リリン〜もう一つの終局〜

◆最終話〜Bパート〜

 発令所はまだ混乱の状態にあったが、それでもネルフから攻撃を受けていると言う最低限の情報は伝わってきた。
「……ネルフが?」
 レイラは目を大きく開きながら呟くように尋ねる。
「……はい、」
 ネルフがリリンに攻撃を仕掛けてきた。その目的がどうであれ、そのリリンの長であり、初号機の操縦者でもあるシンジはネルフ本部にいる……レイラはそこから導かれる答えに耐えられなかったのか気を失い椅子から崩れ落ちた。
「レイラさん!!」
 蘭子が駆け寄ったのを確認して、榊原は指揮に集中した。
 保安部や諜報部、特殊部隊の突入などと言った生やさしいものではなかった。ゼーレという敵と戦っている最中にここまでするとは、完全に想像の上を行っていたのだが……こんな事態は、考えたくないから考えて来なかったのだけなのだろうか?
 だが、今さらそんなことを考えても意味はない。
「発令所の防衛を固めろ!同時にケージにも応援部隊を向かわせろ!」
 再び激しい衝撃が襲いかかってくる。得られている情報はほんの一部でしかないが、それでも圧倒的不利は確認するまでもない。果たして、どこまで持つか……いや、こちらにも多少ミサイルや砲はあったが既に壊滅している。残った携行武器でどうやって戦えと言うのか、
 通信が完全に切られているため、こちらから連絡をすることは出来ない。それでもその通信回線が切られているという本部の異常に気付いた東京軍が駆けつけてくれるはずだが、上に配置されている東京軍自体が攻撃を受けている事を考えれば、それがいつのことになるか分からない。
(最悪でも脱出する道は確保しなければ、)
 リリン本部のマップをサブモニターに表示させて、現在の状況を重ね合わせる。
(病院経由の通路は大丈夫そうだな……今の内に逃がすべきだな)
「蘭子さん、レイラさまを連れて病院に……駄目なようなら脱出して下さい」
 レイラを抱きかかえている蘭子は少し驚いたような表情をしてゆっくり頷く。
「でも、榊原さんは?」
「私はここが職場です」
「……わかりました。でも、死に急ぐ真似だけはしないで下さい」
「良い死に場所を見つけるのは、なかなか大変ですから大丈夫ですよ」
 蘭子は一つ榊原に頭を下げ、呼び寄せた親衛隊員達と一緒にレイラを連れて発令所を出て行った。
(さて、なんとしても応援が来るまで持たせなくてはな)
「隔壁を片っ端からおろせ、破壊されるだろうが時間稼ぎにはなる」
「了解!」


 ネルフ本部の発令所のモニターに映るリリン本部の発令所の雰囲気はある意味普通である。勿論ゼーレ側の軍隊からの攻撃を受けている情報が飛び込んでいるので、平時とは随分違うが、今のこの発令所と似たような雰囲気でしかない。
 そして、遂にミサイルがこの第3新東京市に直接降り注ごうとしていた。しかも、途中に配置されていた地対空部隊を蹂躙した艦載機による編隊もその後に続いて第3新東京市に襲来しようとしている。
「対応しきれません!」
「かまわん、少しでも被害を減らすようにしろ!」
 地上の東京軍・戦自・自衛隊に併せて、支援兵器群からも無数の対空ミサイルが発射されマギによる誘導を受けてミサイルに向かっていく。
 そんな中、突然サブモニターにウィングキャリアーのようなものが10機ほど映った。
「なんだ?」
「拙い!!B−4です!!」
 青葉が叫びサブモニターにB−4についての情報が表示される。
 それによるとウィングキャリアーを元にしたステルス戦略爆撃機で、1機で一般的な戦略爆撃機20機分クラスの爆装ができるとある。
 モニターに映っているB−4の弾倉が開く……超高々度から無数の爆弾を降り注ぎ始めた。
「迎撃できないのか!!?」
「とても間に合いません!!」
 合計すれば、一万トンにも上るかという大量の爆弾が第3新東京市中を襲う、次々に着弾し軽い衝撃が連続する。
 誘導爆弾が兵装ビルや対空陣地を正確に捉える。確かにいくつかは外れ、又迎撃出来たのもあるだろうが、全体的に見れば、一瞬にして対空攻撃力を大きく奪われてしまった。
 そこへ迎撃しきれなかったミサイルが着弾し、更に対空攻撃力を下げる。
 そして更に追い打ちをかけるかのように、艦載機が第3新東京市に襲来した。オペレーター達の悲鳴のような報告が耳を突く。
(碇、拙いぞ)
 まだ生き残っていた対空攻撃力が次々に潰されていく。確かにかなりの数の艦載機を撃墜してはいるが、それ以上に相手の数が多い。
 艦載機は対空攻撃力を破壊したい放題破壊し、それでも残っていた対地兵装を対空攻撃力を持たない兵装ビルにも向けてきた。間違いなくこれから起こる戦闘への準備である。
「対空兵器の確認稼働率……0.2%です」
 一連の攻撃が終わった後、日向が震えた声で今の第3新東京市の防空能力を報告した。
 しかし、これで終わりではない。
 対地攻撃能力を持っているのは艦載機だけではないし、その艦載機も空母で爆弾を積んで又ここに襲来するだろう……量産機を載せたウィングキャリアーが姿を表すまで。
「巡航ミサイル第2派到達まで450!」
(もう早速来たか、)
 この分ではシェルターなどにいたとは言え、上にいた支援部隊も結構な被害を受けることになるだろう。
 実際に量産機との戦いが始まったときにはどれだけこちらの戦力が残っているのか……


 エレベーターが静止し、ゆっくりとドアが開いた。
 目の前には特に変わり映えのしない通路があるだけで、あの時見たターミナルドグマとは思えないようなものであったが、そのまま進む事にした。
 やがて通路を抜けると白い柱があちこちに立ったあの時に見たターミナルドグマに出た。
「ターミナルドグマ」
 暫くその中を進むと、碇とレイが並んでシンジを待っていた。
「綾波」
 シンジの呼びかけにレイは少し視線をずらし、視線を合わせようとはしなかった。……いったいどうして?
「やっと来たな」
 碇が言葉を発し考えを中断させて注意を引きつけた。
「こんなところまでわざわざ呼び出して……いったい何のつもりだ?」
「理由は簡単だ。呼び出したのは話したいことがあったからだ。そして、場所をここにした理由は時間稼ぎだ」
「時間稼ぎ?」
「ああ、そしてもう十分すぎる時間を稼いだ。今から戻ったとしても既に間にあわん」
「何をだ?」
「それは直に分かる。それよりもだ、何故、レイがここに来たと思う?」
 話を逸らされたが、そもそも、シンジにしてみればレイのことで来たのだから、本題に入ったと言うことかもしれない。
「何?具体的にどうやったのか分からないけど、どうせ嘘を教えたか、それとも何か卑怯な手、例えば協力しなかったら何かするとでも言ったんだろう?その両方かも知れないけどね」
 シンジがそう言うと、レイが悲しげな表情をする……何故?
「どうやら、何も分かっていないようだな。赤木親子も同じだったが、直ぐ近くにいたお前がそんなだったとはな……」
 軽く溜息をつく……それが妙に腹立たしいが、これは挑発しているだけなのだと自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせる。
「そう言えば。二人を撃ったな」
「ああ、計画の障害になろうとするのでな。私にとっては当然の行為だ」
「ふん、全てを踏みにじってまで達成しようとする計画にどれだけの価値があるやら」
「人には誰しも自分だけの宝物がある。一見その辺に落ちているような石ころやがらくたを宝物にしている者もいるだろう。回りから見ればただの石ころやがらくた、何の価値もない。そんなものを大切にするなどというのは、ばかげたことに思えるだろう。だが、ひょっとしたらそれは何物にも代え難い、本人にとってはダイヤモンドや高価な電子機器よりも価値があるものかもしれない」
「何を訳の分からない話をしている?」
「たとえ話だ。勿論本当にものである必要もないし所有するようなものである必要もない。それが心に関すること、信念や信仰、友情や愛情であることもあると言うことだな」
「……お前にとって、母さんがそれだけ大事だと?」
「そう言うことだ。ユイは私の心の中で一番大きく一番大切な存在であったし、今もそうだし、今後もそうであり続けるだろう」
「ばからしい…結局はお前自身のためだろう!お前の行動で一体どれだけの者が傷付き!そして苦しんでいると思っているんだ!!」
 シンジの叫びに碇は小さなため息で返してきた。
「……お前もそうだろう。それが、直接か間接かの違いはあっても同じだ。結局、自分が傷付き苦しんだ事が許せないだけだろう」
「違う!!」
「違わないな。どれだけ綺麗事を並べても結局は自分のために過ぎない。自分の行為を正当化し私の行為を否定する為だけに他人を持ち出しているのだ」
 口では激しく否定するのだが、語尾が震えてしまうのはなぜだろう?自分自身、内心ではその指摘が真実である……そう思っているからだとでも言うのだろうか?
「……もし、お前が自分のためではなく、純粋に他人のために動けたのだとしたら、レイは私の隣ではなくお前の隣にいただろうな」
 レイがシンジの隣ではなく、碇の横にいる理由は分からないのだが、碇の言葉は痛かった。
「お前はどうだって言うんだ!!?綾波のために動いているとでも言うのか!!?」
「私は私のために動いている。そして、レイもレイのために動いているのであって、私のために動いているのではないし、お前のために動いているのでもない。ただそれだけだ」
「レイは、お前の傍にいるよりはまだ私の傍にいた方が自分のためになると思ったからここに来た。それが本当かどうかを知っているのは神だけなのだろうがな」
 それはなんと無責任な発言なのだろうか、
「お前はその方が良いとは言わないのか?」
「言えんな。私は神ではないし、未来を知っているわけでもないのだからな」
 少しにやりと笑いながらそんなことを言う……明らかに、シンジが歴史を遡ってきたと言うことを知っているからこその言葉だった。
「……いつ、気付いた?」
「綾波レミの事を調べている時だ。マギが挙げた候補の中にそう言ったものがあった。最も確定したのはもう少し後だがな。綾波レミが逆行者であるならば、他にもいてもおかしくはない。そして、その中の中核になる者が誰かを考えれば簡単なことだ」
 気付かれたのはそれほど前と言うわけではなかったのか……それならその事で疑念・困惑・誤解そう言ったものは解消されたかも知れないが、幸いにしてそれほど大きな影響はなかっただろう。そう言ったものは積み重なってこそ大きいものになるのだから。
「正直、逆行者であったとは随分長い間気付かなかった。今思えば、なるほどと頷けることは非常に多いし、そこから答えを導くことも可能だったと思う。常識で思考が固まり、正しく理解することの妨げになっていたのだろうな」
 どこかで似たような事を聞いたことが……碇があの時に言っていた言葉だ。
「時に、知識は余計な先入観を与え、正しく理解することの妨げになることがある。とか言っていたな?」
「ああ、私の場合は、常識という知識が先入観を与えていたのだろうな」
 なるほど、自分が感じていたことを教訓のようにして言っただけだったのか……深読みをしすぎていただけかも知れない。
「そして、お前の場合は逆に未来の知識が先入観になっている」
 ……にやり笑いはなかった。碇の目から見る限り間違いなくそうだと言っているのか?しかし、それは何のことだと言うのか?
 シンジが何のことを言っているのか思い当たらないと言うことに気づいたのだろう「分からないか……」と溜息混じりの声を漏らした。
「そう、レイが最後にお前を選ぶと言ったことだ。確かに、お前が経験した歴史ではそうだった。そして、レイ自身も逆行者であり、実際にそう言う選択を選んだ。だが、状況は変わったのだ。誰が変えたのかは言うまでもあるまいが」
 ふとレイに視線を移すとシンジから顔を背けたまま軽く俯いていた……『弱い拒絶』そんなものを感じてしまう。
「……綾波……」


 ミサイルと艦載機による第二波が過ぎ去った後には、地上に在った支援兵器や部隊はほぼ完全に壊滅していた。
 まともに存在しているのは、装甲ビル位であるが、それすらも完全な姿という訳にはいかない。
 そんな中、遂に九機のウィングキャリアーがレーダーによって確認された。
「ウィングキャリアー編隊到達まで250!」
 もはや進路上に攻撃出来る能力を維持している部隊は全くなく、第3新東京市に向かって悠々と飛んで来ている。
「エヴァを出撃させろ」
「各機、射出口へ移動します」
『こちらも初号機を出します』
 モニターに映っている榊原が返す。
 しかし、当然射出出来るはずがない……破壊工作を受けたため。射出中に射出システムが故障し、初号機が射出口の中で立ち往生してしまったという話をマギが作り出す。
「ど、どうすれば」
「慌てたところで、何も解決はしない。今動かせる戦力でいかに戦うかを考えるのだ」
「は、はい!」
「支援部隊の残存部隊の配置は比較的順調です」
 シェルターに避難していた部隊が地上に出て行く。


 地上に射出された三機のエヴァとシェルターの中に避難していた支援部隊。それが、今、使える戦力である。
(……初号機がでられない?)
 初号機がいないことでこちらの戦力は大きく下がっている……参号機と伍号機でどれだけ引き受けられるだろうか? 
(アタシがやるしかないわね)
 初号機が出てこれるようになるまで、レミが持たせるしかない。幸いSS機関搭載型であることだし出力と電源を気にする必要はないのだし。
『量産機の機影確認』
 拡大映像にウィングキャリアーから別れ双翼を広げゆっくりと降下してくる九機の量産機の姿が映った。
「…やっぱ持っているわね」
 9機の量産機全てがロンギヌスの槍のコピーを持っているのを確認した。あの時とは違って変形機能はないのか、初めから二股の槍状になっているが……破壊力は絶大である。
「みんな、あの槍に気を付けて!ロンギヌスの槍のコピーよ!」
 オリジナルの槍は今頃宇宙空間……こっちの武器で果たしてどこまで通用するのか、九号機は新形プログソードをぎゅっと握りしめた。
 伍号機と参号機が今日配備されたばかりのビームライフルをまだ空を飛んでいる量産機に向けて放つ、
 ビームライフルから放たれた青白い光の筋が真っ直ぐに量産機に向かっていく、当然ATフィールドでガードするが、紅い光を撒き散らしてATフィールドを突き破り、それぞれ一機ずつの量産機のボディーを貫いた。
「凄い!」
 撃ち落とされた二機が地面へと落下していき、瓦礫の山に墜落して膨大な煙を飛び散らせた。
 残った七機に向かって再び放ったが、今度は防御ではなく回避されてしまった。七機の動きが速くなり照準が付けられなくなってしまったので、近接戦闘用の武器に持ち替える。
 一方の七機の量産機の急速降下で三機のエヴァに襲いかかろうとしている。
「行くわよ!!」
 今度はあんなへまはしない……SS機関搭載型の量産機は致命傷を与えない限り、それがどれだけ大きな破損であっても時間さえあれば修復してしまう。
 七機の急降下攻撃を全て回避し、撃ち落とした二機に向かって走る。致命傷にはなっていないだろうがダメージは与えたはず、とっとと二機にとどめを刺してしまうつもりである。
 その二機は漸く瓦礫の中から這い出してきたが、どちらも体を貫通した穴はまだ空いたままで大量の血を吹き出している。
 支援部隊が二機に攻撃を仕掛ける……むろんATフィールドによって遮られてダメージはないが、ATフィールドを中和さえしてやればいい。
「もらったぁ!」
 九号機が中和・攻撃しようと接近した瞬間、モニターに多数のミサイルの接近を示す反応が映った。
「こんなのいくら撃ってきたってむだよ!」
 ATフィールドを展開し、次々に飛来するミサイルを全てブロックした……が、中和距離に入ると、こちらもATフィールドによる防御ができなくなってしまう。
「ちっ、これがねらいか……」
 そうこうしている内に二機の量産機はまだ修復中であるが何とか体勢を立て直し、又同時に上空の量産機3機が降下し後ろから襲いかかってくる。
(五機か……)
 とすると、参号機と伍号機は二機ずつ相手をしていることになるか、ロンギヌスの槍のコピーがある以上一機相手でもなかなか大変かも知れないが、無かったとしても伍号機には少し荷が重いかも知れない。
(……とはいえ、頑張ってもらうしかないか)
 又いくつかの反応が迫って来た。ATフィールドを消失させて当てる気か?とも思ったのが、量産機は中和距離に入ってこなかった。
「え?」
 一瞬何が起こったのか分からなかった。
 丸い物が突っ込んできてATフィールドを貫通し九号機の足元の地面を抉り爆発を起こした。その衝撃で吹っ飛ばされ、地面を転がったのであった。
 見ると、先ほどの所には地面に巨大な穿孔が空いていた。
 ATフィールドを貫いた貫通力。一瞬見えた丸いもの……そして、あの破壊力と飛んできた方向。
「まさか……、冗談でしょ!!」
 次々に飛んでくるものの反応が増える。その数は50を超えている。
「艦砲射撃ってそんなのあり!!!?」


 戦闘が行われているのはなにも地上だけではなく、リリン本部の初号機が拘束されているケージでも激しい戦闘が繰り広げられていた。
 あらかじめケージにいた部隊は壊滅させられケージが占拠さてしまった。東京軍の正規軍もその中にいたのだが、ネルフ側は被害を顧みずに数で押し切った。
 そして今は駆けつけたリリン側の応援との間で銃撃戦を繰り広げられている。
 ケージの至る所に死体が文字通りごろごろと転がっている。特に入り口の付近は酷い……
「…こりゃ酷いな、」
 惨状を見た加持の口からそんな言葉が零れていた。
「この道で行くのは無理ね……のこのことケージに入った瞬間あの世か」
 この感じでは中で銃撃戦を繰り広げている者もどれだけ持つものやら……
「別のルートから行くしかないな、分かるか?」
「ええ、リリン本部の構造は殆ど頭に入れておいたわ」
 ミサトは軽く自分の頭を指さしながらにやり笑いを浮かべた。


 相模湾にまで達し、十分に射程距離に入った戦艦が第3新東京市・ネルフのエヴァに対して砲撃を仕掛けていた。
 この海域まで達することができた戦艦の数は8。戦闘の結果満足に稼働出来ないものもあるが、実際に火を噴いている主砲の総数は80門近い。
 交互射撃により15秒余りの間隔で各艦の主砲が火を噴き主砲弾が発射される。
 その内の一つ、ルイジアナのCICのモニターに第3新東京市の方での状況が表示されていた。
 今のところ至近弾でATフィールドを突き破ったこそあれ直撃は一度もない。巻き添えで支援部隊にかなりの打撃を与えているが、本来の目標であるエヴァに対して有効弾が出ていないのでは、戦果としてはいまいちだろう。
「流石にあの様に動き回られては、当たるものも当たりませんね」
「元々、あの様なものを撃つためには作られていませんから仕方ない」
「鉄鋼弾でなくてはいけないのでしょうか?」
「あのATフィールドとやらを貫くには必要だろう。ミサイルの方は全てアレで迎撃されてしまったからな」
「……エヴァという存在は我々の常識から大きくはずれますね。上が興味を見せるのも無理ありません」
 副長はやれやれと言った感じで肩を少し落としている。
「そうだな」
 軽く相づちを打ちつつ、別のモニターに映っている空中に浮かんでいる量産機の姿に目を移す。
 元々はエネルギー供給が有線であった以上拠点防衛以外には使えないものだったはずだが、ネルフ側のエヴァにもそれから解放されているエヴァがいるようであるし、更に何故あの様な奇っ怪な姿にしたのかは分からないが、空まで飛ぶとなればその有効性は跳ね上がるだろう。
(事を構えたくないものだな)
 自分が退役するまでエヴァと戦うようなことがなければ良い……そんな事を思っていると、ふと妙な気配に気付いた。
「……?」
 気配の方を振り向くと銀髪に赤目の少年……渚カヲルがすまし顔で直ぐ横に立っていた。
「子供?」
「リリンがどういう結果を選ぶのもリリンの自由さ。だけど、こういうやり方は僕は好きじゃないな」
 すまし顔から一転、不快そうな表情を露わにする。「君は何を言っているのかね?」と英語で尋ねたところで、ひょっとしたら言葉が通じなかったのかも知れないと思い。さっきカヲルが口にしていた日本語で尋ねる直すことにした。
 けれど、カヲルはそれには答えず、別の行動に出た。
「……こうさせてもらうよ」
 突然全てのセンサーが異常を示し、先ほどまでモニターに表示されていた映像も片っ端から消えてしまう。
「何事だ!!!?」
「分かりません!!!」
 通信も、外部との通信機能も殆どが断たれているが、近距離にいる艦とだけは交信ができた。そして、それらの艦でも同じ現象が起きているようだ。
 そして光学の映像は、今はまだ昼だというのに外は真っ暗闇になっていて、近くの艦の明かりだけが見えている。
「何かが戦隊を取り巻いているようです!!」
 レーダーの反応が一定の円の内側だけになって、その外側が綺麗に消えてしまっている。
「……何をした?」
 本来こんな所にいるはずのないイレギュラーな存在が関係している……何かしたに違いない。そう言った答えを導いた艦長はカヲルに尋ねた。
「終わるまで静かにしていてもらえればいいだけだよ。今物騒な物を積んでいる船を隔離させて貰らったよ」
「お前は……一体、何者だ?」
「僕?……僕の名前はカヲル、渚カヲルさ、」
 カヲルは笑みを浮かべながらその問いに答えた。


 突然、艦砲射撃が止み、妙に静かになった。
 当たりを見回すと、もう今更どれだけ穴が空いたところで既に穴だらけだったのだから、大きい穴が増えたくらいでしかないのかも知れない。
 3機のエヴァは直撃されることはなく、無事であった……が、支援部隊は壊滅、参号機と伍号機のアンビリカルケーブルも切断された。九号機はSS機関を搭載しているため内部電源は無限大だが、両機の行動できる時間はそんなに長くはない。
「……まだ、前よりはマシね」
 あの時は1機で時間制限あった。だが、今は少なくとも九号機に限れば時間制限がない。そう考えれば、まだ絶体絶命と言うほどではない。
「何があったのかはしんないけど、とりあえずはありがたいわね」
 量産機は上空で待機していたが、艦艇からの攻撃が無くなったが、どうするのかまだ行動を決定出来ていないようだ。
『参号機と伍号機は今の内にアンビリカルケーブルを再接続するように!外部電池も射出する!』
 機動性が落ちるが、電源切れよりはマシだと判断したようだ。
 参号機と伍号機が指示通りに電源の確保に移ると、量産機……最初に撃墜した二機ももうすっかり回復している……が襲いかかってくる。
「アタシが相手よ!」
 二機には電源を確保させなければいけない。邪魔はさせない!
 参号機に襲いかかろうとしていた量産機に向かって大きく跳躍し新型プログロードで翼を斬り飛ばす。
 更に次の量産機も迎撃する……九号機の活躍で参号機はアンビリカルケーブルを再接続し、外部電池も回収できたが、伍号機の方は外部電池の回収で一杯でアンビリカルケーブルの接続まではできなかった。
 さっきはああ思っていたりもしたが、思わず舌打ちをしてしまった……結局の所さっさと決めないと拙いというのは変わらないのだ。


「ネルフや東京の仕業とも思えん……何かイレギュラーが発生したようだな」
「圧倒的優勢は変わらないが、どう影響するか」
「今のところは、直接の影響はない。攻略に集中すべきではないか?」
「いや、このまま影響がないという保証はない。すぐに対処を模索するべきだ」
「あの艦隊の戦力は非常に大きい。取り戻すことができれば……」
「それは言えるが、下手に手を出せば、それこそ何がおそるか分からんぞ?」
 どうするのかと言うことで委員の間で色々と意見が出されているが、まとまる様子がいっこうにない。
「ここでこんな言い合いをしていても何も始まらんよ。まずは何が起こっているのかを調べるべきなのだよ」
「その通りだ。すぐに調査部隊を差し向ける事にする」


 リリン本部の付属病院でレイラは目を覚ました。
「気がついた?」
 ついていてくれたのだろう蘭子が声を掛けてきてくれた。
「ここは?」
「付属病院よ」
 何故病院のベッドの上で目を覚ますようなことになったのか……と考え、何があったのかを思い出した。 
「シンジ君は!?」
「……残念だけれど、まだ分からないの」
 蘭子の言葉に気分が沈まずにはいられなかったが、もう一つネルフから攻撃を受けていたと言うことについて尋ねると、発令所の方から送られて来ている概略を教えられた。
 リリン本部は各所を破壊され、初号機のケージを占拠され今奪還するために部隊を投入している最中であるが、状況は極めて芳しくない。
 何かこんな状況を打破するために、自分にできることはないのか?
 また、戦いの外で結果を見ている事しかできないと言うのか……自分も戦うことができれば……
 戦う?……今でこそだが、レイラはエヴァに乗って使徒と戦ったことがあるではないか、
「……零号機は?」
「え?」
「零号機のケージはどうなっているの!?」