立場の違い2R

第2話

◆新たな同居人

ネルフ中央病院、病室、
シンジはベッドの上で目を覚ました。
「・・・知らない天井だ・・・」
シンジは上体を起こし、今まで何が有ったかを思い出そうとしたが、どうしても初号機で出撃した辺りからの記憶がぼやけて良く思い出せなかった。
「僕はいったい・・・つぅ」
シンジは軽い痛みを覚えて頭を手で押さえた。
(何があったんだろう・・・)


第3新東京市市内、封鎖地区、
壊れた初号機のパーツが大型クレーンによって持ち上げられていた。
プレハブ小屋の中でミサトはテレビを見ていた。
『昨夜の第3新東京市での爆弾テロに対して政府は』
ミサトはチャンネルを変えた。
『え〜ですから、その件につきましては、後日』
ミサトはチャンネルを変えた。
『正式な発表を持って』
ミサトはチャンネルを変えた。
『詳細を発表』
ミサトはチャンネルを変えた。
『したいの』
どこのテレビ局も全く同じ嘘の会見の放送をしているのにいらつき、ミサトはテレビの電源を切った。
「シナリオはB−22か」
分かってはいたが、こうまで鮮やかに、マスコミに圧力をかけるとは、ミサトは少し複雑な心境だった。
「作られた真実・・・事実と言うものね」
「分かってるわよ・・・・でもね」
ミサトは小屋の外を見た。
大型重機を持ち込んでの大作業、ちょっと高いビルに登れば見える。
ここまでやってしまえば、不審に思う者も3桁では済まないだろう。
「広報部は喜んでいたわよ、初めて仕事ができたって、皆張り切っているわ」
「恐怖から逃れるために、仕事に打ち込む。の間違いじゃないの?」
あの時、ミサト自身もそうであったとは否定できないから・・・
「言えるわね・・・貴女はどう?」
「決まってるでしょ・・・誰だって怖いわよ・・・」
ミサトは窓越しに使徒の自爆地点のクレーターを見た。
「あら?」
リツコはモニターの表示に気付いた。
「どうしたの?」
「シンジ君・・気付いたようね・・・・若干の記憶の混乱が見られるけど」
「まさか精神汚染じゃ!」
ミサトはいきなり初戦で手駒を失ってしまう事への心配と、民間人の少年を戦場に引き摺り出し壊してしまう事への恐怖から叫んだ。
「その心配は無し、心身ともに健康よ」
「そう」
ミサトは机の上においてあったコーヒーを飲んだ。
「それ、冷めてるわよ」
「ぐ」


ネルフ中央病院、
シンジは廊下に出て窓のガラス越しに外の光景を見ていた。
ここは、ネルフ中央病院、ジオフロント内に建設された病院である。ジオフロントの天井部には格納されたビル群が突き出ている。
「天井に、ビル・・・ここはジオフロントなのか」
(森・・・湖・・・とても人工の空間とは思えないな)
暫くして、全身を包帯で包んだアスカが歩いて来るのに気付いた。
「あ・・・無事だったんだ?」
アスカはシンジを見るなり敵意の視線をぶつけてきた。
「う・・・」
「サード、アンタには渡さない、絶対に渡さないんだから!」
そう言い残しアスカは走り去っていった。
「・・・・」
暫くシンジはその場に立ち尽くしていた。
「シンジ君」
「ミサトさん・・・」
後ろから明るいミサトの声がして、シンジは振り向いた。
「迎えに来たわ。」
二人はロビーに向かって歩き始めた。
「怪我は大した事無くて良かったわね。」
「ええ・・・ミサトさん。昨日、何が有ったんですか?」
「後で教えてあげるわね。」
ミサトは少し楽しそうだ。
その後は二人とも一言も話さずにロビーを抜け、正面に止まっていた黒い車に乗った。
ミサトはエンジンを掛け車を走らせた。
「この車ミサトさんのですか?」
シンジが尋ねるとミサトの雰囲気が突然沈み、車の速度も落ち始めたが、数秒後に車の速度は回復した。
(拙い事聞いちゃったかな?)
「諜報部の車借りたの、私の車はチョッチね・・・・・」
「あ・・・済みません」
シンジは、自分を護るために、ミサトの車がぼこぼこになった事を思い出した。
正しくは、遅刻したミサトの自業自得である。
「ん?良いのよ・・・」
(私が迎えに行くの遅れたんだし・・・サードチルドレンを護るための必要な行為と言う事で、経費で落ちそうだし)
シンジだけが気まずい雰囲気の中、第3新東京市市街のネルフ施設に着いた。
施設のネルフ職員居住区管理局についた。
「六分儀シンジ君の居住区は新たに増設されたF地区です。」
「チョッチ待ってよ!あの広いF地区にこの子一人にするつもり!」
ミサトは渡された書類を投げ捨て凄い剣幕で詰め寄った。
「そ、そんな事を言われましても。」
局員はミサトの剣幕に冷や汗をかいている。
「ミサトさん、別に良いですよ。」
シンジは顔を少し背けた。
「それに一人の方が落ち着きますから。」
ミサトはシンジの方を向いた。
「申請すれば、お父さんと一緒に住む事も出来るのよ。」
「別にいいです。それに、いまさらギクシャクするだけだし・・・」
「シンジ君・・・」
ミサトはシンジを嘗ての自分と重ね合わせ憐れに思い、そして、一つ思いついた。
「そうだわ、シンジ君、家に来なさい。」
「へ?」
ミサトのとんでもない発言にシンジは瞬時には理解できなかった。
「この子は私が引き取る事にするわ。良いでしょ?」
「制度上は別に構いませんが、倫理!!!!」
局員の冷や汗の量が一気に増えた。見るとミサトの手には拳銃が握られていた。
「はい!別に何の問題も有りません!直に書類を作成しますので、し、暫くお待ちを!」
職員は猛獣から逃げるように急いで書類を取りに行った。


そしてシンジはミサトの家に居候する事となった。
今、車に乗って国道1号線を走っていた。
ミサトは携帯電話を掛けた。
「あっ、リツコ、シンジ君、私の家で引き取る事になったから本部への手続き御願い」
「だ〜いじょうぶだってぇ、子供に手ぇ出すほど飢えてないから」
『あったりまえでしょ!!ちょっと!!葛城1尉!!!』
シンジにもリツコの叫び声が聞こえた。
ミサトは耳を押さえながら電話を切った。


十数分後、第3新東京市郊外の丘の展望公園についた。
「さっ、下りて、」
シンジはミサトに言われるままに車を下りて、ミサトの左に立って第3新東京市を見た。
「淋しい町ですね・・・」
シンジは呟くように言った。
何も目立った物が無い、これが、第2次遷都計画によりその建設が進められている新首都、第3新東京市だとは思えないほどである。そして、居住人口90万人を誇るとはとても思えない。
(セカンドインパクト、それが全てを奪ったんだ・・・何もかも)
ミサトは腕時計を見た。
「そろそろ時間ね」
ミサトはまるで宝物を友達に見せびらかす時の子供のように楽しそうだ。
警報が鳴り、夕焼けの中、地面からビルが次々に競り上がって来た。
「凄い!ビルが生えてく」
一気に中都市から大都市へと変貌した。
超高層ビルが建ち並び、長い影が旧市街を覆っている。
「対使徒専用迎撃要塞都市、第3新東京市、これが私達の町であり、貴方が守った町よ。」
しかし、シンジには記憶に無い以上実感が沸かなかった。
・・・・・・・
・・・・・・・
「ミサトさん・・・」
暫く第3新東京市を見ていたシンジは呟くようにミサトの名を呼んだ。
「分かったわ・・・・初号機が活動不能に陥った後、初号機は再起動をしたわ」
ミサトは、約束通り話し始めた。
「再起動ですか?」
「そう、そして、暴走と呼ばれる制御不能状態に入ったの」
「暴走・・・」
「暴走状態のエヴァぁは、人間の本能に近い部分が目覚めた状態になる。人で言うと過度のストレスでプッツン切れちゃった状態ね」
「プッツン、ですか・・・」
「そう、そして、暴走状態で第参使徒に一方的な攻撃を仕掛け、最後は、第参使徒が自爆して終わったわ」
「自爆・・・ですか」
シンジは今一度使徒に漠然とした恐怖を感じた。
「ええ、で、エヴァぁ初号機は大破、今修復中なの」
「エヴァも直してるし、第参使徒、て事はまだ来るって事ですか?」
「ええ、そうなるわね」
ミサトは、少し辛そうに言った。
「僕は、まだあれに乗り続けなくてはいけないんですか?」
シンジは声の抑揚を押さえながら尋ねた。
「貴方には断る権利があるわ。でも、断った場合・・・・」
「あの女の子が乗ることになるんですね・・」
「ええ」
ミサトは頷いた。
「・・・・」
シンジは黙ってじっと考え込んだ。
日は山に沈み、暗くなった。


途中、コンビニに寄った。
「何でも好きなもの買ってねん」
主婦達が話している。
「遂に戦争はじまってしまいましたわね」
「主人は私と子供だけでも疎開しろと」
「そうですわね、要塞都市といっても、どこまで安全なのか」
「本当、恐ろしいですわ」
ミサトは弁当や飲み物以外にインスタント食品やレトルト食品を次々に籠の中に入れていく。
シンジは立ち尽くしていた。
何か主婦達が異様な視線でシンジを見ている。
(まさか・・・僕があのエヴァのパイロットだって・・・・・・これは・・・)
シンジの目の前には生理用品が並んでいる。
シンジは真っ赤になって逃げ出した。


ミサトのマンションに着いた。
「シンジ君の荷物は、もう届いているとは思うんだけど」
葛城と書かれたプレートが入った部屋の前に荷物が積まれていた。
ミサトは扉を開け中に入った。
「御邪魔します。」
シンジはミサトに続いて入ろうとしたが、ミサトは振り向き、シンジの前に立ちはだかった。
「シンジ君、ここは、貴方の家なのよ。」
「た、ただいま」
恥ずかしげに少し赤くなりながら帰宅の挨拶をして、シンジは中に入った。
「お帰りなさい。」
ミサトは笑みを浮かべてシンジを迎えた。
シンジは靴を脱いで上がった。
「私も、この町に越してきたばかりでチョッチ散らかってるけど。」
部屋を見ると、机の上にはインスタント食品の空の山、部屋中に散らかった何か、酒の空き瓶、向こうにはビール缶が山積みになっている、多分中は空だろう。
「これが、ちょっち?」
シンジの顔は思い切り引き攣っている。
取り合えず、食事が取れる状態にはして、食事を取り始めた。
冷蔵庫の中は、ビールとつまみ、冷凍庫は氷のみ、そして、もう一つの冷蔵庫には、
「クエエ〜」
器用にタオルを首?にかけて歩いている温泉ペンギンのペンペンが住んでいる。
(僕・・・本当にこんなところで暮らしていくんだろうか・・・)
流石にシンジはこの先不安になった。
その後、じゃんけんで生活当番を決めた。
凡そ4対1といったところである。
シンジが弱いのかミサトが強いのか、あるいはその両方であろう。
「シンちゃん、嫌な事は、お風呂に入ってパァって忘れちゃいなさいよ」
ミサトはビールを6本も飲んで上機嫌である。
「は、はい」
「風呂は命の洗濯よ」
そして、風呂に入った。
「ミサトさん・・・・悪い人じゃないんだ・・・・」
シンジの脳裏に映像が浮かんだ。


真っ暗な空間である。
シンジは何かを叫んだ。
周りに誰かの気配を感じた。
シンジの目から涙が溢れた。


シンジは現実に戻った。
「今のは?」
風呂から出てシンジに与えられた部屋に入った。
シンジはベッドに寝そべって天井を見た。
(知らない天井・・・・当たり前かこの町で僕の知っている所なんか・・・)
ミサトが扉を開けた。
シンジは寝たふりをする事にした。
「一つ言い忘れたんだけど、貴方は人に誉められる立派な事をしたのよ。誇りに思っていいわ。おやすみなさい。」
狸寝入りは見ぬいたが、ミサトはそのままそっとドアを閉めた。


7月3日(金曜日)、ミサトのマンション、
朝からシンジは片付けを行っている。
ミサトは使徒とエヴァの後処理に出かけた。
「ふう」
シンジは軽く息を吐いて腰を下ろした。
随分、人の居住可能地域に近付いた。
シンジは記憶を掘り返していた。
意識を失った時までは思い出せた。
目覚めた後の記憶は当然覚えている。
だが、違和感があった。
風呂でのフラッシュバックを初めとして、そのどちらにも当てはまらない何かがあるような気がしていた。
(エヴァが暴走している時・・・何があったんだろう?)

あとがき
レイ 「これで良いわ」
YUKI「そうですか」
レイ 「ええ、この方が正しい弐号機パイロットよ、」
YUKI「・・・ですか、」
レイ 「くすくす、碇君に喧嘩を売って勝手に自滅するの」
YUKI「・・・」
レイ 「そして、私が碇君を救うの」
YUKI「はあ・・・」
レイ 「急ぎなさい」
YUKI「・・はい、」