第一話 着装せよ!! シェフダー(前編)


Written by 小島


(汎銀河連邦政府が、この銀河系にできて今年で1000年経ったのか。)
 汎銀河連邦警察機構(通称UGP)本部に在るUGP長官執務室で呼び出した部下を待ちながらUGP長官シズマー長
官はそう感慨にふけっていた。
 シズマーは今年三十二歳になる、5年前長官を任じられたときには若すぎる長官誕生に不安の声が上がっていた
が、シズマーの指揮のもといくつもの難事件や、警察機構の見直しなど次々と解決していくとその声は次第に消えてい
った。
 特に未開惑星や保護観察惑星に対する、警備に関する宇宙警察法の見直しや、それに付属する警察機構の新制度
である巡察官方式を採用したのは今でも英断だったと言われている。


 巡察官とは、今まで警察機構の中では未開惑星や保護観察惑星の警備に赴任することは左遷も同じで、新人や、能
力的に劣るものがやらされる仕事であったが、この所為で近年こういった惑星で好き勝手をする犯罪者の跳梁を許し
てしまっていた。
 そこで、警察内部や、新たに外部から正義感があり、なおかつ優秀な人材を募り、特別な訓練を施した後に新設され
た巡察官の階級を与えた。
 巡察官は最高位である一等巡察官(セラフ)〜最下級の九等巡察官(エンジェル)(等級名称は、保護観察惑星の一
つである地球の伝承から選ばれた)の九階級存在し、その階級は厳密な能力と実績のみで決められ、出身や年齢に
左右されることはなかった。
 発足当初、現地赴任が任務の絶対条件のため巡察官のなり手は少ないのではないかと心配されたが予想よりはる
かに多くの募集があり、他の職業から転職してきたものもすくなくなかった。
 これはその任務の困難さを考慮し、一般のUGP職員の二倍から三倍の俸給に惹かれた為という意見が多かった
が、おかげで、この制度は今のところ順調に実績を上げている。


 やがて執務室のドア(この御時世においていまだ自動ドアではない)をノックした後、長官第1秘書にして、長官婦人で
あるミサトが入ってくる。
「長官、コースケ一等巡察官(セラフ)とヒトーミ二等巡察官(ケルプ)が参りました。」
「通してくれ。」
「はい、わかりました。」


 そして、待っていた部下が二人通される。
「コースケ一等巡察官、お呼びにより出頭しました。」
 2メートル近くある身長をして、がっしりとした体格をしている、まさしく大男と形容すべき青年がそう報告する。
「ヒトーミ二等巡察官出頭いたしました。」
 深緑色の長い髪を白いリボンで結んだ、美しい容貌の少女が報告をする。
 シズマーはふたりにソファアを勧めると、ドアのそばに控えていたミサトに「ミサト君悪いがお茶を三人分お願いできる
かな、長い話になるんでな。」



「さて、君たち二人にきてもらったのは他でもない、新たな任務のことだ。」
 シズマーの言葉に二人の巡察間は緊張した表情を見せる。
「君たちに行ってもらいたいのは地球だ。」
「地球というと、階級名称の元となった伝承のある星ですよね、確か。」
 ヒトーミが優雅にお茶を飲みながら確認をする。
「そうだ、ここしばらくは比較的平和だった為、前任者であるクニミン七等巡察官(プリンシパリティー)一人に任せてい
たのだが、その彼が現地時間で今から1週間前から消息を絶った。」
 二人の巡察官は緊張の度合いを増しながらもお互いに目と目で会話しながらうなずきあった。
「病気、事故、無線機器の故障とかではないんですね。」
 コースケが確認をする。文明度の低い惑星に派遣されるのだからそういったトラブルの可能性は、実際に犯罪者との
戦闘で命を落とすよりも確率は高かった。
 シズマーは「違う。」とその言葉に対して否定の言葉を一言つぶやくと、状況の推移を語り始めた。
「プリンシパリティー・クニミンからの定時報告がなかったことを不審に思った太陽系分局のUGP職員が通信を入れて
もまったく応答はなく、分局の職員が地球方面のパトロールに行くとクニミンの生命反応シグナルはなく、周囲を調査し
た結果非常に巧妙に偽装してあったが、亜空間航法のドライブアウト反応が確認されたのが四日前。」
 クニミンの生命反応シグナルの話が出ると、巡察官訓練施設の同期で、宿舎の同室であったコースケは言葉なくうな
だれた。
 シズマーの話は続く。
「そして、三日前にクニミンの巡察官に貸与していた超次元戦闘母艦の残骸がアステロイドベルトで発見された。破損ヶ
所からの残留エネルギーのを調べた結果、高出力のエナジーキャノンの直撃を何度も受けたらしく原型をまるで留めて
いなかったそうだ。残骸の中からはプリンシパリティー・クニミンが撃沈時に同艦に乗っていたかどうかはわからなかっ
たが、これによりUGPはプリンシパリティー・クニミンが、殉職、もしくは敵の手の内に落ちたと推測し、新たに巡察官を
派遣することを先ほど決定したばかりだ。」
「(まだ死んだと決まったわけじゃない、生きていれば助け出すチャンスもあるかもしれない、しっかりしろ俺!)それじゃ
あ我々がその任にあたるということですか?」
 コースケが、少し震えた声でシズマーに確認を取る。
「そうだ、前の任務が一昨日終わり休暇に入ったばかりのところを悪いが……。」
「いえ、それは別にいいのですが、その、長官の御子さんと、甥子さんに明日は何か美味しいものを作ってやると約束
していたので、ちょっと悪いことをしたかなと思って。」
「あら、コーちゃん、私とのデートを断った用事ってそのことなの?」
 シズマーとコースケの会話にヒトーミが割って入り爆弾発言をした(ヒトーミもシズマーもごく普通のこととして会話して
いたが)為にコースケは顔を真っ赤にして一人で慌てている。
「ちょ、長官これはですね……、その……、えっと………。」
「まぁ、子供たちには少し我慢してもらうとしてだ、本来セラフではあるが、戦闘任務よりもその事後処理を得意とする君
に行ってもらうのはすまないと思っているが、ケイゴも義兄も家の一族の者達も別の任務で手が離せない状態でね。」
 この言葉にヒトーミはその目を鋭くし、
「今度の相手は、戦闘任務中心のセラフが相手にするような大物なんですか?」
「そうだ、敵は母星の爆発から大船団を組んで脱出した後に安住の地を求めさまよう放浪国家…………サザナーミ皇
国だ。」
「まさに国家規模の敵なんですね……、コーちゃん気を引き締めていかないと私達もクニミン七等巡察官のようになり
かねないわね。」
「あぁ、気をつけようヒトーミ、それで長官、地球における我々が成りすますためのプロフィールは?」
「君たちには地球の日本という島国にある海鳴という街に行ってもらう、この街周辺に特異点反応が強く出ているため
だ。そこでの君達の身分はコースケ君は私立風芽丘高校という教育機関で家庭科の教師に成りすましてもらうこととな
る、ヒトーミ君は同校の二年生に編入するように手配してある、詳しいことは後ほど書簡で送るので、目を通しておいて
くれ、……出発は三日後だ、準備を急いでくれ。解散。」
                                  つづく

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なかがき

こんにちは、小島です。
シェフダー一話(前編)の加筆修正版をお送りします。
この話は、以前とらハSS掲示板に投稿したものを加筆修正したものです。

この一話(前編)は物語のプロローグに当たるものなので、あまり加筆することはないので、ほとんど投稿当時のものを
そのまま使ってます。
誤字等の修正はしましたけど。

シェフダー一話の加筆修正版は前・中・後編を全部いっぺんに送っているので前編のなかがきはこれくらいにしたいと
思います。

それではまた中編で、アディオス!!


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