立場の違い2A

第4話

◆アスカ、心の向こうに

7月25日(土曜日)、ネルフ本部、第4ケージ、初号機、
現在機体連動試験中であった。
『シンクロ率51.36%』
シンジはモニターの隅に映る弐号機のケージを見た。


第3ケージ、
アスカは弐号機の調整を手動で行っていた。
足音が近づいて来た。
アスカは弐号機からブリッジに降りて、足音の方を振り返った。
足音の正体は予想通り六分儀だった。
「アスカ、調子はどうだ?」
「はい、問題ありません」
六分儀が来た事が嬉しいのかアスカは笑顔を浮かべた。
「そうか・・・今日、時間が空いた、夕食をいっしょにどうだ?」
「はい♪」
六分儀の表情は柔らかく、シンジの前ではこんな表情は決してしない。
「・・・・あの・・・六分儀司令・・・」
「何だ?」
「・・・サードは?」
アスカは初号機に視線をやりながら尋ねた。どことなく、不安に駆られている様にも見える。
「・・・・・あいつは、私の事を避けている。いや、憎んでいると言っても良いのかも知れない。今、食事に誘ったところで、首を縦には振らんだろう・・・」
「・・・そう、ですか・・・」
少し複雑な表情をしている。
「私はもう行く、又後でな」
「はい」
六分儀はブリッジを離れていった。


司令室、
モニターの1つには、シンジの視線、つまり、六分儀とアスカの姿が映っていた。
「シンジ君・・・辛いでしょうね」
マヤは少し涙ぐんでいる。
「ねえ、リツコ、何で司令は、アスカをあんなに大事にしてるわけ?実の息子を放って置いて」
リツコは無言でモニターを見たまま答えを返さなかった。
シンクロ率は30台で大きく変動している。
「・・何にせよ、シンジ君の心理面に大きな負担をかけているわね、自分よりも父親に近い存在、簡単に言えるとしたら嫉妬、でも多分そんなに単純じゃないわね・・・」
「嫉妬だけならば、司令がシンジ君に積極的に接するだけで事は済む・・・恐らくは、複数の感情が入り交ざり、自分自身でも処理できなくなっている。戸惑いね、単なる嫉妬だけならば、こんなにシンクロ誤差が大きくなる事は無いわ・・」
リツコは答えを誤魔化した。
「戸惑いか・・・」
ミサトは自分の境遇にシンジを照らし合わせた。
「・・・そうそう、零号機の本部輸送決まったわ」
話を逸らしたのか、ふと思い出したのかリツコは全く関係の無い話を持ち出した。
「そっか」
「・・・一つ困った事があるわ」
「何?」
「・・・機体間の性能のばらつきが大き過ぎるの」
「そっか、でも、ま、試作機だから仕方ないわよ」
「・・・ええ・・・」


7月30日(木曜日)第3新東京市内、公園、
シンジは近道をするために公園を横切ることにした。
アスカがベンチに座ってソフトクリームを舐めていた。
「ん、サード!」
「あ、綾波」
アスカは立ち上がってシンジに近付いて来た。
「ちょっと話ししない?」
「話?」
二人はベンチに座った。
「アンタ、司令の事どう思っているわけ?」
アスカの問いにシンジは顔を顰めた。
「・・・好きじゃないわけね」
「当たり前だよ、あんな父親なんか・・・」
「・・・・・土曜日、アタシが司令と話してたとこ見てたでしょ」
「あっ・・・ご、ごめん」
「何であやまんのよ・・・まっ良いわ、あん時アタシ食事に誘われたのよ」
シンジは驚きを表情に出した。
「・・・アタシは、そん時アンタの事聞いたのよ。」
「な、何て・・?」
「あいつは、私の事を避けている。いや、憎んでいると言っても良いのかも知れない。今、食事に誘ったところで、首を縦には振らんだろう・・・って言ってたわ」
シンジの表情は驚愕に固まった。
「司令はあんたの事気にかけてるわよ」
六分儀はシンジが避けている、そして、憎んでさえいることを知っていたのだ。そして、それを改善したいとは思ってもどうすれば良いのか分からない。それだけの事をしたと自覚していたのだ。
「何で・・そんな事を僕に?」
「・・・ファーストが来るのよ」
「ファースト?」
「ドイツからね。成績は桁外れに高い。素人のアンタや、起動すらしていないアタシなんかは、ファーストが来たらお払い箱、必要無くなるのよ・・・」
アスカはそれが現実になることを恐怖しているのが良く分かる。
「・・綾波・・?」
「・・・お願い・・・シンクロのコツを教えて・・・このままじゃ・・アタシ・・アタシ・・・」
アスカは目に涙を浮かべてシンジに頼んだ。
「・・分かったよ・・」
まるで捨てられた子猫のような感じがするアスカをそっと抱き締めた。
アスカは一瞬驚いたが、直ぐに安心したような表情になって、シンジの人のぬくもりに身を預けた。


7月31日(金曜日)、ミサトのマンション、
今日はリツコがミサトの家に来ていた。
昼食のカレーを一口食べた。
口の中に広がる無数の味覚の不協和音、なんとも表現しがたい破滅的な味
二人の顔色が変わった。
「このカレー作ったのミサトでしょ。」
「分かる〜?」
ミサトは既に立ち直っているようでへらっとしている。
「味でね。」
(よくレトルトのカレーでこんな味が!!)
リツコは心の中で叫んだ。
「シンジ君、今からでも良いから住むとこ変えなさい。こんな自堕落な同居人のせいで、一生を台無しにする事は無いわ。」
リツコは本気。
「いえ、もう慣れましたから。」
「そうよ、人間の環境適応能力を甘く見ちゃ〜いけない。シンちゃん、ここにカレー入れて。」
つまり、ミサトとの同居はかなりの環境適応が必要だと自分でも認めている訳だ。
「ほ、本気ですか?」
ミサトはカップラーメンの大盛りを前に出した。
「ドッパァ〜とね」
シンジは仕方なくその中にカレーを入れた。
「初めっからカレーが入ってるラーメンだとこの味は出ないのよねー」
((このカレーの味は普通出せない・・・))
シンジとリツコは同じ事を考えている。
「御湯を少なめにするのがコツよ」
ミサトはカップラーメンをかき回している。
向こうでカレーを食べたペンペンが倒れた。
(?)
「そうだ、シンジ君、アスカの更新カード渡すの忘れちゃったから、明日、本部に来る前に渡しといてくれない。」
リツコはアスカのIDカードをシンジに渡した。
「・・分かりました・・」
シンジはアスカの写真を見詰めてた。
(綾波か・・・綺麗だよな・・・でも、本当は可愛いんだよな)
どこか、自分以上に弱い存在を見つけた為なのか、シンジはそのアスカへの保護欲と心の余裕が生じているようでもある。
「どうしたの?アスカの写真じっと見ちゃってぇ、もしかしてぇ〜」
ミサトが楽しそうにシンジをからかった。
「そ、そんなんじゃ有りませんよ。」
「・・・ドイツからファーストチルドレンが来るって言うのは?」
「本当よ、ま、これで、アスカも再起動実験成功して3機皆揃えば、使徒戦も大いに楽になるって事よ」
ミサトはビールを片手に陽気だが、一方のリツコは深刻な表情をしており何かある事を思わせた。


8月1日(土曜日)、昼前
シンジは本部に行く前にアスカのマンションに寄った。数多く立ち並ぶ棟の中からアスカの住んでいる棟を見つけ出し階段を上りアスカの部屋の前まで来た。
(まるでゴーストタウンみたいだ・・・・この部屋以外誰も住んでいないように見えるし・・・・)
シンジは呼び鈴を押したが壊れている様で音が鳴らなかった。
「ごめん下さい・・あの・・六分儀だけど・・」
シンジはドアを開けて中に入った。
「綾波?」
「は〜い」
奥から声が返って来た。
アスカの部屋は、それなりに整理されているが、どうも、少女の部屋と言う雰囲気ではない。
「適当に上がってて〜」
シンジは部屋に上がり、ベッドに腰掛けた。
暫くしてバスルームからアスカが出て来た。
「なっ・・・」
その格好は、バスタオルを一枚体に巻いただけという刺激的なものであった。
「いらっしゃ〜い」
アスカは笑みを浮かべている。
「あ、あ、あの、あのさ」
「ん?」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「きゃ〜〜〜〜!!・・・・と、でも叫ぶと思った?」
「はい?」
「別にこのくらいシンジになら見られても気にしないわよ」
シンジだけの特別扱い。
シンジは真っ赤になった。
「でも、これから服着るから、ちょっと後ろ向いててね」
「あ・・うん」
シンジは窓の方を向いた。
衣擦れの音が聞こえて来る。
シンジはごくりと生唾を飲み込んだ。
「はい、終わったわよ」
アスカに声を掛けられてシンジはホッと一息ついた。
「で、なんの用?」
「あ、リツコさんから本部のIDカード渡してくれって」
「ん?ありがと」
アスカはシンジの差し出したIDカードを受け取った。
その後、暫く取り留めの無い話をしていたのだが、ふと、棚の上に置かれている壊れた眼鏡が気になった。
「ん?あの眼鏡・・・あれは、司令がアタシを助けてくれた時の記念なのよ」
「助けた?父さんが・・綾波を?」
「そう、シンジが来る1月前」
アスカはその時の事を話し始めた。


5月28日(木曜日)、技術棟起動実験室、
「これより起動実験を始める」
六分儀の声で実験が始まった。
そして、暫くして事件は起こった。
「パルス逆流!!」
「中枢神経素子にも拒絶が始まっています!」
「コンタクト停止!」
リツコの指示で各職員が必死に現状を打開しようとする。
弐号機が拘束具を引き千切った。
「実験中止!」
「電源を落とせ!!」
「弐号機内部電源に切り替わりました!」
弐号機は壁を殴り付けている。特殊装甲の壁がいとも簡単にへこみ破壊されていく。
「完全停止まで30秒」
「恐れていた事態が起こってしまったの!」
そして更に追い討ちを掛けるような事に発展した。
「オートイジェクション作動!!」
「いかん!!!」
「硬化ベークライトを!」
リツコの指示で硬化ベークライトが弐号機に吹き付けられた。
巨人の頚部から後方にプラグが射出された。
硬化ベークライトが凝固を始め、弐号機の動きが鈍くなり始めた。
プラグは何度か壁や天井にぶつかった。
「アスカ!!」
六分儀が実験室に飛び出した。
プラグはロケットの燃料が切れ落下し、床に叩きつけられた。
六分儀は直ぐに駆け寄り、ハッチを開けようとした。
「ぐおっ!」
六分儀は余りの熱さに手を離し、同時に眼鏡が落ちた。
弐号機の動きが止まった。
「くそっ!」
六分儀は、無理やりハッチを抉じ開けた。
掌は焼け爛れ、感覚は殆ど無い。
「アスカ!」
六分儀は、プラグの中のシートに横たわるアスカを呼んだ。
アスカはうっすらと目を開け透き通るような蒼い瞳が見えた。
「大丈夫か!?アスカ!」
アスカはゆっくりと頷いた。
「そうか・・・よかった」
高温のLCLによって眼鏡のレンズが割れフレームが歪んだ。


8月1日(土曜日)、アスカの部屋、
「父さんが・・・綾波を・・・」
「司令はアタシ達の味方よ、でも、人類を守る特務機関ネルフの総司令という立場に拘束されているよ・・」
「・・・」
「アタシ達の事を守り続ける事は出来ない。だから、アタシ達は力を合わせて、何とかしなきゃなん無いの」
「・・・そうだね・・・」
シンジは、六分儀に対するイメージを大きく変えつつあった。
「じゃあ、協力者の証しとして、」
アスカはぐいっと顔を近づけた。
「な、なに・・」
「名前で呼んで」
「名前で?」
「そう」
「ア、アスカ」
「良くできました☆」
パッと笑顔を見せた直後、シンジの唇はアスカの唇によって塞がれた。
突然の予想外の事にシンジは情報を処理しきれずにパニックに近い状況に成った。
そっと、唇が離れた。
「誓いの口付け、これで、二人はパートナーね」
「・・あ・・・うん・・・」
シンジは顔を赤らめぽぉ〜っとしていた。


ネルフ本部内第14実験場。
弐号機が実験場内に配置されアスカが乗り込んだ。
「これより、弐号機再起動実験を行う。」
六分儀の言葉で実験が始まった。
「アスカ、準備は良いか?」
『はい』
「第1次接続開始、主電源接続」
「稼動電圧臨界点を突破」
「フェイズ2に移行」
「パイロット弐号機と接続開始、パルス及びハーモニクス正常、シンクロ問題無し。」
「オールナーブリンク終了。」
「絶対境界線まで後2.5」
「1.7」
「1.2」
「1.0」
「0.7」
「0.4」
「0.2」
「絶対境界線突破します。」
「弐号機起動しました。」
「引き続き連動試験に入ります。」
冬月が電話を取った。
「そうか、分かった。」
冬月は電話を置いた。
「未確認飛行物体がここに接近中だ」
「恐らくは使徒だな」
「テスト中断、総員第一種警戒体制」
「弐号機はこのまま使わないのか?」
「未だ、戦闘にはたえん。初号機は?」
「380秒で出撃できます。」
「良し、出撃だ」


初号機内。
『エヴァぁ初号機発進!』
Gが掛かったがもう慣れた。
地上に出た。
『ダメッ!シンジ君避けて!』
「え?」
次の瞬間、前のビルの中程が光り、何かが、胸部に直撃し、激痛が走った。
「わああああああ!!!!!!!」
「あああああああああああああ!!!!!!」
「あうううぅぅぅぅ・・・」
シンジは意識を失った。


ネルフ本部第1発令所
「ケージに行くわ!」
ミサトは走って発令所を出て行った。
「パイロット心音微弱」
「生命維持システム最大、心臓マッサージを!」
アスカはミサトを見て慌てて追った。
「パルス確認!」
「プラグの強制排除急いで!」
初号機からエントリープラグが取り出された。
「LCL緊急排水」
「はい」

あとがき
アスカ「手抜き・・・・・手抜きだけど・・・・・」
アスカ「よっしゃああああ〜〜〜!!!!!!!!!!」
YUKI「・・・」(耳を押さえている)
アスカ「LAS一直線!!!第4話にして既にキスシーン!!!」
アスカ「こりゃ指定行くか!!!??」
YUKI「・・・」(耳を押さえている)
アスカ「これだけ落とせばファーストがいかに頑張ろうが既にシンジはアタシの物!!」
YUKI「・・・」(耳を押さえている)
アスカ「YUKIよくやった!」
YUKI「ふぅ・・・」
アスカ「これを期にLAS作家になりなさい」
YUKI「・・・・」
アスカ「今ならサランラップにタオルもつけるわよ」
YUKI「・・・銀行かいな・・」(汗)
アスカ「まあ、良いわ、次ぎはヤシマ作戦、シンジを守る為にその身を盾にしたアスカ!
    弐号機が溶けて行く!使徒を殲滅し、弐号機のエントリープラグに駆け寄るシンジ!
    アスカが無事だった事に涙するシンジ!抱き合う二人、そして二人はエントリープラグの中で結ばれる!」
YUKI「これはあくまでアスカの妄想であり、次回予告ではありませんで悪しからず・・・では、」