少し伸びたおかっぱ頭をしてどこか市松人形にも思える風貌の彼女。成績はきわめて優秀。 外部入学生特有の戸惑いがひときわ強かったようだったが、なぜか……いや、きっとそんな人間だったからこそ、お優しい祐巳さまの目にとまったのかもしれない。 そして、そんな祐巳さまの心に応えるかのように、彼女の振る舞いはまだまだ不慣れな部分は見え隠れするものの、一般生徒を通り越しているような部分すら見えるようになってきていた。 確かに祐巳さまとお話をさせていただいたり、一緒にお弁当を食べさせていただいたり……それはとてもうらやましいものではあったけれど、彼女はそうされるに値するだけのものを持っているとも思えたのだから。 ……そこまでは良かった、そこまでは良かったのだ。 けれど、彼女は祐巳さまだけではなかったのだ。あろうことか紅薔薇のつぼみを「志摩子さん」呼ばわりし、それを許されていたという。 なるほど、確かにきっかけは彼女が主張するように、祐巳さまを通してなのだろう。とはいえ、わざわざ紅薔薇のつぼみが彼女に会うため教室まで来るとか、一緒にお弁当を食べたりするなどとは…… たとえ明記されていなくても、守るべき規則というものは往々にして存在していたりするものだ。無論、このリリアンにもそういったものがある。例えば姉妹関係。 この関係は一対一のものである。それがたとえ体験であろうとも、姉妹のちぎりを交わした以上、他の上級生とステディな関係になることはあり得ないことなのだ。 つい先日、そのあるまじき行い……二人と同時に姉妹体験をしていた二年生がいた。風の噂によると、祐巳さま自ら指導されたというが…… でも祐巳さま、ご存じでしょうか? 貴女の妹である彼女……二条乃梨子がその一線を破ってしまったことを。 だからそう、これはメッセージなのだ。マリア様はその行いをすべて見ているという。 私の手中には小さな巾着袋があった。 もうひとつの姉妹の形 〜チェリーブロッサム〜 最終話 運命の日 〜1〜 とある生徒が引き起こしてくれた、実にやっかいかつ面倒な両天秤疑惑事件をどうにかこうにか乗り切り、あとは当初の予定どおり新入生歓迎会に向けて最後の準備に励もうと、薔薇の館に向かっている途中のことだった。 「あ、瞳子ちゃんだ」 「げ、あの子か」 「由乃さん……」 「祐巳さんはよく平気よね。私、どうも彼女が苦手だわ」 こちらに歩いてくる瞳子ちゃんを見て、隣を歩く由乃さんが露骨に顔をしかめるものだから思わず苦笑いしてしまう。 瞳子ちゃんに私がけちょんけちょんに言われた時、由乃さんが反論してくれてからというもの、私以上に彼女のことを苦手にしているような気もしないでもない。相性の問題もあるのかな? 「ごきげんよう、瞳子ちゃん」 「ごきげんよう、白薔薇さま、黄薔薇のつぼみ……乃梨子さんが困っていらっしゃるというのに、相も変わらずのんきそうなご様子で」 あいさつの後、ささやき声とはいえ明らかに聞こえるように発せられた言葉にぎょっとする。私のことはこの際どうでもいいが、乃梨子ちゃんが困ってる!? 「あなたねぇ……またそういうことを!」 「ありがとう、でもごめん、由乃さん……瞳子ちゃん、どういうこと?」 つかみかからんばかりの由乃さんには、感謝しつつもこらえてもらって瞳子ちゃんに続きを促す。 「私はこの場で話しても構わないのですけど……」 そう言って由乃さんに一瞥を投げる……由乃さんの性格を分かっていてこういう態度に出ていると思うのだけど。この子も本当に何というか。 「由乃さん、本当にごめんなさい。ちょっと遅れそうだから、先に行ってみんなに伝えてもらえない?」 どうかこの場は辛抱してください! そういう気持ちを込めて深々と頭を下げてお願いした。 「祐巳さんの頼みじゃ仕方がないわね」 キッと瞳子ちゃんを睨み付けた後、ため息をついて歩き出した。 そんな由乃さんを見送った後、改めて瞳子ちゃんに向き直る。 「お美しい友情ですね」 「ありがとう。せっかくだし、空き教室にでも行こうか」 この子の嫌みにいちいち付き合っていたら身が持たないので、適当に流しつつ移動し、早速続きを促すことにする。 「で、乃梨子ちゃんにいったい何があったの?」 「そもそも、乃梨子さんが今どういう状況かご存じですか?」 それが聞きたいのだけど……「質問に質問で返すのをやめて!」と言いたくなるのをぐっとこらえる。 「ごめんなさい、私に分かるのは今日のお昼も一緒に楽しく過ごしたってことだけ」 「本当に何もご存じないのですね。いくら体験だからと言っても……」 瞳子ちゃんはそう言うと、肩をすくめて深々とため息をついた。 「……」 「……乃梨子さん、孤立しています」 「え?」 ようやく本題に入ってくれたかと思えばそれである。 孤立って……確かに乃梨子ちゃんが現時点でリリアンのことをどう思っているのかとか、まして基本的にはもう少し放っておいてくれた方がうれしいなんてクラスの子たちは知らないだろうから……。 そういうことなら問題ないと早合点しかけた時、爆弾は投下された。 「どうしてだか分かります? 乃梨子さんがあなたと紅薔薇のつぼみを両天秤にかけようとしている、そう思われているからですよ?」 「嘘っ」 「なぜ、嘘だと?」 「だ、だって、乃梨子ちゃんがそんなことをする理由が」 「理由? むしろ乃梨子さんがそれを望んでいないって根拠こそ、どこから分かるんですか? 彼女はあまりそういう話をしたがりませんしね。その上であなただけでなく紅薔薇のつぼみとも楽しそうに、それも「さん」付けで呼んでいるなら誤解を招いても当然では?」 なんて事だろう。 乃梨子ちゃんがリリアンで過ごしやすくするために、少しでも楽しくやっていけるようにとしてきた行動がすべて裏目に出てしまうなんて。しかも、せっかく由乃さんや桂さんが忠告してくれたのに、そんなわけあるはずがないと気にもかけなかったせいで…… 「外していたら申し訳ありませんが、乃梨子さんはあなたの前でも紅薔薇のつぼみを「志摩子さん」と呼んでいたのですよね?」 「……」 「……やっぱり。で、それをとがめようともしなかった。私は乃梨子さんがふたまたをかけているなんて思っておりませんけれど、端からそう思われても仕方がない行為を、承知の上で助言できない姉が薔薇さまをやっているのは嘆かわしいというか……」 「ありがとう、瞳子ちゃん」 「何か反……え?」 私の反応が予想とは食い違っていたみたいだけど、そんなことは気にしない。 「以前瞳子ちゃんに「なんでこんな人が」って言われた時から少しは頑張ってきたつもりなんだけど、全然だめだね。このまま取り返しの付かなくなる前に教えてくれて、本当にありがとう」 「別に……あなたのためじゃありませんから」 「分かってる。乃梨子ちゃんのためでしょう? 乃梨子ちゃんにも私なんかより、よほど頼りになる友達ができて良かった」 「……」 「あ、本当に申し訳ないけど、今の話を志摩子さんにするのは勘弁してもらえない? 私の口からは言えないけれど、二人が仲良くなる理由も十分にあるんだよ。どういう形にしろ、この状況が解決するように努力するから」 すると、それまで眉間にしわを寄せて聞いていた瞳子ちゃんが、ふっと口元を緩めちょくちょく目にする不敵な笑みを浮かべた。 「お願いをしておきながら理由を話せないってのは、図々しいと思いませんか?」 「うん、思う。でも乃梨子ちゃんのためになるなら、協力してくれるでしょう?」 「……私も、もう少し何かできないか考えてみます、白薔薇さま」 そう言うやいなや、くるりと振り向いて去っていく瞳子ちゃんに、もう一度お礼を言った。 瞳子ちゃんにああ言い切ったものの、何をすべきか結論が出ないまま、土曜日もホームルームが終わってしまった。週明けは新入生歓迎会ということで、このことばかり考えているわけにもいかないところが難しいところだ。 そんな風に考え事に夢中になっているのがいけなかったのだろう。薔薇の館でお昼をとろうと、廊下を曲がったところで誰かと激しくぶつかってしまった。 「いたたた……」 「いつ……あっ、ゆ、祐巳さん! ごめんなさい!」 「乃梨子ちゃん?」 ぶつかったのは乃梨子ちゃんだった。 「ご、ごめんなさい!」 もう一度頭を下げて謝り直す乃梨子ちゃん。そして何かに気づいたような顔になって「志摩子さんがどこにいるか知りませんか!?」って聞いてきた。 「志摩子さん? そもそもどうしたの?」 ずいぶん慌てている様子なのが気になって聞くと、乃梨子ちゃんは少し迷った後、その理由を話してくれた。 なんと、あの数珠がなくなってしまったのだという。鞄に入れてあったのが、掃除から帰ってきてみると、なくなっていたと。 盗難。 誰かが乃梨子ちゃんの鞄の中から数珠を盗み出したということくらいしか考えられない。 一体誰がどうして? 誰がというのは、おそらく乃梨子ちゃんのクラスメイトだろう。そして、どうしてかというと……昨日、瞳子ちゃんが語ったとおりなのだろう。両天秤をかけている不埒な輩に罰を与えてやれ、こんな所か。 そして乃梨子ちゃんも何が原因で孤立しているのか気づいていて、新入生歓迎会が終わった後、私に相談しようとしていた。 ……本当にダメだな。乃梨子ちゃんはクラスメイトの真意を察した上で、私のことを気遣って黙っていてくれていたというのに、私ときたら。 このとき、私の中である種の決意が生まれかけていたのだが、それは横に置いておく。 今、乃梨子ちゃんが何をしていたのかというと、まずは志摩子さんに報告し謝るべく、探し回っていたのだという。 ……地獄に仏とはこのことか。乃梨子ちゃんが志摩子さんを見つけ出す前に出会えたことをマリア様に感謝しつつ、落ち着くように言い聞かせる。 「乃梨子ちゃん、落ち着いて。志摩子さんにそのことを伝えちゃだめだよ」 「え、そんな。どうしてなんですか?」 さすがの乃梨子ちゃんも相当慌ててパニックになりかけている。志摩子さんの考え方まで頭が回っていない。 「いい、乃梨子ちゃん? 今回のことは志摩子さんはもちろん、乃梨子ちゃんだって悪くない。悪いのはよからぬことをしてしまった本人だけ。でも、志摩子さんの性格を考えてみて?」 「志摩子さんの性格?」 「そう。私と一緒に志摩子さんに謝りに行った時のこと。乃梨子ちゃんの話を聞いた後、志摩子さんはどうした?」 「あ……志摩子さん、私に謝った」 「そう。志摩子さんは何も悪くない、それなのに自分という存在があったから、そんな理由で自分が悪いって思ってしまう……今度のことをもし志摩子さんが知ってしまったら、どう考えるだろうね?」 私が想像している志摩子さんと同じものが浮かび上がったのだろう「……ああ、そんな」と少し力を落としながら言った。 そう。志摩子さんは、自分のせいでこんなことが起こったと思ってしまう。ましてや、事実その発端に志摩子さんが関わっているとわかればなおさら……全部自分が悪いって考えてリリアンを去ろうとするに違いない。 「わかった? 絶対に志摩子さんに知られてはダメだよ。私も探すから」 「すみません……ありがとうございます」 若干気を落としながら、去っていく乃梨子ちゃんを見送る。 なんだか、ますます乃梨子ちゃんを追い込んでしまった気がする。でも、あのまま志摩子さんに告白させてしまうのだけは避けないとまずかったし……考えていても仕方がない。まずは数珠を探そう。そうして校内を巡ることにする。 30分ぐらい経っただろうか。当然と言えば当然だが、数珠は見つからなかった。 正直言ってあまりにも歩が悪い。手がかりがなさ過ぎるのだ。誰がしでかしたことなのかすらさっぱりわからない。 見つけ出せるまでの時間と可能性だけを考えれば、ヒントを持っている可能性が高い乃梨子ちゃんのクラスメイトに手当たり次第に聞いて回る……それが一番であることは分かっている。志摩子さんに解決前にばれるのがまずいというだけで、数珠自体は知られようが見られようが、本当は誰の持ち物というところまで知られないかぎり、問題があるようなものではないからだ。 ただ、私が乃梨子ちゃんのためにそこまでしたという事実が、クラスの中でどう思われ、その結果乃梨子ちゃんに対する風当たりがどうなるのかということを考えると、最後の最後まで行使したくない。 かといって、そんな風に考えると、残る可能性は本当に偶然見つけられるような展開だけになってしまう…… 「どうしたものか」 ゴミ箱に捨ててしまうなんてことはありだろうか? あれほど高価そうな数珠だから中身を見たりすれば、とてもそんなまねはできないと思う。さすがに巾着袋の中身を確認せずに盗んだりなんてことはないだろう……だったら、本人が持っているか、どこかに隠したかってことろだろうが…… とても無理そうだ。 志摩子さんはしばらく貸してくれると言っていたらしいから、ある程度時間はあるだろうけれど、だからどうにかなるわけではない。 「やっ、祐巳」 「え?」 声をかけられて、そちらを向くとお姉さまが「や、ごきげんよう」とそこにいた。 「あ、はい。ごきげんよう」 「ところで、なんかあった?」 「え? ……何でもないです」 一瞬お姉さまに手伝ってもらったり、何か策を考えるのに頼ってしまおうかとも思ったが、そのためには志摩子さんのことを話さなければいけなくなってしまう。たとえ直接は話さなくても妙に鋭いところがあるお姉さまにはわかってしまうかもしれないから、そうはいかない。それで、適当にごまかすと、「うーん、祐巳がそういうならそういうことにしておくけど」とか、何かあったことはバレバレだった。 「それで、お姉さま、今日は何か用ですか?」 「ああ、今日はこの前の函館旅行の時の写真ができあがったから、それを持ってきたんだけどね」 「わざわざありがとうございます」 「いいって、ところでさ、あの温室って人気でも出てきたのかねぇ?」 「温室に人気? 何かあったんですか?」 「まあ、何となくだけどね。さっき、通りすがったときになんかいいことあったのか、楽しそうな顔しながら出てきた子がいてねぇ」 「楽しそうな顔ですか?」 「まああの子があそこの手入れをしている人だったってオチかもしれないけど、あそこを楽しむ人が出てきたってことかなって思ってね」 あの温室から楽しそうな顔をして……いや、見込みは正直薄いが、可能性がないわけじゃない気がする。そして今はわらにでもすがりたい状態、ひょっとしたらお姉さまの情報は天からたらされた一本の糸なのではないか、そう思えてきた。 「お姉さま、ちょっと失礼します! 薔薇の館で適当に待っていてください!」 お姉さまの返答を待たずにあの温室に向かって走り出す。「あっ、ちょっ祐巳!」とかお姉さまの驚いた声が後ろの方から聞こえて来た。 全力疾走で、温室に到着、中に入る……誰もいない。 もし、ここに隠すとしたらどこに隠すだろうか? ここはちょうどバレンタインデーのイベントの時私と祥子さまの隠し場所がかぶってしまった場所で、あのときは自分を象徴する花……ロサ・キネンシスとロサ・ギガンティアのところに埋めてしまうという隠し方だった。それらは連想して見つけてもらうための隠し場所、でもそんな場所にはない。 ……自分が隠すとしたらどこへ? そんなことを考えながら、隠し場所になりそうなところを一つ一つ探していった。 「あ……」 棚に並んでいた鉢をどかすと、そこにはまさに乃梨子ちゃんに見せてもらった巾着袋が置かれていた。 「本当にあった」 驚きで少し呆然としてしまったけれど、そのくらい奇跡的なことだった。 早速巾着袋を持って乃梨子ちゃんのところへ駆け出そうとしたところでふと立ち止まった。 このまま乃梨子ちゃんに数珠を返せばそれですべて丸く収まるのだろうか? いや、そんなことはあり得ない。 この数珠を単に返すというのは、私が乃梨子ちゃんのクラスメイトに聞き込みをすることに比べればましかもしれないが、状況は何ら変わらないからだ。隠した本人に運が良いと思われる程度で、もっと悪質な行為に及ぶ可能性だって決して否定できない。 「結局、私たちと乃梨子ちゃんの関係をどうにかしないといけないんだよね……」 昨日の瞳子ちゃんから言われたことや、さっきの乃梨子ちゃんとの話、そして数珠が見つかったという若干の余裕は私にそのことを再び考えさせていた。 だいたい腹を固めてはいるのだ。私が乃梨子ちゃんとの姉妹体験を解消すればいい。 私か志摩子さん、どちらかが乃梨子ちゃんと距離を置くべきであるのならそれは私だろう。出会いかたからして運命……とまで言っては大げさかもしれないが、それに近いものを感じる二人だし。 それに、感情抜きに理屈だけで考えたとしても、やはり私が離れるべきなのだ。 仮に乃梨子ちゃんに志摩子さんとの距離を取ってもらったら、最悪の場合「自分から近づいておきながら、噂になったらさっさと離れるどこまでも図々しい子」みたいな展開があり得る。 かといって志摩子さんに距離を取ってもらったら「最後まで不文律を守ろうとせず、その癖のうのうと白薔薇さまの妹体験を続けている」となるのは想像に難くない。 それに対して(体験)姉である私が原因……何かしらの理由で私が乃梨子ちゃんを振ったという形で解消となった場合のみ、リリアンかわら版も活用できるし、乃梨子ちゃんに同情が集まる形で解決するだろう。 しかし、嬉しいことに乃梨子ちゃんはこんなことが原因で距離を取るのは絶対嫌だ、そんな感じのことを言ってくれている。もちろん私だって本当はそうだ。 この姉妹体験、乃梨子ちゃんにしてみれば少しでもリリアンで過ごしやすくなるための方便、そして私にとっては姉妹関係というものを見つめ直すきっかけに……というのが始まりであったはずなのに、今ではこんな関係を続けていけたらとお互い思い始めているのである。 ただ、それ故にどう乃梨子ちゃんに納得してもらうか。表向きの部分はなんとでもなるが、ここは難しい。 乃梨子ちゃんがこんな私なんかとは姉妹体験を解消してもいいと思える理由。 ……やはり、きっかけを正直に話すことだろうか。あの時乃梨子ちゃんを助けたいという気持ちに嘘はなかった、でも姉妹体験まで持ちかけたのは私自身が姉妹というものは何なのかを考えたかったからだって。もっとも、姉妹が何か分かったのかと言われたら、やっぱり何も分かってはいないのだけど。 ちょっとがっかりされたとしても、納得という意味では微妙な気がする。 考えてみれば、私の過去がまさにそんな感じだった。お姉さまは私に体験を持ちかけた真相を話して、体験を解消しようとしたが結果は(その時点では)本当の姉妹になったのだった。 私にお姉さまほどの魅力があるとは思えないけれど、それでももう少し何か。こんなひどい姉だから解消して当然、みたいな…… 「あ……」 小さな巾着袋。 今の時間を知るべく腕時計を確認しようとして一緒に目に入ってきたもの。 これを見た瞬間、私自身いったいどうしてこんなものをと首をひねるしかないが、確かに策といえるような代物を思いついた。 「でも……」 いろいろと問題があるが、なんと言っても一番難しい点が一年生の協力者が必須なことだ。 誰でもいいというのであれば、私に親しげに話しかけてくれる一年生の子にお願いすればいい。しかし、この役はそれだけで決めていいものではない。その後のことも考えると。 「やっぱり無理かな」 ため息が出てきた。 思いついた時は突拍子もない策ではあるものの、成功の可能性も十分あると思ってしまったが、役者が揃わない時点で既に破綻している。 仕方がない、薔薇の館に行こう。新入生歓迎会の準備が終わった後、祥子さまは難しい気がするから、まずは令さまと由乃さんに相談しよう。賛同が得られたのならその辺の穴も一緒に考えてもらえるかもしれない。うまくいったとしても、それなりに騒ぎになるだろうから、さすがに二人の理解も無しに実行というのはためらわれる。 そう考えて、巾着袋をポケットにしまい温室を出た時だった。 「祐巳さま」 「あ、瞳子ちゃ……ああー!!」 「なっ! なんですか!?」 「ご、ごめん、思わずね」 なんで思いつかなかったのだろう。 松平瞳子ちゃん……演劇部所属、それも主役級を演じることの多い実力派、つまり演技力はまったく問題なし。その上、その後のことを考えると最も重要な乃梨子ちゃんのことを考えて協力してくれる子。 この子が引き受けてくれないのであれば、この作戦はどだい無理ということなのだろう。 よし。 「……祐巳さま? いったい、どうされたのですか?」 「ねぇ瞳子ちゃん」 「はい?」 大きく息を吸って。瞳子ちゃんにしてみたら失笑ものの演技かもしれないが、眼を細めせいぜい悪党面ぶって口を開く。 「ねぇ、悪役やってみない?」 「……はい?」 最終話bへ