再び学校に通い始めて数日、漸く退院したアスカが登校して来た。 教室に入り、シンジを見るなりキッと睨みつけてくる。 シンジはアスカを無視して窓の外の景色に視線を向けた。 (・・もうすぐ、サンダルフォンが現れる・・・) 「起立!」 「礼!」 「着席!」 ヒカリの号令が響く、 「え〜、私はその頃」 老教師はセカンドインパクトの話のループに入り始めた。 そして暫くしてシンジ、レイ、アスカの携帯電話が同時に鳴った。 「ん?・・・」 (サンダルフォン?それにしては、少し早い気がするけど・・・) 早速、アスカが駆け出していった。 「碇君」 「あ、ああ、行こうか、」 シンジとレイの二人は一緒に教室を出て駐車場で待機している保安部の車に向かった。 今、保安部の車で本部に向かっている。 後部座席にはどこか緊迫した雰囲気が流れている。 二人の間に挟まれたレイが少し困ったような表情をしている。 誰も口を開かない。 ・・・・・ ・・・・・ 普通のものなら、この場にはとてもいれないだろう。 ・・・・・ ・・・・・ 結局、そのままの状態で本部に到着した。 作戦会議室には緊張した空気が流れている。 モニターに卵のような物が映し出されていた。 (サンダルフォンの卵か・・) 「先ほど、浅間山の火口の中でこれが発見されたわ」 (発見が早かったということか・・・) 「何これ?」 「マギは64%の確率で使徒の卵と判断しているわ」 「・・卵・・」 ・・・・・ ・・・・・ 「今回の目標よ」 ミサトが告げる。 「でも・・どうするつもりですか?」 「局地専用のD型装備で火口の中に潜ってもらって、直接殲滅するわ」 「・・技術部としては、貴重なサンプルとして捕獲してもらいたいんだけどね」 シンジは眉間に皺を寄せた。 「確かに、生きた使徒のサンプルが手にはいればそれから得られる情報から、今後の使徒戦をかなり有利に進められる可能性はあるわね」 「どうかしら?」 そのサンプルとは、確かに、ミサトが言った通り使徒戦を有利に進めるというためのものであることは間違いないだろう。 だが、それと同時に、補完計画をより確実に進めるためのサンプルでもあるのだ。 「会長に判断を仰ぐわ」 二人の話しが続く中、シンジはじっとサンダルフォンの卵を睨んでいた。 総司令執務室、 「・・以上のように、捕獲作戦を展開した場合の方が、結果的にサードインパクト発生の可能性は3.5%低くなります」 「ふむ・・・」 「サードインパクトの阻止は至上命題です。その為には捕獲をすべきでしょう」 「・・確かに、捕獲作戦の方が一見良くも見える。しかしだ、使徒の・・生きた使徒のサンプルは極めて危険だ。それその物が危険なのは言うまでも無いが、人の欲と言うのは恐ろしい物がある。」 「・・・」 「無知な者が、己の利益の為にそれを悪用しようとすればどうなるか、結果は見えているだろう」 「・・・それは事後の事です。サードインパクトを防ぐ事は前提です」 「確かに、しかし、事後になるとは限らない」 「・・・・」 「使徒戦の途中に何か事を起こされてしまったとすれば、それこそ一大事だ。」 「・・・・」 「で、反論は?」 「・・赤木博士、」 「はい」 「・・・・・マギは条件付賛成2、反対1です。」 「条件付か・・・まあ、当然だろうがな、」 その後、1時間弱その条件について話していたが結局は平行線と成った。 「・・・エヴァでさえ人の手には余る。その上、生きた使徒など・・・・人は己の手に余る物を持つべきではないのだよ・・・」 補完委員会の方も議論が割れてしまい、意見の統一に時間が掛かっていた事もあって結果的には耕一の主張が押しきられた形になった。 第2ケージ、 弐号機へのD型装備の装着は完了している。 アスカがゲートの陰に隠れてなかなか入ってこようとしない。 「どうした・・怖気づいたのか?」 「違うわよ!」 シンジの言葉を否定してまん丸の耐熱プラグスーツを来込んだアスカが飛び込んで来た。 「いや〜〜!」 「あ〜〜!!!か、かっこわる〜〜!!」 弐号機の状況に気付いて半ば悲鳴のような声をあげている。 「・・死にたいのなら、装備無しで潜れ」 「何よ!!やるわよ!!アタシのがやるのよ!!仕方ないから、こんな不細工な格好だけど我慢してあげるわ!!」 「・・そうか、別に我慢してもらわなくて」 「うっさいわね!!」 アスカはシンジの言葉を遮って叫んだ。 そして、ウィングキャリアーで浅間山にやって来た。 (まあ、蛹よりは卵の方が楽・・それに、捕獲ではなく殲滅だしな・・する事も無いだろうな・・) 火口に待機している両機は、ケーブルを手に持っている。 先は今潜っている弐号機につけられており、何かあった場合強制的に引っ張り上げる事になる。 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ シンジは景色を眺めている。 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ 『目標発見!』 零号機がいつでも引き上げられる準備に入った。 シンジは特にやる気が無いので、いいかげんである。 ・・・・・・ ・・・・・・ 『目標殲滅、』 「・・ふぅ・・」 結局何も起こらなかった。 作戦終了後、一行は近くの温泉旅館にやってきた。 「ふん!どうよ!このアタシが使徒を倒したのよ!」 アスカが腰に手を当て、軽く胸を張って自慢するかのように言ってきた。 「・・だから、どうした?」 「どうしたって!アタシが倒したのよ!」 「・・・それがどうかしたのか?」 「どうかしたじゃないわよ!」 「まさか、誉めてもらいたいだなんて思っているんじゃないだろうな?」 「ぐ・・・」 図星であったのだろうか? 「しかも、動きもしないたかが卵一つ潰したくらいで、何を自慢しようとしているんだか、」 「くっ、今度こそ見てらっしゃい!!」 アスカは啖呵を切ってシンジの部屋を出て行った。 シンジは軽く溜息をついて、畳に寝転んだ。 「・・・何考えてんだかな・・・」 やがて、うとうととまどろみ始めた。 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ 暫くしてレイがやってきた。 「碇君?」 「ん?・・・綾波?」 シンジはまどろみから覚めた。 前回のときの、ここ温泉旅館での出来事、やその前後の出来事を夢に見ていた気がする。 「ええ・・・碇君、御飯はどうするの?」 少し考えてみる。 「・・そうだね・・ここで食べちゃだめかな?」 「そう伝えてくるわ・・・私もいい?」 「うん・・良いよ」 レイは微笑を浮かべて部屋を出て行った。 やがて旅館の人と一緒にレイが戻ってきた。 「どうぞ、」 二人の前に山菜を中心とした豪勢な料理が並ぶ、 「たべようか」 レイはコクリと頷き、二人は箸を伸ばした。 皆美味しい。 「美味しいね」 「そうね」 レイは微笑を浮かべている。 特に会話も無く静かに食事が進んでいく、 ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ 「・・碇君、」 暫くしてポツリと声をかけてきた。 「・・何かな?」 「碇君は、アスカの事をどう思っているの?」 「アスカ?」 軽く頷く、 「・・・別に・・」 「でも・・碇君はアスカの事を・・・いえ、何か特別に敵視しているように思うの・・・」 シンジは拳をぎゅっと握る。 「・・・碇君、」 「少し風に当たってくるよ」 シンジはレイの言葉を遮って言い、立ち上がった。 「・・そう、」 シンジは旅館の外に出て風に当たっていた。 高度が高度だからか、それなりに風が涼しい。 「・・・シンジ君、」 ミサトが歩いてきた。 「・・・葛城さんですか、」 「ええ、」 「何か用ですか?」 「いえ、ちょっち、シンジ君の事聞きたかったのよ」 「僕の話なんかつまらないことしかありませんよ」 「そんなことも無いと思うけれどね・・・」 「・・・」 「本当に詰まんない人生を過ごしてきたのなら、貴方の様にはならないと思うわ」 「・・さあ、どうですかね」 とぼける。 「なによ、つれないわねぇ〜」 「前に言いませんでしたっけ、馴れ合いをするつもりは無いって」 ミサトは顔を顰めた。 暫く沈黙が流れる。 「ところで、貴方・・お父さんのこと、どう思っているの?」 シンジはその言葉に顔を顰めた。 「・・・・」 「・・・・」 「・・憎んでいますよ、」 「・・そう・・・・・・でも、シンジ君・・・人を憎むのは、その人が何を考えているのか、どうしてそう考えるに至ったのかを知ってからでも、遅くは無いと思うわよ・・・私もそうだったからね・・・」 「・・・・・」 「・・・・・」 「私はもう戻るわね、風邪を引かないうちに戻ってね」 ミサトは旅館の方に戻っていった。 ・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・ 「・・・ふぅ・・・」 大きく溜息をついた後、シンジも旅館に戻ることにした。 部屋に戻ると、レイが座布団を枕に何もかけずに寝ているのを発見した。 「綾波、」 声をかけてみるが起きる気配は無い。 「・・・」 このまま放っておけば風邪を引いてしまうかもしれない、かといって起こすのも気が引けたので、掛け布団だけかけてあげることにした。 「・・・」 じっとレイの寝顔を見つめる。 「・・・やっぱり、可愛いな・・・・」 シンジは自分の布団で寝ることにした。 「・・碇君、」 レイの声で目を覚ました。 「・・・おはよう」 「おはよう、」 「・・・昨日は、ありがと・・」 「大した事じゃないよ」 「朝食運んでもらったけど、食べる?」 「そうだね・・貰うよ」 二人で朝食を取った後、帰りのヘリに乗った。 山が直ぐに小さくなっていく、 「・・アスカは?」 「葛城3佐やアスカは先に帰ったわ」 「・・綾波は僕にあわせてくれてたの?」 「・・・そんなわけじゃないわ・・・」 ほんのり頬がピンク色に染まった。 「ふふっ」 シンジは軽く笑って視線を窓の外に向けた。