12月16日(木曜日)朝、シンジの部屋、 シンジはベッドに横になったままじっと明日のことを考えていた。明日は母、キョウコの命日である。 大きな溜息をつく… 「六分儀君、起きてる?」 「あ、うん、起きてるよ」 「そう、遅かったから朝ご飯とお弁当私が作っておいたから」 「あ、ご、ごめん!」 慌てて飛び起き部屋から出る。 「おはよ」 「あ、うん、おはよう」 「ミサトさん起こしてきてくれる?」 「うん、分かったよ」 食事を食べ終え、学校の支度を完了させて学校に向かう。 通学路…以前に比べると少し活気が無くなってきたように思える。使徒戦が続いている以上仕方のないことかもしれない、クラスの人数も少しずつ減ってきている。 (何だかな…後ろ向きの暗いことばっかり思い浮かぶよ…) 「…六分儀君、どうかしたの?」 「あ、うん、べつになんでもな、がっ!」 レイの方を振り向気ながら返していたためT字路で、横から来る者に気付かずに激突してしまった。 「いつつつ…」 「いたたたた…」 アスカがおでこを押さえて痛がっている。何か嫌な予感がする。 「…なにすんのよ!!いたかったじゃない!!」 「ご、ごめん!」 「アスカ、おはよ」 「あ、うんおはよ、」 レイが間に入って、それ以上何か言うのを妨げた。 「アスカこの道なの?」 「ええ、そうよ」 「そう、じゃああそこで待ち合わせして一緒に学校に行かない?」 「ん?アタシは良いけど」 そう言ってからシンジに視線を向けてくる。 「あ、ぼ、僕も、構わないよ」 「じゃあ、決まりね。このままここにいても始まらないし、学校に向かいましょ」 「そうね」 午前中の授業が終わると共にシンジは大きく溜息をついた。 明日のことが気になってしまい、午前中全然授業に集中できなかった。 「六分儀君、どうしたの?」 ふと気づくとレイとアスカが前に立っていた。 「あ、二人とも…」 「今日は朝から元気ないみたいだけど…」 「あ、うん…明日、母さんの命日なんだ」 「そうなの…」 「…司令と一緒にお墓参りするって訳ね」 その辺りの事情を多少なりとも知っているのか、アスカの方が言ってきた。 「あ、うん、そうなるんだ」 二人は近くの席をシンジの机にくっつけて座った。 「…お父さんのことが良くわからないから何を話せばいいか不安なの?」 「あ、うん…」 アスカは複雑な表情を浮かべている。この中では明らかに六分儀に一番近いのは自分であろう。 「…綾波どうかしたの?」 「あ、うん……」 「そっか、綾波は…父さんの事って色々と知ってる?」 「そうね…ある程度ならね」 「じゃあ……」 何か聞こうとして困った…何を聞けばいいのかすら分からない… 「あのさ…僕が父さんと会ったら何を話したら良いと思う?」 「ほえ…」 結局、そんな言葉しかでてこなかった。一方のアスカの方は少し呆れ気味でもある。 「…あ、あのさ、父さんって綾波から見てどんな人かな?」 「……そうね、色々とあるけど…一言で言うなら、信念の人と言う感じかしら?」 「信念?」 「そ、」 「行動の基礎となる態度を曲げない人、例え何があっても自分の意志を貫き通す人と言ったところ?」 「そうね…そんな感じ、」 「…信念の人…」 シンジはその言葉をもう一度かみしめた。 そのころ、加持が京都市内を歩いていた。 (19年前、ここで何が始まったんだ?…六分儀ゲンドウ、六分儀キョウコ・旧姓惣流キョウコ、冬月コウゾウ、3人の接点となったここ京都、ここが全ての始まりの筈だ) 加持は拳銃を抜いて、町工場の一つの中に入っていた。工場内は埃が積もっており何年間も使われた形跡は全く無い。 「ここも、ダミーか…」 思わず溜め息が漏れる。 「これで、マルデゥック機関に繋がる108の機関の内107個がダミーだったか…」 加持は拳銃をしまった。すると奥の裏口が開き、加持は拳銃を再び構えた。 「…私だ」 「アンタか…」 女の声が聞こえる。加持はほっとして拳銃をしまった。 「…お前の仕事はネルフの内偵だろうが」 「何事も自分で確かめないと気が済まない性分なものでね」 「余計な事に首を突っ込むと寿命を縮めるぞ」 「構わないさ、それよりも」 「…ああ、108個目もダミーだったよ」 「マルドゥック機関は存在しないか…」 「サードチルドレン…選抜は6月だが、5月には動き始めていた」 「…なるほど、チルドレンを選抜しているのは、ネルフそのものか…それにしてはサードチルドレン到着が、使徒襲来当日とはな…」 「……で、お前の方は何かわかったのか?」 「…上層部は、人類を守るつもりは無い」 「やはりか…」 「ああ、だが、このままでは土壇場で分裂するな」 「お前は?」 「俺か?俺は真実の味方さ」 「冗談は止めろ」 「…分からないと言っておこう…ネルフにはまだ謎が多すぎる」 「そうか…注意しろよ」 「ああ」 夜、ミサトのマンション、シンジの部屋、 シンジはベッドに寝転んで、色々と考えていた。 (…3年前、僕は父さんの前から逃げ出した…) (でも……) 「六分儀君、入っても良い?」 「ん?…いいよ」 襖を開けてレイが入って来る、シンジは上半身をおこす… シンジのベッドに腰掛ける。 「…六分儀君、お父さんが怖い?」 「ううん…そんな事は、」 少し言葉につまり、ややあってから言い直す。 「…そうかもしれない。僕は父さんのことが怖いのかもしれない…」 「どうして?」 「…分からない…分からない事が怖いのかもしれない…父さんがどんな人で、僕に対してどんな態度を取るのか」 「そう……」 レイはすっと立ち上がって窓に掛かっているカーテンを開けた。 月光が射し込んできてレイの姿を映し出す…その白い肌や蒼い髪が輝いて見え、幻想的な雰囲気をかもし出す… 「……」 「私ね、お父さんがいないの…」 「え?」 「…離婚したとか、死んでしまったとかではないの…初めからいないの」 レイの表情は無表情で、どういう感情を抱いているのか窺い知る事はできない。 「それって…」 「初めからいないの…私は、試験管の中で生まれたの…」 「…試験管の中で…」 「…だから、例えどんな形であってもお父さんがいると言うのはどこか羨ましいのかもしれない…」 「……」 「でも、同じいるならばやっぱり良い関係にいた方が良いと思うわ」 「…そうかもしれないけど、」 「どうなるのか分からず怖がりつづけているよりは、辛い現実であってもそれを直視したい」 「……」 「…お父さんがいない者の僻みが入っているのかもしれないけれど…」 「そんな事無いと思う…」 「そうかな?」 「うん…多分言っている事は間違いないことだと思うから、」 「…明日、お父さんとの話上手く行くといいわね」 「ありがとう」 「…じゃあ、私はそろそろ戻るわね」 レイはカーテンを閉めて自分の部屋に戻ろうとしたのだが急に暗くなった事もあって床に転がっていた何かに躓いてバランスを崩してしまった。何とか横に転ぶ事でベッドに倒れこんだのだが…そのベッドにはシンジがいて、シンジの上に倒れこむことになった。 「きゃっ」 「うわっ」 二人とも顔を上げてお互いの顔を見る。 「あ、あのごめんね」 「いや、いいよ、わざとじゃないんだし…」 「……」 直ぐに起き上がるかと思ったレイはシンジの胸に頭を預けて直ぐには起き上がろうとしない。 「…六分儀君…暫く、こうしていて良いかな…」 「え?」 「…自分が人…普通の人で無いと言う事をはっきりと意識すると不安になるみたい…」 「…そうなんだ…」 それはどのくらいの事なのか、自分には想像できない、だけれども、今不安を感じていると言うのはわかる。 「…もし…良かったら……その、いっしょに寝てくれない?」 「え!?」 「あ、あの、だめなら全然いいの、馬鹿な事だって自分でも分かってるから…でも、不安なときは誰かにいっしょにいてもらいたい…ホント馬鹿…自分でかってに喋って勝手に不安になって六分儀君に迷惑かけてる…」 「そんな、迷惑なんかじゃないよ…」 そっとレイの肩に手を乗せて安心させる。 「…六分儀君、ありがとう」 その夜、二人はシンジのベッドで背中をあわせながら寝ることになった。 シンジの方は緊張して殆ど寝ることが出来なかったが…… 一方のレイの方も、色々と悩んでいるようでなかなか寝付けないようであった。 12月17日(木曜日)、第3新東京市郊外の墓地に二人の姿があった。 《Kyoko Rokubungi 1974−2004》 「…3年ぶりだな、ここで会うのは」 あれを会うと言えればだが、 「僕はあの時、逃げ出して、その後は来てない、ここに母さんが眠っているなんてピンと来ないんだ…顔も覚えていないし…」 「人は、思い出を忘れる事で生きて行ける。しかし、決して忘れては成らない事も有る。キョウコはそのかけがいの無い物を教えてくれた。」 六分儀はシンジの方を見ずに少し上を向いている。 「私はその確認をする為にここに来ている」 「写真とかないの?」 「残ってはいない、この墓も只の飾りだ、遺体は無い」 「全ては心の中だ」 「…そう、」 シンジはぎゅっと拳を握りしめた。 「…父さん…聞いて良いかな?」 「…なんだ?」 「その…父さんは…僕のことどう思う?」 一瞬眉をひそめる。 「…漠然としてすぎていて返答に困るな…」 確かにそうかもしれない…その後どう聞けばいいのか困ってしまって黙って俯いてしまった。 暫く沈黙が続く、 「シンジ、私は…いや、止めておこう」 「父さん!!」 「……」 「父さん…言ってよ…」 「分かった」 六分儀を迎えに来たのかVTOL機がやって来て高度を下げてきている。 「…お前を息子…としてみるのが辛い…」 目が大きく開かれる。 「…お前を辛い目に遭わせなければ…いや、遭わせようとしているのだからな……」 「…父さんがネルフに司令で僕がチルドレンだから?」 「それならば未だ嬉しいな…」 「時間だ、先に帰る」 シンジが何か言いそうになったのを六分儀は遮ってその言葉を告げ、VTOL機の方に歩き出した。 「父さん…あの、今日は嬉しかった。父さんと話せて」 「…そうか」 そのまま振り返らずに呟くように言い乗り込み直ぐに飛び立っていった。 「…父さん…」 つぶやきが他に誰もいない墓地に響いた。 夕日の紅い光が差し込むリビングにチェロの音色が響いていた。 先生に勧められて始めたチェロ…それから止めることなく続けてきた…そのせいか、十分に上手いと言えるレベルになっている。 そして、その独奏が終わると、いつからそこにいたのか、リビングの入り口に立っていたレイが拍手を送ってきた。 「上手ね」 「え?碇…」 「良い物を聞かせてもらったわ、」 「い、いや…」 恥ずかしくなってシンジは後頭部を掻いた。 「…ところで…お父さんとの話聞いても良い?」 「あ、うん…」 その後、シンジは六分儀とのことを話した。 「…父さんが言った言葉…その意味が良くわからないんだ」 「そうかもしれないわね、でも、お父さんが六分儀君の事を今までのように扱ってきたのには、ちゃんと理由があるのだと思う…それが何なのかは分からないけれど、」 「…そうかもしれないね…」 「私は、夕飯の用意するけど、どうする?」 「手伝うよ」 12月18日(金曜日)、ネルフ本部、ターミナルドグマ、 加持はレベル6のゲートの前に立っていた。 IDカードをスリットに通そうとしたが、手が止まった。ミサトが加持の後頭部に拳銃を突き付けていたのである。 「やあ、二日酔いはどうかな?」 「おかげでやっと冷めたわ」 「そりゃ良かった」 「これは貴方の本当の仕事かしら?それともアルバイト?」 「さて、どっちかな?」 「ネルフ特殊監察部所属、加持リョウジであると同時に、日本政府内務省調査部所属加持リョウジでもあるわけね」 「ばればれって訳か」 「司令の命令かい?」 「いいえ、友人としての最後の忠告ね、これ以上バイトを続けると、死ぬわよ」 「…司令はまだ俺を利用している。まだ行けるさ」 「葛城に隠し事をしていたのは謝る。だが、司令やリッちゃんも葛城に隠し事をしている。それがこれさ」 加持がIDカードをスリットに通すとゲートが開いた。 7つの目の仮面をつけ、胸に二股の螺旋状の槍を突き刺され巨大に十字架に貼り付けになった白い巨人の上半身があった。 「…これが第壱使徒アダムね、で、どうした訳?」 ミサトは恨みの篭った視線で巨人を睨んだ。 「…国際連合太平洋艦隊及び弐号機の本当の任務は、アダムの輸送と護衛、だった」 「何ですって?でもどうやってこんなものを」 「その時は、まだ胎児状だった。」 「なぜ、そんな事を知っているの?」 「俺が運んでいたからさ、」 「…それ本物?」 「第六使徒は、アダムを狙ってきた」 「第参使徒から第伍使徒襲来時には、アダムはここには無かったってことか…」 「そうだ、ドイツの第3支部にあった」 「…確かに、ネルフは、甘くは無いわね…」
あとがき YUKI「こんなところですかな」 レイ 「一応誉めてあげる」 YUKI「一応ですか…」 レイ 「ええ、一応」 YUKI「まあ良いです…次は…レリエルですか」 レイ 「そうね」 YUKI「まあ、使徒戦自体はそんなに凄いと言うことはないと思いますが」 レイ 「…と言うことは期待しているわ」 YUKI「…努力はいたします」 レイ 「結果を楽しみにしているわ」 YUKI「…分かりました…」