立場の違い2R

第3話

◆彼女

7月6日(月曜日)、今日からシンジは第3新東京市立第壱中学校に通う事になる。
「・・・行ってきます。」
シンジは8時前に家を出て学校に向かった。
ミサトはまだ寝ている。
一度起こそうとしてミサトの部屋に入って、ミサトの寝相による痴態を見てから、声をかけるだけに変更した。
今日は、声をかけたが起きてこなかったので、朝食を机の上に置いて、出てきた。


学校に近付くと数人の第壱中学校の生徒が歩いていた。
シンジはそれらの生徒と共に学校に入った。
校舎に入ると先ず職員室に向かった。職員室の前に着くとドアをノックして、中に入った。
「失礼します。」
職員室はかなり広いが、空いているスペースがかなり大きい。
「あの、2年A組の担任の先生はどなたですか?」
「転校生?」
近くにいた教師が尋ねてきた。
「はい」
教師は窓際で御茶を啜っている老教師を指さした。
「有り難う御座います。」
シンジは礼を言ってから老教師の所に行った。
「六分儀、シンジ君かね?」
老教師は湯飲みを机の上に置いた。
「はい。」
「じゃあ教室に行こうか。」
シンジは老教師に付いて教室に向かった。
(やさしそうな先生で良かったな)
チャイムが鳴った。
「今日、明日と期末テストなんだが、大丈夫かね?」
シンジは曖昧な返事を返した。
選抜入学試験がある第2新東京市の公立中学で、それなりの成績を取っていたシンジである。この学校が無試験制の校区による通常の中学校である以上、多少は大丈夫であろう。
そして、シンジは教室のドアの前に待たされた。
・・・
「今日は皆さんに、転校生を、紹介します。入って来なさい。」
シンジはドアを開けて教室に入った。
「六分儀、シンジです。宜しくお願いします。」
やはり緊張しているようである。
「じゃあ取り敢えず、あそこの席に座ってくれるかな?」
「はい」
シンジは真ん中ほどの空席に座った。普通に考えると真ん中の席が空いているのは変だが、使徒襲来のせいで転出が続く第3新東京市では普通の事である。
「洞木さん、後で六分儀君に学校を案内してあげてください。」
「はい。」
洞木と呼ばれた女子生徒が元気のいい返事をした。
「起立!」
「礼!」
洞木は、クラス委員長らしい・・と言っても、この状況下である。断定は出来ないが。
休み時間になったが、シンジの周りには人は集まって来なかった。シンジは、転校生が来ると良く転校生の周りに人だかりが出来ていたが、自分の回りには出来ていないのは、取り敢えずテストのせいだと考える事にした。
「では、国語の試験を始めます。」
テスト問題が配られチャイムと同時に解答を始めた。
その日は、英語、数学、理科、社会と主要5教科を受けた。明日は、保険体育(筆記)、技術家庭、美術、音楽の副4教科である。
全般的にそれなりに解けた。授業進度は、先の戦闘を考慮しても遅いようである。


放課後、洞木がシンジの所に来た。
「六分儀君、学校を案内するわ。」
「あ、有り難う。」
「あ、私、洞木ヒカリ、クラス委員長を務めているの」
「洞木さん、親切だね」
シンジは素直な感想を言っただけなのだが、ヒカリは突然くすくすと笑い出した。
「な、何か変だった?」
「い〜え、じゃ行きましょ、くすくす」
・・・
結果淋しい学校と言うイメージがいっそう強くなった。


2−A、
「今日はどうも有り難う。」
「気にしないで、じゃあまた明日、バイバイ。」
「バイバイ・・・」
シンジはヒカリが去り自分一人になった教室に暫く居て、その後、帰路についた。


7月10日(金曜日)、期末テストの成績が発表された。
5教科
 1 綾波アスカ(追)494
 2 洞木ヒカリ   442
 3 高橋セイコ   427
 4 大北ジュン   410
 5 六分儀シンジ  408
 6 順天堂テツヤ  378
【中略】
12 相田ケンスケ  346
【中略】
32 浜原ヨシト    65
欠席 鈴原トウジ     0
欠席 山田ヨウコ     0

最高 綾波アスカ   494
最低 浜原ヨシト    65
平均         316
在籍  34 受験者  32

   9教科
 1 洞木ヒカリ   782
 2 高橋セイコ   733
【中略】
10 六分儀シンジ  648
11 相田ケンスケ  643
【中略】
20 綾波アスカ(追)494
【中略】
欠席 鈴原トウジ     0
欠席 山田ヨウコ     0

最高 洞木ヒカリ   772
最低 浜原ヨシト   178
平均         580
在籍  34 受験者  32


シンジの成績は結構良かった。
(トップの綾波アスカって、どこかで聞いた事無いか?)
シンジは暫く考えていた。
(でも、494ってすごいよな〜、どうやったらそんな点数とれるんだろ?)
試験勉強の試の字もしなかったシンジが5番を取れるという事は、そう大したレベルではないということである。
が、このクラスとなると話は別である。


翌朝、学校に着くと教室では、アスカが窓際の席に座ってヒカリと話をしていた。
(同級生だったのか・・・)
アスカは包帯やギプス、眼帯を付けており、未だ怪我は完治していない様だ。


1時間目と2時間目の間の休み時間、シンジは自分の席に座っていると、教室に黒のジャージを着た男子生徒が入って来た。
「鈴原!貴方10日間もどうして学校休んでたの!」
ヒカリが叫び声を上げて鈴原に寄って行った。
他、眼鏡を掛けた男子も寄って行った。


2時間目、数学、
先程から老教師はセカンドインパクトの話に入りだした。
「大質量隕石が南極に衝突したのは皆さんも御存知だと思いますが、これにより、氷の大陸は一瞬にして溶解し、海洋の水位は20メートルも上昇したわけであります。そして、干ばつや洪水、火山の噴火など異常気象が世界中を襲い、更には経済恐慌、民族紛争や内戦・・・僅か半年の間に地球の人口の半分が永久に失われたのであります。これが世に言うセカンドインパクトでありますな。」
ディスプレイに文字が書かれた。
《六分儀君があのロボットのパイロットだって噂ホント? Y/N》
驚いたシンジは周りを見まわすと、後ろ方の女子二人が手を振っていた。
《ねぇ、ホントなんでしょ    Y/N》
シンジはY、E、Sとキーボードを叩いて送信ボタンを押した。
その瞬間、教室中の生徒が驚きの声をあげ、一瞬にしてシンジはクラス中の者に取り囲まれて質問責めにあった。
「ちょっと!!授業中よ!!!」
二人の男子はシンジをただ見ているだけで、ヒカリはシンジを取り巻いている者に注意をしているが効果はない。
アスカはじっとシンジを見詰めていた。
チャイムが鳴って休み時間になると、質問責めにあっているシンジに鈴原が近付いて来た。
「転校生、ちょっと顔かせや」
シンジは軽く頷き、鈴原について体育館との渡り廊下の近くに来た。
鈴原は拳を振り上げシンジの左頬を殴りつけた。
シンジは訳が分からないまま後ろに吹っ飛ばされた。
「ぐっ」
「わしはなあ、お前を殴らなあかん、殴らな気が済まんのや。」
シンジは鈴原の顔を見た。
「わしの妹はこの前の戦闘で瓦礫に挟まれて怪我したんや、敵やのおて味方が暴れて怪我させられたんや。」
そんな事はシンジの責任ではない。むしろ、命が助かったのだから感謝されなければならない事だし、先の戦闘でシェルターが破壊されたと言う事実は無い。つまり、避難命令が出ているにも関わらずシェルターの外にいて怪我をした、鈴原の妹が全面的に悪い。
しかし、シンジが思った事は、どうして、無理やり乗せられて、恐い思いをして、その上に訳も分からず殴られなければ行けないんだと言う、理不尽な現実に対する不満位のものである。
「僕だって好きで乗ってるわけじゃ・・」
シンジが起き上がりながら反論しようとすると再び鈴原が近寄り、又殴りつけ去っていった。
暫くそのまま空を眺めていると日の光が影に遮られた。
「無様ね・・」
アスカがシンジを見下ろしていた。
「非常召集が掛かったわ、じゃあね」
アスカはさっさと走り去って行った。
暫くしてシンジも起き上がり走った。


シンジは本部に到着すると更衣室でプラグスーツに着替えケージに行きエヴァに乗った。
(僕は何でエヴァに乗ってるんだろ・・・・)
(乗る理由なんてあるのか?)
(人に殴られてまで父さんの傍にいたいのか?)
(あの父さんが、いつか僕を振り向いてくれるとでも思っているのか?)
(ばかばかしい・・・・そんな事あるはず無いじゃないか)
(そんな人間なら如何して10年間も放って置くものか)
(父さんにとって僕はただの道具、使徒と戦うエヴァを動かすための道具)
(父さんが道具を大切に思うはずが無い)
(・・・・じゃあ、僕は何故ここにいるの?)
『シンジ君良い?』
ミサトからの通信である。
「・・あ、はい」
『敵のATフィールドを中和しつつパレットの一斉射、練習通り大丈夫ね?』
今度はリツコ。
「はい」
『エヴァンゲリオン初号機発進!!』
射出され、兵装ビルから地上に出た。
今度の使徒は奇怪な形をしていた。イカとゴキブリを合わせたような使徒である。空中に浮いている。
使徒は体を起こした。
(目標をセンターに入れて、スイッチ!)
初号機は使徒に向けてパレットガンを撃った。使徒は見る見る弾煙に隠れて見えなくなったがまだ撃ち続けた。
『バカ!敵が』
ミサトが叫ぶのと同時に、煙の中から2本の触手が伸びて来て吹っ飛ばされた。使徒が触手を振り回しながら近付いて来るに連れ、シンジの中の恐怖が大きくなった。
「うっ、あ、ああ」
パレットガンは真っ二つになっている。
使徒の次の攻撃はなんとかかわしたが、直撃したビルが切り刻まれ吹っ飛んだ。更に2回続けてかわした。直撃したらやばい。
『アンビリカルケーブル断線!』
アンビリカルケーブルを切られた。
『シンジ君早く倒さないとヤバイわ。』
初号機の足が触手に掴まれ振り上げられて投げ飛ばされ丘の中腹に激突した。
「いたた、ん?」
初号機の丁度左手の指と指の間にびびりまくったトウジとケンスケが居た。
「ウッソー!」
『シンジ君!早く起きて!』
使徒が触手を振り下ろした。
(駄目だ動けない)
使徒の触手を掴み動きを止めたが両手に痛みが走った。
『初号機活動限界まで後3分30秒』
「う、ぐ、ぐ・・・」
『シンジ君其処の二人を一時エヴァに収容その後、一時退却、そして再出撃よ。』
『越権行為よ!葛城1尉』
『今の責任者は私です!』
本当の責任者、冬月がこの時何を思ったかは本人以外知る由は無い。
『シンジ君!』
シンジはミサトの指示通りホールドモードにしてエントリープラグを排出し、二人が乗り込んだ事を確認して通常モードに戻した。
何かリツコの叫び声も聞こえたような気もするが・・・
初号機は使徒の腹部を蹴り上げ、立ち上がった。
『今よ、退却して!回収ルー』
(プログナイフ装備)
初号機はプログナイフを装備した。
『!、何を考えてるの!!!』
「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ」
「わああああああああ!!!!」
初号機は使徒に向かって突撃した。
使徒の触手が初号機の腹部を貫きシンジの腹部を激痛が突き抜けたが、初号機はそのまま、プログナイフを使徒のコアに突き刺した。
「があああああああ!!わああああああああああ!!」
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
使徒のコアが割れ、使徒の動きが止まり、続いて初号機も活動限界に達した。
二人はシンジに声を掛ける事が出来なかった。


その夜、ネルフ本部エヴァンゲリオン操縦者待機室。
「如何して私の命令を無視したの?」
ミサトは壁に凭れながら尋ねた。
「・・・済みません」
「使徒殲滅は1秒程度の差だった、もし、使徒を倒せなかったらどうなっていたと思うの?」
「・・・済みません」
「人類はその場で滅亡していたのよ!済みませんで済む問題じゃないわ!」
ミサトは済みません以外言わないシンジにいらついて来て叫んだ。
「貴方は、作戦本部長、貴方の作戦責任者で、貴方は作戦部所属のパイロットで、その命令に従う義務があるのよ!」
シンジは、俯いたままだった。
「もういいわ、今日は帰って休みなさい。」
耐えられなくなったミサトは、シンジと目を合わさずに言った。
「・・はい・・」
シンジはゆっくりと部屋を出て行った。
「くっ」
ミサトは壁を殴り、壁が拳の形に凹んだ。壁が柔らかかったとは思えないが・・・
「何やってんのよ、子供相手に当たり散らして・・・」
元々乗る事を望んだわけでもない民間人の子供に、人類の滅亡の回避と言う大義を掲げ、無理やりエヴァに乗せ、そして、何も有効な指揮が出来なかった自分にいらつき、更に、自分達とは違う思考をするシンジにいらつき、最後は、大人の理論、それも、軍隊の理論で、つい先日まで民間人だった子供を断罪した自分が余りにも愚かに思えた。
しかし、実態を言うと、シンジはまだ正規の契約をしていないので、ミサトの命令を聞く義務は無い。親の手伝いをしている総司令の息子と言う立場なのだ。本当に愚か過ぎる。
廊下で待機していた日向が入って来た。
「葛城さん・・・」
「日向君・・・見てた?」
ミサトは振り返らずに尋ねた。
「いえ、でも、だいたいは推測できます」
「リツコ達には黙っててくれる?」
「はい」


7月13日(月曜日)朝、ミサトのマンション
ミサトはシンジが置き手紙をして出て行った事に気が付いた。
「あの、バカ・・・」
ミサトは手紙を読みもせずに、握り潰してごみ箱に投げ入れた。
そして、憂鬱な気分のまま出勤した。


夜、ミサトが家に帰ってくるとペンペンが上機嫌で近寄って来た。
「只今〜、ペンペン。」
ミサトはペンペンを抱き抱えるとシンジの部屋に行き、部屋を開けたが、やはりシンジは帰っていなかった。
(あいつ・・・帰ってないか・・・)
扉を閉めてから、嫌な事を忘れようと風呂に入った。
しかし、風呂に入ってもビールを飲んでも拭い切れはしなかった。


7月14日(火曜日)昼、ネルフ本部赤木博士研究室。
ミサトはシンジの事をリツコに話した。
「なんですって?・・シンジ君が行方不明?」
リツコは非難と言うよりも驚いたような表情を出した。
「様子が変だとは思ってはいたけど、まさか家出なんて・・・」
ミサトは仮初めとは言え、保護者の責任を全うできなかった負い目から、俯き加減に言った。
「貴女、それでの彼の監督係なの?」
しかし、リツコはミサトがサードチルドレン監督担当者としての任務を全うしていないことを非難し、カップを机に置いた。
「止めてよ、そんな言い方」
「仕方ないわね、上に報告するわ。」
リツコは電話を取った。
「待ってよまだ」
保護者と被保護者の問題としてではなく、監督者と被監督者としての問題として処理されようとしている事に不満を感じ止めさせようとした。
「何か有ってからじゃ遅いでしょ。それとも貴方自分で探し出すって言うの?」
何も言う事が出来ずに、ミサトは俯いた。
冬月への報告をした後、リツコはデーターベースにアクセスした。
「シンジ君は箱根から出ていないわよ」
「そう・・・でも、私に、シンジ君の行くところなんか想像できないわよ」
結局、シンジの事を何も知らなかったと言う事を自覚した。


2時間後には、ミサトの元に2週間の減棒のお知らせが届いた。
自動販売機コーナー、
「くそ〜〜!!保安部の奴ら〜〜!!そりゃ家出は私のせいかも知んないけどさ〜!行方不明は保安部の責任じゃないの!!」
ミサトは自動販売機に八つ当たりの蹴りを入れた。
ファンファーレが鳴り響き、ジュースの缶が次々に吐き出された。
その時、冬月が歩いて来た。
「葛城君、本部の備品を壊さないでくれよ」
「ふ、副司令!!!」
ミサトは片足を上げた状態で固まった。
「因みに、保安2課サードチルドレン班の担当者と責任者は3ヶ月の減俸処分となっている」
「は、はあ」
「それと、司令系統の混乱に関する始末書を持ってきたまえ」
「・・・はい?」
ミサトには冬月の言っている意味が分からなかった。
結局、シンジの命令違反等に関する監督不行き届き等の始末書を提出した。


昼休み、第3新東京市立第壱中学校、屋上、
ケンスケとトウジが手すりに凭れながら話をしていた。
「転校生・・・来ないな」
ケンスケが突然呟くように言った。
「・・ああ・・・せやな・・・」
「悪いと思ってるのか?」
「ああ、ナツにも言われた」
「妹さんに?」
「せや、あのロボットがいたから私達が生きていられるのよってな」
「そうか・・」
「なあ、トウジ、これから謝りに行かないか?」
「家、知っとんのか?」
「ああ、任せとけよ」
「ケンスケ、いっつもお前どこから情報仕入れてくるんや?」
「企業秘密さ」
何故かケンスケの眼鏡が光ったような気がした。


放課後、ミサトのマンション、
葛城とネームプレートにかかれた部屋の前にトウジとケンスケがいる。
トウジはインターホンを押した。
暫くしてドアが開いた。
ドアの向こうには、ペンペンがいた。
「「ペンギン?」」
「クア〜」
「六分儀は?」
ペンペンは首を傾げた。
「おらへんのか?」
ペンペンは頷いた。
「そか」
ペンペンはボタンを押してドアを閉めた。
「なあケンスケ、世の中にゃ、不思議な事があるもんやの」
「ああ、そうだな」


7月14日(火曜日)夜、
シンジはススキが広がる野原を歩いていた。
(バカだな・・・いくら歩き回ったて、結局どこにも僕の居場所なんかありはしないのに・・・・)
「六分儀ぃ!」
シンジはケンスケから呼ばれたようなきがして声がした方を見ると、ススキの中にケンスケが野戦用迷彩服を着てモデルガンを持って此方に手を振っていた。
シンジはケンスケの方に近付いて行った。
「もしやとは思ったけど、やっぱり六分儀か・・」
「相田だったよね・・・何してたの?そんな格好で?」
「戦争・・・ごっこかな?」


夜、シンジはケンスケのテントに泊めてもらうことになった。
シンジはケンスケの左に寝ころんでいる。
「トウジの奴、小学生の妹に叱られてたんだぜ。あのロボットがいたから私達が生きていられるのよってな。」
「そう」
「それにしてもさ〜、六分儀は羨ましいよな〜あんなかっこいいロボットを操縦できて、俺も一度でいいから思いのままにエヴァを操ってみたいよ。」
ケンスケは本当に羨ましそうだが、シンジは顔を顰めた。
「止めておいた方が良いよ。お母さんが心配するから・・・」
「家、御袋いないんだ・・・六分儀と同じだよ。」
妙に親近感を覚え、その後、少し話をしていたがいつしか眠ってしまった。


7月15日(水曜日)深夜、ケンスケが何者かの気配に目が覚めシンジを起こした。
二人でそっと外を見てみるとテントが数人の黒ずくめの男達に包囲されていた。
「六分儀シンジ君だな。我々はネルフ保安部の者だ、君をネルフ保安条例第8項の適用により本部まで連行する。」
シンジは黙って男達に連れて行かれた。


人類補完委員会、
「防衛都市、第3新東京市の損壊、初号機の大破・・・先の戦闘に続き、又しても被った被害は甚大だよ」
「君達親子はどれだけ金を使ったら気が済むのかね」
「金、時間、全ては有限なのだよ」
「こんな事が続けばシナリオの遂行は不可能になる」
「弐号機の再起動実験に成功すれば大きく戦力は上がります。そうすれば先のような心配は払拭されるかと」
「そうだな、だが、念には念を入れろという言葉もある。」
六分儀は眉を上げた。
「ファーストチルドレンと零号機を本部に輸送する」
「な!?し、しかし・・・」
「何か問題でもあるのかね」
「い、いえ・・・」
「六分儀、役者は台本を書く必要は無い」
「・・・承知しております・・・」


7月15日(水曜日)朝、ネルフ本部第2監禁室。
扉が開かれミサトが入って来た。
「おはよう・・・如何?暫く家を空けて何か変わった?」
シンジは何も言わなかった。
「エヴァぁは如何する?・・・今、アスカが待機しているけど?」
「・・・乗りますよ。」
「そう、乗りたくないのね。」
ミサトは裏の意味を指摘した。
「当たり前じゃないですか・・・・無理矢理乗せられて」
そう、誰もが、乗れと言った。乗って欲しいと頼んだ人間はいなかった。挙げ句、殴られ、叱られ、連行され、監禁されている。
「だったら、ここを離れると良いわ、ここでの事は忘れなさい。」
「え?」
「いくつかの制限はつくけれど、今まで通りの生活に戻れる筈よ、それじゃ」
シンジは予想外の展開に呆然としていた。


7月16日(木曜日)、ネルフ本部総司令執務室、
六分儀の目の前には、サードチルドレンの抹消に関する書類が置かれていた。
「・・六分儀、」
「・・ああ、」
六分儀は公印を書類に押した。


7月17日(金曜日)昼、ネルフ本部セントラルドグマ中央回廊。
六分儀、リツコ、アスカが歩いていた。
「サードチルドレンは明日、第3新東京を離れます。」
「そうか・・・・・」
六分儀はどことなく寂しそうだ。
「宜しいのですか?それで」
「・・致し方あるまい」
「・・しかし、マルドゥック機間によるフォースチルドレンは今だ発表されていませんが・・・」
六分儀は沈黙で返し、リツコは六分儀を睨んだ。
「・・最悪、彼を連れ戻し洗脳となった場合、エヴァのシンクロに問題が無いとは・・・」
「・・・それよりも・・・彼女が来る・・・」
六分儀の言葉でリツコの表情が大きく変わった。
「それは、」
「委員会の決定だ。戦力の方は問題無くなる」
「しかし・・・」
「計画を悟られないようにしなければ成らない」
「・・はい・・」


7月18日(土曜日)昼、ネルフ本部、技術部長執務室、
リツコ、マヤ、ミサトがコーヒーを飲んでいた。
「・・・シンジ君・・今日、ここを離れるんですよね・・・」
「ええ、1時丁度の予定よ」
「・・・葛城1尉、見送りには行かないんですか?」
マヤの言葉には少し非難が混じっていた。
ミサトは首を振った。
「今更・・・私が会っても辛い思いをさせるだけよ・・・」
「ヤマアラシのジレンマって知ってる?」
「・・・近付き合えば、お互いを傷つける、だから一定の距離を置かざるを得ない・・・そうですよね」
「シンジ君の状態よ」
ミサトは小首を傾げた。
「彼は人と接する事で疵付き続けてきた。だから、一定の距離を取る。」
それは報告書の記載事項からも想像できる。
他人の右に立とうとしない、その姿勢が結果なのか原因なのかはわからないが、常に集団の隅に身を寄せる事に成っていたはずである。
「そして、ミサトに優しく接してもらい、自分自身その距離を測りあぐねている段階で、ミサトから近付いた。」
「そして、防衛反応に当たったミサトは、彼を突き放した。」
「ミサト自身、急に近寄り過ぎたわけね」
「・・・・・・・」
ミサトは時計に目をやった。
「リツコ、今日、早引きするわ」
「分かったわ」
ミサトは廊下に出て全速力で走って行った。
暫く沈黙が流れた。
「・・・先輩・・・あれで良かったんですか?」
「本当の事を言えば、シンジ君も救われないし、ミサトも罪の意識に悩まされるわ」
「・・・それは分かります・・・でも・・・」
「・・・潔癖症は辛いわよ」
マヤは少し俯いた。
「・・・自分が汚れたと感じた時・・・それが分かるわ・・・」
リツコは過去の忌まわしい記憶を思い出しているようだった。


シンジは諜報部の車に乗せられて第3新東京駅に向かっていた。
「ミサトさんはどこですか?一言お別れを」
「君は最早ネルフの人間ではない、君には何も教える事は出来ない。」
それから、車が駅に着き止まるまで、諜報部員もシンジも一言も口は開かなかった。
「降りたまえ。」
シンジは車を降り、駅に入ろうとした。
「六分儀!」
シンジは後ろから呼びかけられて、トウジとケンスケに気付いた。
「ちょっと良いですか?」
諜報部員は腕時計を見た。
「ああ」
シンジは二人に近付いた。
「どうして、ここに?」
「疎開してった奴らは、ここで皆見送ったから」
「六分儀ぃ、済まん!この前は知らんだとはいえ、殴ってもうて、やからわしも殴ってくれ。」
「え?」
トウジの突然の発言に、シンジは一瞬理解できなかった。
「頼むわぁ六分儀、そうせなわしの気が済まんのや」
「じゃ、じゃあ1発だけ。」
シンジはトウジを殴ろうとした。
「待ったぁ!」
突然言う事を変えられて、シンジは不可思議な顔をした。
「本気でや。」
シンジは頷き、2歩下がって助走をつけてトウジを殴り飛ばした。
「時間だ。」
「さようなら・・・」
シンジは駅に入った。
(こんな僕のために・・・やっぱり僕は殴られなくちゃいけなかったんだ・・・)
ホームにシンジの乗る電車が入って来た。
シンジはそのまま立ち尽くした。
やがて電車の扉が閉じ、電車が発車した。シンジはそのまま俯いていたが顔を上げると、ミサトが見えた。
二人とも色々言いたい事が有ったが、結局1分ほど御互いに向き合った後、
「た、ただいま。」
「お帰りなさい。」
ミサトは笑顔で答えた。

あとがき
レイ 「良い感じで進んでいるわ、」
YUKI「ですか」
レイ 「弐号機パイロットはこうでなくては行けないわ」
YUKI「そうですか・・・」
レイ 「碇君、もう直ぐ私が行くわ」
YUKI「頑張ってくださいな、」
レイ 「碇君は私が守るの、弐号機パイロットから守るの」