてる容疑者を見ながら、薫と瞳は冷静に後処理をしていた。
「おおもう終わってる。うちらの見せ場がなかったなぁ。葉弓ちゃん」
「まあまあ皆無事だから良いじゃない楓ちゃん。」
一歩遅れて到着した楓の愚痴に葉弓は笑顔で答えた。
事件終了後一課の面々はさざなみ寮に集まっていた。それは藤木の歓迎会と言う名目だったが、実際は飲み会に転じ
ていた。
「あらあらそこの刑事さんは始めてみる方ですね。」
「ああこれはどうも、藤木といいますこれからよろしくお願いします。」
「はい私はここのオーナーの槙原愛です。耕介さんとは親戚ですから。こちらこそよそしくお願いします。」
「愛〜、藤木〜挨拶は良いから飲め〜♪」
藤木と愛の挨拶が終わるとすかさず真雪が二人のコップにお酒を注ぐのであった。
飲み会がひと段落した後、藤木は寮の庭に一人佇んで夜風に当たっていた。
「………あの事件から2年か……異動を繰り返したが此処にやっと落ち着けるかな…」
藤木はポケットの中からペンダントを取り出すと、それを見ながらつぶやいた。
「あら…藤木さんあんまり外に居ると風邪をひきますよ。」
「ああ、神咲さん。お酒で身体が火照っていたので冷やしていただけですよ。」
藤木は葉弓の声に気づくとペンダントをポケットに仕舞い答えた。
「それにしても神咲さん飲まなかったのですか?」
「ええ最後に面倒を見る人が居ないと駄目ですから。皆酔って寝ちゃってますし。」
葉弓の言葉に藤木は苦笑するしかなかった。
「藤木さん。海鳴はどうです?」
「ええ落ち着ける場所ですね。此処は。」
藤木は葉弓の質問に素直に答えた。
「そうですか。ようこそ海鳴へ。」
葉弓の笑顔と言葉に藤木は少し赤くなるのであった。
第一話<完>
えープロローグから大分間が開きまして申し訳ないです(低頭
このお話の元はふと「とらハのメンバーで刑事物をやったら…」という安易過ぎる考えから生まれたお話です。しかもS
S初心者ということで悪見苦しい点が多いと思いますが何とか読めるものになっているのかな…(ぉぃ
まあ日本のお巡りさんが持っていることはありえないCZ75(※)なんかが出てきますしこれからさらにマニアックになる
可能性も有りますが末尾に説明を入れますのでご了承ください。
でわでわ、第2話をお楽しみに。
※CZ75:1975年にチェコスロバキアの国営銃器工場が開発した9mm自動拳銃。 命中精度の高さもさる事ながら、人
間工学を考慮したグリップは『まるで手に吸い付くよう』と評され世界有数の名銃と謳われた。
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