立場の違い2R

第19話

◆戦いの後

 2月2日(火曜日)、
 シンジとレイの二人が町の中心部に向かうバスに乗っていた。
 バスは本来の路線とは違う道を走っている…本来の路線は通れるような状況には無いと言う事である。バスの車窓から見える町並みは先の戦いの惨状がほぼそのままに残っている。
「未だ片付いてないんだ」
「随分大きかったらからすぐには片付けられないのね」
「これから行く店とかって大丈夫かな?」
「壊れてしまったのもあると思うけど、地下に収納されていたものもあるから大丈夫だと思う」
「ならいいけど…」
 コンクリート片等を満載したトラックが次々に反対車線を通り過ぎていった。


 町の中心部の百貨店街も大きなダメージを負っており、到底開店できないような店も複数あったが、実際に営業している店もあったため、シンジはほっと胸をなでおろした。
「行きましょう」
「うん」
 二人はバスを降りてバス停から一番近かったデパートの中に入って行った。
 デパートの中はこんなところに買い物にきているどころでは無いと言う人が多かったからか、開いている店が少ないが、人が多いということは無かった。
「結構空いているね。確か服だったよね…何階かな?」
「6階ね」
 二人はエスカレーターで上の階へと向かう。
 エスカレーターからはガラス越しに外の光景が見える…徐々に視線が高くなっていくにつれて惨状が見えるようになってくる。もっと高い位置に上がればもっとよく見えるだろう…後で上の方にあったレストランに行ってみようかと思う。
 

 レイはいくつかの服を手に取ったり戻したりしている。どうやら悩んでいるようである。
「悩んでいるの?」
「うん…シンジ君はどっちが良いと思う?」
 2着の服を見せ、交互に当ててどちらが良いか尋ねる。
「う、う〜ん…」
 だが、シンジは元々そう言うことに明るいというわけではなかったこと、シンジ的にはどちらもよく似合っていて甲乙付けづらかったことから、二人共々悩み込んでしまうことになり…最終的には、2着とも買うと言うことに決まった。
 

 あちらこちらの売り場を巡った後、上の方の階にあるレストランにやって来た。
 窓際の席に座り食事を注文する。
 窓の外の光景…先の戦いの惨状はある程度高さがある事からよく見える。
「…改めて見ると、酷いよね…」
「……そうね……」
(なんで、こんなところに来たんだろ…)
 何故、惨状と言うことが分かっているのにそれを見てみたくなったのだろう?
 人の不幸を見て喜ぶような性格はもっていないはずなのに…
「どうしたの?」
「ん…っとね、なんで、こんなところを見たくなったのかなって」
「見たくなった?」
「うん…エスカレーターから外の様子が見えたのよね。それで、高いところに上がって行くに連れてその様子がよく見えるようになったから、だったらもっと高いところからよく見てみようって思ったんだけど…」
「…ひょっとしたら、責任感かも知れない」
「責任感?」
 コクリと頷く。
「シンジ君は優しいしね」
 多分誉め言葉だと思われる言葉を言われたが…それがどう繋がるのか良くわからない。
 レイはどこかを指さす…
「シンジ君…後であそこに行かない?」
「あそこ?」
 レイの指の先には、第3新東京市のシンボルの一つであるツインタワーがあった。戦闘態勢に移行したときには地下に収納されるビルであるため被害はなかったようで、立派に聳え立っている。


 ツインタワーの最上階の展望室にやって来た。
 こんな惨状を好き好んで見る物好きもいないため、展望室には人っ子一人いない。
 ここからは第3新東京市の全てを見下ろすことができる。こんな状況ではなく普段であれば、いい眺めなのであるが…
 戦闘が激しかった場所はまさに戦場と言う言葉がピッタリで、瓦礫と化したビル群や地面に空いた穴など…まさに壊滅状態で戦闘の激しさを表すものがほぼそのまま残っている。
 勿論住宅地にも被害はでている。ミサトのマンションは運良く戦場から離れていたため被害はなかったが、先の戦いで家や職場を失った者もかなりの数に上るだろう。
「何考えているの?」
「うん…たくさんの人が住むところなくなっちゃったんだろうなって」
「そうね…今回の戦闘で大きな被害を受けた人は万の桁になるでしょうね…でも、死傷者は殆どいないはずよ」
「…うん…」
「幸せになるチャンスはどこにでもある。お母さんの言葉…生きて行こうと思えばどこだって天国になるって…ほら、あそこ」
 レイが指さす向こうでは、大型の重機が瓦礫を撤去したりするなどの作業をしている…そして、その直ぐ近くには仮設住宅が次々に作られているのが見える。そんな光景は1カ所だけではない…何カ所でも見ることができる。
「みんな生きようとしている。みんな幸せになろうとしている」
 流石に人の姿は小さすぎて見えないが…大型の重機が動いている様子、建設途中の仮設住宅などを見ているとレイの言ったとおりだと思う。
「家は建て直せるし、町も作り直せる…でも、失われた人は戻ってこない…」
「使徒との戦いは人の生存を賭けた戦い…負ければ、それで全てが終わってしまう…」
「使徒と戦うことは誰にでもできる事じゃない…ATフィールドを中和できるエヴァを操ることができる私たちチルドレンにしかできないこと」
「私たちが戦うことで、みんなが生き残れる。みんなの幸せになるチャンスを守ることができるんだったら…私はそうしたい」
「…と言っても、守りたいのは私の大切な人たちだけだけれどね」
 くすっと笑いながら注を付ける。
「お母さん、ミサトさん、アスカ、そして、シンジ君…」
 最後のシンジの名だけは顔をちょっと赤らめ呟くように言う。
「それは…僕もだよ、」
 家族、友人、仲間…好きな人、そう言った大切な人を守りたい。それはシンジもその通りである。
 ただレイとは違い、シンジには親…六分儀をそう大切に思うという事はできない。特別な存在ではあるが、大切な存在にはなっていない。
「でも…僕は父さんのことは良くわからないかな…」
「上手く行っていないの?」
「殆ど機会がないから…」
「そう…」
「でも、上手く行ったらいいとは思ってる」
「上手く行くと良いわね」
 シンジはゆっくりと頷いた。


 そのころ…六分儀は委員会に出席していた。
「先の第拾四使徒戦…今までにない強さの使徒…それに対してこの程度の損害で済んで、良かったと言える」
「が、決して小さな損害とは言えません。零号機と弐号機の大破、防衛施設の全滅…これらが回復するまでは、第3新東京市の迎撃能力は極めて限定的に成ったと言えます」
「どのくらい掛かるかね?」
「完全復旧には1年は掛かります」
「そんなことを聞いているのではない、」
「防衛施設を機能させるまでには1週間…3週間あれば何とか体裁は整えられるでしょう。エヴァについては、弐号機は2週間、零号機は3週間ほどで戦力としてカウントできるようになります。最も、これから必要なものが十分に揃えられた場合での話ですが」
「予算の増額は認めよう…だが、満額の回答というわけにはいかんぞ」
「御理解が早く助かります」
「だが、次はないぞ」
「承知しております」
「残る使徒は3体…1体ずつの損害を出しても良い勘定には成るが、そうはいかんだろう。これからは頭を使って使うことだな。本末転倒にならんようにな」
「残る3体の使徒も上手く片付けてくれることを期待しておるよ」
「余り内職はしすぎない方が身のためだよ」
 それぞれの委員が何か言葉を残しながら消えていき、キールが最後に残った。
「六分儀、」
「はい」
「約束の時は近いぞ」
「…はい、」
 キールの姿も消えた。


 総司令執務室、
「委員会の方はいかがでした?」
「…予算の増額は認められたが、多くはない」
「ま、妥当な線だろうな」
「どちらを優先しますか?」
「早く修復できるのは弐号機です。又、伍号機・六号機の予備のパーツを使えば更に短縮できます」
「そうか…」
「早期に戦力を回復させるというのは重要だな」
「はい」
「弐号機を優先して修復するように、第3支部への打診はこちらでしておこう」
「はい」


 2月3日(水曜日)、
 トウジの退院の手伝いにシンジ、レイ、アスカ、ヒカリ、ケンスケが中央病院にやって来ていた。
「しっかし、早い退院ねぇ」
 アスカがトウジの黒ジャージを紙袋にぶち込みながら言う。
「今週いっぱい休みなんだし、もっとゆっくりしてりゃいいのに」
「いつまでも入院何かしてられるか、ぐだぐだ入院続けるなんて男のすることやない」
「ま、良いけどさ、無理して回りに迷惑かけるなよ」
「わかっとるって」
「トウジ、これは、どうするの?」
「ああ、適当にぶちこんどいて」
「あれ?」
 シンジはヒカリがトウジを名前で呼んでいると言うことに今気が付いた。
「どうしたの?」
「いや、委員長がトウジのことを名前で…」
「つまり、こういう事ね」
 シンジとレイの短いやり取りを聞いていた二人は顔を赤らめて視線を逸らしている。レイとのこともあったシンジはそれで、何かあったと言うことがわかった。


 帰り道3人で家に向かう道を歩いていた。
「ふたり、良い関係になりそうね」
「そうだね…トウジがちょっと尻に引かれそうだけどね」
「ふふ…それは言える」
「しっかし、あのジャージ馬鹿のどこが良かったのやら…ヒカリが言うには優しいかららしいけど」
「鈴原君は優しいと思うわよ」
「そう?」
「ええ、シンジ君も優しいし」
「どう繋がってるんだか…」
 アスカは軽くこめかみを抑える。
「まあ良いわ、アタシはヒカリが良ければそれで良いし…ところで、明日どうする?」
「ん〜…学校も休みだし、訓練もないよね」
「技術部忙しいからねぇ」
「そうね…せっかくだし、シンジ君、お父さんに会ってきたら?」
「え?」
「司令に?」
「やっぱり、分かり合うためには話してみないといけないと思うから」
「ああ、なるほどね」
「でも…」
「良いんじゃない?この前もアタシにシンジのこと聞いてきたし、シンジのこと気に掛けてるわよ」
「え?そうなの」
「そよ、それに信じられないんだったら自分で確かめてみればいいじゃない」
「い、いや、そう言う訳じゃないけど…」
「あ〜はっきりしないわねぇ…よし、明日本部に行くわよ!」
「ちょ、ちょっとそんな突然!」
「今でも後でも一緒でしょ、だったら物事は早い方が良いわよ」
「で、でも…心の準備が…」
「今晩中にしなさい」
「うう…」
 レイに助けを求める視線を送ったのだが…この件についてはそもそも言い出したのはレイであったのだった。


 2月4日(木曜日)、ネルフ本部、職員食堂、
 六分儀はてんぷら定食を食べながらこれからのことについて考えていた。
 もう残る使徒は僅か3体。残された時間は少ない。
 元々利用し合っている中であると言うことは老人達も分かっている。ならば、どこかで両者は決定的に対立しなければならなくなると言うことも…
 組織的には圧倒的劣勢…まともにやりあっても勝ち目はまるでない。だが、計画について言えば、必要な鍵は全てこちらが握っている。必ずしも不利とばかりは言えない…
 既に色々と真綿で絞めるような事をしてきているが、近い内に何か今までよりもずっと大きな事を仕掛けてくるだろう…
 両方の中間にいる重要人物碇ユイ…彼女が別の意味での鍵を握っているのかも知れない。
「…ん?」
 視界にシンジ、アスカ、レイの3人の姿が入ってきた。3人はトレイに昼食を乗せて少し離れたところからこちらを見ている。
 どうしようか迷っているようである。
「…座るか?」
 六分儀が声を掛けるとシンジは嬉しそうな表情を浮かべ二人と共に六分儀の反対側の席に座った。
「今日はどうした?」
 今は技術部もエヴァの修復で手一杯で訓練などが行える状況ではない。
「うん…ちょっとね…」
 アスカがシンジを肘で軽く小突く。
「あ、うん…その、父さんに会いに来たんだ」
「私に?」
「うん…ユイさんがここだって言うからその…」
「…そうか、何か言いたいことがあるのか?」
「え、えっと……」
 言い出せないと言うよりは特に何もなかったと言うような反応だった。
「その…関係ないんだけど、さっき父さん何考えてたの?」
「ん?」
 どうしてそんな方向に話が飛ぶのだろうか?
「あ、いや…さっき何か考え込んでるみたいだったから…話せないことだったらごめん」
「いや、いい…残る使徒もあと僅かだと思ってな」
「え?そうなの」
「あ、いや…うむ、そうだ。使徒の多くを既にお前達が倒してくれた」
 さっき考えていた中では唯一話せる内容だったのだが…何故素直に話してしまったのだろう?別に話す必要など無いことだが…
「そうなんだ…残りってどれくらいなの?」
「…3体だな。残り3体で、使徒は全て倒したことになる」
「ふうん…使徒を全部倒したらどうなるのかな?」
「使徒を全て倒したらか…」
 主語が抜けているが…何について聞いたのだろう?
「うん…」
 使徒を全て倒し終わったら計画の発動である。どちらが計画を発動させるのかと言う人対人の戦いになる。
「そうだな…どうなるかな…私にも未だ良くわからん。だから、どうなるのか、どうすればいいかをさっき考えていた」
「そうなんだ…」
「ああ、」
「ネルフの役目が終わったら司令はどうするんですか?」
 今度はレイが尋ねてきた…レイはユイからある程度までのこと走っているのだろう。だから、ネルフの役目が終わったらと言う言い方をした。
「そうだな…全てが終わったら、ネルフを辞めるだろう。そうなったときには私にとってネルフは価値はない存在だからな…」
「まあ良い、今はまだ必要なのだしな…それよりも、シンジは二人とも仲良くしているようだな」
「あ、うん」
「良いことだ…」
「あの…アスカから聞いたんだけど…」
「ん?」
「父さんが色々と僕のこと聞いたりとか気にかけてるって…」
「あ、ああ…」
 アスカを見ると、すこししてやったりとでも言ったような表情を浮かべている。
 本当に変わったものだと、多少の驚きと嬉しさ…そして少しだけ恥ずかしさと悔しさも感じていた。
「……父さん?」
「ああ…そうだな。別にお前を嫌っているわけではないしな…」
「だが…前に言ったことは、かわらんのだがな…」
 嬉しそうな表情になり…直ぐに暗い表情になる。
 あの時の言葉はどうとっていたのだろう?正しい意味は分かるはずはないが…
「……とうさん」
「なんだ?」
「全部終わったら……終わったら、良いかな?」
「……そうだな…全て終わったとき、それでも未だ求めていてくれるとしたら嬉しい…」
 その言葉を最後に席を立った。


「前に言った事って?」
 六分儀が去って暫くしてからレイがシンジに尋ねた。
「僕を辛い目に遭わせようとしているから…息子としてみるのが辛いって…」
「そうなの…」
 シンジよりは正解に近い二人は…漠然とその意味を理解した。
「それがなんなのか分からないけど…僕は父さんには父さんでいて欲しいのかも知れない…」
「それは…辛い目に遭わせないで欲しいって事?」
 シンジは首を振った。
「分からないけど…そんな意味じゃないと思う…」
「上手く行くと良いわね…」


 総司令執務室、
「あの時、お前が言った言葉を覚えているか?」
「…勿論だ」
「あれから色々なことがあった」
「…何が言いたい?」
「そして、これからも色々なことがあるだろう。だが、それに引き込んだ者がいい加減な理由で止めるなよ」
「…分かっている」
「ならいい」

あとがき
(サク)
YUKI「はうっ……」
……
……
アスカ「これどうしたの?」
レイ 「…知らない、私は2人目だもの」
アスカ「そ、まあ良いわ」
アスカ「まあ、出てくるのもずいぶん遅かったし、
    内容的にもプチ切れしちゃった人もいるかも知れないわねぇ〜」
レイ 「結局刺されるようなことをしたわけね」
アスカ「ま、アタシには関係ないけど、」
アスカ「今回の最後で冬月副司令が釘刺してるわね」
レイ 「何となく…嫌なキャラの役になっているわね」
アスカ「でも、逆にいい加減な理由でなければ…って取ることもできるわね」
レイ 「そうね…そう考えれば、そちらの意味を強調したのであれば逆に良いキャラかも知れない?」
アスカ「そうかもね」
レイ 「……どちらになるのかは大事よ」
アスカ「この後の話を見ればどっちになるのか良くわかるんじゃない?」
レイ 「ええ、」
アスカ「ところでさ、司令って自分の道を突き進む人よね」
レイ 「?、そうね」
アスカ「ちょっとやそっとの雑音なんか関係ない…例え新しい障害が現れようと、
    その障害を取り越える方法を考えて、実際に乗り越える」
レイ 「…何が言いたいの?」
アスカ「いんえ、あたしゃ、ただ客観的事実を述べているだけでして」
レイ 「……」(じと〜)
アスカ「例え、悩み苦しむようなことでも、突き進み、目的を達成する」
レイ 「………」
アスカ「それも、これも、全て愛のため…愛する者のため、全てをやり遂げる!」
アスカ「まさに男の中の男よねぇ〜♪」
レイ 「……」
レイ 「そう…貴女は、LKG(ラブラブ・キョウコ・ゲンドウ)が見たいのね」
アスカ「はっ!!」
レイ 「そう、貴女の意見は良くわかったわ」
アスカ(ママがあの司令となんて…そんな…ああ、でも、LRSは〜!)(苦悩)
アスカ「ううう…」(汗)