復讐・・・

◆第参話

シンジは色々と情報を集めて、考えていた。
リツコは碇の元におり、恐らくは大して変わっていないと思われる。
冬月も同様である。
対して、ミサトは色々と異なる。
どこか納得が行かないところも在るがまあ仕方が無い、パラレルワールドに来てしまった様だ。
世界が違うのだ。
だが、決して今度は利用される事は無い、そして、必ずや目に物を見せてやる。
「・・・もう、こんな時間か・・」
シンジは鞄を持って学校へと向かい、家を出た。
丁度レイも出て来た所で鉢合わせた。
「・・おはよう」
「・・おはよう、」
レイは微笑を浮かべた。
自然に二人並んで歩き出した。
特に話す事も無いが、こうしているのがどこか心地良い。
(ふっ・・・何々だかな)
暫くして、学校に近付いてくると、視線が気に成って来た。
まあ、当然であろう、長期間休んでいた超美少女の綾波レイが、戻って来た初日から現在噂の渦中の転校生と並んで登校しているのだから、
やはりシンジは腹立たしく思う。
そして、二人が教室に入ると、教室がシーンと静まりかえった。
シンジは無視し、レイは気にせず、それぞれ自分の席に座った。


授業が始まってもトウジとケンスケの姿は無く、ヒカリが時々きょろきょろと周囲やトウジの席を見ている。
他の者は未だにシンジとレイの事が気になっているようだ。


そして、昼休みに入ると突然レイが弁当箱を渡して来た。
「・・・何?」
「・・レイラさんが碇君に・・」
「・・・・」
自分で作ってきたものもあるのだが・・・少し考えたが、受け取る事にした。
教室中は心の叫びが渦巻いている。
「・・ありがと、」
一応、礼を言って開けてみると、肉や魚は使われていないがかなり凝った料理が詰まっている。
横のレイを見ると同じ弁当を食べている。
レイラ・・・皇レイラ、皇耕一総司令の娘、隣に住んでいる筈なのだが、見たことが無い。
これは、ミサトやリツコと同様、チルドレンの管理なのか?
或いは、単純な善意なのか?
・・・まあ、本人を見てみなければ分からないだろう。
食べて見ると非常に美味しい。
シンジが作った物よりも上である。


学校が終わると、ネルフ本部へと向かった。
零号機の再起動実験が行われるらしい。
「・・・綾波は怖くは無いの?」
「・・・何が?」
「・・零号機の再起動実験、」
「怖くは無いわ・・・信じているから」
「・・・そう・・・」
その後は無言で歩いた。


ネルフ本部起動実験司令室、
耕一も来ていた。
シンジは耕一をじっと見据えた。
耕一はそれに気付いたのか、軽く笑みを浮かべて答えた。
「・・・・」
「ん、では、これより零号機再起動実験を行う。」
「レイ、準備は良いか?」
『はい』
「では始めてくれ」
オペレーター達が機器を操作し始めた。
「第1次接続開始、主電源接続」
「稼動電圧臨界点を突破」
「フェイズ2に移行」
「パイロット零号機と接続開始、パルス及びハーモニクス正常、シンクロ問題無し。」
「オールナーブリンク終了。」
「絶対境界線まで後2.5」
「1.7」
「1.2」
「1.0」
「0.7」
「0.4」
「0.2」
「絶対境界線突破します。」
「零号機起動しました。」
「引き続き連動試験に入ります。」
そして、次々に行程が進んで行く。
・・・
シンクロ率が弾き出された。
「シンクロ率69.88%です!」
マヤの言葉にリツコは複雑な表情をした。
科学者として、ネルフ技術部部長としては好ましい事である。だが、碇の計画の協力者としては好ましくない、大きな障害に成りかねない、それを良く表していた。
「よし、以上で実験を終了する。」
(・・・そう言えば、前は、ラミエルが来たんだったな・・・未だ少し日が在るか・・・)
シンジは司令室を後にした。


次の日は、シュミレーションによる訓練だった。
次々にレベルを上げて行く。
「・・・」
『では、模擬戦に移行します。』
仮想空間に零号機が現れた。


そして零号機との模擬戦を終えて、更衣室で着替えが終わった頃、リツコがやって来た。
「お疲れ様、」
「・・いえ」
「いくつか聞きたかった事があるんだけど良いかしら?」
「これから帰るつもりなんですが、」
隠そうともせずに嫌そうな表情を露にする。
「素直に答えてくれれば5分で済むわ、」
シンジは軽く溜息をついてから承認した。
「じゃあ、先ず・・・」
エヴァに関してや私生活に関して色々と聞かれた。
リツコは時計に目をやった。
「そろそろ時間ね」
「ええ、」
「ところで、シンジ君、ここに来る前どこでエヴァに乗っていたの?」
ある意味、的外れな質問、だが・・・
(・・・)
「何を言っているんですか?」
「貴方は、初搭乗でATフィールドを使ったわ、どうしてそんな事が出来たのかしら?」
(・・・そう言えば・・そうだったな・・)
「さあ、無意識の内ですね、それに、後から受けた説明では、ATフィールドが扱えなければ、使徒を倒すことはできない。僕に死ねって言っていたんですか?」
「いえ、貴方は私達が説明する前から使っていたと言っているだけよ」
「・・・知りませんね。無意識の内に使えたら何か問題があるんですか?」
シンジはリツコの目を真っ直ぐに見据えた。
「ええ、貴方は、ATフィールドを使いなれている。そう、それこそ、無意識の内に展開、そして中和までしてしまうほどに、」
・・・・
「・・・ネルフ以外にエヴァを所有する組織は存在しない筈、しかし、貴方のその状態は、エヴァを密造している組織、或いは、何らかの方法で、ATフィールドを扱う事ができる装置、それもエヴァと同じか近い方法で、その様な物を創り出した組織があると言う事を示しているのよ、」
・・・・
「・・知りませんね」
「答えなさい」
「なぜです?」
「これは、非常に重大な事だからよ、」
「・・・人類の存亡にとってですか?ネルフの存亡ですか?・・・それとも、貴女、個人が関わる何かに関してですかね?」
「・・・・」
リツコは露骨に表情を歪めた。
「どうやら、個人的な事のようですね、元々知らないものを話す事は出来ませんが、知っていても話す必要は無くなりましたね、それでは、」
にやりと笑いリツコを残して更衣室を去った。


総司令執務室に冬月とリツコが来ていた。
「以上のようにサードには不審な点が数多く見られます。」
「私からも尋問を勧めますね」
耕一は報告書を机に置いた。
「問題無い、彼に関しては、私の方で既に調べてある」
「・・・お教え願えますか?」
「その必要は、あるのかな?」
「組織運営上、我々も知っておいた方が何かと有利に事が運べるかと」
「組織運営上の問題は私が決める。そして、君達は知る必要は無いと判断した」
「「・・・」」
「君達は余計な干渉をせず客観的立場に立っていれば良い」
「・・・はい」
二人はしぶしぶ従った。


数日後、ラミエルが襲来し、シンジは初号機に搭乗して待機していた。
零号機ではレイがスタンバイしている。
モニターにはラミエルに対して無人戦闘機などが攻撃をしかけている映像が映し出されている。
強靭なATフィールドに阻まれ効果は無い、それどころかあの加粒子砲での反撃すらしてくれない。
「・・・・」
『・・どうやら無駄のようね』
『・・・仕方ないわね、B−12と13から初号機零号機射出準備』
『出撃よ、良いわね』
「・・・嫌ですね」
ミサトは驚きを表情にした。
「敵の能力も分からないのに、出ていきたくありませんね」
『現在の戦力では調査すらまともに出来ないの、仕方ないでしょ』
ミサトでは無くリツコが答えた。
「ATフィールドの存在は分かっているのに、まともな調査も出来ないような兵器しか揃えていないとは・・・随分と怠慢ですね」
リツコはむっとした表情を浮かべた。
『次回までの教訓としましょう・・・シンジ君、レイ、今回はお願い』
「嫌です」
『分かりました』
シンジはモニターのレイを見詰めた。
『・・シンジ君・・』
「・・・・」
『分かったわ・・・レイ、主目的は目標の能力の把握、常に退路を確保するように、但し、行けるようなら任意に仕掛けて良いわ』
『はい』
『エヴァンゲリオン零号機発進!』
零号機が射出された。
『目標に高エネルギー反応!!』
『何ですって!?』
『円周部を加速、収束させていきます!!』
『まさか、加粒子砲!!?』
『リフトリバース!!!急いで!!!』
『駄目です!!間に合いません!!』
『安全装置外して!!レイ!!避けて!!!』
『きゃああああああああ!!!!!!!!!』
シンジは耳を塞いだ。


ミサトやリツコ達が対応に駆けずり回っている間、シンジは特にする事も無いので、ゆっくりと食事を取っていた。
「・・・」
「ここ、良いかね」
冬月がトレイを持って立っていた。
「・・・ええ、別に構いませんが・・」
シンジは警戒しつつも特に有効な断る理由が無いのでそう答えた。
冬月はゆっくりとした動きでシンジの前の席に座った。
「君とは一度ゆっくりと話がしてみたかったのだよ」
(・・父さんは勿論、赤木博士も・・・となると、冬月副司令・・・いや、総務部長しかいないと言うことか・・・)
マヤは計画の協力者ではない。
冬月はユイの事を色々と話し始めた。
(・・先ずは、近付く事からと言う事か、)
シンジと冬月は直接の接点を持っているわけではない、いきなり本題は切り出せないだろう。
ユイの事は色々と興味はある。
内容は聞きつつも、決して心は許そうとはしない。
・・・・
・・・・
・・・・
「ん?、残念だがそろそろ時間のようだ、今日の所は、これで失礼するが、又、機会があったら話をしようじゃないか、今度はシンジ君のことも聞かせてもらえると嬉しいがな」
「・・・ええ、機会があれば、」
形だけの笑みを浮かべて返す。
「うむ、では、又な」
冬月は立ち去った。
ほぼ理想の形で進んだと思っただろう。
最後にどんでん返しを食らわした方がショックは大きいだろう。
シンジはにやりと唇を歪めた。
「ん?」
耕一が食堂に入って来た。
「シンジ君、作戦が決まった。詳しい説明をしたいので、この地図に載っている病室で寝ているレイを呼んできてくれないかね」
「・・・どうして僕が?」
「同じエヴァのパイロット同士、今後の事も考えてそれなりに交流があることは私としても望ましい事だ。それに、君の同級生であり、隣人でもある。少なくとも損は無いと思う。別に嫌ならば、構わんが・・どうする?」
「・・・」
耕一の思い通りに動くのは癪だが、実際、レイとは交流があった方が何かと便利に成るだろう。
生き残る可能性が上がると言う事も含めて、
「・・・分かりました。」
「そうか、では、1時間以内に、二人で作戦部の第2会議室まで来てくれ、」
「・・はい、」


シンジは地図に従ってネルフ中央病院のレイの病室を訪れた。
レイは静かにベッドの上で横たわっている。
視線だけシンジに向ける。
「・・作戦が決まったよ・・・行くかい?」
「・・ええ・・」
レイは上体を起こした。
服を着ていなかった為、美しい形の胸があらわに・・・
「・・・あ・・・・」
「・・・・・・」
レイは赤くなってシーツで体を隠した。
「ご、ごめん!」
シンジは慌てて病室を飛び出た。
・・・・・
・・・・・
シンジは自分の手をじっと見詰めた。
前回・・・あの胸を・・・・
「あ・・」
・・・鼻血が・・・
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
服を着たレイが出て来た。
「・・・」
レイはじっとシンジの顔を見詰めた。
「な、何?」
「・・・それ・・どうしたの?」
シンジの鼻に詰められているティッシュの事である。
「な、何でも無いよ」
「・・・そう」


ネルフ本部作戦部第2会議室、
「さて、作戦を説明するわ、」
作戦マップに色々と座標が表示された。
「この位置から戦自から徴発した陽電子砲を改造した、ポジトロンスナイパーライフルで狙撃するわ、」
「攻守分担で、行うわ、オフェンスは、シンジ君が、ディフェンスはレイが担当よ」
いくつかダミーが用意されているようだが・・・・
まあ、特に反論があるわけではない。


P.M.10:05、双子山山頂仮設基地内仮設ケージ
街の明かりが消えた。
(・・・再び、ヤシマ作戦の時が来た・・・)
レイは隣の仮設ケージのブリッジに腰掛けじっと黙ったままである。
「・・・綾波・・君は死ぬかもしれないんだよ・・・」
「・・そうね・・」
・・・・
・・・・
「構わないのか?」
「・・・・」
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
「・・・・」
「・・・構わないわ・・・」
長い間は、色々と考えた結果であろう。
・・・・
・・・・
「・・・・代わりがいるからかな?」
「いえ、違うわ」
今度は即答・・・・・・
「・・・そう・・・」
・・・・
・・・・
・・・・
その後、沈黙が流れた。
・・・・
・・・・
・・・・
レイは時計を見た。
《22:45》
「・・時間よ、行きましょう・・」
「・・・」
二人は立ち上がった。
「碇君」
「ん?」
「貴方は私が守るわ」
「・・・そう・・・」
「又」
レイはリフトに乗り下りて行った。


12式大型発令車、
中央に、ミサトとリツコが立ち、2人の脇にマヤ、前に、日向と碧南が座っている。
《東京標準時 22:59:57》
《東京標準時 22:59:58》
《東京標準時 22:59:59》
《東京標準時 23:00:00》
「作戦スタートです。」
日向がミサトに告げた。
「シンジ君、日本中のエネルギー貴方に預けるわ。」
『・・はい』
「第1次接続開始。第1から第863区まで送電開始」
日向がレバーを起こすと、付近一帯を地鳴りのような音が包んだ。
「ヤシマ作戦スタート!!」
ミサトが作戦の開始を告げた。
「電圧上昇中、加圧水系へ。」
「全冷却機出力最大へ」
「陽電子流入順調なり」
「温度安定依然問題無し」
「第2次接続!」
「全加速器運転開始、強制収束機作動!」
エネルギーを示すメーターが順調に上がっている。


初号機、
表示される数値やグラフはどんどん上昇している。
「・・・」
『最終安全装置解除!』
『撃鉄起こせ』
初号機は撃鉄を起こした。
『第6次接続』
マークが真ん中に集まり始めた。
一斉にダミーから攻撃が仕掛けられたが、ATフィールドで完全に防ぎ、効果は出ていない。
気すら引けていないのは情けないと言える。
『誤差修正プラス0.0007』
『第7次最終接続、全エネルギーポジトロンライフルへ』
『カウントダウン開始10、9、!、目標内部に高エネルギー反応!!』
『・・・くっ』
マークが中心に集まった。
『撃てぇ!』
ミサトの叫びと同時にシンジはスイッチを押した。
初号機が引き金を引き、陽電子が打ち出された。
着弾する前に使徒の加粒子砲も発射され両方が交差し合い方向が反れた。
かなりの衝撃が走った。陽電子は使徒の少し横のビル街に着弾しエネルギーの柱が出来ていた。
加粒子砲は山の中腹に激突し、爆風が周囲の木々を薙ぎ倒した。
(ミスったか)
『第2射急いで!!』
初号機は再度弾を込めた。
『ヒューズ交換』
『再充填開始!!』
『銃身冷却開始』
『目標内部に再び高エネルギー反応!!』
『発射まで25秒』
『後22秒』
『使徒加粒子砲を発射!』
正面が光り初号機が光に包まれた。
「くっ」
シンジが思わず閉じた目を開けると、やはり零号機がシールドで加粒子砲を遮っていた。
「綾波・・・」
マークが真ん中に集まりかけた。
シールドが溶け切り零号機のボディに加粒子砲が着弾した。
マークが揃った。
シンジはスイッチを押し陽電子砲を発射させた。使徒を貫き陽電子が上空へと上がっていった。
零号機が崩れ落ちた。
直ぐに周囲から部隊が現れ、零号機の後部のパーツをレーザで焼き切り破壊して、エントリープラグを取り出した。
「ふぅ・・・」
あれならばレイは大丈夫だろう・・・
シンジは目を閉じた。