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第2話

◆再び第3新東京市立第壱中学校

第3新東京市立第壱中学校、職員室、
「じゃあ、行こうか」
「はい」
シンジは老教師に付いて教室に向かった。
(2−D、2−C、2−B、そして2−A)
(そうなんだよな、まだ生徒の数は多いんだよな)
パイロット候補が集中している2−A以外は2、3人しか残らず、全て2−Aに編成されてしまうのだ。
「入ってきなさい」
シンジは教室に入った。
(皆いる。でも、綾波が学校休んでばっかりだったせいかな?学校に関する記憶は少ないんだよね、記憶よりも記録が先行してる)
「碇シンジです。宜しく御願いします。」
(あれ?なんか女子の反応が・・・)
「何か質問ありますか?」
「碇君の好きなタイプってどんなんですか?」
「え?」
シンジは戸惑いまくった。
(何でそんな事聞くの?・・・聞くもんなのかな?)
「え、えっと、」
「ど、どうかな」
「じゃあ、髪は長いのと短いのどっちが好きですか?」
「えっと、」
(髪が短い・・・綾波、母さん、マナ、マヤさん、リツコさん。髪が長い・・・アスカ、ミサトさん。・・・取り合えず多数決で)
「短いほうかな?」
何人かが拳を握り締め、何人かががっくりと肩を落とし自分の長い髪を見て、切ろうかなと考えている。
「大人しい子と、活発な子、どっちが好きですか?」
(大人しい・・・綾波(大人しすぎでは?)、母さん、マヤさん。活発・・・アスカ、マナ、ミサトさん。・・・・リツコさんは?大人しいと言うより大人って感じでは・・・まあ、いいか)
「どっちかって言うと、大人しい子かな?」
これには何人かの女子がおしとやかにしようかと考えている。
「特技は有りますか?」
(特技ねぇ、多分エヴァの操縦なんだろうけど・・・・言わないほうがいいよな、)
「家事全般かな?一人暮らしが長かったから、何でも出来るし」
(生活能力欠如者と暮らしてれば、生きてる限り上達するよ)
(うう〜、秘義、お弁当作戦が使えない!!)
なぜか涙している女子がいる。
「碇君の席は・・・綾波さんの横に座ってください」
「はい」
シンジはレイの横の席に座った。
約10名が不審に思った。
(何で綾波さんが分かったんだ!)
(まさか、綾波さんと知り合いなのか!!)
(綾波さん、まさか、貴女碇君と知り合いなんじゃ!)
(碇君!そんな感情欠如者と一緒にいるなんてかわいそう!次の席替え、いかさまをしてでも私の横に来て頂くわ!!だから、あと少し辛抱してね)
しかし、空いてる席が1つだったので、別に関係ないと思った者の方が多かったが、
「隣になったね」
シンジがレイに微笑みかけた。
(碇!!貴様綾波さんの気を引こうとするんじゃねぇ!!)
(碇君!綾波さんなんかに微笑まないで!!)
(いや〜〜!!)
(ふっ、綾波さんには何を話し掛けても無駄さ、この俺が756回声をかけて、振り向いてくれたのが7回、邪魔って言ってくれたのが2回、どいてって言ってくれたのが1回だ。この記録は第3新東京市立第壱中学校1番だぜ!!)
お前・・・空しくないか?
「うん」
教室中が沈黙した。
(今の声誰?)
(あ、綾波さんがしゃべった!)
(綾波さんが、うんって言った。756回も声をかけた俺が、一度も言われた事の無い言葉を!!)
鬱陶しかったのでは?
(綾波が喋った)
(久しぶりに生で聞いたな、あの綺麗な声)
ケンスケは録音された声を何度も聞いているが、生で聞くのは殆どない。
そして、レイがシンジに微笑んだ時、教室中の時間が止まった。
一番早く立ち直ったケンスケは、すぐさま録画した。
(1枚・・・1000円で売れるな)
・・・
・・・
(あ、綾波さん!!!俺達の愛はどこに!!)
そんなもの初めから無い
(あ、綾波さん、756回声をかけたこの俺の努力はいったい)
しつこいぞ
(いや〜〜〜!!私の碇君に微笑まないで!!)
(綾波さん・・・可愛い)
ヒカリは、他の生徒とは別の反応を示していた。
(よし、私も声を掛けてみよう、綾波さんの笑顔がいつでも見れれば・・・・鈴原・・・・)
トウジはレイの笑顔に放心している。


休み時間、二人の関係を聞くのが怖くて誰も二人に近寄らなかった。
「あの、碇君、綾波さん」
「あ、ひ」
(シンジはヒカリの事を呼びそうになって言葉を飲み込んだ)
「何かな?」
「多分、皆気になってると思うから聞くけど、二人はどう言う関係?」
「如何してそんな事気になるの?」
「だって、綾波さんの声聞くの3週間ぶりだし、笑顔を見るなんて初めてなんだもん」
(3週間?意外に短いのね)
おいおい
「そうなの?綾波?」
「らしいわ」
「もっと、皆と交流したほうが良いよ」
「分かった」
後ろでは再び心の絶叫を上げている者がいた。
「ああ、二人の関係だったね、昔、綾波は僕と一緒に住んでたんだ」
「え?そ、そうなの?」
レイは頷いた。
「で、第3新東京市に来て、今綾波のところに泊めてもらってるんだ」
何かが倒れる音がした。
「まあ、明日引っ越すんだけどね」
再起動した奴がいる。
「そ、そうなの」
「宜しくね」
「あ、私、洞木ヒカリ、クラス委員長を務めてるの」
「ヒカリさん宜しく」
「うん」
「綾波と仲良くしてあげてね」
「分かったわ」
「・・御願い・・」
レイは顔を赤らめて言った。
(か、可愛い、可愛すぎる。でも、だめ、私はノーマルなの!!)
ヒカリは何とか意識を取り戻した。
「宜しくね、綾波さん」
レイは頷いた。


翌日、引っ越し、
手ごろなマンションに移った。
荷物も殆ど無かったので楽だった。
レイは碇の眼鏡が無い事に気付いた。
「どうしたの?」
「・・・眼鏡・・・あの一つの絆の象徴は、この世界には存在しない」
「寂しい?」
「いえ、多分寂しいのとは違う・・・何か、変な感じ、あると思っていたものが無い・・・」
「知ってる人と会ったけど、その人は僕達を知らないってのと似てる?」
「そうね、似ているわ」
「さ、軽く掃除をして買い物に行こう」
レイは頷いた。


翌日、第3新東京市立第壱中学校、昼休み、
「はい、お弁当」
「ありがと」
レイはシンジから弁当を受け取った。
「碇君!私の愛の結晶のこのお弁当を食べて!!」
「え、え?」
女子がシンジの机の上に重箱を広げた。
レイが中身を見て即断する。
「厚生省の定める、14歳男子の昼食において摂取することが望ましい栄養素量に対して、ビタミン各種が不足、脂質及び動物性蛋白質が供給過剰、塩分過多、糖分も過多、更に、総カロリー量が1日の必要量の1.5倍に達する。当然摂取する事は不可能。食料は粗末にしないほうが良いわ」
女子はレイに完璧にぶちのめされた。
「あ、綾波、そこまで言わなくても」
「事実よ」
「行きましょ」
レイはシンジの手を引いて、教室を出た。
「明らかに、碇を取ろうとした女子への反撃だよな」
「碇か・・・」
「ところでさ、昨日の綾波の微笑み全集、5000でどうだ?」
「買った」


屋上、
「う〜ん、」
「どうしたの?」
「トウジとケンスケとはまだ関係持ってないな、ケンスケは勝手に近付いてくるだろうけど」
「どうして?」
「レイの写真を売り捌いてるからさ」
「そう?私の写真が欲しいの?」
「実物の方が遥かに良いけどね」
(・・・素体たち、皆欲しがるの?)
「碇君、」
「なに?」
「皆は素体欲しがるの?」
「え?」
「どうかな?正直言って、欲しがるとは思うけど、レイが変な目で見られるよ」
「そうね」
「何考えてるの?」
「別に私には要らない物だし、司令は、私やあれを通してお母さんを見てるから」
「あそこには無いほうがいい?」
レイは頷いた。
「でも壊すのは嫌」
「僕も」
「リツコさんに頼むわけにはいかないしな〜」
「司令は離さないから取り上げるしかない」
「まあ、でも、後で良いんじゃない?」
「そうね」