コラム(5)

 
 

兵営国家と予備士官
 
 
 
 

このあたりで、薫の祖父に関わる事に触れたい。
まぁ、薫の祖父の「裏設定」といえばいいであろうか、そうした事に触れながら当時の兵役などについて、話を進めてい
こうと思う。

平時の陸軍は、満20歳以上の壮丁(今で言うところの成人)に、徴兵検査を経て2年間、兵役につく事を定めていた
(海軍に入隊している者は当然含まれなかったし、学生は、特に文科系の場合「学徒出陣」の昭和18年までは、徴兵
が延期されていた)。ちなみに、志願であれば17歳以上の者も兵役についたとか。
現在の我々は、こう聞くと「じゃあ、(我慢できるかは別として)2年我慢すれば、後は自由じゃないか」と考えるのではな
かろうか。

・・・・・・ところが。

現役2年を終えた者は「予備役」として登録されるのだ。期間は5年4ヶ月。
いざという時には、この「予備役」の者が再召集される。
この長い期間が終わって「ああ、これで兵役ともおさらば」かと思いきや、まだ先があったりする。
「予備役」の期間が終わると、今度は「後備役」とされるのだ。期間は、何と10年。予備役召集でも足りない場合は、こ
の「後備役」が召集されるのである。
ちなみにこの「後備役」、昭和17年には廃止されたが、今度は予備役が15年4ヶ月となってしまった。

まだ終わらない。
満20歳で兵役についた者は、後備役(予備役)が終わる頃には37、8歳になっているのだが、ここで「第一国民兵役」
とされるのだ。期間は満40歳になるまで。いよいよ頭数が足りないようなら、40歳までは召集するぞ、というわけだ。こ
こまでくると、頭がおかしくなりそう・・・・・・。

では、徴兵検査に合格しても、何らかの理由で現役にならなかった者はどうなるのか?
この場合は「補充兵役」として登録される。体格や健康状態などによって「第一」と「第二」に分けられ、現役に欠員が生
じた場合「予備役」よりも優先して召集されるのである。期間は、現役2年+予備役(あるいは+後備役)の17年4ヶ
月。この期間が終わると「第一国民兵役」となった。

以上のどれにもあてはまらない(例えば病人や障害者等)者は「第二国民兵役」とされた。

薫の祖父は徴兵検査には合格したものの、その特殊な事情(まぁ、「神咲一灯流」の人間という事で)から「補充兵役」
とされた、という設定にしている。

さて、現役が終わっても、一度兵役についた者は2〜3年に一度、およそ1ヶ月は「演習」と称して入営する事が義務付
けられ、年1回は簡閲点呼に応じて、それぞれ出身地の連隊区に出頭しなければならなかった。
当時、「在郷軍人会」なる全国組織があったが、これはこうした「在郷軍人」達の組織と考えていいと思う。
軍人会に入会(といっても強制だが)している限り、外出の際には(いつ召集の"赤紙"が来るか分からないから)必ず
家族に行き先を知らせておかねばならず、当時めったになかった海外旅行ともなると、本籍地の連隊区司令官への届
出を必要とした。
昭和期の日本は、学校教育にも軍事教練を取り入れさせていたから、まさにがんじがらめの「兵営国家」だったわけで
ある。

話は変わる。
薫の祖父は、「赤紙召集」で入営した設定である。兵役1年目の階級は二等兵。

では何故、薫の祖父は本編で「少尉」になっているのか?

その疑問に答えるものが「予備士官」である。
正確には「幹部候補生(略して"幹候")制度」と呼ばれるものがその答え。

兵隊として入営した者の中で、志願、あるいは優秀と認められた者(大抵は25歳までの高学歴者。薫の祖父は・・・・・・
まぁ、そこはやはり「神咲」という事で)が半年から1年の教育を受け、ここで「甲種」と認定された"候補生"が「予備士官
学校」に入学した。
入学した者は、トータル1年と1ヶ月(内2ヶ月は見習として各部隊に赴任)で少尉に任官した。
ちなみに「乙種候補生」の場合は、教導学校などで下士官としての教育を受け、兵役満期には軍曹となった。
予備士官学校は、仙台・前橋・豊橋と久留米に2校ずつ、熊本・満州は奉天(現中国・瀋陽)に開校されていた。薫の祖
父は熊本の予備士官学校で学び、卒業後に、当時満州西北部に駐留していた歩兵第71連隊に赴任、少尉任官後比
島に移動した設定である。

授業内容は、通常の学科や軍事的な授業の他、分隊から小隊、中隊と、実地に即した指揮訓練が行われた。さらに過
去の記録を閲覧するなどして、士官としての心得を学んだという。
もっとも、戦況が悪化した末期になると、例えばある少尉が、いきなり「○○部隊を掌握、指揮を執れ」などと命令され
たとして、その少尉は行っても訳が判らぬまま。実質的な指揮官は古参の曹長や軍曹だった、などという例がゴロゴロ
転がる事になった。要するに、この少尉は結局「お飾り」になりに行っただけであったのだ。

・・・・・・さて、本編における薫の祖父=神咲少尉は、皆さんの目にどう映った事であろうか・・・・・・?

 
 
 
 
コラム(5)兵営国家と予備士官 了



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