ローターの喧しい音が耳を突いている。初号機の自爆によってできた大きなクレーターの上空を飛ぶヘリコプターに、リツコとマヤが防護服を着て乗り込んでいた。 クレーターの大きさはかなりの物で第3新東京市市街地の大部分が飲み込まれてしまっている。 「…凄い爆発ですね」 今回の爆発の規模は資料や映像で目にしているが、こう生で上から見てみるとその規模に驚かされる。そう言ったことからマヤが漏らした。 市街地が消え去っても、既に市外への避難が進んでいたこともあってこの惨状の割には被害は小さいだろうが……それは決して小さい物ではない。 「…そうね。二人は?」 プラグの回収は確認されている。二人とも中央病院で検査を受けていたが、その結果はどうだろうか?マヤはモバイルを操作して、二人の情報を呼び出す。 「二人とも…命に別状はないようです」 「それは良かったわ。でも……こちらはどうかしらね?」 ヘリは高度を下げている。下になにかの残骸が見えている。もはや原形を留めていないが、あれが初号機の残骸である。 そして、ヘリが残骸の近くに着陸し二人はヘリを降りて残骸に近寄った。 数人の職員がその回り集まっている残骸は、人のサイズからしてみればやはり大きな物で見上げなければならない。 「これです」 残骸の中を職員が指し示すところにはコアの破片があった。 大きさからしてコア全体の1割にも満たないであろうか?しかもその状態は見る限り極めて悪く、紅いはずのコアがどす黒い色に変色してしまっている。これではコアの中にいたキョウコの消滅はまず間違いないだろう。 防護服の手袋越しにコアにさわる…ボロボロと崩れてしまうようなことは無く、しっかりと硬質的な感触がある。 ヘリから見下ろした限りこのあたりに他に残骸は見えなかった。 「これだけ?」 「はい、現在の所他は発見されていません」 「零号機の方の残骸も発見されましたが、そちらも御覧になりますか?」 「構わないわ、両方とも回収しておいて。後でじっくり見させて貰うわ」 地上で回収されたコアはセントラルドグマの人工進化研究所分室に運び込まれて解析が行われることになった。 ここの機器は上の区画の機器とは本質的に違う…エヴァの根幹に関わるものが多い。 手元のモニターに零号機のコアの解析が終わった事が示される。 キーボードを叩いて解析結果を表示させて目を通す。零号機のコアはもはやただの粗大ゴミになりはてていた。 「これは、破棄するしかないわね」 まともに有用な情報も得られないだろうから零号機のコアを更に詳しく調べていたセンサー類を止めて、コーヒーカップに手を伸ばす。 (もう、冷めちゃっているわね) いっそアイスコーヒーみたいに冷えてくれればとも思ったが、部屋の温度はそんなに低くない。生ぬるいコーヒーを喉に流し込む。自分の研究室であれば一服するところだが、ここではそれはできないので仕方ない。 暫くして初号機のコアの方の結果も出てくる。 こちらは零号機よりは幾分マシだが、中にいたはずのキョウコの存在を表す物は何も得られなかった。詳細な検査は行うが、おそらく計画にとっては意味のない検査になるだろう。 (二人はこれからどうするのかしら?) 「六分儀、俺たちは今まで何をしてきたんだろうな……」 これが計画という目的を失ってしまった者の声なのだろうか?そのつぶやきはただの疲れた老人の声のようでもあった。 「随分回り道をした。だが、最後はキョウコ自身が選んだ道だ」 一方の六分儀の方は、その様な様子は見えない。 「これからどうするつもりだ?」 「……無論。キョウコの意志を継ぐべきだろう」 返すまでの少しの間…その間は何だったのだろうか? 「厳しい道だな」 「分かっている。自業自得だ。だが、このまま手をこまねいているわけにはいかん」 先ほどの間がどんな意味であったとしても、六分儀の目は既にこれからを見ていた。その強さに冬月は驚きと羨望が入り交じったような溜息を零す。 「そうでもない。経験があるだけだ」 「そうか、だが、それでも強いよ」 「…碇博士が来たようだ」 ドアが開きユイが入ってくる。 「レイ君はいいのかね?」 「ええ、命には別状ありませんでしたし、今は眠っています。シンジ君も同じですよ」 「そうか、」 「だから今の内にこれからのことについて聞きに来ました」 「計画が意味をなさなくなった以上、キョウコの意志を継ごうと思う」 「切り替えが早いですね」 「冬月にも似たようなことを言われた」 「本当に私もそう思います」 「全くだ」 六分儀も含めて笑みを浮かべ、執務室の中の空気が緩む。だが、ユイの次の言葉で直ぐに引き締まった。 「…ゼーレはどう動くでしょうか?」 「今のところは分からん」 「そうだな。何か動かれる前に計画の関連は全て処分しておこうか。もはや無用の物でしかないしな」 「今回のことはゼーレにとってもかなり痛いはずだ。内部で意見が割れてくれれば、その分時間が稼げるんだが……」 計画に関連する者の処分を指示されたリツコは研究室で関連情報を抹消していた。 (これをあの人の指示で消すことになるなんてね…) リターンキーを押すと削除が開始され、次々にファイルが消えていく。 ディスプレイに表示されているその経過を見ながら紫煙を吐き出した。 「…あの通りになってしまった。私が考えていたよりも早くに、しかもこんな形で……」 ふと訪問者がドアの前にいることを示す表示に気付いた。 『私だ』 「どうぞ」 リモコンでドアを開け六分儀を中へ招き入れる。 「削除中だったか」 「はい、削除するのもなかなか手が掛かりますが……10年以上積み上げてきたものでも、消すのはあっという間なんですね」 削除が完了した趣旨のメッセージが表示される。先ほど消去したのは全体の一部だが、それでも膨大な量でそれに要した費用も相当なものになる。 「今は余り時間がないが、全ての後のことを今の内に話しておきたい」 「私も訊きたいですわ」 六分儀がどうするのか……あの約束のこともある。 「生き残れればだが、あの約束の担保になるようなものだ」 一枚の紙をリツコに差し出してくる。 「……これは?」 それは結婚届だった。六分儀が書くべき欄は既に埋まっている。 つまり、リツコが残りを埋めて役所に出してしまえば、それで二人が結婚することになってしまう。 「いいのですか?」 「ああ」 「……ありがとう」 嬉しさで涙が零れ頬をつたう。 「礼と謝罪を言うべきなのは私の方だろう。それに、これは君が求めているものの一部でしかない」 「良いんです。今は、言わせてください……」 六分儀が執務室に戻ってくると冬月が緊張した面持ちで待っていた。なにやら、良くないニュースがあったのだろう。 「六分儀、委員会から招集だ」 「……早いな」 「ああ、議長だろうな。三人揃って出席しろと言うことだ」 「そうか……」 この素早い反応が何を意味するのか、もうじき分かることだろう。 そして、それから半時間ほどで人類補完委員会の会議が始まった。 言われたとおりに六分儀、冬月、ユイの3人が揃って出席している。勿論委員の方も全員出席であり、フルメンバーと言うことになる。バイサーで目が見えないキール以外の四人は、はっきりと三人、特に六分儀を睨んでいる。 その反応は当然だろうが、問題なのは表情の読みようがないキールである。 「まずは、第拾六使徒の殲滅御苦労だった」 普段ならば皮肉っぽく他の委員達が言ってくるのだろうが、キール自らその言葉を言ってきた。 「だが、ネルフに残された戦力は弐号機のみ。第3新東京市も消滅した。その代償として失ったものは随分大きい」 「しかし、それ以上に深刻なのは補完計画の発動条件を満たすことができなくなったことだ」 抑揚を抑え淡々と語るその様が、逆に怖さも持っている。 バイサーでその目を見ることはできないが、隠す必要が全くない分相当強烈に睨んでいるのかもしれない。 「お前が初号機を犠牲にするとは到底考えられない。今回の事は使徒に敗北した。そう考えるべきだろうが、その責任は極めて重い」 「君たちならばE計画を最後まで完遂できると思っていたのだが、どうやら過大評価をしていたらしい。残念なことだ」 キールが口を閉じ、静寂がこの暗い仮想空間を支配する。 「さて、計画のことだが、我々は諦める等と言ったことはしない。どんな方法を使っても補完計画の発動に漕ぎ着ける」 「それがどういう方法をとるにしても、今すぐに行うというわけにはいかない以上、ネルフという存在をどうするかというのは問題だ」 「これからの計画は、ちょっとやそっとで出来ることではない。保険はかけているとは言え、できることなら楽はしたいものだ」 キールは六分儀達を利用しようとしているのだ。新しい補完計画を進めるために… 「……私たちをどうするおつもりでしょうか?」 「今暫く我々の作るシナリオ通りに動いて貰う。そうすれば、君たちの大切な者の命は保証しよう」 「大切な者の命の保証ですか……」 「君たちは確かに我々の計画にとって邪魔な存在だったが、同時に君たち無くしては計画を進めることもできなかったからな」 大切な存在……六分儀にとっては、シンジ、アスカと言うことだろう。 「……悪くはない取引ですね」 「物わかりが良くて助かる」 目を開けると、暗い天井が目に飛び込んできた……もうとっくに見慣れた天井。ネルフ中央病院の天井である。 時間は分からないが、今は夜のようである。 「……確か……」 何があったのか思い出す…… 「そうだ。母さん」 キョウコは別れの言葉をシンジに告げていた。あの後何があったのか、何が起こっていたのかは分からない。だが、キョウコは自分が犠牲になることで、シンジを助けたのだろう。 「……母さん……」 涙が溢れてきた。11年前の事故で死んでしまったキョウコ。でも、キョウコは初号機の中にいた。それを知ったのはついこの前。 そのキョウコと再び会うことが出来た。でも、それは本当に最後になってしまった。 キョウコはずっと前にもう死んでしまった。自分には母親なんていないんだとずっと言い聞かせてきた。しかし、涙はなかなか止まらなかった。 誰か来たのか、ドアがノックされる音が聞こえる。 顔を上げて、ドアの方に向ける…ドアがゆっくりと開き六分儀が病室の中に入ってきた。 「……父さん?」 「ああ。…シンジ、泣いているのか?」 「あ…」 上半身を起こしながら袖で涙をぬぐう。 六分儀はベッドの横の椅子に腰掛けた。 「キョウコか?」 「あ……うん」 「そうか」 どこか遠い目をしながら返す。多分キョウコのことを考えているなり、キョウコとの想い出を思い出しているのだろう。 だから、少し待ってから聞いた。 「父さん。どうなったの?」 「……キョウコはシンジを守って自爆した」 「そっか……」 はっきりと言われて又涙が溢れてきた。 さっきはシンジが待ったが、今度は六分儀はシンジの涙が止まるまで黙って待っていてくれた。 それから、話を始めた。 「シンジ、全ての終わりが近付いてきた。最後の使徒は発現前に抑えることができた」 「……それって?」 「使徒戦は終了した。今まで御苦労だった」 全てが終わったと言うことは、これからは父親でいてくれるというのだろうか? 期待を込めた視線を六分儀に送る。 「未だ暫くは色々とあるが、それが終わったら……もしシンジが良ければだが、一緒に暮らさないか?」 「父さん…」 今度は嬉しさから涙がこぼれてきた。 「父さん!」 六分儀の胸に飛びつく。 「…シンジ、済まない」 六分儀はシンジを抱きしめながら小さく呟いた。 そのころ隣の病室では、六分儀とシンジと同じような形でユイとレイが話をしていた。 「終わったの?」 「ええ、使徒戦は終わったわ」 「補完計画は?」 「……今回の計画は失敗と言うことになったわ」 「今回なのね…」 「彼らはそう簡単には諦めないわ、それこそほんの僅かでも見込みがあれば、それを現実のことにするために全力を尽くす」 「…そう」 レイは直接は知らないが、今までに聞いて来たことで作られたゼーレ像にしっくりと当てはまった。 「多分槍の回収を考えているのでしょうね」 「オリジナル?」 「近いものになるでしょうね。でも、それには随分時間が掛かるわ。私たちにはまだまだ利用価値があるから大丈夫よ」 「お母さん……」 「大丈夫。これからもずっと一緒にいるわ。今日は遅いし又眠りなさい」 レイの頭をゆっくりと撫でる。それから暫くしてから頷き目を閉じた。 もうユイに残された時間は有限なのだろう。それがどのくらいの時間なのかは分からないが……ユイ自身には把握できるほどの先の話…… 涙が零れてきそうだったが、何とか堪えた。 朝、朝食を済ませて、ビデオを見ているとレイがシンジの病室にやってきた。 「おはよう」 「おはよう」 レイは昨日六分儀が座っていた椅子に座る。 「シンジ君、体の調子はどう?」 「うん。全然問題ないよ。ホントだったらいつでも退院できるんだけど、色々とあるからね」 「そう。だったら、屋上に出てみない?」 「え?屋上?ここって出れるの?」 「ええ」 二人はエレベーターで中央病院の屋上にやってきた。 屋上は心地よい風が吹いている。 ジオフロントを高いところから見下ろす。本部の展望室の方が高い場所にあるが、あれは室内であり、ここのように完全に開けた空間ではない。 「へ〜良いところなんだね」 「そうね。でもこんな所に来る用事もなかったから私も初めて」 「そうなんだ」 「使徒戦の間は色々とあったしね」 「そうだね。でも、もう終わるんだよね」 最後の使徒も何とかなったって言っていた。だから、もう使徒と戦う必要はない。 「そうね。もう、私たちチルドレンの役目は終わり」 「ネルフもだよね」 「使徒を殲滅するための組織はもう必要なくなる。これからどうなるかは分からないけれど、今よりもずっと小さなものになるでしょうね」 「父さんが、終わったら一緒に暮らさないかって言ってくれたんだ」 「そう、良かったわね」 レイも嬉しそうな表情を浮かべてその事を喜んでくれる。 「うん」 「私も、お母さんと一緒になるわ」 「そうなんだ……離ればなれになっちゃうね。ミサトさんは一人か……」 レイもユイと一緒に暮らせるようになると言うのは良いことだが、二人ともいなくなってしまえば、ミサトは一人になってしまう。勿論ペンペンはいるが、そのペンペンだって、一人では淋しかったからという理由があったからと言う話を聞いたことがある。 「今の家族は終ってしまうけれど、別に私たちやミサトさんとの関係が切れてしまうわけじゃない。いつだって遊びに行けるしね」 「そうだね」 シンジだってミサトとの関係は持っていたいのだし、ちょくちょく遊びに行く、又逆に来て貰ったりもしていけばいいか等と思った。 そのミサトは総司令執務室で六分儀の前に立っていた。 「話というのは何でしょうか?」 「使徒についてだが、第拾七使徒はその発現前に捕獲することに成功した。よって、ネルフの対使徒戦は終了したことになる」 その言葉はミサトにとっては突然で又物凄く意外であった。が、それだけではなく、その意味するところはミサトにとっては随分複雑な気持ちにさせられてしまうことだった。 「時期は未だ未定だが、ネルフは改編され、技術を移転するための組織になる」 「作戦部は不要と言うことですか」 「そうだ。上の地位にいる者はそのままネルフに残ることになるが、基本的には自衛隊に移ることになる。又、戦自から誘われる者もいるだろう。それらへの移籍を断った者にもできる限り再就職の世話はする事になる」 ネルフの作戦の終結。それは、こんなにもあっけないものだった。淡々と連絡されるだけの形……しかし、それで良かったのかも知れない。本気で事を構えるには今のネルフの戦力はあまりに心許ない。こんな形ではあるが、その後はどういう終わり方でもそうなったであろう事。今まで考えもしていなかったが、そうなるべくしてなったのだろう。 「…わかりました」 「それから、もう一つ君に頼み事がある」 「…頼み事、ですか?」 それは公的な事ではなく、私的な事なのだろうか?六分儀がミサトにする私的な頼み事等まるで想像ができない。 「ああ、私達はそう遠くない内に事故として殺されるだろう」 「…え?」 「私、冬月、碇博士のネルフ首脳は、いずれ消される」 さらりと言ったことがいったいどういう事なのか理解するにはある程度の時間が掛かってしまった。意外という意味では、先ほどの話よりもずっと大きい。 「我々が委員会を裏切っていた事に対する粛正と我々の存在が委員会の進める計画に邪魔になると言うことだ」 「今は未だ利用価値があるため、行動を起こさなければ暫くは生かしてもらえるが、長くはないだろう」 ネルフの首脳は人類補完委員会を裏切っていた。だからこれから殺される……それは分かった。だが、だから自分にどうしろと言うのだろうか?ネルフの組織に関することなどであればミサトなどには殆どできることはない。 そんなことが表情に表れ、六分儀はその答えをくれた。 「赤木博士も色々と深部に関わっていた以上、彼女にも手が伸びる可能性は高い。ネルフの深部には関わらせてこなかったが、シンジやアスカ、レイ君達と近い立場である君に、後のことを頼めればと思ったのだが」 「……一体どのようなことなのでしょうか?」 「長い話になる。全てを聞いた後で、どうするのか決めてくれ」 自分がいなくなった後、3人の事を宜しく頼むという意味が込められているだけではない。少し考えた後、「はい」と答えた。 昼過ぎ、二人でトランプをしている時にアスカが見舞いにやって来た。 「あ、アスカ」 「元気してる?ま、二人で遊んでるとこ見たら、そんなの聞く必要はないか」 二人は軽い苦笑で答えた。 「先に、レイの病室行ったら空だったけど、こっちにいたのね」 「一人でいるより二人でいた方が良いから」 「ま、当然よねぇ、ああ、これお見舞いね」 売店で買ったと思われるフルーツ盛りを2つ差し出してくれる。 「ありがとう」 「早速切るわ」 レイが受け取ったフルーツ盛りの一つをばらして、ナイフでフルーツを切っていく。アスカは椅子に座ってレイが切り終えるのを待ってから今日の肝心な話を始めた。 「ところで、今日はお見舞いとは別に一つ話があるんだけど」 「話?」 リンゴにフォークを刺して聞き返す。 「シンジって司令と一緒に住むことになったのよね」 「うん」 「それで、アタシもどうかって誘われたのよ」 「アスカも?」 「そ。も一つ言うと六分儀アスカにならないか?ともね」 六分儀はアスカを養女にしようとしている。その事を話しに来たのはその事をシンジがどう思うかを聞きに来たと言うことなのだろう。 綾波アスカ……年齢は14歳。過去はそれだけで、他は全て消されている。 しかし、人に預けられていたシンジよりも六分儀に近い位置にいた。逆にアスカにとって近い位置にいる者は数少なかった。六分儀がそんなことをアスカに言ったのにはそう言ったことがあるのだろう。 それともう一つ……アスカはキョウコに似ている。その辺りにも理由はあるのかもしれないが、別に六分儀が自分だけの存在であらなければいけないなんては思わないし、アスカなら家族になって嫌だなんて事はない。 「良いんじゃないかな?」 「ありがとう。じゃあそう返事するね。これから宜しくね、お義兄さん」 わざと戯けてシンジのことをお義兄さんと呼ぶ。冗談で呼んだだけで本当に呼ぶ気はないだろう。アスカからお義兄さん等と呼ばれるのは違和感がありすぎる。 「それと、お義姉さんも宜しくね」 シンジの場合と違って単に苦笑するだけでなく、二人とも紅くなってしまい。アスカはそんな二人の微笑ましいところを見て楽しんでいた。 週が明けて二人は退院し、それからまもなく引っ越しの用意が始まった。 ミサトは当然だと思っていたのかあるいはその事を既に知っていたのかは分からないが、別段驚いたような所はなかった。 そして引っ越しの用意も既に殆ど終わった。 シンジの荷物はそんなに無いから、片付けてダンボールにつめるのもそんなに大仕事という風にはならなかった。 部屋をぐるりと見回す……この町に来てから本当にいろんな事があったけれど、その間ずっとこの部屋がシンジの部屋だった。慣れ親しんだ部屋から離れるのは、やはり寂しさも感じるところもある。 「準備はできた?」 ミサトがふすまを開けて部屋に入ってきながら聞いてきた。 「はい」 「一気に二人ともいなくなっちゃうと淋しくなっちゃうわね」 「又遊びに来ますよ」 「いつでも歓迎するわよ。ついでにお酒にも付き合ってくれると嬉しいんだけどねぇ」 「そっちは考えておきます」 軽く苦笑を交えながら答えた。 「レイの方ももう終わったみたいだし、そろそろ車回して貰おっか?」 「そうですね。お願いします」 ミサトが電話をしてから直ぐにネルフのトラックがやってきて二人の荷物を運び出し積み込んでいった。 全て積み終わると、二人もそれぞれ車に乗り込む。 「それじゃ、又遊びに来てね」 「「はい」」 ミサトに見送られながら、2台のトラックはゆっくりと走り始め、直ぐに視界から消えていった。 二人を送り終えたミサトはゆっくりと一つ大きく息を吐いた。 シンジとは7月からの8ヶ月間、レイとは10月からの5ヶ月間の短いと言えば短い家族だった。 その間にミサトは二人のために何ができていたのだろうか?二人はミサトのために何をしてくれたのか? 正直、二人と家族でなくなってしまうのはとても哀しく淋しい。それだけ二人とも、ミサトにとって大切な存在になっていたと言うことなのだろう。 今までに大切な存在を何人も失ってきた。セカンドインパクトで両親を、使徒戦の裏で繰り広げられていた組織戦で加持を、そしてこれから親友のリツコも失う可能性が高い。 リツコまで失うのは避けたいが、ミサトの力ではどうにもならない。ゼーレがリツコをどう考えているのか、そしてどうするのかに全てが掛かっている。 しかし、あの二人はそうではない。その道は、六分儀がキョウコを目指した道よりもあるいは厳しいかも知れない。だが、それでも自分の力で何とかなるかも知れない。 あの二人も、これから大切な人を失うことが決まっている。そんな時ミサトは残った大切な存在として二人を支え、更にその未来を守っていく事もできる。 「…やるっきゃないか」 六分儀への回答を決め、それを伝えるためにこちらから会いに行くことを決めた。 六分儀の家は、第3新東京市郊外の高級住宅地の中の一軒だった。 2階建てのなかなか大きな家に、それなりに広い庭も付いている。 良い家であることは間違いないが、ネルフの長の家としては又随分こぢんまりとした物とも言えそうである。 「ここかぁ」 「私の家は隣ね」 ユイの家は近所とは聞いていたが隣の家であった。この事は少し驚いたが、これならば本当にいつでも行き来できるから、嬉しかった。 ユイの家を見てみると、規模としては六分儀の家よりも小さな物であるが、これは元々の持ち主が第3新東京市を離れてしまったもので、最近買った物らしい。色々と改築をしていたようで、今もまだ工事は続いているようである。 「未だ工事してるみたいだけど?」 「住むには問題ないそうよ。元々この改装も、お母さんの研究室を作ると言うのが大きな理由だったから」 「そうなんだ」 「ええ、」 「いつまでも前にいても始まらないし、又後でね」 「ええ」 六分儀家の玄関に立つ…この玄関の向こうがシンジの新しい住む場所となる。そして、そこには六分儀とアスカの二人がいる。 玄関の扉を開けて家の中に入った。 「父さんは…どこだろ?」 六分儀を探して、家の中を歩く……その六分儀はリビングでソファーに座って何かを読んでいた。 シンジに気付いて読んでいた物を机に置く。 「話をしていたようだな」 「あ、うん」 「碇博士から夕飯に誘われている。それまでに片づけを済ませておけ」 「あ、うん。分かったよ」 「では家を案内する」 六分儀に家の中を案内される。 この家の一つ一つの部屋も広さがあり、数も結構ある。最も使っていない部屋が多かったが… シンジ達の部屋は2階だった。2つ並んでいる部屋の左側がアスカの部屋、右がシンジの部屋である。 「アスカ、今良いか?」 「はい」 六分儀はアスカの部屋のドアを開けて中に入る。シンジも六分儀について中に入った。 丁度アスカが本棚に本を並べているところだった。もう殆ど片づけは終わったように見える。 「シンジ、遅かったわね」 「あ…ごめん」 やっぱりアスカからはシンジと呼ばれる方がしっくりと来る等と思いながら返す。 「ま、良いわ。これから宜しくね」 「うん。僕の方こそ」 「こっち片づいたら手伝ってあげよっか?」 「ありがとう」 アスカに一言お礼を言ってから自分の部屋に入り、早速六分儀に手伝われながら部屋の片づけをすることにした。 そして、夕飯時になり3人揃ってユイの家にやってきた。 「いらっしゃい」 玄関でレイが出迎えてくれる。 「上がって」 ユイの家の中はレイが言っていた通り、奥の方は工事中のようだが、普通に暮らすには全く問題なさそうである。 ダイニングのテーブルの上には既に御馳走が並んでいた。 「うわ、凄い」 「ユイさんが作ったの?」 又大皿を運んできたユイに聞く。 「ええ、レイは部屋の片づけがあったしね。それじゃあ冷めないうちに食べましょう」 5人はテーブルを囲んでそれぞれ椅子に座る。 「乾杯だけね」 ユイはシャンパンを開けて、3人のグラスにも注いでくれた。 「それじゃ、2つの家族の幸せな生活を願って、乾杯」 ユイの音頭で乾杯を行い、そしてユイが作った御馳走に箸を付けながら、これまでの事、そしてこれからの事などを色々と話ながら楽しい食事を随分長い時間続けた。 家に帰ってきて風呂などを済ませ、自分の部屋のベッドに寝ころんだ。 目に入ってくるのは、新しい自分の部屋の天井。勿論初めて見る天井である。そして、これからこの天井を見ながら横になるものである。 始まった新しい家族と新しい生活。 その中には、今までいなかった父親がいる。ずっと求めてきた存在とやっと家族になれた。 これからの生活はどんなものになるのだろうか?それはまだまだそれは分からないが、今は凄くそれが楽しみである。 その日は新しい生活に期待を膨らませながら眠りについた。
あとがき カヲル「おやおや、これはいったいどうなっているのかな?」 カヲル「僕が出ていないじゃないか」 カヲル「僕とシンジ君との甘い時間を書くんじゃなかったのかい?」 レイ 「誰がそんなことを言ったの?」 カヲル「やぁ、リリ…がふっ」(吐血) レイ 「何?」 カヲル「……あ…綾波さん、そう言う話じゃなかったのかい?」 レイ 「違うにきまっているわ」 アスカ「あったり前じゃない…一応、2Rだからねぇ」 レイ 「何か言いたいことでもあるの?」 アスカ「さぁてね、まあなんでも良いじゃない」 カヲル「…そうだったね。でも、全く出ない何で酷いじゃないか」 レイ 「未だエピローグがあるわね」 アスカ「ま、出ないと思うけど」(ぷっ) カヲル「どうして、耽美な世界をみんなに見て貰おうとは思わないんだい?」 レイ 「不要」 アスカ「まあ、2Kみたいなのがあれば話は別なんだろうけど」 カヲル「そ、それだよ!2K、素晴らしいじゃないか、 僕とシンジ君との美しい世界を最初から最後まで堪能できる!」 カヲル「そう、傷付いた僕がケージに運ばれてきてそれを見てシンジ君がエヴァに乗るのを決意するんだ!」 アスカ「アタシなら見捨てるわね」 レイ 「むしろとどめを刺しておくべき」 カヲル「プラグに僕が閉じ込められたとき、シンジ君が必死に助け出してくれて、笑えばいいよっていってくれる!」 アスカ「良く笑み浮かべてる気がするけど?」 レイ 「そのままゆでタブリスにするべき」 カヲル「僕とシンジ君とのユニゾン!夜、シンジ君が僕の唇を!!」 アスカ「と言うか、こいつがシンジの唇を奪うって形よね」 レイ 「そうね」 カヲル「火口の中に落下していくのをシンジ君が捨て身で助けてくれる!」 レイ 「そのまま大地のそこに落下していって欲しい」 アスカ「地底人見つけたら教えて欲しいわね」 カヲル「うん!これだ。早速YUKI君の所に行ってくるよ!」 アスカ「行っちゃったわね」 レイ 「ええ…でも放って置いて良いと思う。 それよりも2Rが完結した後はどんな話になるのかが大事」 アスカ「そねぇ〜LAS書いて貰わなきゃ」 レイ 「>青葉の出番はなかなか難しいですね。 >メインになるような話を作るのはもっと大変ですが… >年内にそんな作品を始められたら良いなぁと思っています。 みたいなことを書いているし、LA(アスカ)S(シゲル)は?」 アスカ「あんな影の薄い奴なんて初めからアウトオブ眼中よ」 レイ 「では、LA(青葉)S(惣流)ね」 アスカ「人の話聞いてる?」(青筋) レイ 「…ええ、わがままなのね」 アスカ「あ゛?」(青筋) レイ 「まあ良いわ。YUKI、次の作品を楽しみにしているわ」 アスカ「LASねLAS!分かってるわよね!」