復讐・・・

◆第八話

シンジは、自室のベッドの上に横になって次の使徒・・サハクィエルの事を考えていた。
自分の力を全開にすれば1機で十分撃破できる・・しかし、それは拙い・・
シンジは一晩中考えたが、上手い案は出てこなかった。
結局、全開のミサトの案を繰り返すか、せいぜいそれを土台に改良する程度の事である。
「・・綾波1人のサポートだと不安が残るな・・・」
やはり、アスカのサポートもあったほうが良い・・・
そうでなければ、場合によっては必要以上の力を使うことになってしまいかねない。
「・・・どうする?」
しかし、アスカをうまく使う方法などは思いつかなかった・・・
「・・りくん」
「・・ん・」
「碇君」
いつの間にか眠ってしまっていたシンジはレイの声で目を覚ました。
「・・綾波?」
「・・漸く起きた・・・・もう完全に遅刻よ、どうするの?」
時計を見ると既に9時半である。
「・・ほんとだ・・・」
「・・・・」
レイはシンジをじっと見つめてきた。
「・・・・」
「サボるかな?」


シンジとレイは学校をサボってぶらぶらと散歩をする事にした。
近くの公園にやってきた。
公園には人っ子一人おらず、小鳥が囀る声が聞こえる。
「・・・綾波、座る?」
レイは頷き、シンジと並んでベンチに座った。
「・・・・碇君・・こう言うのもいいわね」
「こう言うのも?」
「のんびりと誰かと一緒に歩いて、静かなところでお弁当を食べる・・・」
「・・・そうかもしれないね・・・」
シンジは穏やかな表情を浮かべ空をゆっくりと流れていく雲を見上げた。
一方のレイは、レイラが作った弁当を広げる。
「はい、」
「ありがとう、」
シンジもレイからレイラの弁当を受け取って食べ始める。
「・・・美味しいね。」
レイは頷いた。
「・・・ふぅ・・・・本当に、こう言うのもいいね・・・」
シンジは呟くようにいった。


前回の歴史では碇と冬月が南極に向かったが今回は冬月のみが南極に向かった。
(・・・さて・・何を企んでいるのかな?)
シンジはネルフ本部の職員食堂でかつ丼を食べながら考え事をしていた。
(・・・・日程的に考えると・・・明日か明後日といったところかな?)
「サード!」
アスカがやってきた。
「・・何かな?」
視線を向けずに言葉だけで尋ねる。
「話があるのよ!きなさいよ!」
「・・・仕方ないな、」
このまま放っておいても五月蝿くなるだけだと判断して、シンジはアスカにしたがった。


展望室に入る。
「アンタに聞きたい事があんのよ」
「一体何かな?聞きたい事がるならさっさとしてくれないか?」
「じゃあ、聞くわよ、アンタいったい何者!?」
シンジは、わけがわからないといった表情を浮かべた。
「何者って・・碇シンジ、それ以外の何者だって言うんだい?」
「・・・」
アスカはじっとシンジの目を見据えてきた。
(・・・何考えてるんだ?)
「ふん・・いいわ・・必ず化けの皮を剥いでやるから!」
アスカはとっとと去っていった。
「全く何なんだか・・」
シンジも展望室を後にする事にした。
そして、途中通路で前方から来る碇と出くわした。
「・・・」
「・・・」
二人とも立ち止まり睨み合う。
(・・・)
耕一やミサトの言葉がよみがえる。
・・・
「・・・どうした?」
「・・・なんでもない、」
「そうか、」
シンジは碇の脇を抜けてさっさと立ち去った。
「・・・いらつく・・・」


そして、翌日サハクィエルが発見され、ネルフは大騒ぎとなった。
発令所のメインモニターをにらむ。
「・・・どうするつもりかな?」


2時間後、作戦会議室に呼び出され作戦が告げられた。
作戦そのものは殆ど変わりはない。
支援が付くなど多少改良されている程度である。
「さて・・どうする?今回、会長によって、必ずしもこの作戦に従わなくても良いと言う事になっているわ」
「・・必ずしもと言うのは?」
「ええ、どのように行動するつもりなのか、それを事前に報告し、作戦に支障ないようにしてくれればということよ」
「・・・そうですか・・・別に良いですよ、」
何か画期的な策があればよかったが、残念ながら思いつかなかった為、従うしかなかった。


待機室で作戦開始の時を待っていると、耕一がやってきた。
「作戦に従ってくれるそうだな」
「・・ええ、他に方法があるわけでもありませんからね。」
「そうだな。もし、他に方法があるというのなら、それもまた良かったんだろうがな、」
「そうですね・・・」
「頑張ってくれ、」
「・・・はい、」
「では私は他の二人とあってくるのでこれで失礼するよ、」
耕一は待機室を出て行った。


シンジは、待機室を出てケージに向かう途中、レイと一緒になった。
「綾波・・」
「碇君・・・ケージに行くの?」
「一緒に行く?」
レイはこくんと頷いて一緒に歩き始めた。
「・・・碇君、生き残れると思う?」
「当然だよ・・・」
知っているから・・・アスカという不安要素はあるものの、自分の実力差が大きく利いてくるだろう。
いや、そう信じ込まなければいけない。心理兵器でもあるエヴァを操る上で不安や戸惑いを感じていればその分だけ戦力が落ちる。
二人はケージに到着した。
既に3機のエヴァの準備は整っており、いつでも搭乗・出撃できる状態になっている。


そして、初号機に乗って、今は地上でサハクィエルの落下開始を待っている。
「・・・・」
シンジはモニターの望遠映像を見つめた。
サハクィエルは、第3新東京市の真上で静止している。
やがて、ゆっくりと降下を始める。
『作戦スタート!距離5000まではマギが誘導します!それ以降は各自の目測で動いて!』
初号機は全速力でマギの指示に従って走る。
やがて、雲を突き抜け、サハクィエルの巨体が見えてきた。
「行けるな、」
初号機はサハクィエルの落下地点に入り、ATフィールドを展開した。
ATフィールド同士が接触し光が散る。
(・・十分だな。)
モニターのマップは零号機と弐号機が直ぐそこまで来ていると言う事を示していた。
そして、両機が到着し、一気に負担が軽くなる。
弐号機がATフィールドを中和し、零号機が飛び上がりプログナイフでコアを貫いた。
その瞬間、全てが光に包まれた。


作戦終了後、3人は発令所に戻ってきた。
「御苦労様、」
ミサトが先ず出迎えた。
「良くやってくれた」
耕一も労いの声をかけてくれる。
それでアスカはかなりの得意顔を浮かべている。
「いえ、大した事じゃ有りません。」
「そうだな・・・今日は、私が食事に招待しようと思うが、来てくれるかな?」
特に断る理由も無かったのでシンジは素直にそれを受けた。


そして、市内のレストランにやってきたはいいのだが・・しまっていた。
「・・すまん、忘れてた。」
「そういえば、そうだったわね・・・」
全員に市外への避難を命じていたわけだから、市内の店が閉まっているのは当然の事である。
「・・困ったな・・・ん?あれは、ラーメン屋の屋台か・・良く出てたな」
耕一は車をとめた。
前回サハクィエル戦後に食べた、あのラーメン屋の屋台であった。
「・・すまないが、ラーメンでいいか?」
「・・別に構いませんよ、」
そして5人は屋台に入った。
「なんにしやす?」
「そうだな・・・私はチャーシュー麺を」
「山菜ラーメン、」
「アタシはツバメの巣入り特上チャーシューね」
「あ、私は、とんこつラーメンとあとビール!」
シンジはメニューに目をやった。
屋台のラーメン屋とは思えないほどたくさんのメニューが並んでいる。
「・・・しょうゆ豚骨ラーメン、」
「あいよ」
・・・・・
・・・・・
「おまち」
それぞれの前に注文したラーメンが並ぶ、
シンジは割り箸を二つに割ってラーメンを食べ始めた。
屋台の物にしてはかなり美味しい。
「・・・美味しいですね、」
「そうだな・・・ところで・・・今度ゆっくりと話してみないか?私が機会を作るが」
シンジは器のスープに視線を落とした。
誰とゆっくりと話してみないかと言っているのかは明らかである。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・どうしてもというのなら・・・」
「・・そうか、では、どうしてもお願いしよう」
耕一は軽い苦笑いを浮かべながら返してきた。


深夜、シンジはベッドに横になって色々と考え事をしていた。
「・・・・」
「・・・話・・か・・・」
話をする・・・いったい何を話せというのか・・・
だが・・・知ろうとしなければ始まらない・・・知った先に何があるのかはわからないが・・・
「・・・確かめてみるか・・・」
どうでてくるのか、何があるのかはそのときに考えればいい・・・
耕一が場を用意するという以上、その場で何か大きな事を越すことはどちらも不可能であるし、何かわかったとしてもそれに対する準備を取ることがどちらにとっても可能であろう。
とりあえず考えることをやめて眠りにつくことにした。