愛をあげたい……さくらのケーキ・クッキング


Written by 小島


この作品はJANIS/ivoryより発売されているとらいあんぐるハートを元ネタとしております。
この作品は、ネタばれを含んでいます。


愛をあげたい。
あなたに出会えた奇跡に感謝しているから。

愛をあげたい。
共に歩けることの喜びをあなたに知って欲しいから。

愛をあげたい。
あなたが私にくれた幸せを、私もあなたに与えたいから。

愛をあげたい。
甘く、とろけるような愛を。

愛をあげたい。
私の愛を形にして、あなたにあげたい。



 キッチンの椅子に座って真剣な表情で本を読む少女がいる。
 テーブルの上には材料と思わしき卵、小麦粉、砂糖、バター、バニラエッセンスの他に黒っぽい塊がたくさんある。
「うーん、これだと難しくて私にはできそうにないし……」
 少しつり上がった目の瞳は美しい湖を思わせるブルーをしている。
「これだとちょっと地味よね」
 最近伸ばし始めた美しいピンク色の髪は肩を少し越えるくらいの長さになっている。
「かといってこれじゃあ、簡単過ぎて先輩に料理も満足にできない娘だと思われちゃいそうだし……」
 そのピンク色の髪のなかからは先の方だけが白い毛に覆われた犬科の耳が飛び出ている。
「いっそのことケーキをやめてウィスキーボンボンにでもしようかな」
 その小柄で華奢な身体に纏う衣服は少し大人っぽいワインレッドのワンピースで、そのスカートの小さなお尻のあたり
では耳と同じく先のほうだけ白い毛に覆われたピンク色の尻尾がゆらゆらと動いている。
「でもやっぱり、手作りのチョコをあげたいな」
 その白皙の美貌をうっすらと紅く染めて、綺堂さくらは独り言をつぶやきながらチョコレートケーキのレシピをめくり続
ける。
「あっ、これなら見栄えもよくて、簡単過ぎず、かといって難し過ぎない、うんこれで決まり」

「まずはスポンジケーキからね」
 そうつぶやくとさくらは小麦粉を篩(ふるい)にかけ始める、2度・3度とその作業を繰り返す。
 篩にかけ終った小麦粉を一旦そのままおいておいて、今度はボウルの中に砂糖を入れた後、卵を数個割り入れ、泡
立て器でよくかき混ぜる。そして弱火にかけてから充分に泡立てる。それが終わると、さくらはうっすらとかいた汗を拭
ってひといきをいれる。
「ふぅ、結構力を使うんですよね、ケーキ作りって」
 今度は、先程篩にかけた小麦粉をボウルの中に入れ、さらにバニラエッセンスを加え、木杓子で丁寧にかつ充分に
かき混ぜる。
「ここが肝心なんです。先輩美味しいって言ってくれるかな」


注:ここからはさくらの妄想です。
 夜、真一郎の部屋で、ふたりっきりの状態でケーキを渡すさくら。
「先輩、チョコレートケーキです、お口に合うかわかりませんけど食べていただけますか?」
「さくら、ありがとう。早速食べさせてもらって良いかな?」
 にっこり笑いながらさくらに問いかける真一郎。
「はい、どうぞ」
 緊張の面持ちで、箱をあけてケーキを口に運ぶ真一郎を見るさくら。
「美味いよ、さくら!!」
「本当ですか!?」
「あぁ、本当さ」
「嬉しい」
 真っ赤になって喜ぶさくらを優しげな瞳で見つめる真一郎。
 そして、真一郎がそっとさくらを抱き寄せ、さくらの耳元でささやく。
「ケーキを食べたら、さくらも食べたくなっちゃったな」
注:妄想終わります。


「キャー、もしかしたら本当にそうなっちゃうかも(喜)」
 真っ赤になって、頭をぶんぶんと振り回す。しかし、そんな怪しげな行動をしながらも、手はなぜか丁寧に撹拌作業を
続けている(苦笑)。
 そこへ、風芽丘の制服を着た涼しげな目をした美男子がキッチンに入ってくる。
「騒がしいぞ!!さくら」
 さくらの義理の兄、氷村遊だ。
「ほう、チョコレートケーキか。そうか明日はヴァレンタインだったな。下民どもが作ったおかしな風習だが兄に好意をあ
らわすのは良い事だな、さくら」
 髪をかき上げつつ、好き勝手な事をほざく。
 さくらは義兄に冷たい視線を送ると、鼻で笑った。
「くすっ、私には高校を留年するような情けない義兄はいないと思ったんですけどね、遊?」
 そう、遊は昨年の2月頃風芽丘学園内で吸血行為をするという大事件を起こしたのだが、さくらと真一郎、そして真一
郎の幼馴染の鷹城唯子、すでに風芽丘学園を卒業しているが(遊と違って)、当時3年生で風芽丘学園護身道部の部
長だった千堂瞳の活躍で事件は解決し、遊は逃げたのだったが、ほとぼりが冷めた頃また海鳴に戻ってきたのだっ
た。
 しかし、もうすぐ卒業の2月だったとはいえほとんど1ヶ月まるまる無断で休んだ遊が卒業できるわけはなく、めでたく
留年となり、今年は真一郎と同じクラスになったのである。
「クッ、そ、それでは、そのケーキをこの義兄ではなく誰に渡すというのだ?」
「もちろん相川真一郎先輩に決まってます」
「まだ、あんなチビと付き合っていたのか?」
 遊のこの台詞はさくらの許容範囲を超える一言だった。
「遊、そのチビが原因で7連敗したのは誰でしたっけ?」
「ぬぅ、なんの事かな?(汗)」
「知らないと思ったの?」
 実は、遊はここ最近校内での軟派に失敗し続けていた。その理由は最近カウンセラーになりたい(機会があったら別
の話で)という目的ができて、その夢に向かってひたむきに努力している真一郎に、同級生や後輩の女生徒が次々に
撃墜されていて、そのために下心満載の遊の軟派はあっさりと断られることが多かったのである。
もっとも知られたくなかった汚点を見事に突かれた遊は蝙蝠に変身すると夜の街へ飛び去っていった。
「覚えてろよー!!(泣き)」


 お馬鹿な義兄を撃退したさくらは、ケーキ作りの続きに戻った。
 滑らかになるまでかき混ぜたものに、今度は溶かした無塩バターを加え、バターが混ざりきるまで静かにたねをかき
混ぜる。
「あと少し……上手く膨らむといいんだけど」
 型に入れたらオーブンで焼き始める。

 次にチョコレートを細かく削る。
「はぁ、この作業大変なんですよね……でも先輩に喜んではしいから(最近敵が増えましたし)」
 充分な量が確保できたら小さなボウルに入れておく。
 別のボウルに生クリームと砂糖を入れボウルごと氷水で冷やしながら堅く泡立てる。
 できたホイップクリームを半分は搾り器に入れ、もう半分は取っておく。
「うん、上手にできた。これならうまくいきそう」
 先程おいておいたチョコレートを湯煎で溶かし、溶かしたものをホイップクリームと混ぜて、チョコレートクリームを作
る。
 さくらはここで、チョコレートクリームをなめて味見する。
「うん、今までで一番うまくできてる」
 焼きあがったスポンジケーキを型から出し冷蔵庫で軽く冷やす。
「うまく焼けてるみたい。よかった失敗しないで」
 スポンジケーキを冷やしている間に缶詰のサワーチェリーやみかんを別々の鍋でコーンスターチといっしょに軽く煮
て、臭みを飛ばす。
「この一手間で随分と味が変わりますから。後は、デコレーションするだけですね」



 まず、スポンジケーキを3段に切り分ける。
 最下段に、まずホイップクリームを塗り、次に先程作ったサワーチェリーを並べていく。
 2段目にも、ホイップクリームを塗って、それから缶詰のみかんを並べていく。
 最上段には、チョコレートクリームを塗り、それからケーキの側面にもチョコレートクリームを塗る。
 次に、搾り器のキャップを換え細いものにして、白と黒の線でドレープや、クリームの小山を作る。
 さらに、細い針のように削ったチョコレートを全体的に降りかけて、最後にハート型に型抜きした板チョコをのせて完
成。
「できた!!………もうこんな時間。寝不足の顔を見せたくないから早くお風呂はいって寝なくちゃ」
 時計を見たらいつのまにか23時を過ぎていたので、急いでケーキをラッピングして、後かたづけをしてから部屋に戻
る。
(明日は、お泊まりセットを持って学校に行かなくっちゃ。あと、新しい下着の準備もしとかなきゃね。)





 翌日、いつも以上に気合を入れて身支度をした後、余裕を持って登校して家庭科室の冷蔵庫にケーキをしまう(先生
や家庭科部の生徒には許可を得ている)。

 昼休み、いつものように図書室で待ち合わせてお昼を食べる(当然真一郎手作りのお弁当)。
「先輩、今日先輩の部屋に行ってもいいですか?」
 真一郎は、さくらが何も持っていなかったので少しがっかりしていたのだが、その言葉を聞いて顔色をぱっと明るくして
何度もうなずく。
「うん、さくら来てくれると嬉しいな」
「はい、チョコレート……先輩の部屋で渡します」
 顔を真赤にして、真一郎にチョコレートの事を話すさくらに、真一郎はこれまた顔を真赤にして答える。
「嬉しいよ、さくら。さっき何も持っていなかったからもらえないかと思っちゃった」
「ごめんなさい」
「いいよ、俺が早とちりしただけなんだから」
「それじゃあ、放課後校門で待ってます」
「うん」
 こうして放課後の約束をした2人だった。


 そして、真一郎の部屋。
 すでに真一郎の作った夕飯は食べ終わり、いよいよさくらが作ったケーキが真一郎に渡される。
 ゆっくりと箱を開けた真一郎はそのケーキを見て驚いていた。
「すごい、これさくらが作ったの?」
「はい」
「大変だっただろ?」
「少し、でも先輩のためだったからその苦労も楽しかった」
 俯いて頬の赤さを隠すさくらを見て、真一郎の顔も赤くなっていく。
「これ食べていい?」
「はい、その為に作ったんですから」
 ケーキを一切れきりとり口にする真一郎、そしてそれを緊張した表情で見つめるさくら。
「美味い、さくら美味いよこれ!!」
「良かった、ありがとうございます」
「なに言ってるんだ御礼を言うのはこっちだよ、こんな美味しいケーキを作ってもらったんだから」
「でも、言いたかったの」
「なら、俺からもありがとうさくら」
 お互い御礼を言いながらもテーブルの下でそっと手をつなぐ、そしてゆっくりと顔が近づき、静かに唇が触れ合う。
 甘い夜は始まったばかりだった。



 翌日、艶々の肌で喜色満面なさくらと、疲れて、目に隈を作った真一郎が手を繋いで登校してきたシーンが多くの生
徒に目撃される事になるのですが、いったい昨晩何があったのかは皆さんのご想像にお任せします。


Fin


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あとがき

こんにちは、小島です。

ヴァレンタインデー記念SS「愛をあげたい……さくらのケーキ・クッキング」はいかがだったでしょうか?
私のお気に入りキャラであるさくらのヴァレンタインデー前夜と当日を題材にしてみましたが、皆さんに楽しんでいただ
けたでしょうか?
少しでも面白いと思っていただければ幸いです。

今回も管理人様には色々と御手数をおかけして申し訳ありません。
そして、本当にありがとうございます。

では、また別のSSでお会いしましょう。
それではまた、アディオス!!


メール:mk_kojima2@yahoo.co.jp

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