第二話 小さな重戦車(中編)


Written by 小島


>さざなみ寮地下「地球侵略前線基地」尋問室
 薄暗い部屋の中央に置かれた椅子に1人の男が手枷足枷をつけられた状態で座らされている。
 度重なる尋問や拷問にこけた頬と衣服の隙間から覗く大小の傷、しかし男の目はまだ死んでいない。
 近衛将軍カオルーに破れサザナーミ皇国の捕虜となった男、UGPのクニミン七等巡察官の姿がそこにあった。

 やがて、超硬質ガラスで隔てられた取り調べ官用のスペースに一人の女性が入ってきた。
 綺麗な黒髪をばっさりと切ったショートカットと理知的な瞳を隠すかのような眼鏡の女性、サザナーミ皇国宰相マユー
キだった。
「何度来ても無駄だ、話すことは何もない!!」
 マユーキの方を見もせずに声をあげるクニミン。
「まだ、随分威勢がいいじゃねーか。手を抜いてたみたいだな」
 そのマユーキの声を聞き、いつもの尋問官ではない事を覚ったクニミンが始めてマユーキの方を見る。
「私はサザナーミ皇国宰相マユーキ・ニムラーだ、貴君の姓名と階級を述べよ」


>風芽丘学園2年A組
 時間は進み、現在は帰りのHRの時間になっている。
「皆ももう知っての通り五月の末に球技大会をやる事になっている」
 そう言いながら耕介は教室をぐるりと見渡す。
「でだ、生徒会の方からやりたい種目についてのアンケートが来ている。今から配るから明日の朝のHRで回収するか
ら忘れるなよ」
 そう言うとアンケート用紙を配り始める。
 配られた用紙を見て瞳は前の席に座っている薫に尋ねた。
「ねえ、薫どの種目に出たい?」
「うちはソフトボールかな?」
 男子と女子合わせて十種目ほどの名前が並ぶアンケート用紙を見ながら答える薫。
「うーん、ソフトか?バスケットも捨てがたいのよね」
「千堂がバスケットがいいならうちはそれに合わせるけど」
 相変わらず前を向いたまま答える薫に、瞳も耕介の声を聞き流しなら声を返す。
「でも、ソフトのほうが疲れなさそうだからソフトにしましょ」
「うちはそれでいいよ」
 どうやら二人の意見はまとまったようだ。
((球技大会で大活躍して耕ちゃん(槙原先生)の好感度UP!!))
 どうやら似た事を考えているようである。
 そうこうしているうちにHRも終わり生徒達がそれぞれの目的を持って散っていくなか、耕介が瞳に声をかける。
「千堂さん、済まないが頼み事があるんだ、職員室まで来てもらえないか?」
「はい、わかりました」
 そうして二人で連れだって教室を出て行った。
(槙原先生、学校の用事くらい、うちに言ってくれればいいのに……)
 そんな事を思いながら寂しげな表情で二人を見送った後、薫も帰路につくのであった。


>風芽丘学園旧校舎・教室
 普段使われていないため埃っぽい旧校舎の一室で、密談をする男女の姿があった。
「この間の事件以来、また動きがなくなったな」
「ええ、ここまで見事に隠れられると、敵ながら天晴れだって誉めたくなるわね」
 それは先程職員室に向かったはずの耕介と瞳だった。
「ああ、そうだな。手懸りは全て途中までしか行きつかないようになっているし、遺留品からはたいした情報はなかったし
な」
「これは、次出てきた時になんとしてでも捕まえないと、一向にアジトにたどり着けそうにないわね」
「それが一番手っ取り早いかな?」
「たぶんね」
 そう話し合った後、お互い苦笑しあい、この話はそれまでにした。
「じゃあ、俺からもう一つ話しがあるんだが、良いか?」
「何?」
 堅い話が終わったのを示すように二人の表情が和らぐ。耕介はいつもの暖かな微笑を浮かべ、瞳は耕介だけに見せ
る悪戯っ子みたいな表情になっていた。
「今日は、定例の職員会議があって遅くなるから、夕飯の材料を買っておいて欲しいんだ。」
「いいけど、そう言う時ぐらい私が作るわ。確かに得意とは言わないけど少し位はできるのよ、これでも」
 ちょっと不満げに耕介を睨んでみるが、本気で怒っている訳ではないのは、その目を見ればすぐにわかる。
 こういった仕種をするのは耕介の前でのみという事を考えると、瞳が耕介にベタ惚れで、甘えていることが誰にでもわ
かる事だろう。
 もっとも耕介も瞳がこうして甘えてくるのは好きだったので、いつも最終的には耕介が折れて、瞳の意見が通るのが
普通だった。
「わかった、瞳、お願いするよ」
「うん、それじゃあ何時頃に帰って来れそう?」
「うーん……二十時には帰れると思うよ」
「うん、それまでにちゃんと準備しておくから。場所はいつもの通り耕ちゃんの部屋でいいよね?」
「ああ、合鍵は渡してあるよな?」
 そう、この二人、同じマンションの隣同士の部屋に住んでいるのだ。さらにお互いの合鍵を持っている。
 まあ、合鍵を使っているのは瞳だけで、耕介は女の子の部屋である瞳の部屋には極力入らないようにしているのだ
が……瞳はその事が不満らしい。
「うん、それじゃあ先に帰ってるね」
「ああ、気をつけて帰れよ」
「もう子供じゃないったら!!」
 じゃれあいながら旧校舎を出て、瞳は駅前の商店街へ向かい、耕介は職員室へ向かって歩き出した。


>風芽丘学園正門
 時間は少し戻って、耕介達が旧校舎で密談をしている頃、下校途中の生徒の中に真一郎、唯子、小鳥、みなみ、い
づみの五人の姿があった。
「唯子、そういえば聞くの忘れてたけど、その美味しいラーメン屋さんてどの辺にあるんだ?」
「にゃはは、言うの忘れてた」
 無邪気に笑いながら、ごめんごめんと謝る唯子をしょうがないなーという風に見ながら小鳥が再度聞く。
「それで、何処なの?」
「確かー、海鳴大学病院の正門の斜め前にあるって聞いたよ」
「あのあたりか、名前は翠香楼じゃないか?」
「わー、いづみちゃんすごーい。当りだよー」
 場所を聞いただけで店名を答えるいづみに、唯子が凄い凄いと騒ぐ。
「いやなに、バイト先の人に聞いたことがあったんだよ」
「へー、そんなに有名な所なんだー。もしかしたら高いんじゃないかな?」
 照れくさそうに頭を掻くいづみの言葉に、不安になったみなみがあせる。
「セットメニューがあるって話だよ。1000円あれば大丈夫だって」
「よかったー」
 唯子の言葉にホッと胸をなでおろすみなみを見て、皆が笑顔になる、そんな平和な光景があった。
 しかし、そんな平和を破る事件が起きる。
 それは五人が正門の近くに来た時だった。
 正門の門柱の所に1人の少女が立っているのが五人にも見えるようになる、その時真一郎の表情が明らかに喜びを
表すものに変わった時、平和は崩れたのだ。
 門柱の所に立つ少女は、隣の駅の近くにある私立の中学校の制服である、白いブレザーを着ていた。
「相川さん、お久しぶりです」
「えーと、綺堂さんだったよね?」
「ハイ、綺堂さくらです。相川さんの方が年上なんですからさくらでいいですよ」
 少し、頬を赤くして、にこやかに話し始める真一郎とさくら。そして、それをそばで見ている四人の少女。少女のうち二
人は明らかにさくらに敵意を持った視線を向け、一人は人見知りしてそばにいる背の高い幼馴染の影に隠れ、もう一
人はその様子を面白そうに見ている。
「今日はどうしたの?」
「ハイ、実は先日助けてもらったお礼をしようと思い両親に話したら、ぜひ会って自分からもお礼がしたいと父が言いま
して、昨日ようやく休みの都合がついたので、そのお誘いに来たんです」
 真一郎の質問に、笑顔で答えるさくら。後ろの少女達の事はまったく目に入っていないかのように、まったく目を向け
ない。事実入ってないのかもしれないが……。
 その事が、さらに唯子とみなみの神経を逆なでしている。
(真一郎、その娘いったい何者なの?唯子の知らない女の子と楽しそうに話さないでよ!!)
(相川君、そんな娘と話してないで、わたしと話してよ。そのほうが絶対に楽しいはずだよ!!)
「でも俺、たいした事はしてないよ」
「それでも、あの時私を助けに来てくださったのはあなただけです。本当に嬉しかったんです」
 そんな事を言い、よりいっそう頬を赤く染めてはにかむさくら。
(か、可愛い!!それになんて可憐なんだ!!ああ、こんな娘が彼女だったらいいのに!!)
 さくら、真一郎内好感度急速上昇中!!
 ここに至って、このままでは拙いと思った二人の少女が邪魔に入る。
「ねぇねぇ、真一郎、早くラーメン食べに行こうよ。唯子お腹が空いちゃった」
「そ、そうそう、わたしもお腹ペコペコですぅ!!」
 二人の勢いに、真一郎はいぶかしく思いながらも、さくらに気を取られている為に、彼女達の心がわからず、話を邪
魔した事を咎める。
「唯子も、岡本も、今大事な話をしているから、邪魔しないで。そんなにお腹が減っているなら先行っててもいいから」
 その言葉に、ショックを受けて、呆然と立ち尽す二人を無視して再びさくらと話し始める真一郎。
「それで、お誘いって何時、何処へ行けばいいの?」
 初めて唯子達のほうをちらりと見て、軽く頭を下げると、また視線を真一郎にロックオン状態にして話し始めるさくら。
「今週の土曜日の午後なんですけど、大丈夫ですか?」
「ああ、空いてるよ」
「それじゃあ、その日の放課後ここで待っていてもらえますか?学校が終わりしだい私が迎えに来ますから」
「OK!!その日を楽しみにしてるよ」
 楽しそうに話す二人、その二人を見ながら唯子とみなみの心に嫉妬の炎が燃え盛る。
((絶対邪魔してみせる!!))


>マンション料理天国701号室
 駅近くにある7階建ての高級マンション「料理天国」。ここの最上階である7階に耕介と瞳の住む部屋がある。
 耕介が701号室、瞳が702号室である。
 そして、今瞳の姿は701号室にある。帰り際耕介に言ったように夕食の為に来ていたのだ。
 メニューはチャーハンとワンタンスープ。それからチンジャオロースーの中華風のものである。
 時間は十九時四十分、もうすぐ耕介が帰ってくる頃だ。
 料理の準備はすでに整っていた。髪を纏めていた白いリボンを外してスカートのポケットへと仕舞う。
(後は、私の準備だけね)
 キッチンからリビングに向かいながらそう考えると、瞳は着ていた若葉色のブラウスのボタンを無造作に外し始める。
 あっという間にボタンを外し、ブラウスを脱ぐ。そのままブラウスをリビングのソファアの背もたれに掛ける、服の下か
ら現れた瞳の上半身にはバストサイズ九十センチをほこる豊かな胸を隠す白いレースのブラのみとなる。
 次に瞳は白いジーンズ生地のスカートのホックを外し、ストンと足元に落とす。これもブラウスと同じようにソファアに掛
け、ついでに靴下を脱いで一つに纏め、スカートのポケットに入れる。
 スカートの下から現れたのは真っ白な肌の細く長い脚と、きゅっとしまったヒップを包み隠すブラとおそろいの白いレ
ースのパンティーだった。
 その格好で、一度浴室に向かい、お風呂の温度を確かめる。
「うん、丁度いいわね」
 再びリビングに戻り、豊かな胸の谷間にあるフロントホックを無造作に外しブラを脱ぎ、ソファに掛け、そしてパンティ
ーも脱ぎ去り、ソファに掛ける。
 一糸纏わぬ姿となった瞳は、長い髪をタオルで纏めると、浴室に入り、まずはシャワーを浴びる。
 瑞々しい白い肌に水がはじかれ、玉になって流れ落ちる。
 その身体は、二等巡察官として銀河系の犯罪者と戦っているとは思えないほど、華奢に見える。
 腕も、脚も、お腹も、柔らかそうな肌をしており、時として生身のまま全身機械で覆われたサイボーグ犯罪者を叩きの
めすだけの力を秘めているようにはとても見えない。
 ひとしきりシャワーを浴びると、浴室にある鏡を見る。それは全身が映し出せるほど大きなもので、湯気で曇ったのを
手でふき取ると、瞳の顔、胸、お腹、そしてその下にある足の付け根の薄い茂みまで映し出す。
「うーん、我ながら良い身体してるよねー。胸だってこんなに大きいしさ。」
 そう言いながら鏡に映った胸を見る。それは豊かだが、重力に負けずつんと上を向き、綺麗な形を保っている。
「ハァ、耕ちゃんは私の何処が不満なんだろう?」
 声に出していってみると、ますますその事が気に懸る。
(双方の両親も賛成しているし、職場でも皆が応援してくれている。長官は自分達夫婦が仲人をするから早く結婚したら
どうだい?って言ってくれてるし、耕ちゃんのお母さんは早く孫の顔が見たいって電話で話す度に言ってるのに、肝心の
耕ちゃんが動いてくれないんじゃあね……)
 そうして、考え事をした後、スポンジを手に取り泡立て、身体を洗い始めるのだった。


>さざなみ寮リビング
「神咲先輩!!」
 帰宅してからリビングで百面相をしながら耕介の事を想っていた薫は、帰宅してきた後輩(色々な意味で)の声に現実
に引き戻される。
「面白い顔して遊んでいる場合じゃないです、一大事です!!」
 みなみは大声を出しながら薫に詰め寄ると、肩をつかんで薫を揺さぶり始める。
「聞いてください!!私の相川君を誘惑する蟲が出てきたんです!!」
 サザナーミ皇国一の怪力を誇るみなみに力一杯肩を掴まれた薫はそれどころではなく、肩を握りつぶさんばかりの握
力の前に声にならない悲鳴を上げていた。
「ちょっと綺麗な顔してるからって、いい気になっているに決まっています。ここは私という娘がいる事を思い知らせなく
ちゃいけないと思うんです!!」
「わかった!わかったから!ちょっと力を抜いて!!」
 その声にようやく我に返ったみなみが薫を放す。薫は激痛をあげる肩に、一度ソファに身を沈める。
「す、す、すす、すいません!!」
 今度はぺこぺこ頭を下げるみなみを見て苦笑しながら話を聞く体制にはいる薫。
「そんなに謝らんでよかよ。それより順序だてて話してくれない?」
「あっ、ハイ!!」
 そうして、みなみは自分が気に入った少年の事、彼の幼馴染の事、一緒にラーメンを食べに行く約束をした事、その
途中で会った少女の事、その少女と少年の仲が良かった事、その少女が結局ラーメンも一緒に食べていった事、その
所為で自分が少年と大して話せなかった事を薫に話して聞かせた。
 全部聞き終わると薫がみなみに質問を始める。
「じゃあ、岡本はその少年が好きなんだな?」
「ハイ!!」
「だけど、その少年に自分より仲がいい娘がいるって事なんだな?」
「ハイ!!」
「で、どうにかして少年を自分のほうに振り向かせたい、そうだな?」
「ハイ!!」
「そんな事言われてもうちにだってわからん!!」
「ええ!!そんな!!」
「こればっかりは心の問題だからな。魔術や洗脳装置を使って好きになってもらってもそれは本物じゃなか!!だから
最終的には自身の魅力で勝負するしかなかよ」
「はーい(ライバルを力ずくで排除していくって手もあると思うんだけど……そうだその方が手っ取り早いよね)」
 なにやら物騒な事を考え始めたみなみは暗い目をしながら呟いた。
「相川君、誰があなたに相応しいかすぐに教えてあげるわ」
 ちなみに薫はまた百面相をしていた。


>さざなみ寮地下「地球侵略前線基地」バイオボーグ制作室
 チカが、新しいバイオボーグの状態をチェックしていると扉が開いて小柄なチカよりもさらに小さな影が入ってくる。
「チカボー、今暇ー?」
 そう声をかけたのはサザナーミ皇国正規軍元帥ミオー・ジンナーイである。
 もっとも、彼女の地位は名誉職であるため、その地位に反して仕事はまったくない。
 しかも、キャット族、それも族長の血が混じっているため猫耳と二本の尻尾を持っている彼女は、自分達の正体が簡
単にばれないように基地内か寮の庭でしか遊んではいけないと言われているので、少々欲求不満になっていた。
 それがわかるのか、寮の住人や基地内で勤務している者達は彼女が遊ぼうと言うと断らない状況にあった。
 もっとも、チカは以前から彼女と仲が良く、お昼を一緒に食べる事がよくあったので、彼女の訪問は大歓迎だった。
「うーん、後少しで終わるから待っててくれる?」
「いいよー」
「それじゃあ、あの棚にお菓子が入ってるから食べていいよ」
 チカが、入り口近くの機械の脇にあるキャンディボックスを指差すと、珍しくミオーは首を振った。
「さっきカンナーに怒られたばっかなのだ。お菓子食べ過ぎだって」
「アハハ!!」
「笑い事じゃないのだ!!」
 ミオーがなんとも言えない情けない表情をしたので、チカが声を立てて笑うと、ミオーは怒って頬を膨らます。
「ごめん、ごめん、ミオーちゃんにとっては一大事だよね」
「うむ」
 チカが謝るとミオーは偉そうに腕を組み、いかにも大儀であったとばかりに肯いてみせる。
 そうして二人で笑いあっている内に、最終項目のチェックが終わる。
「よし、異常なし。これで実戦に投入できるようになったわ」
 チカが満足そうに肯いているのを見て、気になったのか、ミオーが検査台の上にいるバイオボーグを見る。
「ねぇねぇ、チカボー、またあれに名前をつけてもいい?」
「うん、いいよ。なんと言っても前のは傑作だったもんね」
 二人して意味深な笑顔を見せた後、ミオーがおもむろに口を開く。
「こいつの名前は……」

つづく

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なかがき

こんにちは、小島です。
前の作品から結構間が開いてしまいました、申し訳ありません。
ようやくシェフダー二話中編をお届けします。

今回の見所は、以前より宣言していた瞳の入浴シーンです!!
苦労しました、書こうとするとなぜか邪魔が入るという呪われたかのような状況の中、ついに完成しました。
このシーンを載せるために散っていった多くの英霊達についに報いる事ができました。
まったく感無量です。

後編の展開はもう決まっているので今回より早くお届けできると思います。

それではまた、アディオス!!


メールアドレス:mk_kojima2@yahoo.co.jp


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