リリン〜もう一つの終局〜

◆第14話

 12月3日(木曜日)、
 執務室はジオフロントから射し込んでくる夕日の紅い光に染められていた。
 既にレイがネルフ本部に駆け込んでから半日近くが経過している。しかし、榊原が目を通していた報告書の中にそれを伝える物は存在しなかった。
 だから、シンジから二人を交互に支えていくと言う話を聞いて、いずれ何か起こるかも知れないが、これで暫くは大丈夫だろうなどと考えていた。しかし、そのいずれの事はもう過去の事になってしまっていた。


 それはシンジも同じであった。
 このような事に陥っている事など露も知らず、シンジは帰る準備をしていた。今夜はレイと一緒に過ごし、明日の夜には又レイラの所に戻ってくるつもりだった。
「じゃあ、レイラ…今日は帰るから」
「うん、待ってるね」
 シンジとの間に確かなものを手に入れたことでレイラには随分余裕のような物が生まれていた。
「それじゃ、又ね」
 だからシンジが出ていっても、今のレイラには不安というものは生まれはしなかった。それどころか、明日シンジとの時間をたっぷりと過ごすためにと今日の内にできる仕事を片付け始めたくらいであった。


 もう遅い時間であるはずなのに、シンジを待っていた家は電気がついていなかった。遅いとは言っても寝るには早すぎるし、何よりも、今夜は帰るとレイにちゃんと言ってあるのだから、シンジを帰りを待っているはずなのだが……
 多少不思議に思いながらも玄関のドアを開けて入る。中は外から見たとおりで、レイの姿はどこにもなかった。
「コンビニにでも行ったのかなぁ?」
 それならば待っていればそのうちに帰ってくるだろう。テレビでも見ながらレイの帰りを待つ事にした。
 しかし、随分時間が経ってもレイが戻ってくる事はなかった。
 流石におかしいと思ったシンジはリリン本部に電話をして、レイが今どこにいるのかと聞くと、直ぐに調べて折り返し電話で伝えるという事だったので一旦電話を切って待つことにした。
 それから5分後、リリン本部から電話がかかってきたのだが……それは今現在レイをロストしており、捜索中であるという返答であった。
「何ですって!!?」
『現在保安部と親衛隊が捜索中です』
「いったいいつから…」
『我々が把握したのは2時間前です。ですから実際のロストはその前と言うことになると思います』
「わかりました…僕も探しに行きます。捜索の方お願いします」
『はい』
 電話を切り、シンジに付いている警護担当者の携帯かけてに車を回して貰うように言いマンションを出た。
 レイがロスト……シンジがいなかった間にいったい何があったというのだろうか?


 モニターにリリンの保安部員が走り回っている映像が映し出されている。
 勿論レイを捜し回っているのだろう。
「…彼らは何も知らん様だな」
「少し哀れだな」
「組織が病んでいる以上仕方ない」
「それは、我々もかもしれんぞ?」
「あちらほどではない」
「ふふ…そうだな」
「いったん崩れると本当に脆い物だ」
 二人がリリンやシンジ達の事について話をしていると、電話が鳴った。
 電話の主はリツコであった。碇は二三のやり取りを交わして受話器を戻した。
「レイの検査が完了した」
「それで?」
「計画には何の問題もない」
「そうか、私はリリンへの準備をしておこう」
「頼む」
 そう言い残して碇は執務室を出て行った。
「さて、どう出てくるかな?」


 モニターには複数のウィングキャリアーが日本周辺の基地に配備されているのが映っている。
 このウィングキャリアーが存在している基地にエヴァが存在すると単純に考えて良い物なのだろうか?
「エヴァの存在が疑われる施設やキャリアーはあちらのメンバーで固めていますね。まるで情報が入ってきません」
(これは、榊原さんの専門なのだけれど…)
 意見を聞きたいところだが、今榊原はロストしてしまったレイの捜索に追われてしまっている。
 会議室に秘書官が入ってきて蘭子にメモを渡してきた。
「本当?」
「はい」
 蘭子は直ぐに会議を打ち切って、会長室に戻り電話をかけた。
 相手は、レイに付いていた親衛隊の班長。電話にでたその声は自分の犯してしまった罪への恐怖からかかなり震えていた。
「自分が犯した罪は分かっているようね。全て正直に話しなさい」
 そうして話された内容は、かなりの部分で蘭子の予想通りだった。
「…分かったわ、私が直接行くわ」
 溜息混じりの言葉を発し、電話を切る。
 どうしてこんな事になってしまったのだろうか?
 何か間違っていたのだろうか?……それとも何か等ではなくずっと前から全てが間違っていたのだろうか?


 榊原も蘭子と同じような報告を受けたが、いったいどうしたらいいのかと言う事で困っていた。
 報告通りにネルフ本部の中に入っていったとしてもはっきりとした証拠があるわけではない以上、ネルフ側がそれを認めるはずはないし、確かな証拠もなしにリリンにネルフ本部の中を調査する権限などあるはずがない。
 そう言った事も含めて、シンジやレイラにどうやって伝えたらいいのだろうか?と言う問題から、ネルフの補完計画、ゼーレとの対量産機戦と言った事への対応まで数多くの問題が一気に発生したり増えてしまった。
 悩み込んでいるとドアをノックする者がいた。
「はい?」
 ドアを開けて入ってきたのは蘭子だった。
「蘭子さん!」
「榊原さん、直ぐに今分かっている事を教えてください」
「はい」
 一通り集まっている情報を読み終わった後、蘭子は大きな溜息をついた。
「二人には伝えられませんね」


 12月4日(金曜日)、
 蘭子と久しぶりに会ったのだが、伝えられる内容は悪い内容であると言う事は既に分かっていた。
「まずは、レイさんの居場所なのですが、ネルフ本部に入っていたという報告があります」
「ネルフに!?」
 レイがネルフに行ってしまった。その意味はシンジにとってもリリンにとってもとんでもない事である。
「ネルフの司令部に確認すると、ネルフは所在を確認していないが、念のために本部内を捜索するとの回答を返してきました」
 真面目に取り合うつもりはないという事だろう。
「…マギをハッキングできませんか?」
「マギのハッキングは可能です。但し、その様な回答を返してきている以上、マギ内のデータからは既に消されていると考えるべきです」
 と言う事はレイの存在を確認する術はないと言う事である。
「……どうすればいいと言うんですか?」
「…残念ながら、今すぐの打開は不可能に近いです」
「そんな……」
 頭を抱える。
「なんで、そんなことに……」
 何故レイはネルフに駆け込んだのか……いったい何故……それがまるで分からない。どうして突然こんな事になってしまったと言うのだろうか?
「あらゆる線を使って確認を続けます。何らかの確証が得られれば、流石にネルフもしらを切るわけにはいけないはずですから…」
「……お願いします……」


「シンジ君、お茶飲む?」
 レイラが紅茶を淹れてきてくれたようだ。紅茶の良い香りが漂ってきている。
「あ、ありがとう」
 カップにティーポットから琥珀色の液体を注ぐ。
 シンジの分に続いて自分の分も入れる。
「綾波は、何でネルフになんか行ったんだろうね?」
「どんな理由があったのかは分からないけれど、みんなでレイさんをネルフから取り返そうね」
 力無い呟きに、微笑みを浮かべながらレイを取り戻そうと返すレイラ…
「うん、そうだね。僕たちが綾波を取り返さないとね」
 弱気になってはいけない……レイラに励まされるシンジに対して、そのレイラ自身は内心自己嫌悪を感じていた。
 昨日までであったならば、このレイとシンジが引き離されたという事態を喜んだだろう。だけれど、今はシンジとの間に確かなつながりを手に入れた以上、そちらよりもシンジがレイのことばかり心配していることや、レイという存在が極めて重要であるのに、その存在がネルフに抑えられてしまったと言うこと等で嫌な気持ちの方が強い。
(私って……ホント嫌な人間)
 つくづく勝手……家族として、友人としてのレイの存在がいなくなってしまったと言うことに関しては殆どと言っていいほど何も深い感情は生まれていなかった。
「おかわり…貰える?」
「うん」
 空になっていたシンジのカップがまた紅茶で満たされていく。


 そのころ、ネルフ本部ではシミュレーションでの訓練が行われていた。
 ここのところレミは色々とありすぎて、ネルフ本部を出るのはアスカを見舞うときくらいになっていた。
(たくっ…訓練に検査、実験に試験…やること大過ぎよ!)
 口には出さないが、心の中で悪態をつく。
『あの…じゃあ、次のステップに移るけど…良い?』
 その不機嫌さが表情に表れていたのだろう、指揮をしていたマヤがどこかおどおどとしながら尋ねてくる。
(いけないいけない、)
 深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「いいわよ」
 シミュレーションプラグに映し出されている映像が切り替わる。
(しっかし、リツコはどこ行ったのかしら?なんでか、昨日からマヤが指揮してるし……)
 モニターに表示されている司令室の映像には今日もリツコの姿はなかった。比較的重要度が高いと思われる試験や実験にもリツコは姿を見せなかった。何かしているのだろうか?
…………
…………
 そのリツコはターミナルドグマで計画の準備をしていた。
 レイの状態に併せて、計画の補助プログラムを書き換えている。
 煙草を銜えながらキーボードを叩く。ふと、手を止めて大きく紫煙を吐き出す。
「……私、何やってるのかしら…」
 煙草を灰皿に押しつけて火を消しながら呟いた。
 碇の計画。それは、碇がユイを取り戻すための計画である。達成されれば、リツコは捨てられることは目に見えている。なのに、今、その自分が捨てられるための計画の準備をしている。
 いずれ捨てられるが、今捨てられない為にやっている。前にそう思ったときもあった。だが、それはもはや目前に迫っている。もう今捨てられようが、後で捨てられようがそう大きな差があるわけではない。何故、自分は準備をしているのだろうか……
 考えているとばからしくなってくる。考えるのを止めて今の自分の作業をさっさと片づけてしまう事にした。
 新しい煙草に火を付け、煙を肺一杯に吸い込む。煙草が思考にフィルターをかけて余計な事を考えるのを封じ込めていく。


 12月5日(土曜日)、
 作戦会議室の大きなモニターに日本とその周辺の地図が映し出されていた。
 地図上には無数の駒が置かれ、それぞれの軍隊がどう配備されているかを示している。日本は完全に包囲されているように見える。
 駒の数は、敵側の駒の方が多い。
 地形の利点が使える守勢である事や、兵器の質で勝っているがそれでも埋まらない差が出て来ている。
「形勢は…やや不利になってきたな…」
「海軍の方はまだ、これからですね。今夜マラッカを仏艦隊が通過します」
「…榊原さんエヴァについてはどう思います?」
「どの基地に配備されているのかはまでは分かりませんが、おそらく7機位揃っているでしょう。9機全部揃ってもエヴァの戦力ではこちらの方が優越していますが……」
 レイを取り戻す事ができれば、更に余裕ができてこちらからエヴァを使って何か仕掛ける余裕もできるかも知れないが、それはそれで別の問題が発生してしまうだろう。
 階上の二人の首脳の顔色は優れない…それも当然かも知れない。
 勢力比は日に日に悪くなっていると言うのが良くわかる。こうなる事は分かっていたし、これから更に悪くなる事も分かっている。
 手元に端末に視線を戻す……端末にはたくさんの作戦案のリストが表示されている。その内のいくつかはミサトが作った物を原型としている。
 考えられるケースが余りにも多すぎて、案の数も膨大なものになっている。
 使徒戦に比べ敵の数やその性能などは殆ど分かっているのだが、その一方で敵味方ともに遙かに多く、そして複雑な状況になっている。最後の使徒から政治上の影響のようなものまで含めて考えなければいけないのだから、もう嫌になってしまう。
 単純にエヴァ同士ががっぷりぶつかったとしたら、初号機と九号機の2機があれば、それだけで勝てるのだが…その事だって気になる事がある。
 ミサトのところまで詳細な情報は降りてきていないが、職員達の噂では、何でもレイがネルフ本部に駆け込んだとか……チルドレン達の間でいったい何が起こっているのだろうか?ミサトには知る術がない……
 確かに噂が本当だとして、レイを除外してもまだ優勢に展開できるが、本当にそれだけで済むのだろうか?
 エヴァに乗っているのは所詮人間……それも子供なのだ。パイロットの事が非常に大きな不安要素として絡んできている気がする。
(私が悩んでもどうしようもないか……)
 政治のような物とは違うが、自分が関われないという意味では同じかもしれない。
 前は少なくとも指揮権は持っていたし、ネルフ側のチルドレンと直接関われる立場にいた……が、結局自分の問題が大きすぎた。
「……今更後悔しても遅いわね、出来ることをやらなくちゃ、」
 端末を操作して、新しい情報や、新しい作戦案等に目を通し始めた。それらから何か新しい案を出せないか、より良い案に変えていく事はできないかと言った事を考えながら、
「……私にできる事、か」
 何か思いついたのだろうか、ミサトの動きが止まり腕組みをして何かを考え込み始めた。


 シンジとレイラの二人は行動を起こしていた。
 直接ネルフ本部に乗り込む事にしたのだが…入り口でネルフの職員に止められてしまった。
「残念ながら、許可がなければお帰り頂くしかありません」
「東京帝国グループの総会長とリリンの長官が、ネルフの総司令に会いたいと言っているんですが?」
「そう言われましても……」
  二人の役職を出して見たのだが、警備課所属の職員クラスでは裁量など無いに等しく、上から言われた事をただ忠実に守る事しかできないようだった。
「…上司に問い合わせてください」
「わ、わかりました」
 職員は近くにあった受話器を取りどこかへ内線をかける。
 ピラミッド状のネルフ本部の上部構造体を見上げる。この上の方に碇や冬月達のいる執務室がある。しかし、これはネルフ本部のほんの一部でしかない。大深度地下施設こそがネルフ本部の本体。今、レイはどこにいるのだろうか?
「申し訳ありませんが…」
 戻ってきた警備員に対して露骨に不機嫌を表にすると、職員は萎縮してしまいあわててどこかへ内線をかけていたが、それで事態が好転する事はなかった。
「あの…予約と言う形でしたら…?」
 シンジとレイラはお互いに顔を見合わせお互いの意思を確認する。
 少なくとも今会う気は全くないようである。であるならばここで一旦引くしかない。
「…わかりました。至急を要する重大な事ですから、可能な限り速やかに時間を取って貰うように伝えてください」
「はい、確かに承りました。具体的なものが決まりしたらお伝えいたします」
 結局わざわざネルフ本部にまでやってきたが収穫は0に近かった。
 だから、帰り道は何となく足が重かったのだが、途中でネルフ中央病院が目に入った。
「あ…そう言えば…」


 病院の長い通路に二人分の足音が響いている。
 目指しているのはアスカの病室。レミとアスカのことを考えれば、レミは必ずアスカの見舞いに来るはず。ならば、レミから何か情報を聞き出せるかもしれない。あるいはレミにネルフ本部の中を探って貰う事もできるかも知れない。そんなふうに考えて今この通路を進んでいる。
(……僕って酷い奴かも…)
 いくらレイラのことがあったからと言って、アスカが入院してから今まで一度も見舞いに来なかった。そして、今漸く見舞いに来ているが、その主目的は見舞いではなく、レミに会いそしてレイのことを知るため……
 確かにシンジとかつて家族だったアスカは、今はレミでありこの先の病室で寝ているアスカではないが、こちらのアスカとだって友人という関係だったにも関わらずに今の今まで見舞いに来なかった。レイラのことが、と言うのは言い訳に過ぎない。全ての時間が埋まっていたわけではないのだから。
 自己嫌悪を感じつつも足を止めていなかったので、やがてアスカの病室に到着する。
 ドアを軽くノックをすると中から返事があった。どうやら丁度レミが来ていたようだ。
「僕とレイラ。今良いかな?」
「良いわよ」
 ドアを開けて病室に入る。アスカの病室は割と広い個室で、開け放たれた窓から入ってくるさわやかな風が薄手のレースのカーテンをひらひらと揺らしていた。
 部屋の真ん中に置かれたベッドの上のアスカは……いくつかのチューブが取り付けられてベッドに横たわっていた。ちょうど寝ているのか、すやすやと寝息を立てている。
 以前のあの時のアスカのようにやつれていたりと言った事はなかった。ただ、普通に寝ているだけのように見える。だから、その分はどこかほっとするところもあった。
「お見舞い…来てくれたんだ」
 レミが浮かべている笑みが本当に嬉しそうであるだけに、その分心苦しくなってしまう。
「あ、あのさ…アスカの調子は?」
「うん。結構良いよ、ここのところ落ち着いてるし……」
 レミがアスカに向けた表情は本当に優しげなものだった。今のシンジの心境のせいでそう見えているのかも知れないが、初めて見るのではないかと言うほどのその表情を曇らす事はできなかった。


 シンジは大きな自己嫌悪に陥ってしまい、病院からの帰りの足取りは本当に重かった。
 レイラのは先ほどから何かを考え込んでいるようで、こちらも決して軽いという事はない。何かレイラも自己嫌悪のようなものを感じているようでもあったが、ふと顔を上げてシンジに考えていた事を話し始めた。
「シンジ君、私が何とかするわ」
「え?」
「東京帝国グループの力を使って、必ず何とかする」
 その顔をじっと見つめる……レイラの表情は真剣そのものであった。


 今日の二人の行動は相手側の二人に勿論伝わっていた。
「殴り込みをかけてくるという事はしてこなくてほっとしたよ」
「弱気だな」
「頭に血が上って理性を失った相手は行動が単純になる分、止めにくいからな」
「アレはそれほどバカではない」
 力押しの手もそれが有効ならば勿論使うが、碇や冬月は余り得意ではないし、ネルフにそれができる力は今は無い。そう言った勝負にならなくて本当に良かったと言える。
 駆け引き、策謀の話になるのであれば、今のリリンは碇の掌にあると言っても過言ではないかも知れない位なのだから。
「ああ、だが名乗りを上げているのは2つだけではない」
「…皇レイラか、」
「若き…いや、幼き世界経済のTOPだな」
「その皮肉は機会があったら本人に言ってやると良い」
「いや、近い内に機会はあるだろうが、冗談では済まなくなるから止めておくよ…一度言ってみたいがな」
「だろうな」
 そんな話をしていると、首相官邸から電話がかかってきた。
「…早いな」
 受話器を戻して呟く。内容は二人が面会を求めているのに直ぐに会わないとはどういう事なのかと言ったものであった。放っておけば直ぐに問い合わせが殺到する事になるだろう。
「どこまでするのか見物ではあるが、厄介を抱え込むのはごめんだ」
「明日にするか?」
「ああ、」
 碇は明日時間を取る事をリリン側に伝えるようにと電話をかけた直後、米国のホワイトハウスから国際電話がかかってきた。


 さくっと明日会う事が決まってしまい。思い切りやるつもりで、色々と行っていたレイラは拍子抜けしたような感じになってしまった。
「……ま、会える事になったから良いか」
 電話をかけるつもりだった相手の一覧表を机に戻す。
 少し部屋を出ていたシンジがどこかで貰ってきたのだろうお菓子を片手に戻ってきた。
「シンジ君、明日会える事になったよ♪」
「ホント!?」
「うん、」
「ありがとう」
 シンジから感謝される様な事ができた。今までずっとシンジに迷惑や負担をかけてきてしまう事が多かった。だからこそ、その事が一層嬉しかった。
「レイさんを私たちで取り返そうね」
「うん」


 下での仕事に切りを付けて研究室に戻ってきたリツコの最初の行動は、特注のコーヒーメーカーで美味しいコーヒーを淹れる事だった。
「ふぅ…美味しい…」
 コーヒーを飲みつつ、こちらを空けていた間に何があったのか端末で閲覧する。
 マギが纏めていた情報…実験や試験の結果やその他技術部とエヴァ・マギに関する事…明日シンジ達と会う事になったというような対外的な事、ゼーレや東京帝国グループなどの動き等々、少し離れていただけでもかなりの量の情報になっている。その中からリツコが必要そうな情報を選んで読んでいく。
「……あら?」
 メールボックスを覗いたとき、多数のメールの中に外部からの特秘メールが一通混ざっているのを見つけた。
 読み終わってから煙草を吸いながら自分はどうするのかと言う事を考え始めた。
 結局半時間ほど考え決めた答えを返信として返した。


 12月6日(日曜日)、
 シンジ、蘭子、榊原、レイラの4人が護衛を連れてネルフ本部の通路を進んでいた。
 久しぶりに足を踏み入れたネルフ本部。本部の雰囲気そのものは大して変わりはしないが、前回とはまるで状況が違う。
 ここに来た最終的な目的は、レイを取り戻すため…いっそこのままレイを探しにいきたいところではあるが、これだけのメンバーでむやみやたらに広くて大きいネルフ本部の中を捜索するのは不可能であり諦めるしかない。
 総司令執務室に通され、護衛を部屋の前に残して執務室に入る。
 広い執務室の中央に応接セットが用意されていて、二人はソファーに座って待っていた。直接会うのは久しぶりでもある。敵と言うほどではないが対立する相手であったと言うのが、前回の事以上にあわせて大きい。しかし今は本当に敵になろうとしているのだろうか……
 事務的に軽く会釈だけして、向かい側のソファーに座る。
「さて…今回はいったいどのような御用でしょうか?」
「今後の使徒戦とゼーレ戦に関する両組織の連携等の最後のつめ…と言うこともありますが…もう一つ、ファーストチルドレン綾波レイの所在に関する事です」
「レイか、そちらの話ではこのネルフ本部に入ってきたと言うが、残念ながらこちらではその様な事は確認していない。ネルフ本部は全館がマギの管理下にある。そのマギもレイの存在は確認していない」
「なんなら自分で確認してみるかね?」
「いえ、マギのようなものを調べるよりも直接調べさせて頂きたいですね」
「そうだな。機密度の低いエリアならばそれも良いだろう」
「機密度…ですか」
「ま、端的に言えば、セントラルドグマ最深層より下は委員会の許可でもないと入れるわけにはいかんが、それ以外なら自由に探して貰っても結構だよ」
 確実な証拠がなければ、委員会がターミナルドグマにリリンの者を入れるような事は絶対にしない。それどころか確実な証拠があったとしても入れないのではないだろうか?……その場合は、ゼーレとネルフの間に一悶着起こるのだろうが、
 その後も続いている蘭子・榊原と碇・冬月の間のやり取りはが腹の探り合いにもなっていない、分かり切った事の確認と言うしかないようなものになっているのがシンジを苛立たせていた。
 二人は状況証拠や数少ない証言、はったり、脅しなどを色々と混ぜていくが、もうその辺りは完全に見透かされてしまっているのだろう。どれだけやってものれんに腕押しでしかなかった。
「……詭弁はもう良い」
 シンジがやり取りの間に割って入る。途端静かになった……よほど苛立ちがかなり大きくなっていたのだろう。その声には結構なすごみがあった。無論これだけのメンバーがその程度の事で口を閉ざしてしまうはずもないが、
「詭弁はもう良い、綾波を今すぐに返せ」
 もう一度口にし碇を睨み付ける……しかし、碇は全く動じたような様子はない。サングラス越しに2つの瞳が冷静にこの場とシンジを見つめて来ているだけだった。
「どこにいるのか分からぬのに返せと言われても困るな」
 当然のごとくすっとぼける。色々とシンジ達が頑張ったところで、こう言ったところで、碇を越える事などできないと言うのが、今の八方ふさがりに近い状況で分かった。ならば、単純に力押しの恫喝で行くしかない。
「その言葉が本当かどうか調べさせて貰おうか」
「許可無くターミナルドグマに足を踏み入れようと言うのなら、例えリリンの長官であろうと、チルドレンであろうと射殺する」
 キッパリと言い切る碇、それはとてもはったりのようには見えなかった。生身で行ったとすれば、本当に射殺されてしまうだろう。武装した親衛隊やリリンの戦闘部隊を本部に突撃させればどうか?……難しい。戦自が本部に侵攻したときは1個師団だったが、それだけの戦力をそうそう動かす事はできないし、リリンという対立組織が存在するためにネルフの対人戦闘の備えは随分強くなっていたはずである。
「ま……仮に、そちらの言うことが本当だったとしてもだ。話を聞いている限り、レイはネルフの者に誘拐されたとか本部に連れ込まれたというのではないのだろう?自由意志で本部に来るような理由があったと言うことになるが、果たしてそれはいったい何なのだろうな?」
「ぐっ…」
 話を逸らされているが、指摘されたとおりである。レイが何故ネルフ本部に入っていったのか分からないが、確かにレイはネルフの者によって本部に入れられたわけではなく、レイが進んで入っていたようなのである。
「そんな事は関係ない!別に助けを求めてきた綾波を保護しているとかそう言ったものじゃないんだろ!?理由など何の意味もない!今どこにいるかだ!」
「本部にはいない事は確かだ」
「とぼけるんじゃない!!」
「どうぞ」
 蘭子がまだ口を付けていなかった自分の分のコーヒーカップをシンジの前に移動させた。
「……あ…済みません」
 興奮させられてしまっていた。例え力押しで行くにしたって冷静にならなければいけないのに、熱くなってしまっては、それも又思うつぼに嵌ってしまう。あの程度の事でこんな風になってしまうとは……
 蘭子のコーヒーを貰ってゆっくりと飲みながら気持ちを落ち着ける。
 シンジやリリンが何とかできる程度の力押しでは駄目だと言っても、それで全ての道が閉ざされてしまったわけではない。レイラに東京軍を動かして貰えばいい。1個師団などと言ったけちけちとしたものではない。ゼーレ戦に備えて待機している軍を動かせばいい、更に戦自にも応援を頼めば、ネルフなどとは比較にならない対人戦闘用の精鋭部隊が軍単位で使えるようになる。それならばネルフなどとるに足らない相手であるし、それにまだシンジだからこそできる、シンジにしか出来ない力押しだってある。
 ゆっくりと深呼吸をしてから、又口を開いた。
「どうしてもとぼけるのなら仕方ない、不幸な結果が待っているだけだ」
「いったいどれだけの見込みを考えているのかは分からないが、そう簡単に動かせるものなのかな?そして、上手く行ったとしてもそれがリリンや東京帝国グループにとって良いものになるのかな?」
「必要ならするしかないだろ?」
「うむ、もっともな意見だ。横の3人はどう考えているのか知らないがな」
 碇に言われて3人の様子を見る…蘭子と榊原はポーカーフェイスでどう思っているのかはシンジには読めないが、レイラの表情は暗い。少なくとも諸手をあげて賛成と言う事はない。
 ゼーレに備えているために準備しているのであって、それがネルフを叩くような事になれば、ゼーレへの備えが弱くなるし、少なくともゼーレ戦に於いては味方のネルフを自ら叩くのは問題がある。それが碇が言った事なのだろうが……
「それだけではないと思うがね?」
 冬月が何か言ってきた。シンジの考えを読んだのだろうか?
「単純な損得の問題もあるだろうが、実際にそれが可能かどうかと言う問題も大きい。先ほど二人が示してくれたものに毛が生えたくらいの証拠らしきものを示しただけでは組織は動かない……そう言う事だよ」
「………」
「そうだったとしても、僕には母さんが付いている。母さんが協力してくれれば、ターミナルドグマまで行くなんて事は容易いさ」
 敢えて初号機を母さんと言い換え、動揺を誘ってみる。今まで全く変わった素振りは見せなかったのに、ユイの事を出すとそれだけで少し考え込んだようだ。こんな事なら回りくどい事はせずにユイの事を持ち出していれば良かったかもしれない。そもそも、碇の目的はユイであり、ユイだけなのだから。
「ユイはどちらを取るかな?」
「いままで自分が選ばれるような事をしてきたのかな?」
「さぁな…だが、ユイがどういう答えを選ぶにしてもお前の考えているような単純なものにはならない」
「随分自信があるんだな」
「ふっ…自信か?お前にはそう聞こえたのか?」
「ま、どれだけでも自惚れてくれればいいさ。どちらにせよ一旦動き出せば、ネルフには止める方法はない」
「そうだな」
 父と息子の対立の構図から元の構図に戻す。それもいつかは決着を付けなければならないだろうが、今はまだその時ではない。そんな事をしている場合ではない。
「動き出す前に綾波を返した方が身のためだぞ」
「ずっと知らないと言っているが……どうにも信用されないようだな。それだけ日頃の行いが悪かったと諦めるしかないか」
 大げさに溜息までついて……今までずっと殆ど反応らしき反応を示さなかっただけに腹が立つが、熱くなってはいけない。だから、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「そんな必要はないさ、今回もその悪い行いなんだから」
「どこまで行っても平行線を辿るしかないようだな」
「残念だけれど、そうみたいだね」
 碇の計画…ユイへの執着は半端なものではない。それこそ実際に世界をその引き替えに差し出した様なものだったのだから、この程度など今更の事でしかないのかも知れない。そう言った事が改めて分かると、シンジには成功しないと分かっている計画にどこまでも執着している碇がどこか哀れに思えてきた。この鋼鉄の意志・信念、今までの努力、全てを捨て去ってきた行為それら皆無駄になるとは……
「……最後に一つだけ言っておいてあげるよ、どう言う事があったって、最後に綾波は僕を選ぶ。ま、その意味を知る事はないだろうけれどね」
「そうか…」
 碇が何かを言おうとしたとき警報が鳴り響き、その言葉を遮った。
「警報?」
「…使徒のようね。戻りましょう」
 最後の使徒アルミサエル。遂に最後の使徒戦がやって来た。アルミサエルは、前回レイを自爆させるにいたらしめた使徒……あの時の光景が脳裏をよぎる。
(大丈夫。コレのおかげで、綾波が戦場に出る事はない)
 あの時の借りを返してやる。そう決意を新たに、シンジは席を立った。
 3人と共に執務室を出ようとしたとき、碇が声をかけてきた。
「面白い助言をくれた礼だ。時に知識は余計な先入観を与え、正しく理解することの妨げになることがあると言う事を覚えておくと良い」
 碇の言葉の意味するところが良くわからずに眉を顰める…そのまま立ち止まってしまっていたので、榊原が早く行きましょうと合図を送ってくる。
「……わかりました」
 釈然としない表情のままシンジは3人と共に総司令執務室を出ていった。
 扉が閉まると共に冬月が一つ大きく息を吐く。
「……もう後一歩だな」
「ああ、秒読みに入った」
「まさか、ここまで上手く持って来れるとはな。見事と言うしかない」
「冬月先生、今まで付き合ってくださってありがとうございます。そして後もう少しお付き合い願います」
「ああ、最後まで付き合うよ」


 使徒襲来の報に本部が大騒ぎになっていたころ、リツコがインペリアルホテルの一室でコーヒーを飲んでいた。
 飲みかけのカップを一旦テーブルに戻す。……テーブルにはもう一組、一足先に帰った者が使ったコーヒーカップが置かれている。
「全く忙しないんだから、折角のものなんだから、もっと味わっていけばいいのに」
 一言ぼやいた後、これからの事について考えを巡らす。これから自分がしようとしている事が意味するところ……これは女の意地なのだろう。
 しかし、殆どその間もなく、携帯が着信を知らせるメロディーを流し始めた。それも緊急時の連絡を示す曲を……
「はい?」
『あ、赤木博士!今どちらでしょうか?』
「ちょっと出かけているけど、10分で戻れる場所よ、何があったの?」
『使徒が現れました』
「分かったわ、すぐに戻るわ」
 リツコは携帯を切りから大きく一つ息を吐いた。
「…最後の使者がきたのね」
 残っていたコーヒーを一息で飲み干し、ゆっくりと席を立ち部屋を後にした。
「これで、計画の実行の時は本当に間近になったわけね。ゼーレのも、司令たちのも…そして、私たちのも」


あとがき
アスカ「さ〜て、二人共なんか言いたいことある?」(にっこり)
シンジ「うう……」(汗)
レイラ「ぅぅ……」(汗)
アスカ「全く、単なる怪我で入院とかじゃなくて、あんな状態になってしまったって言うのに、
    ずっと見舞いの一つも来ないなんてね……」
アスカ「まあ、あんな状態だから、見舞いに行っても……って言うのはあるかもしれないけど、
    アタシは、人としてそう言うのはどうかと思うわねぇ」
シンジ(ぐさっ)
レイラ(ざくっ)
アスカ「ああ、アタシってなんて可哀想な星の上に生まれてしまったのかしら……」
シンジ「あ、あすか……そ、その……」
アスカ「あに?」
シンジ「な、なんでもありません……」
アスカ「そ?なら良いけど、これからはそんなこと無いようにしてほしいわね」
シンジ「も、もちろんだよ」
レイラ(コクコク)
アスカ「しっかし、どうしてアタシがクライマックスを前に舞台を降りなきゃなんないわけよ?」
アスカ「表じゃ量産機をばったばったとこの手でなぎ倒したって言うのに……」
アスカ「随分状況が悪いし、ここはこのアタシのやっぱ奇跡の復活しかないわね」
レイラ「あ、でも、アスカさんはレミさんとしても舞台に上がってるわけだけれど?」
シンジ「レミもアスカだからね」
アスカ「……それもそうね」
シンジ「と、言うことはレミが九号機で大活躍するのかな?」
アスカ「それも良いわね」
レイラ「でも表よりも全体の状況は悪いはずだから、簡単にはいかないかも」
アスカ「む…それもそうね」
シンジ「槍のコピーも9機全部が持ってるのかな?」
アスカ「まずい、それは拙いわよ。オリジナルの槍は宇宙の彼方にすっ飛んでいってしまったし……」
シンジ「綾波は父さんが返してくれなさそうだし……」
レイラ「エヴァの数は多そうだけれど……」
アスカ「数よりも質よ、烏合の衆じゃ役に立たないわ」
シンジ「うん……」
アスカ「ここは、やっぱり、アタシの奇跡の復活しかないわね!」
アスカ「禁断のアスカ・レミのデゥアルシンクロ!シンクロ率のハイパーインフレを起こすしかないわ!」
シンジ「エヴァに取り込まれちゃったりとかしないのかな…?」
レイラ「400を越えると危険なんだよね?」
アスカ「そんなの気にしてるんじゃないわよ!他に手はないのよ!
    それに、溶けちゃってもサルベージすればいいだけじゃない」
シンジ「でも、アスカとレミが一緒に溶けてもサルベージできるのかな?」
レイラ「ジュンコさんに聞いてみる?」
アスカ「ああ、確かにそうね。まあ、そんなこと言ったって
    元々どっちもアタシな分けだから一緒になるかも知れないかもって位でしょ?」
シンジ「そんなものなのかな?」
アスカ「アタシが良いって言ってるんだから良いのよ、ああ、早く禁断の競演を見てみたいわ〜」
レイラ「本当にそうなるかどうかは別としても、このどうなるのかわからない展開の結末早くみたいね」
シンジ「そうだね」


第3新東京市市内、バー
蘭子 「碇司令は、ずいぶんいい役をしていますね」
碇  「そうか?私なりに当然の行動をしているだけだと思っているが」
蘭子 「いい役をしていますよ、私たちなんて最近いいようにやられっぱなしですしね」
碇  「リリンという組織だけならともかく、少し抱えすぎかな?」
蘭子 「そうですね……特に三人の問題は私たちには重すぎです」
碇  「それは目的が明確でないから、戸惑いが生じるのだ」
碇  「目的が明確に定まっていれば、それに至るためのすべてを手段としてとらえ、そう対応していく」
碇  「とは言え、あんなことをシンジに言ってしまうなどと、私もまだまだなのかもしれんがね」
蘭子 「それが人間というものですよ、完全に割り切れる人なんていません」
蘭子 「……私たちはもっと割り切った方がいいのでしょうが」
碇  「そうだな。もっとも、そうなると私が困ってしまうな」(笑)
蘭子 「そうですね」(くすくす)
碇  「時がきたら仕掛けるが、そのとき君は対応しきれるかな?」
蘭子 「どんな手を仕掛けてくるつもりなんです?」
碇  「さぁ、そのときまでの秘密だ」
蘭子 「けちですね」
碇  「目的を果たすためにはそれもいいだろう?」
蘭子 「信念の人だって話を聞いたことあるんですけど、ホントですね」
碇  「誰がそんなことを言っているのやら」
蘭子 「何人も言ってますよ」
碇  「……そうか、」
蘭子 「ま、難しい話はこのくらいにして今日は楽しみませんか?」          
碇  「そうだな……たまにはそれも良いだろう」
………
………
………
蘭子 「そんなに、ユイさんって凄い人だったんですかぁ〜?」
碇  「当たり前だ、ユイ以上の存在などいるはずがない。ああ、ユイ………どうして、あんな事に……」(涙)
蘭子 「ふ〜ん、だからって、ユイさんとの愛の結晶じゃないんですか?シンジ君はぁ〜」
碇  「ふん、全く問題などない」
蘭子 「あら?随分キッパリ言うんですねぇ〜」
碇  「当然だ。もう11年も前に答えを出した問題だ。私は自らの道を進むしかない
    ……もうそれ以外に選択肢などどうしてあり得ようか」(泣)
蘭子 「あら〜良い子良い子」
碇  「やめい」
蘭子 「あら」
碇  「うう、ユイぃ〜」(泣)
蘭子 「大の大人が泣かないの」
碇  「私の気持ちが分かってたまるものか」
蘭子 「そんなの分かるわけないじゃない、分かって欲しければ、
    ちゃんと言葉にして言わないと伝わらないわよ」
碇  「それもそうだな、私が言いたいのはだな」
冬月 「おい、碇」
碇  「む……冬月か」
榊原 「蘭子さんも、こんなに飲んで……」
蘭子 「あら、榊原さん、来たんですか……、そうだ一緒に飲みません?」
碇  「おお、それは良い、冬月ちょっと来い」
冬月 「やめんか!飲み過ぎだ!」
碇  「何をぉ〜?」
冬月 「連れて行け」
黒服s 「「「はっ」」」
碇  「ぐお、離せ!私をだれだと思っているぅ〜!?」
榊原 「蘭子さんも」
蘭子 「……榊原さん、命令違反って罪重いんですよ?」(目が据わってる)
榊原 (汗)
榊原 「ええ、ままよ、おい、連れて行け!」
親衛隊員s 「「「はい」」」
蘭子 「なによ、気持ちよく飲んでいるのに!離しなさいよ!」
二人とも連行されていき、冬月と榊原の二人が残された。
冬月 「全く、どうしてこんな事になったのやら」
榊原 「どっちもストレスが溜まっているのかも知れませんね」
冬月 「ストレスなら私の方が溜まっていると思うのだがな」
榊原 「TOPにいると言う事はそれだけで色々とあるんでしょう。
    場合によっては我々がああなっていたかも知れません」
冬月 「それもそうだな。まあ、アレの場合は、少々自業自得なところが大きいがな」
榊原 「どうでしょう?折角ですし、我々も少しここで飲んでいきませんか?」
冬月 「それは良いな、君とは色々と話をしたいことがあるし、丁度良い」
………
………
………
冬月 「このあたりにしておこうか」
榊原 「ええ、今日はお話し出来て良かったです」
冬月 「それは私もだよ」
定員 「伝票は、こちらになります」
冬月 「ここは私が持とう」
榊原 「薄給で御苦労されているのに、そんなことはさせられません。私が持ちます」
冬月 「私の方がずっと年長だからね、こういう者は若い者は素直に………」(滝汗)
榊原 「?」
冬月 「あ、いや……そのだな……あ〜〜…お願い出来るかなぁ?」(汗)
榊原 「……?」(伝票をチラッと)
榊原 (滝汗)
榊原 「……え、えっと、ここはやはり年長者を持たせなければいけませんし」(汗)
冬月 「いやいや、遠慮することはないよ、」(汗)
この後どちらが会計を持つかと言うことで揉めに揉めまくっていた。
割り勘というシステムを思い出したのは又随分先のことだった。
冬月 (碇のやつ、いったいどれだけ飲んだんだ!)(怒)
榊原 (……蘭子さんはざるなんだった……)(鬱)