リリン〜もう一つの終局〜

◆第15話

「目標の第3新東京市到達まで25分です」
 リリン本部発令所のメインモニターにリング上のアルミサエルが第3新東京市に向かって空を飛んでいる映像が映し出されている。
「各支援部隊を展開、初号機の射出準備を。ネルフ側はどうだ?」
「現在、参・伍・七・九各機の発進準備を行っています」
 サブモニターにそれぞれの準備が進む様子が映し出されている。
「初号機起動しました。射出口に移動します」
(シンジ君、絶対に無事に帰ってきて)
 みんなが慌ただしく指示を下したり作業をしていく中、レイラはモニターに映る初号機を見つめ、ただシンジの無事を祈っていた。


 リリンに比べると準備が一歩遅れて動いているのか、丁度男子更衣室でトウジとヒロの二人がプラグスーツに着替えているところだった。
 着替え終わったトウジはケンスケのロッカーを開ける……ロッカーの中身はケンスケが使っていたままになっており、待機のとき等に読んでいたミリタリー雑誌や、そっちの方面の書籍から始まり、迷彩服、そしてモデルガンまでと、いかにもケンスケらしい物がぎっしりと詰まっているが、ケンスケの姿はここは無い。
「さき、いっとるでな」
 トウジはヒロに一言声をかけてからロッカーを閉め更衣室を出て行った。
「……相田君か、」
 自分が触れていた時間は長くは無いが、仲間であり、いっしょに訓練も行っていた。
 そのケンスケが脱落してしまった理由は、シンクロ率と言う今一良くわからないものの順番だった。シンクロ率が下からから二番目だったからおとりに選ばれる事になった。もし自分がケンスケよりもシンクロ率が高かったとしたら、自分が今ベッドで、ケンスケのようになっていたはずである。
 ケンスケ自身に取り上げて思い入れがないからか、その事に関してケンスケにすまないと言うような思いは抱かないが……複雑な気持ちがあることは事実である。
 ヒロも着替え終わると、ケンスケのロッカーに一瞥をくれた後、更衣室を後にした。


 シンジは初号機に乗り込んだ後も碇の最後の言葉について考えていた。
 碇が特に意味もなくあの様な言葉を発するとは余り思えない。かと言って、表面的な意味通りの教訓?のようなものを言いたかったわけではないだろう。何か特定の事や物を指して言ったのだろうとは思うのだが、果たしてそれが何なのかはとんと見当が付かなかった。
(いったい何が言いたかったんだ?)
 射出の準備が完了し合図一つでいつでも発進に移れる準備が整った。
『作戦を説明します』
 モニターに大空の姿が映り、作戦の説明を始める。
『今回は、まずは初号機を進行方向正面に射出、使徒が初号機に向かい、適当な距離になったところで、他のエヴァを一斉射出、以後支援兵器もあわせ一斉攻撃を仕掛けると言う形です』
 結構単純な作戦であるが、相手はアルミサエルである。そのまま生体融合をしてきたらと考えると恐ろしい。
(気を付けなくちゃ、)
 一度生体融合されてしまえば、パイロットの存在は別にしてもも、その機体は自爆させるしかなくなるかもしれなくなってしまう。
(初号機を自爆なんかさせられない)
 一応リリンは零号機も保有しているため、リリンの戦力がそれゼロになるわけではない。しかし、母ユイが眠る初号機……シンジには初号機を自爆させるという事は決してできない。
 今は集中しなければいけない。碇は言葉の意味について悩ませるとことが目的であの様な言葉を口にしたのだととりあえず結論付け今はこの事を考えるのを止めた。


 ネルフ本部、第1発令所、
「あの使徒はどう言う能力を持っているのだろうな?」
「レイに聞いておくべきだったな」
「そうだな。だが、今から聞くわけにもいかん」
 碇が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたのは一瞬だけ、すぐに対応について少し考え始めたようである。
「そうだな、初号機と九号機の反応から推測しよう」
「日向1尉」
「はい」
「戦力の高い初号機と九号機が攻撃の中心になるように支援兵器の使用を調節するように」
「了解しました」
 日向が各部隊への指示を次々に下していく。
「……逆行者が中心となる戦闘か、」
「逆行者であろうが無かろうが同じ人物であることには変わりはない。そして、そのどちらであっても使えるものは使わなければならないと言うことは間違いない」
「それも、そうだな」


 各エヴァが射出口で待機している。
 4機のエヴァ……数こそ4機だが、内2機は最初からネルフ本部にいたわけではない者が動かしている。
 マナは通信回線を開いてそんなヒロと話をしていた。
「ヒロ君、怖い?」
『うん、やっぱり怖いかな』
「そっか……私も恐いよ。今だって、なかなかふるえが止まらないし」
『今まではこんな時はどうしてたの?』
「……こんなに恐いって思ったこと無い。相田とかアスカの事見て初めて自分がとんでもない事してるんだって思ったの」
 今まで戦うと言うことを言葉の上では理解していたが、それは、結局の所全然理解していなかったと言うことなのだろう。
『そっか…』
「ヒロ君、前に知らない方が良かったっていってたよね」
『起動試験のこと?』
「うん。起動試験だけじゃなくて、エヴァとか使徒とか、ううん、そんなんじゃない。どのみち戦わなければならないのなら、戦うって事も知らない方が気楽にいられたかも知れないって思うの」
『……そうかも知れないね。でも、今、そんなことを考えてもどうにもならないよ、』
 ヒロは曖昧な表情で返してきた。それには、不安だから自分自身に言い聞かせている部分もあるのかもしれない。
「そうだね。でも、相田とかアスカみたいになったら、」
『僕はなりたくない。だから、頑張るよ』
 確かに、そうならないためには勝つしかない。そして、その為に全力を尽くすしかないのだ。
「うん、そうだね。私も頑張る」
『うん。……あのさ、終わったら、一緒に何か食べない?』
「終わったら?」
『うん……』
 やや間があってからマナはパッと顔をほころばせた。
「うん、良いよ。折角だから私がとっておきの御馳走作るね」
『え?作れるの?』
「ふふ、任せておきなさい」
 マナはポンと胸を叩きながら明るい声で言う。それが普段以上に明るい声であったのは、やはり恐怖を振り払うと言う意味もあったのだろう。
『楽しみにしてるね』
『各機発進準備』
「じゃあ又ね」
『うん』


 第3新東京市の市街地の外れで初号機が支援部隊とともに待機している。
『目標間もなく視界に入ります』
 通信が入ってから直ぐに山陰からリング状のアルミサエルが姿を現した。
「……来た」
 シンジは小さく呟いて操縦レバーをぎゅっと握り、初号機は新形プログソードをぎゅっと握りしめる。
 アルミサエル……あのレイが自爆した時の使徒。忘れようとしても忘れられるはずのない使徒である。
 そして今そのレイが後ろにいない、それだけでなくネルフ本部にいると言うことはわかっているが、いったいそこで何をしているのか、またされているのかさっぱり分からない。
 そう言った事がシンジにとって言いようもない不安となってのしかかってくる。
(いけない、いけない)
 考え事をして集中力を削がれてはいけない。軽く頭を振って目の前のアルミサエルの集中しようとするが、どこか完全に集中しきることは出来ないでいる内にも、アルミサエルはゆっくりと初号機に向かって近付いて来てしまった。
 そして空中で一旦静止し、次の瞬間紐状になってかなりの勢いを伴って一気に襲いかかってきた。
「くっ!」
 作戦上では十分に他のエヴァが射出されてきて良い距離を突破されるが、到底間に合わない。初号機は襲いかかるアルミサエルを新形プログソードで凌ぎ、直ぐにその場を離れたのだが、直ぐに第2撃目が襲いかかってきた。
 横に飛んで躱し、新形プログソードを振り下ろして斬ろうとしたのだが、接触した箇所が激しい火花をあげただけで斬ることは出来なかった。
 その時点になって漸くネルフ側のエヴァが射出されて来た。真っ先に九号機が新型ソニックグレイブを手に突っ込んでくる。そのとたんアルミサエルは初号機から九号機に目標を変え九号機に襲い掛かった。
 それに対して九号機は十分に反応し新型ソニックグレイブで使徒を一刀両断にしようとしたが、初号機と同じく火花を上げるだけに終わってしまうが、そのまま攻撃を躱し距離を取る事はできた。
 アルミサエルはちょうどそれぞれのエヴァの中央にいてどれに攻撃を掛けるのかと、惑った様子で静止している。その隙に参号機、伍号機、七号機の3機が砲兵器でアルミサエルに攻撃を加え、支援部隊も攻撃に参加する……アルミサエルの姿が瞬時に爆煙に包まれるが、その中から平然と飛び出してきて参号機に襲い掛かってきた。反応こそ出来たが躱し切れない。そう判断し参号機はスナイパーライフルをぶつける事で何とか避ける事ができた。
(くそっ、あんなに堅いだなんて)
 レイがいれば……そうすれば今の2倍のパワーが出せる事になり、それならばアルミサエルに有効な打撃を与えられたかもしれない。しかし、今いないのにそれを望んでも仕方が無い。自分でできる限りで戦わなければならないが、いったい何ができるのだろうか?


 ミサトはモニターをじっと見ながら、眉を顰めていた。
 これは拙い。今までの感じからこれを撃破するには出力の大きい陽電子砲を使うしかないだろうと思われる。
(……でも、当てにくそうね)
 細い上に速い。これを陽電子砲で撃つのはかなり困難であろう。むしろ狙いを定めている間に攻撃されてしまう可能性が高い気がする。
 かといって有効な打開策は何も思いつかない。
 一つ息をついて近くに置いて置いたコーヒーカップを取り口を付けた……もう、とうに冷めてしまっている。
「さめてるわね」
 一言呟いてから再びモニターに集中した。


 ネルフ本部、第1発令所、
「かなりのようだな」
 戦闘の様子を見ていて冬月が眉間に皺を寄せながら呟く。
「そうだな」
「今の状態では通用する手があるか?」
「そうだな。陽電子砲しかあるまい、確かあちらから提案された作戦案の中にもそう言った物はあった。しかし、」
「司令、陽電子砲を使用したいのですが」
 そのような話をしていたところ、丁度日向が許可を求めてきた。
「良いだろう、どのくらいで用意できる?」
「エネルギーの充填を含めると、5分ほどかと」
「直ぐに準備しろ」
「了解」 
「九号機は一時退却、残りの機体は目標をできるかぎり遮蔽物の少ない場所に誘導せよ」
 しかし、当てるのは困難そうだなとは誰もが思うところであった。


 そして誘導と平行して陽電子砲の準備が進められた。
 狙撃地点に移動した九号機の中でレミはバイサーをかけながらアルミサエルを狙っている。半自動的に照準が修正されていっているのだが、なかなかマークがアルミサエルに集中しない。細い上に高速で動き回っているのだから仕方ないと言えば仕方ないが……だんだんもどかしくなってきた。
『エネルギー充填率78%』
 一瞬マークが重なっても次の瞬間にはもうずれてしまう。まだ充填中ではあるが、こんな感じでは、エネルギーの充填が完了しても、とても撃てそうにない。もっと連射の利く物ならば、被害さえ気にしなければ外したとしても次で捉えればいいだけだが、このポジトロンスナイパーライフルではそうはいかない。
(何とか動きが止まらないと……)
『エネルギー充填率86%』
 かといってどうやって止めたらいいのだろうか?捕まえたりするのは論外なわけであるし……


 ネルフ本部第1発令所、
「やはり狙うのは難しいわね。しかも、実際に発射してから着弾までに時間がかかるを考えると、簡単にさけられてしまうでしょうね」
 リツコの改めての言葉に日向が眉間に皺を寄せる。
「あれを撃破するのは不可能と言えるわ」
「……近づけばどうでしょう?」
「不可能ではないでしょうけど、難しいと言う事は変わらないし、危険性はかなり増すわね」
 日向は困ってしまった。打つ手が思いつかない。
(葛城さんなら、こんな時どうするかな?)
(……この状況からどうするつもりかしら?)
 日向はミサトのことを考え、一方のリツコは司令塔に座る碇の姿をじっと見つめる。碇はいつも通りのポーズでデンと構えており何を考えているのかはまるで分からない。
「……初号機の動き、少し気になるな」
「どうした?」
「極端に使徒との接触をさけているように見える」
「使徒の能力が分からないなら単に慎重と言うことだが、触れるとまずいと言うことか」
「おそらくな」
「触れるとまずいか……」


 地上では戦いが繰り返されているが、決定打を欠き戦局はまるで動いていなかった。
 今は第3新東京市のはずれが戦場になっている。みんなポジトロンスナイパーライフルが使徒を狙っている事、しかし同時にこの使徒相手に上手く照準をつけられていないと言う事も分かっている。
 そんな中、ヒロは焦っていた。
 このまま続けば、いつかミスをして直撃を受けるだろう。既に2回ほど躓いたり転けたりしてしまい、冷や汗をかいたものである。ならその前に多少ダメージを受けたとしてもその動きを止めなくてはいけない。ビルなどを破壊している様子を見ているところから結構な破壊力があるようで直撃を受ければまずいだろうが、特に武器らしい武器を持っているようには見えない。
(僕がやる)
 ヒロは拳をぎゅっと握り、七号機をアルミサエルに向けて走らせた。
 それを察知したアルミサエルが早速七号機に向けて突っ込んでくる……初号機や九号機が徹底的に回避してたため、他の機体も回避する事になったが、別に絶対に回避しなければいけないわけでもない、ダメージを受けたとしても、肉を切らせて骨を断つ。必ずこの手で取り押さえてみせる!
 アルミサエルの攻撃をわずかに躱し、通り過ぎる瞬間がっしりとアルミサエルの体を掴み捕らえる。
「やったっ!」
 これでなんとでもなると喜びを顔にした瞬間、掌に激痛が走った。
「え?」
 七号機が使徒を掴んでいる手から体に向かって何か妙な筋が無数はいのぼってくる。それだけではない、ヒロ自身の手も同じように掌から体の方に向かって無数の筋が延びてくる。そしてその部分に激痛を感じる。
 いったい何が起こったのか分からない激痛に、パニック状態になって悲鳴を上げた。


 ネルフ本部第1発令所、
「使徒が七号機に生態融合を仕掛けてきています!!」
 ヒロの悲鳴が発令所内に木霊する中、マヤが分析の結果を叫ぶ。
「なんだって!?」
「神経接続を解除!同時に両腕を切断!」
「了解!」
 すぐさまリツコの指示どおりに動き、直ぐに両腕を切断する。両肩のロックが外されその部分に仕掛けられた火薬が爆発させられ、強制的に両腕が切断される……はずだったが、切れなかった。
「え?」
 マヤが慌てて七号機の状態図に目を向けると既に胸部まで黄色になってきており、肩の部分は既に赤くなっていた。
「既に胸部にまで侵食が進んでいます!!すごい早さです!!」
「……拙いわ、」
 次の手が直ぐには思いつかずリツコはただ小さく呟いただけであった。
「これだったか、」
 司令塔の二人も顔を顰めている。
「生態融合とは又厄介な能力だな」
「ああ、」
「何とかなるか?」
「……難しいです。時間があれば或いは何とかなるかもしれませんが、あまりに時間が無さ過ぎます。この分では何分もつか……」
 モニターに映る七号機の全身に葉脈か何かのような筋が無数に入っている。もう全身が犯されているであろうと言うことは容易に分かる。他のエヴァはある程度距離を取った位置でいったいどうすればいいのかと戸惑い立ちつくしているだけである。
「……仕方ない、七号機を自爆させろ、」
「了解、プラグを強制射」
「まて、ATフィールドが消失してしまえば、ダメージは殆ど無いだろう。そのまま自爆させろ」
 碇の言葉に皆驚く。
「しかし、」
「他に方法があるのか?」
「……いえ、分かりました。準備を」
「…………プラグロック完了しました」
 マヤには耐えられなかったのか、プラグをロックすると同時に七号機との回線を切った。それとともに響き続けていたヒロの悲鳴がぷっつりと途切れる。
 本部との回線を切断されたヒロは今ごろ七号機の中で更に酷いパニックに陥っているかもしれない。
「各機、七号機と距離を取れ」
 日向の指示にマナ、トウジ、ヒカリが疑問をあらわにする。
「これから七号機を自爆させる。離れないと危険だ」
 驚き、そして戸惑いを表情にしていたが、暫くしてそれぞれ距離を取った。
「自爆装置起動しました。カウントダウン開始、」
 サブモニターにカウントが表示され、青葉がカウントを読み上げていく。
「4、3、2、1、」
 カウント0と同時にモニタ-が光に包まれ直後大きな振動が施設を襲う。
 七号機は無事に自爆したようだ。自爆に関係するところも犯されていたであろうからキチンと自爆に至るのかどうか心配していた部分もあったが、それは杞憂にすんだようだ。
 リツコは回線が切断され何も映っていないモニターを見つめながらそんな風な事を考えていた。
 そしてモニターが復旧したとき、第3新東京市のはずれに大きなクレーターができ芦ノ湖から大量の水が流れ込んでいた。
 映像から判断する限り第3新東京市中心部の被害は殆ど無いようである。
「パターンブルー検出されません、七号機以外の全てのエヴァの健在を確認。回収班向かいます」
 最後の使徒を倒した。被害もある意味エヴァ1機程度で収まったとも言え、第3新東京市の防衛施設も大したダメージは受けていないだろう。ゼーレ戦に対してしっかりとした戦力を戦力を保持したまま挑むことが出来るようになったのだが、発令所にいるもので喜ぶ者はいなかった。
「……いよいよだな」
「ああ、最後のステップだ」


 レイラも例に漏れず複雑な表情をしていた。
 確かにシンジは無事だったし、前のアスカの時は違って自分のせいで誰かが犠牲になったわけではないし、自爆することになった江風ヒロとは直接関わり合いはない。
 けれど、だからと言って喜べるような性格の持ち主ではなかった。
「レイラさん、シンジ君を迎えに行きましょう」
 後のことは榊原にすべて任せ、蘭子がレイラを誘った。
「……うん。そうだね」
 思うところはあっても、今は無事に戻ってくることができたシンジを出迎えよう。
 二人は発令所をでてシンジが戻ってくるケージに向かった。
 そしてケージに到着したとき、ちょうど回収された初号機がケージ内に戻ってきたところだった。
 シンジが気づいたのだろう。さすがにケージ内で手を振ったりすれば負傷者が出かねないし、首だけ二人の方に向けてくれた。
 しばらくして初号機からプラグが取り出され、シンジが降りてきた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
「シンジ君が無事で本当に良かった」
 直接こうしてシンジを出迎えると、シンジが無事だったことの喜びの方がずっと大きくなり、レイラの顔には自然喜びの笑顔が浮かび、シンジも笑顔で答えた。


 本部に戻ってきてエヴァを降りた後、それぞれのチルドレンは無言のまま更衣室に入った。
 女子更衣室には、ヒカリ、マナ、レミの3人の姿がある。
 レミは早速プラグスーツを脱ぎ始めたが、他の二人はプラグスーツを着たまま思い思いの場所に座った。
 誰も喋らず、レミが服を着る音とそれぞれの吐息の音だけが部屋に響く。
 暫くしてレミが着替え終わり、長椅子に腰を下ろす。
「……使徒との戦いは終わったわね」
 レミがポツリと呟き、ややあって二人が頷き返した。
「江風が死んだから、ここにいる3人が今生きているのよ」
「江風じゃなかったとしたら、誰かが死んでいたわね」
 ヒロの命が自分たちを救った。自分たちはヒロを犠牲にして今生きているのである。
「でもさ、その事で暗くなってどうすんのよ?」
「こんな沈みきった雰囲気になって、そんなのあいつが望んでいたの?最期に何考えていたのかは私にはわかんないけど、それは違うでしょ」
「アタシ達には未だやらなきゃいけないことがある。それをきっちりやら無いと、江風だけじゃなくて、相田に……アスカは何のためにああなったのかわかんないじゃない」
「………やらなきゃいけないことか、」
 ポツリとマナが返す。
「まだ、ゼーレが残っているわ。最後の戦い、今はこれに全てをかける。色々と考えたりすることは全部終わってからにしましょ」
 二人はゆっくりと頷いた。
「……なんだか、レミさんってアスカみたいね」
 ヒカリの言葉にレミは一瞬驚いた後、笑みを浮かべて返した。


 エヴァの自爆によりアルミサエルの殲滅に成功した。このことは前と同じであるが、自爆したのは零号機でなく七号機。レイでなく江風ヒロ。シンジにとっては直接の付き合いや想いはないから、自爆したのが他の誰かでなくて良かったと思う。
 何はともあれ、これで使徒戦は終了しゼーレとの人と人の戦いに移る事になる。
 しかし、もう一つ、ネルフ・碇との戦いもある。なんとしてもレイを取り戻さなくては……碇が何かする前に取り戻さなければならないのは絶対だが、ゼーレ戦の前に取り戻したい。レイと二人で初号機に乗れれば、それだけで大きく戦力が上がるのだから、
(でも、どうしたら良いんだろう)
 シンジには何も見えてはいなかった。


 夜、市内のバーにリツコが入ってきた。
 既に席で待っていた待ち合わせの相手であるミサトが軽く手を振る。
「もう来ていたのね」
「ま、リツコよりは私の方が忙しくないからね」
 リツコはミサトの横の席に座りカクテルを注文する。
「……昔、3人でこういう店に来たこともあったわね」
「そね。全部終わったら加持も含めて3人で又飲みましょうか?」
「ええ、良いわね」
「それに、明日があるからそんなに飲めないし、早く次の日を気にしなくても良い日が来て欲しいものねぇ」
「ほんとね……」
 肯定の言葉を呟いてからグラスに残っていた分を飲み干し、お代わりを頼んだ。
「それで、頼んで置いた物は?」
「車に積んであるわ。でも、あんな物必要なの?」
 リツコは少し間を空けてから答えた。
「私に出来る事なんて、そんなにないからね」
「無茶はしないでよ」
「分かってるわよ」


あとがき
ヒロ 「ど、どうして僕が……」
レイ 「ありがとう。貴方のおかげでみんなが助かったわ」
レイ 「戦力的にも、精神的にも最適。まさしく適材適所ね」
ヒロ 「そんなこと言われても、ぜ、全然嬉しくないよぉ〜」(涙)
ヒロ 「折角マナとも良い感じになってきてたのに……」
レイ 「所詮それがオリキャラでしかない貴方の立場という事ね」
レイ 「そもそも、本来ならSS機関の暴走で、登場すらせずに
    消えてしまっていたはずのテストパイロットなのに、
    これだけの見せ場を作れただけでも良いことなのかも知れない」
ヒロ 「同じオリキャラでも、レイラさんとか良い立場なのに」
レイ 「比較対象を間違えているわ」
ヒロ 「うう……」
レイ 「原作キャラでも、影が薄いことをネタにされてしまうようなキャラもいるのよ、
    人それぞれに与えられた役割によるものね」
ヒロ 「僕ってもう出てくる事ってないのかな?」
レイ 「第二支部のテストパイロットと言う設定で他の作品に引き継がれる可能性はあると思うわ」
ヒロ 「そっか……今度はマナともっと良い関係が作れたらいいなぁ」
レイ 「そうなると良いわね」
ヒロ 「あれ?素直に応援してくれるの?」
レイ 「何か不満でもあるの?」
ヒロ 「あ、いや、そういう訳じゃないけれど、可能性は低いとか
    何とか言われるかと思っていたから、ちょっと驚いちゃって」
レイ 「あなた、私をなんだと思っているの?」
ヒロ 「あ……ご、ごめん」
レイ 「凍結中ではあるけれどの文明の章外伝はそのような感じではなかったの?」
ヒロ 「そうなんだけれど……新作でね」
レイ 「ええ、新作では彼女はライバルになるかもしれない。
    けれどあなたとのカップリングが成立してくれれば、
    自ずとライバルが一人減ることになる」
レイ 「いわば、利害の一致と言うことで応援するわ」
ヒロ 「そ、そうなんだ……ありがと……」
レイ 「礼を言われるようなことではないわ」
ヒロ 「……」
レイ 「……」
ヒロ 「どうしたの?」
レイ 「碇君が呼んでいる……さよなら」
ヒロ 「あ、うん。さよなら」
………
………
ヒロ 「どうしてあんな人が、メインヒロインなんだろう……」
碇  「……」(ぬ)
ヒロ (びくっ!)
ヒロ 「な、なんでしょうか?」
碇  「………」
ヒロ (汗)
碇  「………」
ヒロ (滝汗)
碇  「………」
ヒロ 「あ、あの……」(おそるおそる)
碇  「……道に迷った」
ヒロ (盛大にずっこける)
碇  「と、言うのは冗談だ」
ヒロ (さらにずっこける)
ヒロ (こ、こんな人だったの?)
碇  「さて、今回の話と今後の話について何か言えと言われたからやってきたわけだが」
ヒロ 「は、はい」
碇  「シナリオは順調に進んでいる。以上」
ヒロ 「ってそれだけなの!!?」
碇  「他に何か必要なのか?」
ヒロ 「い、いえ、こう言う時は普通、重要なシーンを要約した上で
    それについてコメントをするとかなんとか……」
碇  「ふむ……問題ない」
ヒロ 「……」
碇  「………」
ヒロ 「……あの、言うのを待っているんですが……」
碇  「何をだ?」
ヒロ 「だから、要約とかコメントを」
碇  「要約くらいおまえがやれ、コメントはさっき言ったとおりだ」
ヒロ (問題ないって言うのがコメントなの!!?)
碇  「何か不服なのか?」(ギロ)
ヒロ 「と、とんでもありません!僕がさせて頂きます!」
碇  「では始めろ」
ヒロ 「えっと、今回はアルミサエル戦が行われたわけで……僕がその犠牲になっちゃっいました」(涙)
ヒロ 「でも、その代わりに被害は少なくて、
    ゼーレに対する戦力は維持できたまま決戦に突入することになったわけで」
ヒロ 「一方、三人の関係に目を移すと」
碇  「長い!!!」
ヒロ 「ひっ!」
碇  「私は帰る。後はやっておけ」
ヒロ 「あ、……な、なんでもありません」
碇  「さらばだ」
………
………
ヒロ 「それにしても、僕の扱いっていったい何なんだろう……」(溜息)
シンジ「やぁ、こんにちは」
ヒロ 「あ、こんにちは」
シンジ「江風君、」
マナ 「シンジ〜♪」(抱付き)
シンジ「うわ!ま、マナ!?」
マナ 「そう、私♪ねぇ、せっかく会えたんだし、二人でどっか行こ〜♪」
シンジ「あ、でも、江風君が……」
マナ 「良いから良いから〜♪」
………
………
一人残されてしまったヒロは真っ白になってしまっていた。