ヤシマ作戦から時が流れた。 夏休みも開け学校も2学期が始まった。 シンジとネルフに関してだが、特に大きな変化はない。 大した事のない訓練と実験の繰り返しばかり・・・そんな中、シンジも情報を色々と集めたが有効な情報は得られなかった。 やはり・・・今一番気になるのは、隣に住んでいるはずの皇レイラ・・・ レイ経由で、弁当を渡してくれる事を始め、色々と世話になっている。 ・・・だが、当人を見た事がない・・・ プロフィールだけでもとマギにアクセスしたのだが、シンジのレベルではまともな情報は閲覧できなかった。 それなりの要職についているようだ。 「・・一体何者なんだ?」 レイラの真意が見えない、以前の世界のミサトのように自分の思い通りに動く駒の管理ならば、少なくとも顔くらいは会わせないと拙いだろう・・・一体何なのであろうか? 翌日、第3新東京市立第壱中学校、2−A、 漸くトウジが学校に復帰して来た。 「鈴原!一体今の今までどこに行ってたのよ!」 「・・そ、それは・・・」 「正直に言いなさい!」 「・・・しょ、少年院・・や・・・」 教室の空気が固まった。 「い、一体、な、何をしたのよ!!?」 「いや・・その・・・難しい話は聞き流し取ったから・・・わからへん・・・」 シンジは軽く溜息をついて、授業の準備をした。 そして、例のとおり、昼休みにレイからレイラが作った弁当を渡された。 最近ではもう弁当は自分では作っていない、学校は勿論、ネルフの訓練もスケジュールがレイとほぼ同じであり、ネルフでもレイ経由でレイラから弁当を貰うのが当然になっている。 「・・綾波・・レイラさんって・・普段家にいる?」 レイは何をバカな事をとでも言った表情を浮かべた。 「・・・そのお弁当がある事が証明ではないの?」 「あ・・・うん・・・まあ・・・」 「・・・レイラさんが信じられないの?」 「・・・信じられるわけ無いだろ・・・」 シンジがその言葉を口にした瞬間、レイの表情が変わった。 ・・・明らかに怒りが混じっている。 シンジはもの凄くいやな気がした。 次の瞬間レイの拳がシンジの頬に炸裂しシンジは吹っ飛ばされた。 教室中の視線が一斉に集中する。 「ぐ・・ぐう・・・」 碇を批判した時は、平手だった筈・・・・・ いや・・・それ以前に会った事無いのに・・・ 理不尽さを感じながらシンジは意識を手放した。 ネルフ本部技術棟の医務室でシンジは目を覚ました。 「目が覚めたようね」 医務室にはリツコがいた。 「・・・赤木博士・・・」 「特に問題は無いわよ」 「・・・そうですか、」 ・・・・ ・・・・ 「・・・皇レイラさんってどんな人ですか?」 「どうしてそんな事を聞くのかしら?お隣でしょ?」 「・・・まあ、そうですが・・・」 「いずれにせよ、個人的な事でしょ、別に教える必要も無いわね」 シンジはリツコの目をじっと見据えた。 こんな事でも取り敢えず仕返しが出来て嬉しいのであろうか、微妙に笑っている。 「・・・そうですね・・・では、失礼します。」 シンジは医務室を出た。 そんなある日、訓練が終わった後、会議室に呼ばれた。 「明後日、セカンドチルドレンの惣流アスカラングレーと弐号機が到着するわ」 ミサトの言葉に、アスカの事が次々に思い出された。 罵られ蔑まれ続けたアスカ、拒絶されたアスカ、そして、この手で殺したアスカ。 「・・・シンジ君、どうかしたの?」 「・・いえ・・」 「仲良くしてあげてね」 シンジはそれには答えなかった。 翌日、緊急の呼び出しを受けた。 メインモニターにガギエルと交戦中の太平洋艦隊が映っている。 「・・・」 発令所を見まわすと、碇、冬月、リツコの姿が見えない。 「副司令は?」 ミサトが青葉に尋ねた。 「連絡は取れません!」 (・・・あそこにいるのか・・・) 弐号機が映った。 フリゲートを足場に跳躍して・・・迫って来る。 画像が乱れ回線が途切れた。 ・・・・ ・・・・ ・・・・ 「回線復旧します。」 別回線が開かれた。 そして、暫く戦闘を続け、何とか殲滅に成功したようである。 ほっとした息が先ず漏れる。 「副司令たちの確認急いで」 「はい」 シンジは発令所を後にした。 (いよいよ明日・・・アスカがやってくる・・・) 翌日、ネルフ本部作戦部第1会議室、 目を会わすなりアスカはシンジに対して強烈な敵意の視線をぶつけてきた。 それに対してシンジは更に強烈な敵意・・・いや、殺意をぶつけ返した。 二人の間で火花が散っている気がする。 ミサトは汗をかいた。 (・・・仲良くなんて無理じゃん・・・はぁ〜〜) 「紹介するわね、」 「この、天才たるセカンドチルドレン、惣流アスカラングレー様が来たからにはアンタ達なんか用済みよ!!」 ミサトの紹介を遮って自分で言い張った。 「・・・シンクロ率も低く、実戦の経験も殆どない・・バカか、お前、」 「ぬあああんでええっすうってぇええええ〜〜〜!!!!!!」 「アスカちょっと!!」 ミサトが静止しようとするが、更に煽る事にした。 「人類の命運をかけた戦いをまるでゲームか何かのように、自分が目立つ事しか考えていない、そんな、ガキは、さっさと死んだ方が良い、その方が人類全体にとって数万倍良い」 ミサトの静止を無視してアスカは思いきり踏み込んで来た。 そして、強烈なハイキックがシンジの脳天に向けて放たれる。 にやりと笑い、シンジはその着弾よりも早くATフィールドを纏った拳をアスカの腹に叩き込む。 ・・・筈だったのだが・・・ 耕一が間に入って、両者の攻撃を受け止めていた。 (なに!?) 全く見えなかった。 皆が驚きの声を漏らす。 「さてと・・・仲間割れは止めて欲しいものだな、」 耕一は2人の手と足を開放した。 二人は耕一の顔をじっと見詰めた。 アスカの驚きも半端なものではないが、シンジのそれは遥かに大きい。 微弱とは言えATフィールドを纏った拳を受け止めるとは・・・・信じ難い・・・ そして、アスカは再びシンジに敵意をぶつけて来た。 シンジもぶつけ返す。 「はぁ・・・・」 耕一は軽く溜息をついて、こめかみを押さえた。 「・・敵の敵とは・・・協力しても良いんじゃないのか?」 この瞬間・・・2人の脳裏に使徒と協力して相手を叩き潰すと言った内容の事が映らなかったと言う事を祈りたい。 もう一人のチルドレンのレイは終始黙ったままだった。 1週間後、イスラフェルが現れた。 耕一は出張で日本にいない。 『アンタだけには負けない・・・絶対に・・・』 モニター越しの猛烈な敵意・・・いや、これは既に殺意になっている。 シンジはアスカを無視して、イスラフェルをどう倒すか考えていた。 『サード!!きいてんの!!?』 五月蝿いので回線を切った。 こんなアスカとあわせるのは不可能、むしろ隙を大きくしてしまうだけだろう。 ならばこの初戦は適当に切り上げるのが吉であろう。 零号機の修復完成も近い、第2戦はレイと合わせる事で間違い無く倒せる筈だ。 『シンジ君・・・お願いするわ・・・』 シンジは目を閉じてミサトの声には反応しなかった。 そして、海岸に到着した。 初号機はアクティブソードを、弐号機はソニックグレイブを構えた。 『弐号機を先行させろ』 碇の声にシンジは目を開いて反応した。 『協調する気の欠片も無いような者は人類の命運をかけた戦いには必要無い』 現在の最高指揮権を持っている碇の命令、 モニターではリツコが何かミサトに語りかけているようだ。 『・・・分かりました。初号機は装備をスナイパーライフルに変更、バックアップに回って、』 (どっちが協調性がないんだか・・・) だが、まあこれはシンジとってほぼ理想的な展開である。 シンジはひそかに笑った。 海面に水柱が立ち使徒が海面に姿を表した。 海面に現れた使徒に向かって初号機はスナイパーライフルを連射する。 弐号機は水中のビルを足場にして跳躍し、一気にソニックグレイブを使徒に振り下ろし真っ二つにした。 (馬鹿者) 得意そうに弐号機が初号機を振り向いた瞬間、二つに分かれた使徒其々分離し2体になった。 『何ですって!!』 ネルフ本部作戦部視聴覚室。 「本日午前11時7分、目標甲の攻撃により弐号機沈黙」 マヤが説明を続けている。 弐号機が海中に逆さになって沈んでいる写真が映し出された。 「初号機との戦闘を続けるも、異常な再生能力により有効なダメージはなし」 「午前11時24分をもってネルフは作戦指揮権を断念、国際連合第2方面軍に移行」 NN爆雷投下の映像が流された。 「同27分、新型NN爆雷により目標を攻撃」 「また地図を書き直さなきゃならんな」 冬月がぼやいた。 焦げた使徒の写真が映し出された。 「これにより目標の構成物質の28%の焼却に成功」 「E計画責任者のコメント」 『無様ね』 「・・・倒したの?」 「足止めに過ぎんよ、再度侵攻は時間の問題だな」 「パイロット2名、君達の仕事は何かね?」 「エヴァの操縦?」 碇の問いにアスカはそう言ったが、シンジは答えなかった。 「違う、使徒に勝つ事だ。もう2度とこんな無様な姿はさらすな」 碇は立ちあがって去ろうとした。 「・・・待て、」 「・・・なんだ?」 「・・・お前達の仕事は何だ?」 シンジは碇を睨みつけ、碇は睨み返して来た。 「・・・何を言っている?」 「・・・使徒を倒す事だと言いたいのか?」 「・・・当然だ。」 「ふっ」 シンジは碇を鼻で笑った。 視聴覚室内に奇妙な雰囲気が流れている。 その雰囲気を残したままシンジは視聴覚室を出て行った。 アスカは猛烈な殺意を去り行くシンジにむけていた。 赤木研究室、 「ちょっとこれ見てもらえるかしら?」 リツコは、初号機内部のモニター映像を流した。 「・・・これは!」 「そう、彼は使徒が分裂した時、全く驚いていない、彼は知っていたのよ、使徒が分裂すると言う事を」 「・・・」 ミサトは腕を組み額にしわを寄せた。 「後、これ、技術部が纏めた作戦案と碇副司令の命令書」 ミサトはそれらに目を通した。 「・・・・技術部が作戦案を出してくれる事はそれなりにありがたいけれど、作戦部を通して欲しいわね」 「そうね、今度からそうするわ、」 「・・ユニゾンか・・・」 小さく呟き、ミサトは研究室を出た。 シンジが家で恐らく来るであろうミサトを待っていると案の上ミサトがやって来た。 しかし、連れているのはアスカである。 そして、作戦が説明される。 「・・・ふざけているのか?」 「それはこっちの台詞よ!!」 「・・・碇副司令の命令よ」 「関係無いな」 「とにかくやってよお願いだから」 「ふん!!」 アスカはそっぽを向いた。 「こんな、何も分かっていないような馬鹿者と組めるか」 「なんですってぇえええ!!!」 ミサトは軽く息を吐いて表情を変える。 「・・・貴女達死にたいの?」 「え!?」 「使徒戦は遊びじゃないわ、命を掛けた戦い、それを、貴方達のような子供に押しつけ無ければ行けないと言う事は申し訳無いと思っているわ。でも、生き残るにはそれ以外に方法は無い。死にたければ、好きにしなさい。でも、生き残りたいと言うなら、その行動すると言う選択肢を選びなさい」 二人はじっとだまり、嫌々ながらも、従い、ユニゾンの訓練を始める以外に無かった。