Written by 小島
>サザナーミ皇国移住艦隊旗艦『小波』
金属製の壁に囲まれた通路を一人の少女が歩いていた。
青い髪をポニーテールにまとめ、その年頃の少女としては鋭すぎる眼光を持ったその少女は、兜こそつけてなかった
が全身に煌びやかな鎧、いやプロテクターと言ったほうがいいか、を身に着け、腰には少々反りの入った太刀らしきも のを佩びていた。
彼女が身に着けるプロテクターは身体の主要部分に白金の金属が覆い、間接部などは黒いラバー素材に包まれた、
全身をくまなく隠すもので、胸甲にあたる部分には竜の頭部を模した形をとっていた。
通路の途中にあったエレベータに乗り数回層上った先は、先ほどまでの無機質な金属の壁ではなく、美しい彫刻が彫
られた木製の壁、綺羅びあかなシャンデリアの吊るされた高い天井(ここには素晴らしい天井画が描かれている)のあ る異質な場所だった。
少女はそのまま正面の通路を進み巨大な扉の前で立ち止まると、扉脇にいたこれまたプロテクター姿の少女に名を
告げた。
「近衛将軍カオルー・カンザッキ、陛下の御呼びによって参上いたした。」
「承っておりますぅ。」
左側のショートカットの小柄な少女が答えると、部下らしきもう一人の少女に扉を開けるように指示した。
「ミナミ、近衛一番隊隊長であるおまえが門番なんてしなくてもいいはずだぞ。」
カオルーは、自分の一年後輩にあたる少女に苦笑しながら小声でそう言うと、ミナミの返事を聞かずに扉をとおって
中に入っていった。
カオルーは、謁見の間に入ると玉座のある舞台の下まで近づき、片膝をついて礼をとるとそのまま報告を始めた。
「近衛将軍カオルー、お召しにより参上いたしました。」
玉座に座っているのは、サザナーミ皇国第126代女帝クィーン・アーイだ。
アーイは、茶色の長い髪をした優しげな瞳を持つ女性で、その瞳のがあらわす通り優しい女性でさざなみ国民に非常
に信頼されていた。
玉座の隣にはもう一つ席があったが、こちらは空席であった。
そしてカオルーの周囲には数人の女性が立ち並びカオルーを待っていた。
アーイはカオルーに立ち上がるように言うと、用件に入った。
「カオルー将軍まずはUGPの巡察官の捕獲大儀でした。」
「ハッ、ありがとうございます。」
「それで、地球移住作戦の進み具合はどうですか?」
「ハッ、まずはテストケースとして地球の先進国家の一つ日本という国にある自然環境の豊富な海鳴という街に地上基
地を設け始めております。」
カオルーがそう言うと謁見の間の空中にモニターが現れ、海鳴の街を映し出す。
しばらく街の主要施設などを映し出した後、問題の基地建設地点を映し出した。
「素晴らしい場所ですね、ここにはいつ頃どのくらいの人数が移る予定なの?」
アーイの質問にすかさずカオルーは答える。
「時期は基地の完成予定が後三日ほどかかるので偽装工作を考えると一週間後くらいになります、人数は余り大勢の
人間が住むと不審に思われるのでだいたい十人ほどを予定しています。」
この言葉に脇に控えていた女性の一人が声をあげた、黒いショートカットとその身を包む黒いローブを通してもわかる
メリハリの利いた美しいボディーライン、そして知的な瞳を隠すように掛けられた眼鏡、皇国宰相の位にあるマユーキ・ ニムラーだった。
「それでは基地の守備が薄くなるのでは?」
「基地の地上部分はカモフラージュのためにほとんど地球の一般家庭と変わりありません、主要設備は全て地下に作
りました。そして、この地下の部分とこの艦を亜空間通路によって結びつけ、地下で働く人員と警備兵はこの通路を使 い直接地下に入ってもらい地上に顔を出さないようにします。」
「随分と警戒してるな。」
「そう時間がかからずに新たな巡察官、それもソロネ以上のものが現れるかと思われますので。」
真剣に討議している三人に先に来ていた女性の一人が声を掛けた。
「もう、カオルーちゃんもマユーキさんもアーイ様もちっと緊張し過ぎや、いつも通り和やかにいきましょう。」
栗色のウェーブのかかった髪をした美女、声を掛けた女性の容貌を端的に言い表せばそうなる。
美女が着ているのは国教である「マキハラ聖教」の神官が着る神官衣(インドのサリーのような服、基本的に白一色
で作られるが、高位の位の者が着るものほど装飾される色が増える)の最高位である10色の色が使われた大司教の 神官衣がその身を覆っていた。
そう、この美女は「マキハラ聖教」大司教のユーヒ・シーナその人であった。
その大司教ユーヒの意見に賛成したのは、幼くして皇国技術長官の位と、皇国魔術兵団副団長を兼任するマユーキ
の妹チカ・ニムラー(グリーンのローブを着ていて、金に近い色の長い髪を二つに分けて縛っている)と、女帝の血縁に して、宮廷内の雑事を統括する女官長カンナー(深緑色のロングヘアーを高く結い上げて、紺色に染めたシルクのドレ スを着ている)の二人であった。
なお、この場にはいないが「サザナーミ皇国」には後二人重臣がいる、クィーン・アーイの養女にして、皇国魔術兵団
長のプリンセス・リスティ、そして皇国正規軍元帥ミオー・ジンナーイの二人である。
もっともミオーの方は皇国の名門貴族であるジンナーイ家唯一の生き残りである彼女のために用意された名誉職の
ようなもので、実際にはその配下にあるコトラ将軍や、ジロー(女性上位にある皇国では珍しく男性の高級軍人である) 将軍が采配を振るっている。
大司教ユーヒの言通り謁見の間から皇族のプライベートスペースに場所を移し、お茶を飲みながらという事になった。
「それでな、カオルーちゃん。」
「何ですか、シーナさん?」
「いや、地上基地に行く人員は決まってるの?」
「まだですが?」
「実はな、うち地球に下りてみたいんよ。」
この言葉にカオルーはとっさに反応できなかった。
「あぁ、良いんじゃねーか、環境もよかったし、骨休めのついでに皆で降りてみるか。」
「いいですねー、私も賛成です。」
マユーキとアーイも降りる事に賛成していた。
(カオルーさん、硬直しちゃってる、無理もないかな、でも私も降りてみたいから……カオルーさんごめんなさい)何やら
葛藤もあったらしいが、チカも降りる事に賛成した。
「ちょっ、ちょっと「さー決まりだ決まり、皆準備するぞー。」」
カオルーが止めようとした時には遅くあっという間にばらばらに部屋を出ていってしまった。
一人残された部屋の中で、力なくうなだれ溜息をつくカオルーだった。
>海鳴・桜台
ここでは急ピッチで工事が進んでいた。
指揮を取るのは、ミオー元帥配下のキャット族のコトラ将軍だった。
コトラ将軍は胸甲が虎を模しているプロテクターを身に着けていた。
「ガンバレー後少しだよー。」
なんだか緊張感の無い現場だが、地球の建築技術では到底無し得ないスピードで作業は進んでいた。
その現場に近づく怪しい影があった(いや、この現場にいるメンバー全部怪しいといえば怪しいのだが)。
「フッ、なんだか様子が変だと思えばこんな事をしているとわね。」
怪しい影の正体は背の高い赤茶色の髪をした美男子だった。
物陰に隠れながら工事現場を見渡していた男は、ふと、コトラに目をつけると舌舐め摺りをした。
「美しい、そしてなによりもその身から発する清らかなオーラ、私の獲物にふさわしい。」
男は、物陰から出ると普通の地球人では出す事のできない超高速でコトラ将軍へと迫る。
「サンダーブレイク!!」
後一歩でコトラ将軍にその手が届く距離にきた時、閃光とともに横合いから強力な雷撃を受け、吹き飛ばされる。
「くっ、何者だ!?」
地下から銀髪に硬質の美貌を持つ少女が現れた。」
「サザナーミ皇国第一皇女、プリンセス・リスティ。」
「リスティ様ありがとうございます、後は私が。」
間一髪のところを救われたコトラ将軍がリスティの前に立ち、その身をかばう。
一方吹き飛ばされた男は、工事現場特有の赤土の泥にまみれ、雷撃が当たったところを黒こげにしている事に全く
気付かずに、櫛を取り出し髪を整えると、カッコをつけて、ナルシーな笑みを浮かべながら、
「(サザナーミ皇国そんな国あったか??まぁいいこの娘も可愛いからそれだけで十分だ)御会いできて光栄ですよ、プリ
ンセス。」
と言い、その瞳を紅く光らせた。
「あなた方のように美しい人達を、我が僕に加えられるとは嬉しい限りですよ。」
そう言って高笑いを続けていた男だったが、その紅い光を受けた二人は、コトラのほうは少し顔をしかめていたが、プ
リンセスリスティの方は涼しい顔で新たな呪文を唱えていた。
「ライトニングバインド!!」
高笑いを相変わらず続けていた男はこの一撃をくらってあっさり気絶した。
「コトラ、洗脳装置にかけた後改造しちゃって。」
「ハッ。」
そう言うとコトラは、男を引っ張っていった。
「この星には変なやつもいるんだな。」
皇女はそうつぶやいていた。
>海鳴・風芽丘高校
コースケとヒトーミがそれぞれ槙原耕介、千堂瞳としてこの星に着任して2週間が経っていたが、あまり捜査は進んで
いなかった。
ちょうど、4月の入学・転勤の時期に当たっていたので周囲からは余り怪しまれなかったが、お互いの容姿が問題だ
った、耕介は2m近い身長を持つ巨人だったし、瞳の容姿は異性の視線を集めるのに十分に美しかったからだ。
特に耕介はその巨体とミスマッチな家庭科の教師という事でどこへ行っても目立ってしまい、捜査どころではなかっ
た。
さらに、瞳の手によって履歴が変更されていて、耕介と瞳は親同士が決めた許婚となっていてその事でさらに注目を
浴びていた。
「うぅ、何でこんな事に…。」
その日も耕介はぶつぶつ言いながら担任を受け持ったクラスへ朝のホームルームへ向かっていた。
クラスの戸を開け、少し屈んで教室内に入ると、日直の少女が号令をかけた、「起立!」
今日の日直は耕介や瞳と同時期に転校してきた少女で、神咲薫だった。
「礼!……着席!」
生真面目な性格の少女の号令に、クラス中が心地よい緊張に包まれていた。
「出席は………全員来てるな、今日の連絡事項は一つだけだ、3・4間目の家庭科は被服室で行うので授業前にきち
んと移動しておいてくれ。」
教壇に立って連絡事項を告げる耕介を見つめる瞳が2対あった。
1つは瞳だった(うーん相変わらず真面目よねー、せっかく許婚って設定や、部屋を隣同士にするようにをシズマー長
官に頼んでつけてもらったのにいっこうに動かないんだもの)。
もう1つは薫だった(槙原先生、家事全般ができる上に逞しい……なんて素敵なの、千堂の許婚でなかったら良かっ
たのに、でも、なりゆきで地上勤務になったけど、運が良かったのかも…)。
そう、女性上位のサザナーミ皇国において男性に期待されるのは家事の腕と力仕事のみだった。
つまり、耕介は皇国の女性にとって見れば理想の男性だったのだ(顔も並よりは上だしね)。
そして、カオルーは正体を隠すためのカモフラージュの為に神崎薫と名を偽って入学したこの学校で、その理想の具
現とも言うべき耕介にあって好きになってしまったのだ。
昼休み、瞳と薫は、数人の友人たちと一緒にお弁当を食べていた。
「ねぇ、前から思ってたけど瞳って料理上手いよね。今度料理教えてくれない?」
瞳は何でそんな事を言われたのかわからない表情で答える。
「えっ、私そんなに得意じゃないわよ。」
「またまたー、こんなに美味しそうなお弁当作ってきておいて、それはないんじゃない?」
周りの友人達もちょっと怒った顔で瞳を睨む。
「このお弁当?私が作ったわけじゃないわ。」
「千堂、確か一人暮しだったはずじゃ?」
「そうそう。」
薫の疑問にみんながうなずく。
すると瞳は一転して得意げな表情を見せるとここぞとばかりに爆弾発言をしてみせた。
「このお弁当は、隣の部屋に住んでるマイ・ダーリンが作ってくれたのよ。」
(それってまさか!!)薫は思わず目を剥いて瞳を見る、他の友人達もさすがにあっけにとられた後、一人が恐る恐る瞳に
聞く。
「そのマイ・ダーリンって、槙原先生の事?」
「他に誰がいるの?」
(うらやましいな瞳、槙原先生うちにもお弁当作ってください。)
この発言を聞いていた数人の男子生徒が淫行教師を断罪する会を結成したのはまた別の話しである。
瞳が爆弾発言をかましていた頃、学食ではその瞳達を話題にしている集団がいた。
「なあ、この学園の美少女って言ったら誰を挙げる?相川からな」
「うーん、2年生の千堂先輩かな?美人で、スタイル抜群だもんな。」
「俺は、同じ2年生でも神咲先輩を推薦するぜ、あのストイックで硬派な雰囲気がたまらないな。」
「おれは、俺達の組の御剣だな、忍者って所がミステリアスでいいな。」
「俺は、相川の幼馴染で、背が高いほうの、なんて言ったっけ……そうそう鷹城さん、あの甘い声が可愛いんだよな、最
後は端島だな。」
「俺か?俺はやっぱり俺達の組の岡本か相川の幼馴染の野々村だな。」
端島と呼ばれたちょっと不良っぽい少年の発言はそれなりに盛り上がっていた場の雰囲気を硬直させた。
「端島おまえ前から思ってたけど………やっぱりロリコンだったんだな?」
「ちょっと待て、俺は別にロリコンじゃないぞ!!」
さすがにあせって反論するが、周囲の目は冷たいままだった。
「岡本はともかく、野々村はな……。」
「そうそう、年齢が同じぐらいに見える相川はともかく、おまえが相手だとすると性犯罪者にしか見えん!!」
それに答えたのは最初に瞳を推薦した小柄で、ぱっと見女の子にも見える容貌をした少年だった。
「ちょっと待て!!大輔がロリコンだというのは前からわかっている事だからいいけど、俺まで子供扱いすんなよな!!」
「わりぃ、わりぃ。」
「で、前からって言うと?」
「いやな御剣がな、端島は野々村を見る目が危ないって俺に教えてくれたんでな、小鳥に大輔にはできるだけ近寄るな
って言ったんだ。」
「さすが忍者、観察眼が鋭いな。」
みんなで、感心したようにうなずきあう。
そのとき、ロリコンと決定付けられた大輔はテーブルの下でのの字を書いていた。
そして、授業は進み、6時限目ももう半ばを過ぎた時突如として校庭で爆発が起きた。
激しい、音と光、そして振動が過ぎた後校庭には異形の人影があった。
「ハハハハハハハハハハ…!!」
つづく
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一話中編はどうだったでしょうか?
この先シェフダーは大体1つの話を前後編でやっていきます。
前編は、サザナーミの内部事情とか、学園生活のパート、後編は、基本的に戦闘のパートです。
という事で、この話しも後編は戦闘シーンがほとんどをしめます。
耕介と瞳が縦横無尽に活躍するのをお楽しみください。
それでは後編でお会いしましょう。アディオス!!
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