たまには休日を……日曜日に耕介は


Written by 小島


この作品はJANIS/ivoryより発売されている「とらいあんぐるハート2 さざなみ女子寮」を元ネタとしております。
この作品は、ネタばれを含んでいます。
この作品における方言はかなり適当です、こんなの関西弁(鹿児島弁)じゃないという方がいてもおおめに見ていただ
けると嬉しいです。
 
 



 
 リビングの窓から外を見れば久しぶりに雲一つない青空が広がっていた。
「うーん、今日はいい天気だ」
 俺は伸びを一つしてからキッチンへと向かった。
 ようやく梅雨があけたらしく、先週の水曜から雨が降っていなかったが、今日はこの6月一番の快晴だ。
 今年は五月に雪が降るという異常気象が起こったので、空梅雨だったり、異常なまでに雨が降り続くことを心配してい
たが、程よい雨の降りで、水不足の心配も、庭木の根腐れの心配もなかった。
 さてと今日の朝食は、純和風に白いご飯と蜆のみそしる、焼き魚に鯵の干物、茄子の浅漬け、それからオカラだ。
 
 俺の名前は槙原耕介、昨年の春より従姉の愛さんが経営する女子寮の管理人にひょんなことから就職してしまった
男だ。
 山の中にあるこの寮は位置的に少し不便だが自然に囲まれたいい環境にある。
 俺はこの寮に就職できて本当によかったと思っている。
 今日も本来なら休日である日曜日なのだが、朝早くに起きだし、お風呂の追炊きなどの細々とした仕事を終え、朝食
の準備をはじめたところだ。
 

「ふぁ〜、おはよ〜…」
 あくびをしながらキッチンに入ってきたのは真雪さんだ。
 真雪さんはこの春、国立海鳴大学を卒業し、少女漫画家一本になったのだが、相変わらず不規則な生活を送ってい
る。
「おはようございます。真雪さん、また徹夜ですか?」
「あぁ、調子にのって連載を一本増やしたら、もーきついのなんの……」
「大変ですね。それじゃあ、朝食の後はお休みですか?」
「んー、そのつもりー」
 そういうと、真雪さんはリビングのほうへ行ってしまった。


 俺が料理を再開してすぐに凛々しい声で挨拶が聞こえた。
「おはようごさいます」
 入ってきたのは、薫だ。
 薫はこの春、海鳴大学に進学して大学生になった。
「おはよう、薫。今日も早いな」
「耕介さんこそ」
「俺は仕事だからね。風呂沸いてるから入っておいで」
「ありがとうございます」
 薫はそう言って微笑むと、片手に持っていた十六夜を俺に渡し風呂場へと向かっていった。
 

「あらあら、耕介様、恋人同士の会話としては少しそっけないんではありませんか?」
 日当たりがよい場所に置いた太刀から少しからかうような声がすると、一瞬にして美女が現れた。
「おはようございます、十六夜さん。あんまりからかわないでくださいよ」
 そう言うと、十六夜の隣に置いてあった、御架月から銀髪の少年が現れた。
「そうですよ、姉様。耕介様も薫様も恥ずかしがり屋なんですから、あんまりからかうと可哀相ですよ」
 この少年は御架月、十六夜さんと同じく神咲の一族に作られた霊刀の剣霊だ。
 一度はその刀身を折ってしまい、一度消滅しかけた御架月だったが、薫の大学入学と前後して目覚め、その後、い
ろんな人と話した結果、神咲の霊剣として生きることを決め、御架月が目覚めた時の為に造っておいた新しい太刀に
その身を移した。
 そして、薫の大学入学を機に婚約し、将来神咲の一族に入り、裏の仕事を受け持つことが決まっている俺が一時的
に預かるという形でこの寮にいることとなった。
「そうですね、シルヴィ。耕介様申し訳ありません」
「いえ、いいんですよ」
 その後、二人が姉弟の会話にはいってしまったので、俺は料理に戻ることにした。
 
「耕介さん、おはようございます」
「お兄ちゃん、おはよー」
「耕介君、おはよう、今日もええ天気やね」
 朝食の準備が後少しで終わるころになって三人の女性がキッチンに入ってきた。
 上の台詞からこの寮のオーナーで、俺の従姉の槙原愛さんと、真雪さんの妹で、俺とは義理の兄弟の契りを結んだ
仁村知佳、そして、歌手で、本来ならイギリスのクリステラソングスクールに留学中の椎名ゆうひの三人だ。
「耕介さん、お休みなのにすいません」
「あはは、いいですよ、好きでやってんですから」
 愛さんは,昨年と変わらず、獣医志望の医大生をやっている。
 明るく、誰にでも優しく接し、居るだけでその場を和ませてくれる雰囲気健在だ。
 当然相変わらず、少し天然が入っていて、何もない場所で転んだりしている。
「お兄ちゃん、手伝うね」
「ありがとう知佳。じゃあ、これを盛り付けて、テーブルに運んでくれ」
 知佳は、二年生に無事進級。明るくて、優しくて、さらによく気の利く性格のため、学校でも人気があるみたいだ。
 寮でもよく俺の手伝いをしてくれている。本当に妹の鑑と言ってしまいたい娘だ。
「あ、うちも手伝うな」
「あぁ、ありがと、もう終わりだから、運ぶの手伝ってくれ」
 ゆうひは、この前採用されたCMソングを皮切りに、次第に人気歌手の地位を築き始めているところで、最近は日本
と留学先のイギリスを行ったり来たりしている。
 
 寮生のうち三人、岡本みなみと陣内美緒、リスティ槙原は昨日泊りがけで出かけている。
 みなみちゃんは練習試合で秋田県まで、「強豪校なので腕が鳴ります」だそうだ。
 美緒は、友達の望ちゃんの家でお泊り会があるそうだ。
 リスティは、定期検診で病院に行っている。
 三人とも今日の夕方帰ってくるという話だ。
 
 
 

 そして真雪さんと薫を加えたメンバーで朝食が始まった。
 いつも食事時は騒がしいのだが、今日はメンバーが足りない所為か幾分静かに(それでも一般家庭に比べるとかな
り騒がしい)食事が進んだ。
 食事が終わると真雪さんは部屋に戻っていき、残ったメンバーに俺はお茶を淹れた。
「ねぇ、お兄ちゃん?」
 みんなにお茶が回り、俺も椅子に座ってお茶を飲み始めると、知佳が話し掛けてきた。
「何だ、知佳?」
「あのね、お兄ちゃんが食事を用意してくれたり、掃除をしてくれたりするのは嬉しいんだけど、ここのところ、日曜日で
もお兄ちゃん働いているでしょ。たまにはちゃんと休まないと身体を壊しちゃうよ」
「そうですよ、耕介さん。日曜日は耕介さんお休みなんだから、ちゃんと身体を休めないと」
「いや、別に仕事でしてる訳じゃないですよ、料理を作るのは好きだし、みんなの分を作るのは、自分の分だけ作ると材
料がもったいないからですよ」
 愛さんが知佳の援護にまわったのにたいし、俺はそう答えた、まぁ、実際その通りだからしょうがない。
「でも耕介君、料理だけじゃないやろ、他にも日曜なのに皆の洗濯したり、寮を掃除していたりするやろ?」
 今度はゆうひがそう突っ込んでくる。
「……………」
 俺は言い返せなかった、実際洗濯は溜まらない方がいいから、晴れた日には日曜でも必ずやって居たし、寮内にき
になる所を見つけると、すぐに掃除や片付けなどをやってしまう癖がついていたから、休みの日だとわかってはいても、
ついやってしまっていたからだ。
「それに耕介さん、私、前にも日曜はお休みなんだから、しっかり休んでくださいって言いましたよね?」
「………確かに、そう言われたことがありました、はい」
 愛さんのこの言葉にも俺は反論できなかった、実際に何度かそう言われた事があったからだ。
 この愛さんの言葉は、まさに止めだった、今日は、庭の草刈をしてしまおうと思っていたのを俺はあきらめることにし
た。
「耕介さん、すぐに無理をしていたうちが言うのもなんですが、休養はしっかり取らないとだめですよ」
「そうだ、耕介様は薫と婚約までしているのに、ほとんどデートというものをしていません。たまには、薫と二人で出かけ
てきたらどうですか?」
「そうそう、十六夜さんの言う通り。お兄ちゃんが今日やろうとしていたことはわたしがかわりにやるから」
「あっ、知佳ちゃんええこと言うな。耕介君にはいつもお世話になっとるし、よし、うちも知佳ちゃんといっしょにやるな」
「そうですね、私も手伝いますから、薫さんとデート楽しんできてくださいね」
 俺が、反論を封じられたらその後は、十六夜さんの一言から始まって、終には愛さん達が俺のかわりに仕事をするか
ら、俺は今日一日、薫とデートすることに決められてしまった。
「ちょっと待ってください、耕介さんがお休みするのはよかですが、うちだってさざなみ寮の一員です、うちも耕介さんの
仕事の手伝いをします」
 デートの話が出てからずっと赤い顔をしてうつむいていた薫が、自分だけ遊ぶのを悪いと思ったのかそう言い始め
た。
「あのね薫さん、薫さんにはお兄ちゃんを寮の外に連れていってほしいんだ。お兄ちゃんの事だから、寮に居たらきっと
何か仕事を見つけて始めちゃうから。」
「でも………」
「薫ちゃん、まあ、ええやないの、薫ちゃんだって大学の剣道部とか仕事とかでなかなか遊んだりできないんだしたまに
は、はめをはずしても?」
 ゆうひが薫の顔を覗きこむようにしてそう言うと、薫は不承不承頭を縦に振った。
「それじゃ、二人とも着替えたら出かけちゃってね。後はわたし達でやっちゃうから」
 こうして俺と薫は寮を追い出されたのだった。
 
 
 
「薫、どこか行きたい所あるか?」
 愛さんが貸してくれたミニに乗ってとりあえず海鳴駅のほうへ向かいながら薫にリクエストを聞いてみる。
 薫の今の服装は、水色の半そでブラウスと、紺のフレアスカート、そして髪は白いリボンでポニーテールにまとめてい
る。
「耕介さん、実は欲しい物があるのでデパートに行きませんか?」
 これといって予定を考えていなかった俺に、異論などあるわけもないので、海鳴駅近くのデパートALCOへ向けた。
 
「薫、欲しい物って?」
「実は、オートバイに乗るときのヘルメットが………」
 どうやら俺のバイクにタンデムで乗るためにヘルメットが欲しいようだ、赤くなった薫の顔を見ると本当にこの娘は可
愛いな、とか考えてしまうあたり、俺は心底薫に惚れているらしい。
「薫、バイクのメットなら専門の店に行ったほうが良い、他に買い物がないなら俺の行き付けのバイクショップに行かな
いか?」
「はい、ぜひ」
 
 そして、バイクショップの親父にからかわれながらメットを二人で選んだ結果、薫の髪と同じ色の無地のフルフェイス
ヘルメットを俺は薫にプレゼントした。
「耕介さん、今度都合がついたらバイクに乗せてくださいね」
「あぁ、約束だ」
 その後、バイクショップで親父との話が弾んでしまいお昼近くまでバイクショップで会話を楽しんだ。
 親父は薫の事が随分と気に入ったらしく盛んに「俺が後20若かったらみすみす耕介に薫ちゃんを浚わせはしなかっ
たのに」と言って騒ぎ始め、終には「やい、耕介、薫ちゃんを絶対に幸せにしろよ、もし泣かしたらただじゃおかねぇぞ」
と凄まれるしまつ。
 でも薫は、珍しく大きな声をあげて笑っていたのでこれはこれで良しとしよう。
 
 お昼は知佳に聞いた美味しいと評判の蕎麦屋で食べる。
 二人で、皆は今ごろ何を食べてるんだろうなとか、バイク屋の親父の事とか話した後、店を出て海鳴臨海公園へと向
かった。
「今日は、良い風が吹きますね耕介さん?」
「そうだな、何かのんびりするよな」
 そう俺が言うと二人で顔を見合わせて笑った。
「あれから随分と経ったけど、のんびりとした神咲さんを見るのは久しぶりかもね」
「そういえば約束してましたね、槙原さん」
 そう二人でふざけた後、ゆっくりと散歩をしてからALCOへ戻る。
 夕飯は寮で皆と食べようという事で意見が一致したからだ。
 寮へ電話すると知佳が出た。
『あっ、お兄ちゃんどうしたの?』
「夕飯は寮で皆と食べようって事で意見が一致したんだけど何か買っていくものあるか?」
『うーん、特にないよ』
「それじゃあ、少し買い物してから帰るから、六時少し前になると思うよ」
『うん、待ってる、じゃあまた後で』
「またあとで」
 電話を切った後、薫と二人で明日の朝食の材料や、日用品で足りなくなっていたものを買ってから駐車場に戻る。
 駐車場からは夕日がよく見えた。
 薫は、言葉もなく夕日を見つめていた。
 俺は薫の後ろからそっと抱きしめた後、薫を上へ向かせると優しくキスをした。
 帰りの車の中ではお互い夕日のように真っ赤になっていた。
 
 
 
 
 

おまけ
 俺たちが帰ると、掃除機と洗濯機が壊れた事を知佳から報告された。
 いったい何があったんだろうか…………
 
 
 
 
 
 
 

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あとがき
 
 こんにちは、もしくは始めまして、とらハSS書きのひよこで、小島と申します。
 この作品はjanis/ivoryさんから発売されているとらいあんぐるハート2さざなみ女子寮、神咲薫シナリオのアフター
物です。
 時間的には、とらいあんぐるハートラブラブおもちゃ箱のミニシナリオ五月の雪の後、6月の下旬ぐらいの設定です。
 書き終わってみると、なんか急いで書きすぎた所為か随分とひどいものです。
 しかも、送ると予告した日に遅れてしまっている、まったくもって情けない限りです。
 
 さて、話は変わって、この作品は実は、ある一日をキャラクターそれぞれの視点で書く作品のうち耕介の視点で書か
れたものです。
 他のキャラクターの視点の話が読みたいという奇特な方はぜひ私にメールをしてください。
 もし、一通でもそういうメールが来たら、無い知恵絞って書かせていただきます。
 
 それでは、つたない作品を読んでいただきありがとうございました。



管理人註

小島さんのメールアドレスは次のとおりです。
mk_kojima2@yahoo.co.jp


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