立場の違い2A

最終話

◆人類補完計画

ネルフ本部、第1発令所、
最後の使徒の殲滅が確認されたにもかかわらず未だに、第1種警戒態勢は解かれていなかった。
「どのくらいかかる?」
『発動までには・・早くても5時間はかかりますね。最終準備は今から・・大体4時間後になると思います。何も無ければ、ですが』
「そうか、分かった。頼んだ。」
『はい、』
六分儀は電話を切った。
「重要な通告がある。」
喜びから不安に変わりがやがやしていた発令所がシンと静まり返る。
戻ってきたシンジとアスカもメインフロアから司令塔を見上げる。
「諸君の活躍によって、全ての使徒を打ち倒す事に成功した。先ずはこの事に関して礼を言うと共に祝いたい。」
「これによって、特務機関ネルフの存在意義は消滅したと言う事になる。」
「だが、ネルフと言う組織、そして、エヴァは未だに存在している。」
「時の権力者にとってこのネルフと言う存在は極めて邪魔な存在である。」
「これだけの大きな組織を短期間でつくり、動かしてきたのだ。勿論綺麗なだけの組織ではない、不法な事、法には触れないが、一般的に良いと言えるようなものではないこと等、無数ある。権力者にとっては、自分の保身のためにも、ぜひとも闇に葬りたいことだ。」
「更に言えば、エヴァを抑え自分のものとすれば、極めて大きい力を握る事も出来るようになる。」
「そのような事を権力者が放って置くはずが無い、」
「彼らにとっての拙い情報が流れる前、直ぐにでも、このネルフ本部に武力をもって攻め込んでくる事になるだろう」
発令所中から驚きと動揺の声が聞こえる。
「現在、それに対抗する手を準備しているが、今しばらく時間がかかる。」
「何事も無くても5時間程かかる。何かあればそれ以上の時間を要する。」
「彼らもそれを分かっている以上ありとあらゆる手でそれを阻止しようとするだろう。」
六分儀は少し間をおき発令所が静まるのを待ち、そして、命令を下した。
「全職員にネルフ総司令官としての最後の指示を出す。」
「時間を稼げ、最低でも5時間、出来ればそれ以上の時間を稼がなければならない、」
「考えられる全ての対策を急げ!」
ネルフ全体がいっせいに動き出した。
使徒ではなく、人に対抗するために・・・
そして、直ぐに警報が鳴り響いた。
「マギにハッキングがかけられています!!!」
「なんですって!?」
「電子戦は前哨戦だ。赤木博士達に任せ、他の者は、直接攻撃への対策を急げ」
直ぐにリツコとマヤを始めとする技術部のマギ関連の職員が対応に走る。
シンジと、アスカは、まだ何をすると言うことも出来ず、半ば呆然と椅子に座ったままであった。
やがて、マギ本体へと侵入され、圧倒的劣勢に立たされる。
「マヤ、第666プロテクトの準備をして!」
「あ、はい、分かりました!」
直ぐに第666プロテクトが発動され、マギへの侵入がすべてブロックされた。
「あまり時間を稼げなかったな・・・次は、直接来るな・・全て侵入可能な経路をふさげ」
「了解、」
「シンジ君、アスカ、ケージに向かって、」
「・・はい、」
ミサトは二人に顔を寄せた。
「いい、必ず生き残るのよ、これからの世界のために貴方達は戦ったんですから」
二人は力強く頷いた。
「外輪山を次々に未確認の車両が越えています。」
「来たわね」
「総員第3種対人戦闘配置!!」
シンジとアスカは司令塔の六分儀に視線を送った後、発令所を後にした。


二人は、それぞれエヴァに乗り込んで待っていた。
先ほどから大きな衝撃が何度もある。
「・・アスカ、大丈夫かな?」
『・・分かんないわ・・・人相手の戦闘なんて誰もした事無いからね、』
「・・うん・・・」
場合によっては自分が人と戦う・・人を殺さなくてはいけない・・・
「・・・・」
再び大きな爆発による大きな衝撃が走った。
「・・・・」
『シンジ君、アスカ・・・ケージはそう長く持たないわ、ジオフロントの地底湖に射出するから、そこに身を隠して、』
「・・はい・・・」
射出の準備がされ、そして地底湖に射出された。


第1発令所、
「・・冬月先生、後をお願いします。」
「分かった。二人に宜しくな」
「分かっていますよ」
六分儀は発令所を出て行った。
「後どのくらい持つ?」
「後・・1時間持てばいいかと、」
「微妙だな・・・」


ジオフロント地底湖にエヴァ2機が隠れていると言う事を確認した戦略自衛隊の部隊が地底湖に向かっていた。
地底湖に浮かんでいるフリゲート艦の3インチ連装速射砲が火を噴いた。
次々に戦車部隊に砲弾が襲い掛かる。
自走ミサイル車両などがミサイルを発射し、次々にミサイルがフリゲートに向かって飛んでくる。
3発を被弾し、その姿が爆煙に包まれる。
しかし、その煙の中から砲弾やミサイルが発射され戦自の部隊に襲い掛かった。
戦車部隊も戦車砲を発射し、ロケット弾なども次々に発射される。
暫く地上部隊と戦闘を続けていたものの、射出口などの縦穴を破壊してVTOL機がジオフロントに侵入してきた。
対空ミサイルを発射するが、VTOL機も対艦ミサイルを次々に発射してきた。
圧倒的な数量差にやがて、フリゲートも沈黙させられ、そして、爆発、沈没した。
そして、地底湖に向けて爆雷を次々に投下する。
暫くは、ATフィールドによって防いでいたが、これはたまらんと言う事か、初号機と弐号機が水面に姿をあらわした。
戦車砲が次々に火を噴き、ミサイルも発射される。
「・・なんで、攻撃するんだよ・・・」
『アタシ達を敵だと思ってるんでしょ・・・アタシ達が邪魔な奴らに騙されて・・・』
「・・・・」
『でも、ここで戦わなきゃなんないのよ、アタシは戦うわ・・生き残るために』
「・・・うん、僕も、」
シンジはやはり気が進まないが、パレットガンを手に取った。
両機がパレットガンを戦自の部隊に向けて放つ、フリゲートの主砲よりも高速で大口径の弾が次々に部隊に降り注ぐ、さらにはジオフロントを飛んでいるVTOL機に向けても放つ。
次々に戦自の部隊が到着し攻撃を仕掛けてくるが、全て簡単に撃破する。
そんな中、射出口の穴から翼を持った妙な物体が次々に侵入してきた。
「何?」
『・・エヴァ、量産機・・』
まるで爬虫類か何かのような不気味な頭部を持つエヴァ量産機がジオフロントに舞い降りた。
「あれが?」
『ええ・・・』
量産機は両機を取り囲むように円を描いた。
「どうするの?」
『破壊するに決まってんじゃない』
弐号機はスマッシュホークを手にとった。
「・・・」
『行くわよ!サポートお願い!』
弐号機は早速飛び出していった。
直ぐに初号機もそれを追い、パレットガンで他の量産機を牽制する。
しかし、弐号機のスマッシュホークは空を切り、逆に肩の部分を捕まれて、初号機に向かって投げられた。
「うわっ!」
『きゃっ!』
「なっ」
両機は3機くらいずつに押さえ込まれ、身動きが取れなくなった。
「くっ、拙い!」
ソニックグレイブなどで地面に串刺しにされ、激痛が走り抜ける。
「ぎゃああああ!!!!」
シンジの意識が薄らいでいき、やがて消えた。


ターミナルドグマ、
六分儀が最深層に入ってきた。
「準備は完了しています。」
「そうか・・ありがとう」
「・・いえ、」
ユイは、大きなカプセルを運んできて、蓋を開けた。
中には、上半身だけのレイが眠っていた。
「レイ・・・大丈夫?」
「・・・・」
レイはゆっくりと目を開いた。
「・・ええ、」
「・・大丈夫なのか?」
「・・本当はもっと回復してから・・・となればよかったのですが・・」
「私は大丈夫、」
「・・ごめんなさい・・そしてありがとう・・レイ、」
ユイはレイの頬をゆっくりと撫で、レイは穏やかな微笑みを浮かべた。
「・・・六分儀さん、」
「ああ、これを」
六分儀はアダムを取り出し、ユイに手渡した。
「・・これを使うことになると言うのは、全く残念な事ですね。」
「・・・かも知れんな・・」
「・・・レイ、お願いできる?」
レイは、ゆっくりと頷いた。


シンジとアスカは赤い液体に包まれた空間で目を覚ました。
「・・・アスカ?」
「・・・シンジ?」
実際に触れてお互いの存在を確かめ合う。
「僕達・・・どうなったのかな?」
「・・さぁ・・・」
アスカはシンジに身を寄せてきた。
「・・・シンジ、」
「何?」
長い沈黙があった。
「・・アタシさ・・・シンジに黙ってた・・いえ、隠してたことがあるの・・・」
「・・隠していたこと?」
それは、ちょっとやそっとのことではない・・とてつもなく大きい事であると雰囲気で分かる。
「・・そう・・・アタシの正体・・・」
「正体?」
突飛とも思えるような単語に首をかしげる。
「・・・アタシ・・・アタシって・・・人間と使徒のハーフみたいなものなのよ・・」
アスカの声は震えている。
「使徒のハーフ?」
「・・そう・・・」
「・・・・・」
「・・・アタシは、第壱使徒アダムと人間の遺伝子を組み合わせて作られたの・・・」
「・・アダム・・・」
アスカはゆっくりと頷いた。
「・・・アタシは、人じゃないの・・・」
「そんなの、そんなの関係な!」
「まって!まだ続きがあるの・・・」
関係ないと言おうとしたシンジの言葉をアスカは遮った。
「・・・続き?」
アスカはゆっくりと頷いた。
シンジはアスカの言葉の続きを待ったが、アスカは話すことをとまどっている。
そして、かなり時間がたってからアスカはゆっくりと口を開いた。
「・・・アタシの・・・アタシの人間側の遺伝子は・・・六分儀キョウコ・・・・・・シンジのママなのよ」
「・・え?」
「・・・・」
「・・・・」
思わぬ言葉にシンジは少し思考が停止してしまった。
「・・・・・・アタシが人だとしたら・・・遺伝子上・・シンジの妹になるの・・・」
「・・・」
「・・・・」
「・・・アスカが僕の妹?」
「・・そう・・アタシはシンジの事が好き・・・だけど・・・人ではない・・人であれば・・実の妹・・・」
なにか、このままではいけない・・・このままではアスカの存在を失ってしまう・・・そんな気がした。
「・・そんなの・・そんなの関係ないよ!僕だってアスカのことが好きなんだよ!!」
「アスカが使徒だろうと妹だろうと関係なんか無い!!アスカが好きなんだよ!!」
半ば、衝動的に叫んだに近い・・・しかし、アスカにはきちんと伝わったようで、おだやかな表情に変えた。
「・・・ありがと・・・アタシもシンジの事好きよ・・・」
アスカはシンジに体を預けてきた。
「・・・・こうしてていいかな?」
「・・うん、」
シンジはアスカの肩に手を回し軽く引き寄せた。
「・・・ここが、どこかは分からないけれど・・・誰もいないみたいだね・・・」
「・・うん・・・・そうみたいね・・・」
どれだけの時間二人はその身を寄せあっていたのか分からないが、人の気配で二人ははっとその方向を振り向いた。
そこには、白いワンピースを着込んだレイがたっていた。
「碇!!」
「レイ!!」
「六分儀君、アスカ・・・又会えたわね」
レイは微笑を浮かべる。
「碇!生きてたんだ!」
「なんで黙ってたのよ!」
思わず、二人の目から涙が零れる。
「・・会えるような状況じゃなかったわ・・・今でこそ、この姿まで戻れたけれど・・一度は、生物学的には死を迎えたわ、」
「ま、まあ・・何にせよ、又会えてよかったじゃないの、」
「そうね。」
「ところで、二人に会わせたい人がいるのよ」
「「会わせたい人?」」
「でも、直ぐにはあえないから・・又後でね」
「あ・・うん、」
「わかったわよ」
レイが手を上げるととたんに二人は意識を失った。
「・・幸せになってね・・二人とも・・・さよなら・・」
レイの姿が霞のようにゆっくりと消えていき、やがて後には一粒の光のみが残った。


シンジとアスカが目を覚ますと、ジオフロントの地底湖のほとりであった。
戦闘で荒らされたはずのジオフロントは、使徒の時のまま・・戦自との戦闘の影響は無い・・
「・・何があったの?」
「・・分からない・・・」
二人は、半ば呆然とあたりの景色を眺めていると、暫くして保安部員などが迎えにやってきた。


二人は殆ど訳も分からないまま総司令執務室に通された。
執務室には、六分儀、冬月の他、一人の女性が立っていた。
シンジはその女性に視線を向けた。
暫くして、記憶の中にある母、六分儀キョウコの姿と重なった。
「か、母さん!!」
シンジは、感動と言うよりも、驚きで大きな声を出した。
「シンちゃんに、アスカちゃん・・・二人とも大きくなったのね・・・」
キョウコの目が潤んでいる。
「・・母さん・・・」
「・・シンジ、アスカ、全ては終わった。ネルフは、そう遠くない内に解体される事になるだろう。」
「二人には全てを説明しなければならないな・・長い話になる。場所を移さないか?」
「・・・」
「・・・」
二人は向き合って視線で相手の意思を確認した後頷いた。


皆は、プライベートルームへと移動し、ソファーに向かい合って座った。
「さて・・・何から話をするか・・・」
六分儀は、軽く上を仰ぎながら、何を話すか考えているようだ。
「・・・・そうだな・・・キョウコの事故の事から順を追って話すか・・・」
その後、六分儀は、長い話を始めた。
要約すると、
2004年に搭乗実験中に起こった事故でキョウコは初号機に取り込まれる事となり、その時のショックで、シンジとアスカ、二人はそれまでの記憶を失った。
その際、キョウコは、特殊な状況にあり、通常の方法では・・少なくとも当時、そして、現在の技術ではサルベージする事が出来ないと言う事が分かったため、六分儀は、キョウコを取り戻す方法を考え、最終的に、人類補完計画と言う計画を利用する事にした。
人類補完計画とは世界を一旦浄化してから新生させる計画。それを、利用して、キョウコを復活させる事にしたのだ。
そして、その補完計画のコアとなるのが、アスカだった。
一方、シンジは近くに置いておいて疵付けるのが怖かったため、人に預けた。
シンジを呼ばずにすめば良いと考えていた。しかし、それは限りなく不可能に近いということも、わかっていた。結局は逃避にすぎなかったのかもしれない。
そして、結果としてアスカの事故でシンジを呼び出すしかなくなった。
それからのことはシンジ達の知っての通りである。
そして最後に計画の発動には、アスカを使うつもりだったがユイがレイを使う方法を提案しそれを採用し、結果として、それで計画を無事発動する事が出来た。
長い話が終わった。
「この世界は、一度消え去っている。その上で、再生したのだ。」
「全く同じではない、彼女の願いもこの世界には込められている筈だ。」
「・・そういえば、そのレイは?」
・・・・
・・・・
みんな黙っている。
「どうしたの?」
「分からんのだよ・・・どこを探してもいなかった・・・ユイ君は、ここに居ない事に気付くと直ぐに探しに行ってしまった・・・」
「碇は居ない?」
「・・その子が何をこの世界に望んだのかは分からないわ・・・でも、この世界は望まれた世界なのよ・・・私たちがこの世界で精一杯生きていくことが、その子の望んだことでもあるのじゃないのかしら?」
キョウコの言葉に二人はゆっくりとうなずいた。

















7年後、第3新東京市郊外の丘にある教会でシンジとアスカの結婚式がとりおこなわれていた。
教会から二人が一緒に外へと出てくると、すこし離れた木の陰に、ユイと小さな女の子がたっているのに二人は気づいた。
小さな女の子とはレイに非常に良く似ている。
二人は慌てて二人のもとに駆け寄った。
「あ、お久しぶりです。」
「ええ、久しぶりね。シンジさんにアスカさん、二人ともお幸せにね」
「当然ですよ」
「それと・・レイから二人に言いたい事があるそうよ、」
「「え?」」
レイそっくりな小さな女の子は笑みを浮かべながら口を開いた。
「六分儀君もアスカも二人とも相手を思いやって、喧嘩なんかしないでね」
「レイなの?」
「ええ、あの時に殆どの力を使い果たして、力も失って、小さくなってしまったけれどね」
「碇・・・」
「この世界は私が望んだ世界でもあるの。私は幸せよ」
「・・そう、」
少し沈黙が訪れる。
「ところで、このまま新婚旅行に出かけるんでしょ・・戻ってくるのはいつ?」
レイは旅行用の用意がすでに積まれている二人の車に目を向けながら尋ねた。
「ん、1月後くらいよ」
「じゃあ、そのあたりに二人のところに遊びに行くわね」
「待ってるわよ」
「歓迎するよ」


そして、シンジとアスカは、多くの者に見送られながら車に乗ってそのままハネムーンへと出かけた。





あとがき
アスカ「よっしゃああああ〜〜〜〜!!!!!!」
アスカ「ついに・・ついに、シンジと結婚したわよ〜〜〜!!!!」
レイ 「・・いくら何でも五月蠅いわ・・もう少し静かにしたらどう?」
アスカ「何よ〜〜まあ、良いわ、良くやったわ!YUKI」
YUKI「はは・・どうも、」
アスカ「いや〜ついに2Aも完結ねぇ〜」
レイ 「・・・次は2Rね・・急ぎなさい」
YUKI「そうですね・・一息ついたら2Rにも取りかからねばなりませんな」
アスカ「で、YUKI次のLASは?」
YUKI「はい?」
アスカ「だから、次のLASよ」
YUKI「・・・まだないよ、」
アスカ「何?」(青筋)
YUKI「だからないの〜」
アスカ「早く書くのよ、アタシが切れちゃう前にね♪」
YUKI「りょ・・りょうかい・・」(滝汗)
レイ 「結局、最後までこんな形だったのね・・・」(呆れ)