ああ、あの時のことを思い出すとやっぱり顔がほてってきてしまう。 やっとこさ、お姉さまとちゃんと向かい合って話せるようになってきたけれど……それでもやっぱりあの出来事は大きいものだったのだ。 まあ、ちゃんと話せるようになってきたから、新聞部のイベントの話を改めてして、私が参加することになった。イベント自体に参加したくないとのは変わらないけれど、お姉さまは参加する代わりにイベントが終わった後一緒にどこかに行かないかと言ってくれたのだ。それに家に来ても良いって……お姉さまのお家におじゃまできるという条件に、にんじんを目の前にぶら下げられた馬のように即決に向かって突進してしまった。 いまでもそれだけのものだとは思うのだけれど……それだけじゃなかった。その日はお姉さまの両親は留守で、泊まっていっても良いとまで言ってくれたのだ! お姉さまの両親と会えないのは残念ではあるけれどその代わり、お姉さまの家に二人っきりということになる。すごいことじゃないか。 夕飯を二人で一緒に作って食べて、夜は、二人で同じ部屋に布団を敷いて、一緒に…… いや、そうじゃなくて、お姉さまの部屋で一緒に……なんてことになるかも? ひょっとしたらの、ひょっとしたらだけれど、お姉さまのベッドで二人で一緒になんて…………………… 「ゆみ〜」 「え!? ゆ、祐麒!?」 いつの間にか、机に座って妄想の世界に旅立っている私の顔を祐麒がのぞき込んでいた。 「何を考えてたのかは知らないけどずいぶん楽しそうだったな」 「な、何黙って入ってきてるのよ!?」 「こうしてそばで何度も声をかけてやっと気付いたっていうのに、何言ってんだよ」 「う……」 いっしょに俺が部屋の外から何回声をかけたと思っているんだよ、そう言っているわけだ。 「ま、まあいいわ。で、何のよう?」 「いい加減風呂入れよな。何時だと思ってるんだ?」 時計の針は確かに良い時間を示していた。 「うん、分かった。そうする」 「佐藤さんと仲直りをできたのは良いけれど……まあほどほどにしとけよ」 「うぃ」 全くもっておっしゃるとおり……今日の授業中も同じように妄想にふけっていて、桂さんから「祐巳さん、祐巳さん、授業終わっているよ」なんて声をかけて現実世界に引き戻してもらったりしたものだ。 幸せなのは良いことだけれど、確かに、ほどほどにしておいた方が良いのは間違いないな。 それで、お風呂に入って来ることにした。 ……思ったそばから、危うく妄想に吹っ飛んで長風呂をしてのぼせてしまいそうになるところだったけれど、幸か不幸かそうはならなかった。イベントに向けて考えておかなければいけないこと思い出したのだ。 それは「チョコレートはどこに隠す?」ということだ。 鞄をあけてもらった地図を取り出す。 参加者にも当日同じものが配られるそうだけれど、学園祭で使用した校内案内図から写したのだろう校内の詳細な地図に隠していい場所いけない場所があわせて記されている。その地図を見ながら考える。 正直に言えば、やっぱりどこの誰とも分からない人とデートをするなんてのは嫌だ。 だからできることならずっと見つからないと嬉しいのだけれど、絶対に見つからないような場所か…… 地図に載っているところはどこもかしこも徹底的に調べられるだろうから、ちょっとやそっとじゃすぐに見つかってしまうだろう。 「……埋めちゃおっか?」 地面に埋めてしまうか? しかも、深く埋めてしまえば見つかることはないだろう。 「…………だめか」 そんな絶対に見つかるはずがないようなのでは、後々非難ゴーゴーなのは間違いないし、お姉さまだってどう思うか分かったものじゃない。 だから同じように池の中とかそういうのもだめ……絶対に見つかるはずがないところには隠せないけれど、見つけられたくない。だめだ二つは矛盾している。 八方ふさがり状態。 どうしたらいいのだろうか? 絶対に分からないような場所に隠すことはできないのだから見つけられてしまうことを前提で考えなければいけない。だったら私がよく知っている人、私のことがよく分かっている人に見つけられるならば、どこの誰とも分からない人というわけじゃないから、そういう特別な場所に隠せばいいのかな? この場合、一番良いのはもちろんお姉さまだけれど……お姉さまは捜す気はないだろうからだめ。 そうすると、志摩子さん、由乃さん、桂さんや蔦子さん辺りだろうか? この四人だったらデートすることになっても私はいいけれど、前の二人は私のを見つけたら、むしろがっかりしてしまうかもしれない。 そうすると、桂さんと蔦子さんか……だめだ。蔦子さんがイベントで私のカードを探すなんてありえない。もちろんバレンタインデーはチョコレートの受け渡しをする人が多いけれど、それ以外にもロザリオをなんて人もいる。その上、このイベント自体蔦子さんにとっては絶好のシャッターチャンスを提供してくれるものだから、新聞部から特に要請なんかなくても撮りまくっているだろう。 ……だとしたら残るのは桂さんだけだけれど、桂さんとの特別な場所か、よく一緒にお弁当を食べた屋上なんてのは特別な場所かもしれないけれど、だめだろう。隠す場所があまりないうえに、私から教えてでもしなければ、まさかそんなところに隠すと考えるはずもない。 だったら、私だったらどこに隠すか推測してもらうしかない……つまり、お姉さまに見つけてもらえるような場所に隠すわけか…… 「…………あ、あの温室」 地図を見るとあの温室は今回のイベントの範囲内だった。 こんなところに気づく人はほとんどいないだろう、あの小さな温室。 けれど、あそこでお姉さまからロザリオを受け取ったのだ。私にとって特別な場所……見つけるのが他の人であっても、あの場所を当てられるような人にだったら見つけられても良いかもしれない。 よし、ロサ・ギガンティアが目印になるようにその近くに隠すことにしよう。『白いカード』
〜1〜 今日は十三日……リリアン大学の一般入試の合格発表がある。 それで他の受験生たちと一緒に掲示板前にやってきたのだけれど、もう掲示板の前は大勢の受験生でごった返していた。 まだ発表はされていないようだし、もっと空いてから見に来ればいいかなと思ってくるっと回れ右をしたとたん、辺りの雰囲気が一変した。 さっきまで騒がしかったのが一瞬にして静かになった……その理由は見なくても分かる。 折角だし見ていくかと、今度は回れ左をする。 掲示板の前に何人かの大学職員が大きな紙を丸めて持って立つ……準備ができたならさっさと発表したらいいのにと思うけれど、発表時刻きっかりを待っているのだろう。 結局待ったのは一分かそこらだった。職員が一斉に掲示板の上で紙を広げて止めた。 たちまちあちこちから歓声があがり、少し遅れて深い溜息が漏れ聞こえてきた。 「えっと、私のは……」 文学部を探し出し人混みをかき分けてその前に行く。 一般入試分しか張り出されていないから、並んでいる数字の数は意外なほど少ない。 とびとびの数字の配列を見ていく……とびとびでも順番に並んでいるからすぐに自分の受験番号を見つけ出すことができた。 「うん」 当たり前の結果が当たり前のようにやってきた。そう考えることもできるのだけれど、嬉しかった。これであと四年間このリリアンにいることができるようになったのだ。 しばらく掲示板の前の人混みの中にいたけれど、入学手続きとかは又今度だから、今日の用事はもう済んだ。 大学の敷地を後にして高等部に戻ってきて、はたと気づいて立ち止まった。 ポケットに入っている祐巳からもらったお守り。 これを受け取ったのはついこの前、それから試験があってもう合格発表なんてことはいくらなんでもありえない。 ……まいったな。 どのみち受けていたのがリリアンだってことは分かってしまうことだけれども、しばらくの間は合格したことは祐巳には伏せておこうか? 「結果、どうだった?」 「OKだったよ」 私の結果を待っていてくれていたのだろう蓉子にVサインを作って返す。 「おめでとう」 「ありがと」 「それと江利子から伝言、不合格おめでとう。白薔薇さまがリリアン大学を受けて不合格だなんてリリアンかわら版一面間違いなしね。だって」 こらこら 「聖が受かると確信していたからこその伝言だったんでしょう」 「だろうね」 そうでなかったら一発殴ってやる。 「江利子、今日試験じゃなかったら来てたはずよ」 「蓉子は明日だっけ?」 新聞部が持ちかけてきたバレンタインデーのイベントも明日。 「ええ、でもイベントの途中には戻ってこれるはずよ」 「そっか、うん。それは良かった」 祥子に引き受けさせるために出したプレゼント要求。あれはそれだけのためじゃない。本当に見たがっていたから……その光景を無事見ることはできそうだ。 「ああ、そうだ一つお願い」 「ええ、何かしら?」 「祐巳の前ではまだ合格したこと話に出さないで」 「……祐巳ちゃんとはどうなの?」 「上々ってところかな? やっとまともに話せるようになったし」 と苦笑しながらポケットのお守りを取り出して蓉子に見せた。 「これ、祐巳からもらったんだわ、でも私が馬鹿だったから、もらったのはついこの前なわけよ」 「なるほどね。わかったわ」 それが良いのか悪いのかは分からないけれど、私にとってこれは『合格祈願』じゃなくて『仲直り』のお守り、ある意味『家内安全』のお守りかな? 〜2〜 バレンタインデー当日……カードを隠すために早い時間帯に登校した。 いつもはマリア様に手を合わせた後校舎に向かってまっすぐに進むけれど、今日は分かれ道で右に曲がった。 行き先は、あの温室。 道を歩いていったら、クラブの朝練には遅いけれど一般の生徒の登校には早いこんな時間なのに他にもこの道を歩いている人を見つけた。 その人は温室の前で体の向きを変えて……こちらに気づいた。 「あ……ご、ごきげんよう」 「ごきげんよう」 見覚えはないけれど、背が低いから一年生かな? そう思ったけれど、その生徒はすぐにそそくさと立ち去っていってしまったから、分からなかった。でも、別に確認するような話でもないから良いかな? でも一応とはいえ、さっきの人に温室に隠してしまうことが分かるとまずいので、姿が見えなくなってから温室に入ることにした。きょろきょろと辺りを見回してから入る……誰もいなかったから良かったけれど、見られてしまっていたら、逆にアピールするようなものだったかも…… 「あ……」 周りには誰もいなかったけれど温室の中には先客がいた。 「あら? 祐巳ちゃんごきげんよう」 それは祥子さま……地面にしゃがんで紅い薔薇の側の地面をシャベルで掘っていた。 「あ、ごきげんよう」 掘る手を止めてゆっくりと立ち上がる。 「ひょっとして祐巳ちゃんもここに?」 「あ……は、はい。ロサ・ギガンティアの近くに隠そうかなって」 「そう。考えることは同じだったわけね」 「と、言うことは、その花がロサ・キネンシスなんですか?」 「ええ、そうよ。自分を示す薔薇の近くに……というのはちょっと安易だったかしら?」 そんなことない……と言いたいけれど既に二人で被ってしまっている以上言うことはできなかった。 しかし、困った。折角考えた場所だったのに、それが二人で被ってしまった。 確かにロサ・キネンシスとロサ・ギガンティアという二つの場所の差はあるとは言え、同じ温室の中に二枚のカードを隠すのはあまりよろしくないだろう。 「それにしても……どうしたものかしら?」 祥子さまも同じことを考えているようだ。 早いもの勝ちというわけでもないとは思うけれど、祥子さまは志摩子さんに見つけて欲しいと思っているはずで、私の方はお姉さまは探さないわけだから、私が退いた方が良いかなと思う。でも、その前に理由を聞いてみよう。 「祥子さまはどうしてここに?」 「……学園祭の二日前のことを覚えていて?」 学園祭の二日前……忘れられるはずがない。私とお姉さまが本当の意味で姉妹になれた日だ。 「はい」 「……その時私たちが本当の意味で姉妹になった場所がここだからよ」 そうか、そうだった。あの時私たちだけでなく、薔薇の館を飛び出してしまった志摩子さんと追いかけていった祥子さまの間でも同じことがあったのだった。 その場所がここだったのか…… 「ちなみに祐巳ちゃんは?」 「あ……はい、祥子さまほど深い思いがあるわけじゃないんですけれど、ここでお姉さまの妹にしてもらったんです」 あの時のことを考えていてワンテンポ遅れた返事になってしまったけれど、理由を説明した。 「そうだったの」 「はい、でも、お姉さまは探そうとしているわけじゃないですし、志摩子さんに見つけてもらえると良いですね」 「ありがとう……埋めてしまうわね」 「はい」 祥子さまは鞄からビニールの袋に入った紅いカードを掘った穴に入れてその上から土をかぶせて軽くパンパンって感じで叩いて平らにした。 「お待たせ」 「いえ」 「いきましょうか?」 温室を後にして校舎に、というところで思いついた。 今は他に誰もいない二人きりだし時間もある。チョコレートを渡すのに良い機会ではないだろうか? 「あ、そうだ。祥子さま……」 鞄を開けて祥子さまに送るチョコレートの箱を取り出した。 祥子さま宛とお姉さま宛、区別がつくように、祥子さまの方は紅いリボン、お姉さまの方は白いリボンをまいてある。 「あの、これ、チョコレートなんですけれど、もし良かったら……」 「あら、ありがとう」 嬉しそうに微笑みながら私のチョコレートを受け取ってくれた。 「開けても良いかしら?」 「はい、もちろん」 祥子さまは丁寧にリボンをほどいて包装紙を開けていく。 中から現れたのは一ダースのトリュフチョコ。 一つつまんで口に入れる……やっぱり祥子さまがやると何でも絵になると改めて思う。 「とても美味しいわ、ありがとう」 ちょっぴりぽわ〜んと幸せな気分に浸っている。 やっぱり祥子さまとお話しできるだけでも嬉しいのに、私のチョコレートを受け取ってもらえて、さらに美味しいとまで褒めてもらえるなんて……もう、とっても幸せ。 「ごきげんよう祐巳さん」 「あ、ご、ごきげんよう」 声をかけられて気づいたけれど、目の前に桂さんがいた。最近やけにこのパターンが多い気がする…… 「何か朝から良いことでもあったの?」 「……あ、うん、ちょっとね」 「ちょっとって感じじゃなかったような気もしないでもないけれど……何があったか聞いても良い?」 「ん……」 話しても良いものだろうか? ……まあ、私が祥子さまのファンだってことは十二分に知っているんだし良いかな? 「祥子さまにチョコレートを贈ったんだけれど、美味しいって褒めてくれたの」 「おめでとう。それにしても、よく受け取ってもらえたわね。祥子さまってチョコレートを突き返すっていう話で有名なのに」 その話は祥子さま本人の口から聞いて初めて知ったのだけれど、有名な話だったのか…… 「それは、祥子さまにチョコレートを贈りたいからじゃなくて、チョコレートを贈りたいから祥子さまに贈るっていう人ばっかりだからって言っていたよ」 「……う〜ん、どういう意味?」 私の話し方では分からなかったようで聞き返してきた。 「えっと……なんて言うか、祥子さまに贈りたい特別な理由があるんじゃなくて、バレンタインデーって日に誰かに贈りたいからその相手に祥子さまを選んだだけで、祥子さまから突き返された後そのチョコレートを令さまとか今の薔薇さまに贈った人たちもいたらしいのよ」 「ふうむなるほど。そんないい加減な気持ちで贈られるなんて冗談じゃないってことか……でも、中には祐巳さんみたいに純粋に祥子さまがっていう人も少なからず含まれているんじゃない?」 「うん、確かに……」 私はたまたま祥子さまとこうして接する機会があるからこそ受け取ってもらえたけれど、もしそうでなければ……祥子さまに受け取ってもらおうとして、突き返された大勢と一緒になっていたかもしれない。そう言った人たちにとっては、祥子さまの行動は可哀想なことかもしれない……その想いが強ければ強いほど。 「それにしても、朝から祥子さまと会えてチョコレートを渡すことができたなんてついているわよね。今日は放課後ドタバタするから、渡しそびれやすそうだし」 「イベントだからね……あっ!」 「ど、どうしたの?」 「えっと……」 参った……イベントのことをすっかり忘れかけていた。私も祥子さまと同じ主役の一人なのだった。カードを温室に隠すことはできなくなったわけだけれど、だったらどこに隠したらいいのだろう? イベントの開始時間は刻一刻と迫っている。 けれども、まだ、適当な隠し場所を見つけられていない。もうお昼前……このままではまずい。 今は被服室でお裁縫の授業。エプロンをミシンで縫いながら、隠し場所のことを考えていたら…… 「ぎゃあ!」 思い切り縫いすぎた……大失敗。 「全く何やってるのよ」 叫び声にみんなの視線が集まってしまった中、隣に座っている蔦子さんが呆れが混じった声をかけてきた。 「うん……」 「ミシンを使っているときにぼうっとしてたら危険だよ」 「ありがとう。でもそれは分かってる」 「なら良いけど、ちなみに何考えたわけ?」 失敗してしまったエプロンをどうすれば直せるか、手にとって考えながら答える。 「カードの隠し場所」 「あれ? 決めてたんじゃないの?」 「決めてはいたんだけれどね。祥子さまと被っちゃってたの」 志摩子さんや由乃さん、特に由乃さんはヒントになるような情報を求められて苦労しているらしいけれど、つぼみに直接聞くのは反則だとさすがにみんな分かっているから具体的な場所を口にしなければいいだろう。 「ありゃ、そうだったの」 「それで、その時チョコレートを渡せたんだけれど……ね」 「もう時間あんまりないしなぁ……」 「うん、蔦子さん何か良いアイデアない?」 「ん、良いアイデアか……」 腕組みをして考える蔦子さん……ってミシンが動いたままです! 「つ、蔦子さん! ミシンミシン!」 「え? あっ!」 蔦子さんの方は少し縫いすぎたくらいで、その程度なら簡単にごまかせる程度だけれど……被害をあたえてしまってごめん。 結局特に思いつく場所もなく、エプロンの方もはかどらず、散々だったけれど、とりあえず授業は終わった。 直すのにずいぶん時間を取られてしまったし、これは休み時間やなんかにエプロンを作りに来ないとダメっぽいな…… それでも、大したモノにできそうにないし……後ろの方に飾られている歴代の秀作とは比較しようがない。 参考にできたらなんてわけじゃないけれど、一人残ってちょっとそれらを見ていくことにした。 「それにしてもすごいなぁ……」 本当にすごい……単にエプロンが立派ってだけじゃなくて、時間が大分余ったのだろう。その下にあわせて着る服やこった飾りなんかを作っている。 その中で目を引くのはメイド服……放課後とかにもやったのかもしれないけれど授業でよりにもよってこんなのを作るなんて、いったいどんな人なのか気になる。それで名札を見てみたら……よくご存じの方で『鳥居江利子』と書かれていた。 「……さすがというか何というか」 驚き半分と呆れ半分。 けれど、黄薔薇さまのエプロンがあるのだったら、お姉さまのエプロンとかないだろうか? そう思って見て回ったけれど、残念ながらお姉さまのエプロンはなかった。紅薔薇さまや令さまのエプロンは見つけたけれど……なんだか山百合会比率が高くないか? まあ、そんなことはおいておいて、一つ気になったのがあった。 知らない名前の人の作品だけれど、エプロンなんだから白が基調というのは普通なんだけれど、胸元できゅっと結ばれている白いリボンが妙に目にとまった。そしてそのリボンにはロサ・ギガンティアの刺繍が入れられいたのだ。 このリボン……私がお姉さまから買ってもらった、お姉さまのために先代の白薔薇さまが買おうとしていたあのリボンに似ている。……このエプロンを作ったのは先代の白薔薇さまなのだろうか? その真偽は定かではないけれど、図書館の図鑑でも、温室の本物の薔薇でもなく、こんなところでロサ・ギガンティアを見つけることができた。 誰もいないことを確認してから、そっとこのエプロンのポケットに白いカードを滑り込ませた。 中編へ