使徒との戦いから数ヶ月の月日が流れた。 今、僕は、綾波と付き合っている。 綾波は目に見えて感情が豊かになっていく。 見ていて楽しいし嬉しい。 でも、ここ数日、綾波の様子がおかしい。 今、僕は綾波とアスカの前でチェロを弾いている。 2人ともチェロの音色に聴き入っているけど、二人の態度が違う。 アスカはいつもと変わらない。でも、綾波は、何か・・・何かが違う。 漠然と違うと言う事しか分からない。 いったい何なんだろうか? そう言えば、もう直ぐ第3新東京市立第壱中学校が再開される。 皆、3年生となる。 皆、トウジやケンスケに委員長も戻ってくる。 「シンジ」 アスカが僕を呼んでいる。 「何?」 「何じゃないわよ、突然演奏止めてぼ〜っとして」 「あ、ちょっと考え事を」 「碇君、」 綾波は時計を見ながら僕を呼んだ。 「ああ、もうこんな時間か」 「ごめんなさい」 綾波は本当に申し訳なさそうだ。 「別にいいって、送るよ」 そうして僕達は部屋を出た。 今、道を歩いている。 建設中のビル群が立ち並んでいる。 「ずいぶん復興してきたね」 「ええ・・・・」 今日の綾波は特に変だ。 「綾波、どうしたの?」 「・・・・・ここでいいわ」 「あ・・・そう」 「さよなら・・・・又会いましょう」 「あ、うん」 綾波、おかしい。 さよならなんて、ヤシマ作戦の時以来聞いた事が無いのに・・・ 何か綾波を追い駆けちゃいけないような気がした。 僕は仕方なく戻った。 そして、夢の中、 僕は綾波に膝枕をしてもらって横になっている。 「綾波・・・・」 「何?」 「綾波はずっといっしょにいてくれるよね」 「・・・・・ごめんなさい」 綾波の目から僕の顔に涙が零れ落ちた。 「どうして?」 「・・・・ごめんなさい」 「父さんとおんなじで僕を捨てるの?」 「違う!」 綾波は激しく否定した。 「でも・・・・・ごめんなさい」 綾波の姿が薄くなって行く。 「綾波!!」 「さよなら・・・・碇君・・・・・又・・・しょう・・・・」 綾波の姿が消えた。 「綾波ぃい!!!!!!」 僕はベッドの上にいた。 「・・・・夢だったのか・・・・」 そして、朝食の際、綾波の名を僕が出した時に、ミサトもアスカも変な顔をした。 「誰その子?」 「へ?」 「ひょっとしてシンちゃん、私達に隠れて〜うも〜いやらしい」 僕は呆然としてしまった。 「アスカもミサトさんも冗談言わないでくださいよ」 「あんたバカ?冗談も何も有るわけ無いでしょう」 その後も言い合いを続けたが、アスカが嘘をついているとかミサトさんが、僕をからかっている様には思えなかった。 物凄く嫌な気がした。 はっきりと覚えている中ではこれほど嫌な気がした事は無かった。 使徒戦で自分の命が危険に晒される以上に嫌な気がした。 僕はミサトさんにネルフ本部に送って貰い、リツコさんの所に行った。 「あら?シンジ君どうかしたの?」 「マギのデータを調べたいんです。」 「ふ〜ん、訳ありか、まあ聞かないでおくわ、レベル4までの閲覧権を上げるわね」 「有り難うございます」 僕は綾波の名は出さなかった。 否定されたくなかった。 だから、マギのデータを調べる事にした。 直ぐにとんでもない情報にぶつかった。 《1st 惣流 アスカ ラングレー 2nd 碇 シンジ 3rd 鈴原 トウジ 4th 渚 カヲル》 綾波が抜けていた。 ヤシマ作戦、マトリエル戦、サハクィエル戦、レリエル戦、バルディエル戦、ゼルエル戦、アラエル戦に零号機は出撃していない。映像にも零号機の姿は映っていない。アルミサエル戦で零号機が初出撃、外部から自爆させている。 他のどのデータにも綾波を示すものは無かった。 「なぜだ・・・・」 「どうして・・・・・」 「シンジ君、どうしたの?」 マヤさんが心配そうに僕に声をかけてきた。 「・・・・・・・・マヤさん、」 「何?」 「人一人、完全に存在そのものを消す事って出来ると思いますか?」 「完全にって知っている人とかも?」 「はい」 「無理よ、今世界はマギシステムが管理しているから、例え世界中のどこにいてもマギに引っ掛かるわ。それに、人が人である限り他人の中にその人の存在は残ってしまうし」 「・・・・・・・・そうですか・・・・」 「シンジ君?どうしたの?」 「人が消えたんですよ」 「消えた?誰が?」 「綾波、綾波レイって言う女の子です」 「ふ〜ん、私も探そうか?」 やっぱり・・・マヤさんもか・・・ 「・・・御願いします」 マヤさんはコードを打ち込んで綾波のことを探している。 「その子の特徴ってわかる?」 「ええ、綺麗な薄い青色に輝く髪に、透き通るような白い肌、そして、全てを見通すような深紅の瞳をしています。」 「ふ〜ん、ずいぶん特徴的ね」 マヤさんが特徴を入力して検索したようだ。 「あら?」 該当者はいなかった。 マヤさんは条件をゆるくして検索したようだが、検索結果は変わらなかった。 「シンジ君が嘘言うわけもないし〜、どうして引っ掛からないんだろう?」 「すみません、迷惑をかけて」 「いいのよ、それより、力になって上げられなくてごめんね」 「いえ、それでは」 僕は部屋を出た。 僕は自分の部屋でアルバムを開いた。 綾波が映っている写真は殆ど無い、でも何枚かはあるはずだった・・・・ しかし、一枚も綾波が写っている写真は無かった・・・・いや、綾波が写真から抜けていた。 3人で映っていたはずが、2人になっていた。 僕は涙を流して泣いた。 次の日、僕は、総司令執務室を訪れた。 僕は綾波の似顔絵を持って来ていた。 それなりに上手くかけたとは思う。 「シンジ、どうかしたのか?お前がここに来るとは」 「父さん、この子に見覚えない?」 僕はスケッチブックを開いて父さんに見せた。 父さんは突然立ち上がった。 「シンジ・・・・」 父さんの声は震えていた。 その時、電話が鳴った。 父さんは電話を取った。 「冬月か?何だ?何!!」 父さんが叫んだ。 「分かった直ぐに行く!」 父さんは電話を切った。 「シンジ、ついて来い」 僕は父さんの後について執務室を出た。 ネルフ中央病院を歩いている。 「シンジ、まさかお前が覚えているとはな」 「どう言うこと」 僕の声は半分責めるような口調になっていた。 「着いた。」 完全隔離施設だ。 「ここは?」 「あ」 父さんは何か思い出したような感じだ。 「シンジ、ちょっとここで待っていろ、1時間で戻る」 「1時間って・・・」 既に父さんは去っていた。 相変わらず父さんは勝手だと思う。 そして、50分ほどで父さん?は戻って来た。 「へ?」 髭を全て剃り、色眼鏡から普通の眼鏡に変え、なぜか白衣を着ている。 「行こうか」 「行こうかって、父さん?」 「11年前と同じ格好をしているだけだ」 「11年前?」 よく分からなかったけど、中に入った。 そして、最も奥の特別室。 名札は、碇レイとなっていた。 何か、良く分からない複雑な気持ちが蠢いていた。 父さんは特別室に入った。 特別室のベッドには、薄い青い髪をしていて透き通るような白い肌の少女が眠っていた。 思わず綾波と叫びそうになった。 「レイ、」 父さんは少女に呼びかけた。 少女はゆっくりと瞼を開け、赤い瞳で父さんを見詰めた。 「・・・・・・お父さん?」 「そうだ、」 「・・・・・私は?・・・・・・ここは?」 「11年間も眠っていたんだ。ここは病院だ」 「そう・・・・」 「レイ、シンジ、分かるか?」 「・・うん・・・でも・・・」 「シンジ、」 父さんの呼び掛けでレイが僕を見た。 「あ・・・・夢に出て来た人・・・・・」 「お兄ちゃんなの?」 僕はどう言う反応を示せば分からずとりあえず笑みを返した。 「お父さん、お兄ちゃん、私凄く、凄く、長い夢を見ていたの・・・聞いてくれる?」 「ああ、聞こう」 「長い夢・・・でも、お兄ちゃんが出て来たことは分かる。お父さんも出て来た。お兄ちゃんとお父さんずっと喧嘩しているの。お父さんは高い所から無茶苦茶な事を言って、お兄ちゃんは、逃げ出しちゃうの。その後、お父さんが私に色々と話をするの。でも、お母さんは出てこなかったな・・・・色んな人が出て来た。あんまり覚えていないけど、冬月のおじさんも出て来た。私とお兄ちゃんと後もう一人女の子がロボットに乗って敵と戦う夢だった。」 「そうか・・・・」 「でもね、わたしお兄ちゃんの事、碇君って呼んでたの」 「え?」 僕は声を上げていた。 「おかしいよね、兄妹なのに」 「そうだな・・・・まあ、検査で異常が無ければ、直ぐに普通の病室に移れる。だから、今は、ゆっくり休みなさい」 「はい」 レイは目を閉じて眠りについたようだ。 病院の中の食堂、 時間帯がずれているので僕たち以外いない。 「父さん、あの夢・・・・」 「ん?あのロボットとはエヴァだろう、事故のときに見ている。何も不思議な事ではない」 「事故?」 「なんだ?思い出したのではなかったのか・・・」 「違うよ・・・」 「まあいい、ユイのエヴァの搭乗実験で、事故がおきて、ユイが消えた。そのショックで、お前は記憶を失い、レイは目を覚まさなくなった。」 「・・・・・違うよ・・・・」 「どう違う?」 「だって、僕は、知っていたから・・・・」 「何を?」 「レイ・・・・レイを知っていたから」 「よく分からんな」 「・・・・良いよ、別に話すつもりは無いから」 「ならば良い、もう直ぐユイのサルベージが始まる。レイも目を覚ました。たぶん成功するだろう」 「母さんが?」 「私はもう行く、レイについててやれ」 「・・・うん」 父さんはネルフ本部に戻って行った。 特別病室、 僕はレイの横の椅子に座っていた。 僕は何時の間にか夢の中に落ちて行った。 「碇君」 綾波に呼ばれて振り返った。 「綾波・・・君はいったい何?」 「私は碇君が極度のストレスから逃げ出すために作った心の中の存在。それにレイの力が結び付き、碇君の心の中で作り上げられた存在」 「じゃあ、僕の記憶は嘘なの?」 「そうよ、碇君が自分を守るために事実を置き換えた記憶」 「・・・・綾波はどうなるの?」 「貴方の心の中の存在に戻る。レイが目覚め力を受けられなくなった今、もうこの形は保てない」 「それって、綾波の存在が消えるってこと?」 「いえ、消えないわ、貴方の心の中で存在し続ける。でも、だからこそ、碇君には現実の世界で幸せになって欲しい。自分の中だけで生きようとせずに」 「・・・うん、ごめんね、今まで迷惑かけて」 「いえ、そんな事気にしないで」 「じゃあ、行くね、」 「うん」 綾波は笑顔で頷いた。 僕は、特別室で目を覚ました。 「お兄ちゃん?」 「ん?」 「おなかすいちゃった」 「うん、看護婦さんを呼んでくるよ」 「うん」 どこかの空間、 綾波の横にカヲルが立っていた。 「良いのかい?これで」 「・・良いのよ。私が碇君の心の中の存在とレイの力が具現化させた存在だと言う事は真実だから」 「でも、心の中の存在と、現実の存在は違いすぎないかい?」 「・・これで良いの、私は碇君の心の中の存在に戻る。私の存在したと言う情報は必要ない」 「君のそういったところ好きだよ」 「私は貴方を好きにはなれないわ」 「なんだい、つれないな〜」 「・・私は碇君に幸せになって欲しい、私の分まで・・・」 「その為に、君の存在が忘れ去られてもかい?」 「構わないわ、それが私の存在意義だから」 「そうか・・・・僕ももう直ぐ消える。君も元の存在に戻る。」 「・・ええ・・」 数ヵ月後、 僕は自分の部屋で一冊のノートを広げた。 あの日から、綾波に宛てて書いている日記と手紙の合成のような物だ。 もう4冊目になる。 僕は、今日の分を書き始めた。 《今日、第3新東京市立第壱高校に合格しました。アスカも同じです。母さんは、自分の事のように喜んでくれました。父さんは相変わらずむすっとしています。最近、僕とレイと母さんの3人だけで色々としているので気に入らないようです。原因は、忙しい自分にあるなどとは全く思っていないようです。ヒカリさんは、トウジと同じ、第3新東京市立第弐高校に合格しました。トウジはずいぶん成績を上げたけど、第3新東京市立第壱高校には届きませんでした。ケンスケは、防衛大学付属高校に合格しました。趣味を仕事に変えるようです。レイは、高校適正試験を合格して、秋には、第3新東京市立第壱高校に入学する予定です。レイは高校がずいぶん楽しみのようです。多分、僕達よりも。》 数年後、 僕は最後のページを開けた。 《これが、最後のページになります。今日、僕は、アスカと結構式をあげました。もう綾波に頼っているような人間じゃいけないと言うことが分かりました。だから、もうこれを書くのも最後にします。有り難う綾波。さようなら綾波。》 僕はゆっくりとノートを閉じた。 「終わったの?」 アスカが僕に声を掛けて来た。 「うん」 「そう」 そして、1月後、第3新東京市郊外にある共同墓地、昔母さんの墓があった場所、今は、無理を言って綾波の墓を立ててもらった。 そして、膨大な量になるノートの束を、墓に埋葬した。 「さよなら、綾波」 僕は綾波に別れを告げた。もうここに来る事は無いと思う。 《AYANAMI Rei 2004-2016》 シンジが彼女の墓を訪れた翌日、私もその場所を訪れた。 私は花束を墓前に添えた。 「私に貴女の記憶は無いわ、でもね、最後にシンジに嘘教えたでしょ、自分はシンジの心の中にいた存在だって」 「マギに計算してもらったわ、サハクィエル戦、勝率が0%だったの、いくらミサトがバカでも、勝率が0%の勝負なんかしないでしょ」 「私は貴女に感謝しているわ、でも、私って卑怯よね、シンジに貴女が本当はいたって事を言わない。言ってしまったらどうなるか知っているから・・・」 「ごめんなさいね、でも、私はシンジの事を貴女の分まで愛するから」 爽やかな風が吹き抜けた。 一瞬、昔のレイに瓜二つの少女が私に向かって微笑んでいるような気がした。 「ふふふ、私は又ここに来るわね」 私は墓前を去った。