たまには休日を……真雪の隠れた心の内


Written by 小島


この作品はJANIS/ivoryより発売されている「とらいあんぐるハート2 さざなみ女子寮」を元ネタとしております。
この作品は、ネタばれを含んでいます。
この作品における方言はかなり適当です、こんなの関西弁(鹿児島弁)じゃないという方がいてもおおめに見ていただ
けると嬉しいです。
この作品は、私作のSS「たまには休日を……」シリーズの真雪視点のお話です、先に書いた耕介編、薫編、知佳編、
ゆうひ編、リスティ編の話を読んで頂けると少しは面白くなるかもしれません。






 真白な原稿用紙の上に絵を描き、話の筋道をつける。
 漫画を書くことは一つの世界を作り上げるようなものだ。
 大げさな事だから誰にも言った事はないが、あたしはそう思っている。
 だからなのか、漫画を書くのは何時も何時も大変な作業だ。
 でも、あたしはこの作業が好きだ。
 もっとも、好きじゃなかったらとっくに漫画家なんてやめている。こんなに大変な仕事は世の中そうは無いと断言できる
のだから。

 そんな事を考えつつも、あたしの手は動きつづけている。
 今書いているのは新しく始めた連載の第三話だ。この漫画、実はこの寮の住人達やその友人達をモデルにしたキャ
ラクターを使っている。
 もちろん、設定をいじくっているから寮の誰も気付いてはいない。リスティあたりは気付くかと思ったが結局ばれなかっ
た。
 タイトルは「宇宙刑事シェフダー」といって、耕介がモデルの宇宙刑事が巨大な悪と戦うSFアクションを題材としたもの
だ。
 普段寮のキッチンで鼻歌を歌いながら料理している奴がレーザーブレードをブン回して戦うシーンを書くのははっきり
いって面白い。我ながらナイスなキャスティングだな。


 暫くペン入れを続けるうちに外が明るくなってきた。どうやら徹夜しちまったみたいだな。また知佳の奴に怒られるな。
 前からその傾向はあったけれど、最近というか耕介が管理人になった頃からやたら口うるさくなった。
 まったく神咲がもう一人増えたようなもんだ。あたしはそんな風に育てた覚えは無いんだがなあ。
 そんな事を意識の片隅で考えつつも意識の大部分はペン入れに向けていたが、ようやく終わりそうだ。これで明日に
はアシスタントの娘を呼べるな。
「あー、腹減ったな」
 そう言いながらあたしは椅子から立ち上がり伸びをする。
 そのとたん身体中で骨と筋肉がミシミシと音を立てて酷使に対する抗議の声を上げる。
 やれやれ、まだまだ若いつもりだけど段々身体の方は年をとった事を訴えかけてくるな。知佳の言う通り少しは身体
の事も考えたほうがいいのかね。


「ふぁ〜、おはよ〜…」
 あたしはあくびをしながらキッチンに入る。そこには予想通り穏やかな笑顔をした大男がいた。さっき書いていた漫画
の中でレーザーブレードを振って怪人を倒した宇宙刑事のモデルとは思えないほどの穏やかさだ。
 この大男が管理人代理をやりにきた当初は知佳の事もあって警戒していたのだが、こいつがこの寮の管理人に正式
に決まる直前になって嘘みたいにこいつを信頼している自分に驚いた事もあった。だが、今はこいつがいない生活は
考えられない。何せこんなに便利な奴はなかなかいない。
 料理洗濯等の家事一切ができて、力仕事も任せられて、知佳達の面倒を任せられる。その上酒につき合せる事がで
きる。こんな奴はなかなかいない。
 まったくもって便利な道具だ。
「おはようございます。真雪さん、また徹夜ですか?」
「あぁ、調子にのって連載を一本増やしたら、もーきついのなんの……」
「大変ですね。それじゃあ、朝食の後はお休みですか?」
「んー、そのつもりー」
 どうやら朝飯ができるまでもう少し時間がかかるみたいだな。しゃーないリビングでテレビでも見てるか。


 しばらくボーっとテレビ画面を眺めていると、キッチンの方から声がする。どうやら神咲の奴が朝の鍛錬から戻って来
たな。あたしは耳を澄ませて耕介と薫のカップルの会話を盗み聞こうとするが……何だこれは!?キスをするどころか
まともな恋人同士の会話とはとても思えない会話をしている。
 どうやら神咲はそのまま風呂場に行ったみたいだ、その瞬間あたしの頭に閃く事があった。そうか耕介の奴もなかな
かやるな。神咲が先に入っている風呂場に後から湯加減を聞く振りして近寄り朝から二人で風呂に入ろうとは、なかな
かできる事じゃないな。どうやらあたしは耕介を侮っていたみたいだな。この記念すべき出来事を記録してやらないと
な。えーとビデオカメラは確かリビングに置きっぱなしになってるはずだよな……無いな。いやそれよりも耕介が動いた
様子もない。キッチンからは相変わらず耕介が料理をする音が聞こえる。
 どうやらあたしの早とちりみたいだな……チッ!!つまらん。
 あたしは再びテレビ画面に目を向ける。どうでもいいが日曜の朝ってどうしてこう面白い番組がないのかね。

 また、少し時間が過ぎて今度は知佳達が起きてきたみたいだな。キッチンで耕介に挨拶する声が聞こえる。知佳はど
うやらいつもみたいに耕介を手伝うみたいだな。うん!?誰かこっちに来るな。
 あたしは急いでソファーに座りなおす。やって来たのは愛だった。
「真雪さん、耕介さんがもうすぐ朝御飯ができますよって」
「ああ、それじゃあ行こうかね」
 あたしがキッチンに入ってきた後、お風呂に入っていた神咲がキッチンに入ってきて、知佳達が挨拶しあってからよう
やく飯が食えた。
 今日はメンバーが足りない所為か少し静かでつまらん。そう言えばこの間神咲が愛とゆうひの胸を見て溜息を吐いて
いた事があったな。
「神咲、沢山食って、それから牛乳を沢山飲むといいぞ」
 あたしがこう言うと、神咲はいぶかしげな表情をして声を返してくる。
「はあ、どげんしたとですか急に?」
 そこであたしはニヤリと笑って急所をついてやる。
「なに、耕介も胸が大きいほうがさわりがいあるだろうと思ってな」
「な、仁村さんあなたはどうしてそげに品がなかと?」
 案の定くってかかって来る。こう予想通りの反応をしてくれた神咲にもうちょっと精神修行をしたほうがいいなと思いつ
つ、口喧嘩を続けていく。静かなのも悪くはないけど、たとえ騒がしくても明るい方がいい。少なくともさざなみ寮はそうじ
ゃなくちゃいけない。
 ほら、愛も知佳も耕介も他の奴らも少し暗かった顔が、活き活きとした表情を取り戻している。ちょっと人数が減った
ぐらいで暗くしているのはあたし達らしくないからな。


「ごっそさん!!耕介、さっきも言った通りあたしは寝るからな。お昼前にあたしを起したら殺すぞ!!」
「わかってますよ。できるだけ静かにしてますから。」
 耕介は苦笑しながらこう返してくる。まあ、こいつもあたしが寮の仕事をする為に掃除機とかの機械音を立てたくらい
じゃあ怒らないのがわかっているからこう返してきてるんだろうけど、いいかげん薫を連れてどっかに出かけるぐらいし
たらどうなのかね、こいつも。
 ああ、そうだ、今度の原稿があがった後ちょっと注意してやるか。久しぶりに差し向かいで飲みながらな。うん、それ
がいい。そうするとするか。
 そんな事を考えながらあたしは部屋に戻って来た。部屋に入ってから部屋を見渡す。
 それは見事なまでに散らかっていたけど、今は片付ける気力が湧かない。マジ、本気で眠くなってきたな。
「おやすみ〜〜」
 あたしは誰に言うでもなく挨拶をすると、ベッドへ潜りこむ。そして次の瞬間には意識は暗闇の中に落ちていった。


 桜の花吹雪が舞う中、花見をしているあたしがいる。周りには知佳と愛、それに美緒、神咲、ゆうひ、岡本少年、リス
ティ、そして耕介がいる。
 ああ、楽しいな、ずっとこんな時間が続いていけば………。


「あーーーーーーー!!良く寝た」
 時間は…もうお昼になってもいいぐらいの時間だな。それじゃあ一服したら昼飯を食べにいきますか。
 あたしは煙草に火をつける。心地よい香りがしだいに部屋に広がっていく。
 身体に悪い事はわかってるから、知佳が言うように少し減らせばいいと思わないわけじゃないが、どうにもこいつをや
めたり減らしたりできない。
 おかげで最近知佳だけじゃなく愛まで煙草の本数を減らすように言ってくるようになりやがった。あーあ、段々肩身が
狭くなるな。
 同業者や昔の友人にこの事をぼやいたら、いっそ寮を出て知佳と二人かもしくは一人暮しをしてみたらなんて言われ
た事もある。
 あたしだってそれを考えた事はあった。でも、あたしはこの寮が好きだし、ここの住人が好きだ。もし酒や煙草とこの
寮で暮らす事どちらか片方を選べと言われたら、あたしは迷わずこの寮に住むことを選ぶだろう。
そして、あたしが誰かと結婚しこの寮を出る事になってもできるだけこの寮の近くに住むだろう。いや、もしくは愛に土地
を借りて寮の離れみたいのを建ててそこに住むかもしれない。
 それくらいあたしにとってこの寮とその住人は大切なものだ。
 そんな事を考えているうちに煙草が吸い終わる。さて耕介は何を作っているのかな?


「あー、腹減った。耕介ー……あれ?」
 あたしが2階から降りてキッチンに入ると、やたらとでかく、視界をふさぐ耕介の姿がなく、変わりに知佳とゆうひがキ
ッチンに立っていた。
「知佳、耕介は?」
「今日はわたし達が、強引に薫さんとデートするように仕向けたの」
 なに、これは神咲が帰ってきたら遊んでやらないとな、フフフ……。
 どうやらあたしが考えてる事がわかったのか、知佳がこれ見よがしに溜息をつく。くそっ!!飯を作っていなけりゃ絶
対に痛い目を見せてやったのに。
 まあいいか。まだ少しかかるみたいだし、ビールでも飲みながら待つとするか。
 あたしがビールを飲み始めてすぐ、愛とリスティがキッチンに入ってきた。
 リスティがいるのも変だが、愛の様子がちょっとおかしいな?
「愛、どうしてリスティがいるんだ?」
 リスティが知佳達の手伝いを始めたので、愛に声をかける。
「えっ!…ああ、矢沢先生に急患が入って午後の検査がキャンセルになったんですって」
 ちょっと驚いたように返す愛を見てなんとなく察しがついた。これは年に一度は起こる発作だな。今が楽しいから何時
か来る別れが怖くなるっていう。
 まあ、それなら放っておくか。いいかげん慣れてもらわないとな。これからだって寮生が入れ替わる事は何度もあるん
だろうから、どうしても駄目ならその時は手を出すけどな。


 しばらくして、お昼の時間になった。あたしはここぞとばかりにリスティ達と悪戯の相談を始める。
「やっぱ、何処へいってきたか聞き出さなくちゃな」
「Yes.それとキスの1つもしてきたか聞き出さなくちゃ」
 フム、こいつも段々わかってきたじゃねーか。まだ少し甘いけどな。
「いや、今日はうちのコーディネイトで行ったから耕介君もたまらなくなって……ことがあるかもしれへんで」
「ナイスだ、ゆうひ!!おめーはやっぱり役に立つなー」
 まったく、ゆうひの奴は物事の機微というものを良くわかってるな、参加確率は低いものの、参加すれば本当に頼れ
る相棒になるからな、こいつは。
 それにしても知佳、おまえ、最近姉の偉大さを忘れているようだな。一度ゆっくり話をしなくちゃな。

 昼飯を食い終わると、あたしは朝の仕事の続きをするため再び部屋へと戻る。知佳達は耕介の代りに仕事をするん
だとか言って色々やっているみたいだな。まったく物好きな事だ。あんなに大変な事をわざわざ自分からやろうなんて
な。1日ぐらい放っておいてもまったく大丈夫なくらい耕介の仕事は完璧なのにな。
 ペン入れが終わった原稿にトーンを貼ったり、ベタ塗りをする。
 まだ余裕があるとはいえ、早く原稿があがるのに越した事はないし、掃除なんて面倒な事はやりたくないしな。
 そんな事を考えながらゆっくり丁寧に仕事をしていく。たまにはこんな日もいいかな。



「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!ゴキブリーーーーーーーーーーーーー!!」
 知佳の悲鳴が聞こえたとたん、あたしは机の脇においてあった木刀を引っつかんで駆け出した。


「まったく人が心配して来てみれば、ゴキブリがいたからだと。そんぐれーであんなでかい声だすな!!挙句のはてに洗
濯機を壊しただと?ふざけるのもいいかげんにしろ。だいたいあれほど、安易に能力を使うなって言っておいただろう
が!!」
「ごめんなさい」
「それとゆうひ、おめーも掃除機壊してんじゃねーよ!!いくら機械音痴だからってここまで酷いともう害にしかならねー
ぞ!!」
「かんにんしてや」
 始めのうち愛が必死に止めていたようだが、残念ながら今日という今日は絶対に許さん。人にはない能力を持つ人
間がどれほど周りから疎まれるのかわかっているはずなのに、こいつはのほほんと忘れたような行動をしやがって、ゆ
うひには悪いが知佳に付き合ってもらうぞ。


 結局二時間近く怒った所為で咽喉が痛い。まったく余計な事をしでかしてくれるガキだよ。もっともそれが嬉しくもある
んだがな。姉馬鹿だなあたしは。


おまけ
 帰ってきた神咲を早速拘束して尋問を始める。
「さあ、薫ちゃん今日は何処に言ってきたんや?」
「薫、素直に吐いたほうが良い、楽になれるよ」
「神咲ぃ、耕介とキスぐらいはしてきたんだろ?正直に言え」
 ああ、この寮の連中は本当に最高だよ。


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あとがき

今晩は、またお会いできましたね、あなたに会えてとても嬉しい小島です。
だいぶ遅くなりましたが真雪編をお届けします。
なんだか、まとまりのないSSになってしまいました、反省です。


さて、駄文に付き合っていただきありがとうございます、長々と続いてきましたこのシリーズですが本編は残すところ愛
編のみになりました。
外伝はまだ出ますけどね。
とりあえず、予定している外伝は、さくら&真一郎のさくらサイド、耕介&薫のバイクでお出かけ、十六夜さんメインの話
の三本です。
まあ、外伝はリクエストがあればみなみが振られたときの話しや、今だ私がほとんど書いた事のない美緒の話など増え
るかもしれませんけどね。

さて今回もこの駄文をHPに掲載をお許しくださった管理人の春日野 馨様に深い感謝の念をささげつつ終わりたいと
思います。
どうもありがとうございました。

それではまたお会いしましょう、アディオス。

メールアドレス:mk_kojima2@yahoo.co.jp

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