復讐・・・

◆第壱話

シンジはゆっくりと目を開いた。
「・・・ここは?」
電車の車内の様である。
「・・・・」
外の光景から判断するに、第3新東京市に向かう途中であるようだ。
手元には、シンジの鞄がある。
「・・・戻って来れた様だな・・」
右手にATフィールドを集中させてみる。
あっさりと出来た。
シンジは思わずにやりと笑った。
ATフィールドが使えるのならいざと言う時の手として色々と使える。
『特別非常事態宣言発令に付き、次の停車駅で緊急停車します。』
暫くして列車は駅に到着し、シンジはホームに降り立った。
セミの声が響いている。
シンジは無人の改札を抜けて駅の外に出た。
『本日12時30分東海地方を中心とした関東中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は速やかに指定のシェルターに避難してください。繰り返しお伝えします、本日12時30分東海地方を中心とした関東中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は速やかに指定のシェルターに避難してください。』
辺りに人は、一人も見当たらない。
「さて、葛城さんが来るまで暫く待つかな」
わざと呼び方を変えた。
今までに切りをつける為に、
・・・・
・・・・
やがて、白いスポーツカーが物凄い速さでこちらに向かってくるのが見えた。
「少し、早い気がするけど・・・あの走り、間違い無いな、」
シンジは車を睨み付けた。
復讐に駆られた、愚かな女が駆る車を・・・色が違うのが少々気になるが・・・
白いスポーツカーはシンジの目の前で止まった。
ウィンドウ越しにミサトが見える。
(やはりか・・)
ミサトは車から降りて来た。
ネルフの制服でバシッと決めている。
直接睨み付ける。
ミサトはこりゃ〜随分と怒っているのね・・・とでも考えたのか、汗をかいた。
「碇シンジ君ね、遅れてごめんなさい」
「・・・・いえ・・・葛城さんですか?」
「ええ、そう、葛城ミサト、ネルフ本部戦術作戦部部長3佐よ」
「・・・そうですか・・・」
「時間が無いの、悪いけど早速乗ってくれる?」
取り敢えず、今何か起こすのは得策ではない、従うべきだろう。
死んでしまっては何もならない、使徒は倒しておかなければならない。
「・・はい」
シンジは助手席に乗り込みミサトは直ぐに車を走らせた。
やはり物凄い運転である。
「これ、資料・・・本部に着くまでに読んでおいてくれる?貴方にとって相当重要な事項も含まれているから」
ミサトは極秘と銘打たれたファイルをシンジに渡した。
「・・はい」
(どうせ、どうでも良い内容ばかりだろ)
しかし、適当なページを開いた瞬間、シンジの考えはあっさりと覆された。
初号機が写真入りでしっかり乗っていた。
「・・・」
(・・・どう言う事だ?機嫌取りか?)
シンジの思いを他所に、車はジオフロントへと続くトンネルに入った。


そして、ネルフ本部に入り、ケージへと向かった。
(・・迷っていないな・・ふざけやがって・・・)
前回迷ったのは、わざとだったのか、自分の様子がおかしいので、手を変えたのだろう・・・腹が立つ。
ケージへと続く通路でリツコが待っていた。
「リツコ」
「この子が、サードチルドレン?」
「ええ、碇シンジ君よ」
(自分のコンプレックスで、人にまで不幸を振りまいた女)
シンジはリツコを睨みつけた。
リツコは少し戸惑ったが、名乗っていない上に、ミサトに確認を行った、自分の事を頭ごしに進めているのが気に入らなかったのか何かであろうと解釈したようだ。
「初めまして、シンジ君。私は、赤木リツコ、ここの技術開発部の部長をしているわ」
「・・初めまして」
シンジは軽く頭を下げた。
3人はケージへと向けて歩き出した。
「サキエルは?」
「現在、陸上自衛隊の戦車部隊と交戦中、突破されるのは時間の問題ね」
「・・そう」
そして、ケージの扉が開かれた。
アンビリカルブリッジの中央ほどに、見た事の無い男性が立っている。
(・・・だれだ?)
「司令、碇シンジ君をお連れしました。」
男性は軽く頷いた。
「碇シンジ君、我々の召集に応じてくれた事に感謝する。」
「私は、皇耕一。特務機関ネルフ総司令を務めている。」
(・・何?)
「我々特務機関ネルフは、」
その後、耕一から様々な説明があったが知っている事でもあったので聞き流し、どう言う事なのか考え込んだ。
しかし、結論は出なかった。
「さて、シンジ君、初号機に乗ってくれるかどうか、聞きたい。」
シンジは初号機に目をやった。
「・・・・、乗らなかった場合は?」
「・・そうだな、先ほど説明したように、放置すれば使徒によってサードインパクトが引き起こされ、人類は滅亡する。」
「まあ、それは結果的には、だ。今回に限ってなら、防げる」
耕一に視線を戻し、軽く首を傾げた。
「我々の最終手段はこの施設の自爆だ。それによって、あの使徒は倒せる。だが、次に訪れる使徒にサードインパクトを引き起こされてしまう・・・まあ、最終的な結果は同じだろう。」
周りの職員に目を向ける。
覚悟をしている者としきれていない者が居るようだ。
「それだけだ、」
シンジは耕一の目をじっと見た。
何も読み取れない。
(・・・ここで引かない方が良いのか・・・?)
「・・・分かりました。」
「そうか、済まない」
耕一は軽くシンジに向かって頭を下げた。
「リツコ博士、説明を」
「はい・・・シンジ君、来てくれる?」


その後、別室で行われたリツコの色々な説明を聞き流した後、エントリープラグに入った。
『冷却完了、ケイジ内全てドッキング位置。』
『パイロット・・・エントリープラグ内コックピット位置に着きました!』
『了解、エントリープラグ挿入』
『LCL排出開始』
『プラグ固定完了、第一次接続開始!』
『エントリープラグ注水』
足元からLCLが満たされ始めた。
(ああ・・驚いておかなきゃ)
「な、なんだこれ!?」
『LCL、説明したでしょ、肺がLCLで満たされれば、直接酸素を取り込んでくれます』
聞いていなかった。
・・・
「・・・気持ち悪いですね・・」
『そう、でもLCLは必要なの、我慢して』
確か、前回は男の子だから何とかで我慢しろと言われたような気もするが・・・
『主電源接続、全回路動力伝達、起動スタート、シナプス挿入』
『A−10神経接続異常なし、初期コンタクト全て問題無し。』
『全ハーモニクスクリアー、シンクロ率78.11%、暴走、有りません。』
発令所で驚嘆の声が上がる。
シンジは司令塔にいる3人に気付いた。
耕一の後ろに碇と冬月が立っている。
(何々だ!?)
『エヴァンゲリオン初号機発進準備!』
ミサトの声が響いた。
『第一ロックボルト外せ!』
『解除、続いてアンビリカルブリッジ移動!』
周りの物体が動いていく。
『第一、第二拘束具除去』
『第3第4拘束具除去』
『1番から15番までの安全装置解除。』
『内部電源充電完了、外部コンセント異常なし。』
『エヴァンゲリオン初号機、射出口へ。』
エヴァが移動し始めた。
そして止まった。
『進路クリアー、オールグリーン!発進準備完了。』
『シンジ君、心の準備はできたかしら?』
「・・・はい・・・」
『宜しいですね。』
『ああ、我々には選択肢は残されていない』
『発進!!!』
ミサトの声とほぼ同時にいきなり強いGが掛かった。
そして、第3新東京市郊外に射出された。
『前方3200メートルに第参使徒』
その通り、結構離れたところにサキエルがいる。
(・・何々だ?)
シンジは首を振って考えを振り払い、取り敢えず戦う事にした。
『最終安全装置解除!』
肩の安全装置が外された。
『先に言った通り、エヴァは貴方の考えた通りに動きます、』
取り敢えず軽く動かしてみた。
『シンジ君、あれ相手に、刀、槍、ナイフ、使うとしたらどれが一番マシ?』
「・・・・・刀なら剣道で・・・」
(って、竹刀か・・)
アクティブソードが手元に射出された。
『使って』
「・・・はい」
初号機はアクティブソードを手に取った。
『距離1000、警戒距離に入りました。』
『シンジ君、貴方に任せるわ、方法は問わないから好きに叩きのめして』
「・・はい」
とにかく撃破する事にした。
ものの30秒も掛からずにサキエルのコアを真っ二つにして殲滅した。


戦闘終了後、リツコでは無く耕一がやって来た。
「御苦労だった」
耕一は手を差し出し握手を求めて来た。
「・・はあ・・・有難う御座います。」
手を握り返す。
「お父さんに会わせる前に紹介したい人物がいる、付いて来てくれるかね」
「・・はい」
二人で通路を歩いている。
「歩きながらで良いから、いくつか聞きたい点があるんだが、今後の、使徒戦に於いて、参考とし、その戦いを有利に進める為にも、全て正直に答えて欲しい」
「・・・」
(嘘をついたことがばれると、なぜ嘘をついたのかと追求されると、)
「良いね」
「・・はい」
こう答えるしかない。そうしないと色々と厄介を背負う事になる。
使徒と戦った印象、エヴァに乗った感じ、その他何点か尋ねられ、一応穴の無いような回答で返した。
「ここだ、」
ネルフ中央病院の特別病室である。
耕一はノックをした。
「私だ。」
圧縮空気の抜ける音ともにドアが開いた。
ジオフロントから穏やかな風が部屋の中に吹き込み、レースのカーテンを揺らし、そして、部屋を通り抜け廊下へと拭きぬけた。
「あ・・・」
その窓の傍で、レイが車椅子に座っていた。
(・・綾波か・・・)
二人は中へと進み行った。
(確か・・・もっと酷い怪我だった筈・・・)
(・・・綾波か・・・綾波ぐらいか・・・僕を利用しなかったのは・・・)
(利用すると言う事すら知らなかったのだから・・・まあ、当然か・・・)
「レイ、碇シンジ君だ」
レイは視線だけシンジに移した。
「・・宜しく」
シンジから言葉を発した。
レイはその言葉を聞き、ゆっくりと微笑みを浮かべた。
勿論シンジは驚いた。
こんなに早くレイが笑みを浮かべるだなんて・・・
「・・宜しく・・」
「綾波レイ、一応、零号機の専属操縦者に認定されている。」
その後、特に話もすることもなかった為、退室する事になった。


そして、総司令執務室に向かったと思ったのだが・・・
副司令執務室となったいた。
「私だ」
無言で重々しい扉が開く。
二人は副司令執務室に入った。
碇が大きな机につき、冬月がその斜め後ろに立っている。
シンジは碇を睨み付けた。
「君のお父さん、碇ゲンドウは、特務機関ネルフの副司令を勤めている。そして、君のお母さん、碇ユイ博士の恩師でもある冬月コウゾウは、総務部の部長を務めている。」
(・・・この人がいるから色々と変化しているのか・・・)
シンジは耕一をじっと見つめた。
一体何者なのか・・・
「・・・司令、退室願えますか?」
「・・そうか、そうだな、冬月君、」
冬月は頷き、耕一と共に部屋を出た。
この広い部屋にこの親子だけになった。
全ての想いを込めて愚かな父を睨み付ける。
流石に少し怯んだようだ。
ずれてもいないサングラスのずれを直してしきり直す。
「・・・、久しぶりだな」
「・・そうだね」
シンジは機械的に答えた。
「既に知っているだろうが、ネルフには、人類を守るという義務がある」
ネルフに関して色々と説明をされるが、既に知っていることや、あるいはその真実を知っていることが殆どであった。
だが、一部そうでもないこともあったため、聞き流すわけにも行かなかった。
「それで、今ネルフは、二つに分裂している。」
「?」
「あの男の派閥と、私の派閥に分裂している。」
「シンジ、お前は私に協力して欲しい」
結局は、駒・・・使徒と・・・そして耕一と対抗するための駒としか考えていないのだ。変化だらけで戸惑うことばかりだったが、碇は変わっていない。
改めて腹が立つと共に、どこかほっとするところもある。これで、今この目の前にいる愚かな男には心おきなく復讐が出来る。シンジは表情には出さずににやりと笑った。
その後色々と状況や理由を説明しシンジの協力が必要であると言うことを主張していたが、全て聞き流し、心の中でどす黒い炎を燃え上がらせた。
「シンジ」
「・・・自分が信用に足るような人物だとでも思っているのか?」
シンジの物とは思えないような口調と言葉に碇は驚いた。
「さっき、御丁寧にも説明してくれたけど、とても信じられないね」
眉間に皺を寄せる。
「くくく、あはは!不満なの?自分がそれだけの事をして来たって言うのに!」
「もう用は無いね」
シンジは部屋を出て行こうとした。
「待て、」
「嫌だね」
笑いながらシンジは碇には構わず部屋から出た。