初めてのキス

 朝、雀の鳴き声が聞こえるなか、アスカがやって来た。
「おはようございます。小父様、小母様」
「おはようアスカちゃん」
「おはよう」
 台所には…碇とユイだけで、シンジやレイの姿はないと、思っているとレイが奥から出てきた。
「お姉ちゃんおはよう」
「おはよ」
 レイはシンジの妹で今は小学5年生でシンジやアスカより3つ下になる。トウジの妹のナツやヒカリの妹のノゾミ達と同級生である。
「シンジはまだ寝てるんですか?」
「ええ、今日も起こしてきてくれるかしら?」
「は〜い」
 アスカはシンジの部屋に向けて足を進める。
 又シンジが自分で目覚まし時計を消してしまったのだろう。


 最近暑い日が増えてきたが、今日は丁度心地よい温度で、シンジはまだまだまどろみの中を心地よく漂っていた。
 枕元の目覚まし時計はセットされた時間を過ぎているが今は沈黙してしまっている。
………
………
 誰かが体を揺すっている。
「う〜ん……あと5分〜」
「シンジ、起きなさい」
 誰が起こそうとしているようである。少し嫌な予感もするが、今はまだ寝ていたい。
「このままじゃ遅刻しちゃうじゃないのよ!」
「おきろって言ってんのよ!」
 思いっきり頭をはたかれ、その痛さで一気に目を覚まさせられた。
「いたた…」
 はたかれた頭を押さえながら起きあがる。見るとアスカが仁王立ちで目の前に立っていた。しかも、少しお冠の様子である。
「あ…アスカ、おはよう」
「全く、おはようじゃないわよ、さっさと起きなさいって」
「あ、うん、ごめん」
 布団を退けて起きあがる。
「あ……」
 突然アスカが顔を赤くして固まってしまう。
「…ん?」
 理由はシンジの朝の生理現象である……
「きゃああああああ〜〜〜〜〜!!!!!」


「いったい何度目なんだよ…」
 頬に見事な紅葉マークを作りながら流石のシンジも愚痴る。
「いやいや、ごめんごめん、どうしてもねぇ〜」
 しかしこちらの方はあんまり悪びれた様子はない。
 この感じだとそう遠くない内に又似たような事が起きそうな気がする。
 結局、ただでさえ遅かったのに一悶着あったせいで、朝食を取っている時間はなくなってしまった。
「シンジも一人で起きれるようになって欲しいわね」
「レイはまだ小学生なのに、どこかの中学生よりもしっかりしているな」
 碇がえらいぞ〜等と小さく、でもシンジには聞こえるように言いながらレイの頭を撫でる…そう言う遠回しの批判は止めて欲しいものなのだが、自分が悪い以上仕方ないのかも知れない。 
「ホント、もう少し早く起きれば家族揃って朝御飯が食べられるのにね…はい、シンジ行く途中に食べなさい」
「ありがとう、母さん」
 ユイからお弁当の包みと、ラップに包まれた朝食のおにぎりを受け取る。
「それじゃあ、行ってきます。小父様、小母様」
「行ってきます」
「行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃい」
 シンジ、レイ、アスカが一緒に学校に出かけていく。
「…貴方もいつまでも新聞なんか読んでないでそろそろ支度してくださいな」
「ああ、分かっているよ、ユイ」
 と言いつつ全然新聞を読むのを止めようとしていない…暫くするとスリッパが飛んできた。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、行ってきます」
 分かれ道で二人に声をかけて、レイは小学校への道を歩いていく。シンジとアスカも2年前まで通っていた道。
 律儀に集団登校が行われていて、少し離れたところの空き地が集合場所になっている。シンジ達が通っていたときの集合場所はビルの敷地の一部になってしまっているが、
 ランドセルを背中に担いだ小学生の姿が見える。
 レイが他の小学生達と合流したのを見届けてから二人も自分たちの通う中学校へ足を向けた。
「もうすぐシンジの誕生日ね」
「うん、そうだね。今年も父さんと母さんが誕生会開いてくれるって言ってたから、みんな誘うつもりだよ」
「楽しみねぇ〜」
「うん、でもアスカ…お酒なんか飲んじゃ駄目だよ」
「わ〜ってるわよ、あん時はアタシだって大変な事になっちゃったんだから」
 去年はアスカ達がお酒を飲んでしまってと言うか飲み過ぎてしまって……パーティーが惨状へと変化してしまった。
「それに、他にも共犯がいたんだからあいつらに気を付けなさいよ、アタシはあれからあんなに飲んだ事はないわよ」
「そうだね」
 その共犯の事を思い浮かべて苦笑しながら答える。いや、ある意味主犯もいたのだが……
 共犯は、トウジとカヲル。そして主犯は、近所のお姉さんで今のシンジの担任であるミサト。親同士の付き合いがあるため、昔から色々とお世話になっていたのだが……去年はもう中学になったんだからとか何とか言って、みんなに酒を飲ませてきたのだった。


 学校に着くと早速みんなを誘ってみる事にした。
 まずは窓の近くの積で話をしていたトウジとケンスケに声をかけた。
「おお、もうそんな時期やな、勿論行かせて貰うで〜、ミサト先生もよぶんやろな?」
「うん、そのつもりだよ」
 ミサトや更に言うとユイがねらいで喜んでいるのはバレバレなのだが、こう言うときはいつも委員長の事は良いのかなぁと思ってしまう。…その委員長は今はアスカ達と一緒に色々とおしゃべりをしながらこちらの様子を見ている。
「俺も勿論行かせて貰うよ、新しいカメラも買ったし」
 と、ポンポンと新しいビデオカメラを叩く。ケンスケには何かイベントがあるときはいつもカメラマンをして貰っている。自分たちで取るよりもずっと良い映像が取れるし、結構歓迎されている。偶においたがばれて、アスカなどにぶちのめされていたりもするが、それでもカメラマンを続けているあたりにその腕が現れているかも知れない。
 二人から予想通りの好反応を得て、次はヒカリに声をかけた。
「鈴原は来るのよね?」
「うん。来るって」
「私も御邪魔させて貰うわね」
 ヒカリも毎年呼んでいるし、さっきの話を聞いていたから話が早い。ただトウジがヒカリの気持ちにどこまで気付いているのか気になるか……
 教室を見回してみたが、もう一人誘おうと思っているカヲルの姿が見えない。
「どこにいるんだろう?」
 予鈴が鳴り響き、暫くしてカヲルが戻ってきたが、直ぐに本鈴が鳴ってしまったため休み時間に声をかける事にした。


 教室でするのも何なので、朝のHRを終えて教室を出たミサトを追い掛けて捕まえ、廊下で誕生会の事を話すことにした。
「ミサト先生」
「あら?何か用?」
「今度の土曜日、僕の誕生日なんですけど、もし良かったら来て欲しいんですけど」
「ああ、そうだったわね。良いわよ喜んで行かせて貰うからね」
「ありがとう。あ、でも…父さんが今年はアルコールは出さないって言ってました」
 舌打ちが聞こえたのは気のせいではあるまい。
「…去年ちょ〜っちやり過ぎちゃったからねぇ…」
 レイの誕生会はユイと同じだったので、研究所の人たちも多数来ていて、おおっぴらに飲んだり、飲ませたりできるような雰囲気ではなかった。そう言うことからお酒も出ていても酷いことになることはなかったのだが、今回は出す理由がないしと言う事でもある。
「まあ良いわ、楽しみにしてるわねん」
 教室に戻ってカヲルを探すと、自分の席に座って何かの本を読んでいた。
「カヲル君、」
「おや、シンジ君。何か僕に用かな?」
「うん」
 その用事である誕生会の事を話す。
「ありがとう。僕にもシンジ君の生まれた日を祝わせてくれて嬉しいよ」
「良い返事をありがとう」

 

 シンジへの誕生日プレゼントを選ぶために、アスカとレイがデパートの売り場を歩いていた。
 レイが腕時計が良いというので、陳列されている腕時計をアスカが代わりに見ている。
「これなんか良いんじゃない?」
 棚の上の方にあったシンジに似合いそうな腕時計を取ってレイに見せる。
 レイはじ〜っとその時計を裏返したりしながら見つめて、シンジがこれを着けたときの姿を想像している。
「ありがとう。これで良い」
「そう。すみませ〜ん、これお願いします」
 店員に声をかけて腕時計をプレゼント用に包装して貰う。
「でも…腕時計で良かったの?どうせ時計ならシンジにはおっきな音で鳴る目覚まし時計の方が良かったんじゃない?」
「それも良いけれど、それだとお姉ちゃんが起こせなくなっちゃうよ?」
「…そ、それもそうね」
 ポリポリと頭をかいて少し照れているのだろうか?色々とあるものの、シンジを起こすというのはアスカの楽しみにもなっているようである。
「お待たせしました」
 店員から綺麗に包装された時計を受け取り代金を支払う。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ううん、良いわよ。ついでだから。じゃ、今度はアタシの方ね」
 レイはコクンと頷いてアスカについて売り場を移動した。
 アスカは新しい靴を送るようで、靴売り場を見て回っている。
「靴なの」
「そよ、何にしようか迷ったんだけどね、最近ちょっと靴が小さそうにしてたし、一つ大きいサイズを上げようかなぁって」
「やっぱり、お兄ちゃんの事が良くわかってるね」
「あったり前じゃないのよ〜」
 やっぱりどこか照れながらパーンとレイの背中を叩く…少し勢いが良すぎたのかレイはよろめいてしまった。



 そして、シンジの誕生日の6月6日がやって来た。
「「「「「「「御誕生日おめでとう〜!」」」」」」」
 全員が手に持ったクラッカーを一斉にならす…一つだけ誰かのものが遅れたようだが、まあ、良いとしよう。
「ありがとう、みんな」
 誕生会に出席しているのは予定通りの面々で、碇、ユイ、レイ、アスカ、トウジ、ヒカリ、ケンスケ、カヲル、ミサトである。
 それぞれからプレゼントを一つ一つ渡される。
 碇からはノートパソコン、ユイからは新しい服、トウジからは…やっぱりジャージ、ヒカリからはレシピ集、ケンスケからはシンジには殆ど理解出来ない説明と共に戦闘機の模型、カヲルからは色々な楽譜、ミサトからは…ビールとはいかず、参考書類だった。
「シンちゃんももっと勉強がんばって、アスカと同じ学校行けるように頑張ってね」
「は、はい」
 そして、レイがシンジにプレゼントを渡す。
「お兄ちゃん、御誕生日おめでとう」
「ありがとう。開けて良い?」
 レイが頷きで返し、シンジは包みを開けた。
「格好いい腕時計だねありがとう」
「お姉ちゃんに選んで貰ったの」
「そうだったんだ」
「そうよ、レイがシンジに似合うのを選んで欲しいって言うからね。それで、こっちが私からのプレゼントよ」
「ありがとう」
 レイのプレゼント選びに付き合ってくれた事、良いものを選んでくれた事、そして、アスカからのプレゼントに対してお礼を言う。
「格好いいね。ありがとう大切に履くよ」
 やっぱり、アスカはセンスが良い。
「そうして貰えると嬉しいわ」



 パーティーは楽しく進められ、やがてお開きとなった。
 後片づけは、ユイやレイ達がしてくれると言う事で、シンジとアスカはシンジの部屋に行く事にした。
「今日は楽しかったね」
「そうね。去年はとは違って良かったわ」
「去年は凄かったからねぇ」
 去年の惨状を思い出すとどうしても苦笑になってしまう。
「禁酒にして貰って良かったわ。今度からミサトが参加するときは必ず禁酒ね」
「そうだね、今度はケンスケとカヲル君あたりかな?言っておかないとね」
「酒さえなければいい人間なんだけどねぇ〜」
「そうねぇ……あ、そうだ。プレゼント早速使って見ない?」
「え?うん、良いよ」
 ケンスケの模型は…使いようがないのでとりあえず棚の上に飾っておく。ヒカリのレシピ集やカヲルの楽譜は今から使うというわけにもいかない。
「ミサトさんからは参考書か…」
「これも、今使うってわけにはいかないけど、今度これ使ってアタシが教えてあげるわね」
「ありがとう」
「別にアタシはシンジと別の学校に行きたいわけじゃないけど、変な学校にしか行けないとかは勘弁ね?」
「わ、分かってるよ……アスカ先生お願いします」
 大げさに深々とアスカに頭を下げる。
「うむ、宜しい」
「じゃ、次は…小父様からのパソコン?」
「そうだね。かなり高性能だって言ってたけど」
 早速電源を入れて起動してみる。OSが早速立ち上がり操作可能な状態になる。
「うわ、かなり早い」
「今のシンジの奴よりだいぶ早いわね」
「技術の進歩って凄いんだなぁ」
「そうねぇ」
 暫くパソコンを色々と弄っていたが、別にゲームなどは入っていなかったし、いくつかアプリケーションを起動させたり使ってみて早さを堪能するだけで終わった。
「じゃ、次は……一緒で良いかな?」
 ユイからの服とレイからの腕時計とアスカからの靴である。
「そうだね」
 早速手にとって、着替えようとしたけれど、アスカはじっとこちらを向いたままであった。
「あ、あのさ…その、これから着替えるんだけど…」
「ん?」
 シンジの言いたいところが伝わっていない。ズボンもあるのでこのまま着替えると途中でパンツ一丁になってしまう。それは昔は、パンツどころか一緒にお風呂に入った事だってあるけれど…それは、本当に昔の事である。
「だからさ…その、今から着替えるから……あっちむいててくれないかな?」
 シンジの言いたい事が分かったのだろう、アスカの顔がポッと紅くなった。
「そ…そうだったわね」
 くるりとシンジに背を向ける。
 シンジが今着ている服を脱いでユイから貰った服に着替えている音がする。
 着替え終わるまでには、落ち着きたい…ゆっくりと深呼吸をして気持ちを静める…
 暫くして、アスカから貰った靴を履く音、多分レイから貰った腕時計をはめている音が続く。
「もう良いよ」
 一つ最後に大きく深呼吸をしてから、くるりとシンジの方に向き直る。
「なかなか似合ってるじゃない。小母様も流石ね」
「そう?ありがとう」
 少し恥ずかしげにしながらお礼を口にする。
「鏡見てみなさいよ」
「うん」
 姿見のような大きなものはないが、壁に掛かっている鏡に自分の姿を映してみる。
「良い感じだね。今度又服とか選んでくれる?」
「いつでも良いわよ、」
「お願いするね」
 鏡の前からアスカの前に戻ってくる。
「これで、一応全部かな?」
「そうね……でも、実はもう一つアタシからプレゼントがあるんだけど…」
「え?もう一つ?」
「うん」
 何故かアスカはちょっと顔を紅くしている。
「ちょっと、目ぇつむっててくれる?」
「あ、うん」
 言われたとおりに目を閉じる…アスカがシンジの直ぐ前に移動してきたのが分かる。
 アスカがシンジにあげようとしたもう一つのプレゼントは、ファーストキス。
 前々からあげるのはシンジにと決めていたが、この誕生日にあげようと決めたのはついこの前。クラスの女子同士での会話で、まだキスしてなかったの?等と驚かれた事がその切っ掛けである。その中にヒカリまで含まれていたのはちょっとショックだったが…
 親も回りもみんな公認の仲で、まだキスもしていないというのはおかしいのだろうか等と悩んでしまったけれど、結局シンジ以外にファーストキスをあげる人間など決しているはずがない。それだったら、いっそさっさとあげてしまおうと思ったのである。
 そのキスはもっと風景が綺麗なところで感動的なものを…等とも考えたが、相手がシンジだし…と言う事で、誕生日にプレゼントとしてあげる事に決めた。
 アスカの方が少し背が高いのだけれど、シンジが靴を履いている事もあって、逆にシンジの方が少し高くなっている。
(アスカ、行くわよ)
 初めてのキス…胸の鼓動が随分早くなってしまう。ゆっくりと…唇をシンジの唇に近づけていこうとしたのだが…、どうしてか最後のところで足踏みをしてしまった。
(…何やっているのよアスカ…)
 二の足三の足と踏んでいる内にシンジが目を開けてしまった。
「あ……」
 ただ沈黙だけが流れている。
「プレゼント…貰っても良いかな?」
「え?あ、うん…」
 アスカが思わず生返事を返すと…シンジの方から唇を重ねて来てくれた。
 全く予想してなかった展開に目を白黒させてしまう。まさかシンジの方からキスをしてきてくれるだなんて……
 唇を重ねただけのキスが暫く続き、暫くして離れる。
「………」
 自分の唇に指を当てて…さっきまでここに重なっていたシンジの唇を見つめる。
「あ、え、えっと…ま、拙かったかな?」
 シンジが汗をかいて今にも謝りそうな雰囲気になっている。
「そ、そうじゃないのよ!…ただ、シンジの方からしてくれるだなんて思わなかったから…」
「そ、そうだったんだ…」
 思いっきりほっとしていると言うのが手に取るように分かる。
「ありがと…嬉しい」
「僕の方こそ、ありがとう」
 シンジの方からキスをしてくれたってことは、この上なく嬉しい。でも、アスカの方からキスしようとしていたのは、完全に失敗に終わってしまったのがちょっとだけ悔しい。
「でもね……バカシンジのくせにこんな時だけ男らしいとこ見せるなんて生意気なのよ!」
「う、うわ〜!」
 ヘッドロックをかましてぽかぽかと頭をグーで軽く叩く。
「い、痛いよアスカ!」
「全く…普段ぬぼ〜っとしてにぶちんの癖してこんな時だけ…ぶつぶつぶつ…」
「でも……嬉しかった。ありがと」
 シンジを解放して今度はシンジに抱きつく。
「今度はアタシにさせてね」
「う、うん」
 今度はアスカの方から唇を重ねた。





 目覚まし時計のベルが枕元で鳴り響いている。
「ん……」
 もそっと言った感じでシンジが体を起こす。そして目覚まし時計のスイッチを切って再び布団を被って寝てしまった。
 暫くして……アスカがシンジを起こしにやってくる。
「シンジ〜」
 何度か呼びかけ、体を揺するが、全然起きようとしない。
(ここは一つ…)
 ひっぱたいて起こそうとして、はたと思い立って止めた。
「……逆かもしんないけど、ま良いか」
「ねぼすけ王子様、お目覚めの時間ですよ〜」
 アスカはシンジの唇に自分の唇を重ねる。
 目覚めのキスは効果があったのだろうか、シンジが目を開ける。
 突然の事にシンジは状況を把握出来ず、アスカが唇を話すまでずっとそのまま固まっていた。
「え……えっと……」
「シンジ、おはよ」
「あ…うん。おはよう…」
「どうだった?こんな起こし方は?」
「え、えっと……その、よ、良かったよ」
 顔を真っ赤にして俯きながら、ぼそぼそって言った感じで答える。
「そう、じゃあ、又こんな風に起こしてあげるね」
「……ありがとう」
「さっさと起きなさい、まだ今なら急げば朝御飯食べられるわよ」
「うん」
 布団を退けてベッドを抜け出す。
「あ……」
「へ?」
「きゃあああ〜〜〜〜〜!!!!」
 結局又これか……でも、こう言ったところもアスカらしいと言う事なのかも知れない。だったら、それも又良いか……吹っ飛ばされながらシンジはそんな事を考えていた。





 広い部屋の中央で、二人がモニターを食い入るように見つめている。
 一通り見終わりユイの方が先に口を開いた。
「昨日はこんな感じだったのね」
「漸く、シンジも男になったな」
「本当に長かった…シンジが奥手なのは仕方ないとして、アスカちゃんもなかなか踏み切れ無かったし」
「あの年頃の子って難しいものなのね…」
「まあ良いではないか、結局あるべき姿になったのだからな」
「…そうね。シンジも男らしいところを見せてくれたし」
「その後や今朝の様子を見る限りは、まだまだだがな」
「それもあの子らしいって事なのかもね」
「二人はずっと同じ道を歩んでいくだろう。シンジの次はレイだな」
「そうね。レイはシンジ以上に難しいかも…」
「うむ……だれか、レイに相応しい者はおらんものか…」
「本当…誰かいないのかしら?」