ミサトはヒカリの病室を訪れた。 ヒカリは打撲などは多数見られたものの、特に大きな問題もなく2、3日の内には退院できるだろうとのことである。 「調子はどうかしら?」 「…特に、悪くはありません」 ミサトは一つ息を付いてからベッドの脇の椅子に座った。 「そう…まずは、貴女のこれからのことだけれど…参号機は破棄され貴女が乗れる機体は存在しないわ。よって、予備チルドレンとして登録されることになるけれど、まず貴女が再びエヴァぁに乗る様なことはないと思うわ」 「…そうですか、」 「ええ、」 暫く沈黙が流れる。 「…エヴァぁに乗れなくなったわけだけど、その事どう思うかしら?」 ヒカリは軽く天井を仰ぎ、それから視線を陽光が射し込んできているジオフロントの方に向けながらそれを語り始めた。 「色々と…複雑な気持ちです…」 「そっか…簡単には言葉に出来ないか…」 ヒカリはジオフロントに視線を向けたまま、特に答えを返さなかった。 「私はもう行くわね…シンジ君達がもう少ししたらお見舞いに来ると思うわ」 「……待って下さい」 暫くしてからミサトは黙って席を立ち病室を後にしようとしたが、ヒカリが呼び止めた。 「何かしら?」 「…えっと…その…」 もごもごとしていて、なかなか言葉を発せない…さっき呼び止めたのも、何か具体的に話したいことがあったから呼び止めたわけではなさそうだ。 「又、話す機会はあるから、その時に聞かせてくれるかしら?」 「…はい、」 「じゃあ、またね」 ミサトは病室を後にし、本部に向かった。 夕方になって、参号機と使徒の調査・分析をしていたリツコ達が本部に戻ってきた。 それと同時に様々な情報が作戦部の方に回ってきたので、今それを読んでいる。 「う〜ん…しかし、エヴァの輸送中に使徒にとりつかれた可能性が高いとしたら、これからはエヴァを運ぶ方法も考えなければいけませんね」 「そうね…」 参号機はウィングキャリアーにぶら下げて太平洋を横断させた…その間に寄生されたわけだが…これからの使徒を考えると、第十六使徒以外では寄生というのはいまいち考えにくい。最終段階でネルフの戦力を増強させてくれるほどゼーレは優しくない…そして、次の使徒でこそ戦力の増強はしたいが到底間に合うとは思えない… 今、ミサトは報告書を読みつつ、次の使徒への対策を考えていた… 弐号機・零号機ともに為す術もなく敗北を喫した。特に零号機に至っては、コアにNN爆弾をぶつけようとしての事である。実際はコアには直撃していなかったのだが…まるでダメージを受けていないようだった…まさに化け物である。 結果的には初号機の暴走によって倒すことに成功したが…又初号機の暴走に頼るというのか? (…とりあえずは、リツコにも知恵を貸して貰うか) この前のことでリツコはミサトのことを信じてくれたはず…ならば…と、 深夜になってからリツコの研究室を訪れた。 ミサトが研究室に入ったときリツコは端末に向かい、分析を進めていた。 「リツコ…時間良いかしら?」 「ええ…来ると思っていたわ、」 キーボードを叩く手を止め、ミサトの方を向く、 「…まず、ミサトが言っていた、未来のことを知っていると言うことが本当である可能性はかなり高いと判断できたわ」 何か引っかかるところがある言葉だったため、笑顔を浮かばせることは出来なかった。 「…但し、逆にその知識で私を利用しようとしていると、言う可能性を捨てることは出来ないわ」 「……」 「だから、無条件にミサトを信頼することは出来ないけれど…ミサトの意見を聞いた上で、どうするのか考えてみようかと考えているわ」 「そう…分かったわ」 冷静に考えるリツコらしいとも言えるかも知れない… 「それで…今日は?」 「あ、ええ…とりあえず、急なところで、次の使徒のことなんだけれど」 「ああ、確か余り間がないって言っていたわね」 「確か、1週間くらいだったと思うわ」 「…そう、かなり強いのよね」 「ええ、それで、リツコから何か知恵を借りれたらいいと思ってね…」 リツコは顎の辺りに手をやり少し考え始めた。 「…零号機は今は片手で、修復はともかく調整は難しいかも知れないわね…と言っても戦力的には3機とも使えるとは思うわ」 「前回は…弐号機と零号機は何の役にも立たなかったわ…特に零号機はNN爆弾をコアにぶつけようとしたけれど…」 「……そう…全戦力投入で倒せなければ初号機に頼るしかないわね」 「…そう…ね…」 あの時、400%を越えるシンクロによりシンジはLCLに還ってしまった…ああなってしまわない方が良いのだが… 「とりあえず、何かないか考えてみるわね」 「お願いするわ」 「やぁ、随分早い時間だな」 どこかのんきそうな声を上げながら、未だ薄暗い中、待ち合わせをしていた加持が姿を現した。 ミサトは徐々に明るくなってくる中に浮かび上がっている第3新東京市を見下ろしながら、反応を返した。 「ま、時間が押してるからね…」 「それで、」 煙草を取り出し、火を付ける。 「ええ、リツコは私が未来のことを知っていると言うことは認めたけれど…」 「疑いもかけられたままか」 「そうね…」 リツコはこれからどこまでミサトの思う方向に行動してくれるのだろうか? 「ま、一歩大きく前進したんだ。又一歩進めるようにこれから努力していけばいいさ」 「そうね」 昼前、シンクロテストが行われていた。 シンクロテスト自体は、前回行われてから少し間が空いており、久しぶりといえるかも知れない。 モニターに目をやると様々なグラフや数値が並んでいる。それが具体的に何を示すのかミサトに分かるのはその一部だけだが、それでも、シンジが随分好調…アスカと同等かあるいは、アスカよりもやや上になっているくらいではないかと思える。 リツコに目をやるとやや複雑そうな顔をしている…おそらくは、ミサトと同じ事を考えていたのだろう。シンジがアスカを抜いたとき、どうなるのか…状況が違う以上同じようなことには成らないが、それが良い意味とも限らない。 「先輩、シンジ君遂にアスカを抜きましたよ」 マヤの声で遂に来たと言うことが確定し、軽く息を付いた。 「そう…」 「…二人ともどうかしましたか?」 「ん、いえ、アスカのことがちょっと気になってね…」 「アスカですか?」 「あの子はプライド高いわ。それが傷つけられてしまうかも知れないわ…それが、心配なの」 少し考えた後、リツコの言葉に同意する。 「リツコ、シミュレーションで模擬戦出来るかしら?」 「今から?」 「ええ、」 「……分かったわ、準備させるわ」 前回は第拾弐使徒の前だった…今回は第拾四使徒の前にこうなってしまった。 果たして、どんなことになるのだろうか?第拾四使徒戦の後アスカは敗北のショックに襲われていた…使徒への敗北と言うよりもシンジへの敗北という意味合いが強かった。とんでもないことにならなければいいのだが…… テスト終了後、シンクロテストの結果を伝える…それと同時にアスカの目が大きく開かれた。 「さて…これからだけど、午後に模擬戦をやって貰うことにしたわ」 「模擬戦ですか?」 「ええ、それぞれでシミュレーションでやり合って貰うことにしたわ」 「それとアスカ…ちょっと話があるんだけど、良いかしら?」 そしてアスカと二人でミサトの執務室にやってきた。 アスカは黙ったままで、口を開こうとはしない。 「シンクロ率は、シンジ君の方がアスカよりも上になったわ…でも、だからといってアスカの価値が変わるわけではないし、今後も作戦上の主力はアスカのままよ」 黙ったままで特に反応を返さない。 「作戦上主力に求められるのはシンクロ率ではなく戦力、戦力ではアスカが群を抜いているわ」 「最も…その戦力がどうなろうとアスカがアスカであることには何の変わりもないのだけれどね」 なんだか、露骨にアスカをフォローしていると言うような雰囲気になっている気がする…それをアスカがどう思うか… 「……で?」 「そんな深刻に考える必要なんかどこにもないってことよ」 何とも表現し辛いような表情のまま黙っている。こういう状況だと困ってしまう。いったいどういう言葉をかければ一番良いのかさっぱりわからない。 「……ミサト、」 「何?」 暫く悩んでいるとアスカの方から声をかけてきた。 「ま、良いけど…お昼食べたいから、話それだけなら良い?」 「え?ええ…」 素っ気ない言い方ではあるが、表情が少しは良くなっている。若干なりとも効果はあったのだろうか? 午後の模擬戦では、初号機と零号機のチームに対して弐号機は1機で優勢に戦闘を展開していた。 「やっぱり、流石ねぇ」 同時に2体を相手にしては勝てないので、あの手この手を使って1対1の状況を作り出し、1対2になると一旦引くなどしている。 「ま、これで、ひとまずは落ち着いてくれるでしょうけれど…」 結局、根本的なところが解決していない以上、結局この問題は引きずったままである。 (今は…あの使徒のこと考えないと…) 訓練が行われる中、ミサトは使徒のことに考えを巡らせた。 夕方、リツコの研究室に呼ばれた。 リツコはなにやらパソコンを弄っているが何をしているのかは分からない。それが終わるまでミサトはコーヒーでも飲も事にした。 そしてコーヒーを入れてから暫くしてその作業が終わったようだ。 「少しシミュレーションをしてみたわ、見てもらえるかしら?」 「ええ、」 モニターに第参使徒をアレンジしたような使徒が表示される。 「見た目は第参使徒みたいだけど、シンクロ率200%のエヴァと同等の戦力の使徒よ」 「200%ねぇ…」 初号機は400%を越えてカウンターストップになったため、実際の値は分からないが、余りにも圧倒しすぎていたため、参考には成らない。果たして使徒の力はどれほどの物であったのだろうか? 3機のエヴァの回りに現在ネルフが保有するありとあらゆる兵器が展開される… 空を飛んで侵攻してきた使徒に向けて第3新東京市中の全ての兵装ビルが猛攻を掛ける。瞬間的に光と煙に包まれるが、その中から平然とビームを撃ってきてビル、そして町を破壊していく。 零号機が陽電子砲をぶっ放すがATフィールドに弾かれる。対して使徒の方は中和距離の外からビームを放って来たが、零号機のATフィールドを打ち抜きそのまま吹き飛ばした。 初号機と弐号機が手頃なビルを足場に跳躍し、一気に差を詰めて斬りかかる。どちらも直撃する…しかし致命傷には至らない…そして、初号機がビームで腹部を貫通され、更に弐号機も右腕を斬り飛ばされる。 (…だめ、か…) 「…あの使徒は多分だけど…もっと強いわ」 「そう…」 「…結局初号機に頼るしかなくないかもしれないわね……」 研究室を重い空気が包み込んだ。 夜、ミサトが帰宅するとシンジとレイは夕食を用意してミサトの帰りを待っていた。 「お帰りなさい、」 「ただいま、夕飯待っててくれたの?」 「ええ、もう少ししたら二人だけで食べようかと思っていたところです」 「セーフだったのね、じゃ早速頂きましょうか?」 それぞれ席に着き夕飯を食べ始めた。そして、その食事の途中でミサトは話を切りだした。 「ところで、シンジ君、遂にシンクロ率が一番になっちゃったわね」 「そうですね…」 余り嬉しくはなさそうである。 「あんまり嬉しくない?」 シンジはコクンと頷いた。 「…一番になったって言っても綾波と一緒になってもアスカには勝てなかったのに、アスカは機嫌悪くなるし…あんまり嬉しい訳じゃないです」 「そ…アスカって、エヴァぁに関して色々と思い持っているのよね…シンクロ率もその中で強いものの一つね」 「レイが零号機を起動したのは第伍使徒の時だし、シンジ君は第参使徒の時…それまでは、実際にエヴァぁに乗れるのはアスカ一人だったのよね…それで、回りもずっとアスカにより確実に、そして上手くエヴァぁを動かせる事を求め続けてきたのよ」 「それがあまりに強かったから、アスカ自身自分の価値の多くをエヴァぁに依存しちゃったんでしょうね…エヴァぁのパイロットとしての価値が下がることは自分自身の価値が下がると言うこと…そんな風に結びついちゃっているのかもしれないわ…」 二人は程度こそあれどちらも複雑そうな表情をしている…ひょっとしたら自分のことを考えているのか、あるいは自分にそれを当てはめているのかも知れない。 「二人だって、エヴァぁのパイロットと作戦指揮官と言うつながりはあるけど、それがなくなったて家族であることは変わりないでしょ、私にとって二人は家族であると言うことの方が大きいんだから」 少しの間その言葉を噛み締め、そして笑顔を浮かべる。 「アスカだって、エヴァぁに乗れなくなったからって、貴方達がアスカとはもう友達じゃなくなるなんてことないでしょ」 「そんなことないですよ」 「でしょ、エヴァぁに乗れようが乗れまいがアスカはアスカなんだから…確かに、アスカをエヴァぁのパイロットとして重視してる人もいるけどそうじゃ無い人だってちゃんといる。その事あの子に教えてあげてくれないかしら…難しいって事は分かってるんだけど」 「わかりました…何とかアスカに伝えてみます」 「お願いね…貴方達が今一番アスカに近い人間でもあるから」 二人はコクンと頷いた。 リツコの執務室で、次の使徒に関することを二人で相談していた。 「もし、ミサトの言うとおりの強さであったとしたら…まず真面目にやって勝つ見込みはないわ」 「……そうね、」 「そうすると、初号機をいかに上手く暴走させるか…と言うことになるわ」 「暴走させる方法は…初号機を追い込むわけ?」 「そう、初号機を追い込めば…暴走に繋がるわ。但し…暴走しても既に致命的なダメージを負っていたとしたら意味がないわ…」 「なるほど…」 さっきからミサトは顔を顰めっぱなしである。初号機を暴走させると言うことはどう言うことか…それは、シンジに多大な負担をかける。いや、高レベルでシンクロしている以上実際に傷つけられ苦しめられるようなものである。 「……フィードバックを下げられないかしら?」 「フィードバックを下げると言うことは実質シンクロ率を低下させるという事よ、それに合理的な理由を見いだせる?」 「……無理ね、」 暴走を前提にと言うような作戦以外ではそれを必要とするはずがない、しかし、そんな作戦を立てることは作戦部の価値を否定していると言うことでもある。 「作戦案として司令があらかじめ承認していればいいでしょうけれど、そうでなければなんらかの処分は免れないわね」 「……出して認められるかしら?」 「……ミサトの状況を考えると微妙ね、」 「そっか……」 2日後…そして、遂にその使徒が襲来した。 「海上自衛隊の艦隊が攻撃を仕掛けます」 モニターに映る艦隊から使徒に向けて攻撃が仕掛けられる…しかし、ATフィールドによって阻まれ全くダメージを与えることは出来ない。 そしてモニターが光り映像が途切れ、同時に作戦マップから艦隊の半分ほどが瞬く間に消滅した。 「…全滅か、」 「あんまりですね…これは…」 「…第3新東京市の全兵装ビルを展開…エヴァぁの発進準備させて」 「「了解!」」 「完了したら、初号機と弐号機を前衛に、零号機を後衛として射出して」 「了解」 (…どうなるか…) 暫くして3機がそれぞれ射出される。 使徒が外輪山を越え、射程距離に入ると同時にミサトが攻撃命令を下し、無数の攻撃が仕掛けられる…が、全く利かない… エヴァも攻撃に参加し更に火力がますが…利いているようには見えない… 使徒の顔の辺りに少し光が見えた…あのビームが来る。 「避けて!!」 ミサトが叫んだ直後、使徒がビームをエヴァに向かってぶっ放してきた…間に存在したビルをいとも簡単に貫通し弐号機のATフィールドを貫通したが、反応が間に合い脇の辺りをかすめただけで背後の丘で大爆発を起こした。 『なんなのよこれは!!』 ATフィールドを一発で貫通されたことである…余りにも強い事に驚きからの叫びが飛び出た。 「注意してATフィールドを中和して!」 舌打ちをした後、初号機とともに使徒に向かって駆ける…ビームが発射され、初号機の直ぐ傍にあったビルが消滅し地下の装甲板を次々に打ちぬく。 「止まったらやられるわ!!」 中和距離にはいると同時に零号機が陽電子砲を放ち、青白い光が使徒に吸い込まれていくように直撃し、爆発する…軽く肩の辺りの肉を抉った物のそれだけで、戦力に影響はないだろう。 「なんてやつ…」 「どうする?」 弐号機と初号機は同時に襲いかかる…アクティブソードもソニックグレイブも刃が肉に食い込むが斬ることは出来なかった。 「ばけもの…」 使徒は帯のような触手で弐号機の右腕から右脇腹、初号機の左手を切り飛ばす…二人の絶叫が発令所に響く。 「シンジ君!アスカ!!」 零号機が陽電子砲を再度放ち、直ぐにスナイパーライフルも撃つ。青白い光が先ほど直撃した部位と同じ場所に直撃し、今度はより大きく抉る…更にその場所に砲弾が直撃し貫通し、肩が吹き飛んだ。 「よしっ!」 有効なダメージが与えられた!もしかしたら!とミサトが思った瞬間、ビームが零号機に向け放たれた。 「あっ!!」 ビームは零号機のATフィールドを突き破りそのまま零号機の右半身の吹き飛ばす…レイの絶叫が発令所に響く。 「レイ!!」 叫びマヤに視線を向ける、それぞれの状況を分析しているマヤが一番最初に正確な情報を報告するはずである。 「レイは無事です!」 その言葉にとりあえずはほっとする。既に神経接続も切られ、回収班が向かう。しかし、状況は極めて拙い…弐号機・初号機とも戦力は半減している。使徒も戦力は減っているとは言え、未だこちらの方が減少の度合いは小さい。 「支援兵器、吹っ飛んだところを狙って!」 「了解!」 「両機は中和距離を保って!」 中和しているところに支援兵器からの攻撃が吹っ飛んだ肩の部分に集中される。 直接肉に砲弾が食い込み破壊する…対する使徒は支援兵器に向けて次々にビームを発射する…第3新東京市やその周辺に次々に火柱が上がる。 「どう!?」 「…致命傷には至らないようです」 煙が晴れ再び映像が入ってくると、胸の辺りまで大きく抉れていたが、それだけでもある。コアにはダメージは無いのである。一方の支援兵器はほぼ壊滅状態、第3新東京市自体も甚大な被害を受けている。 「二人とも仕掛けて!!」 ここでエヴァに攻撃させる。戦力的には落ちているだろう…いけるかもしれない。 弐号機がソニックグレイブを肉が剥き出しになっている胸につきたて、そのまま貫き、ビルに串刺しにする。ビルを破壊しながら体勢を起こし残った触手のような腕でソニックグレイブを引き抜こうとしたところに初号機がアクティブソードで斬りかかった。使徒が反応できないままアクティブソードが使徒の首を跳ね飛ばす。 「よっしゃぁ!!」 ソニックグレイブを放し、初号機に腕を伸ばしてくる…何とか躱す事ができたが、横に振る事で初号機は弾き飛ばされ、半壊していたビルに突っ込み、崩れてきた瓦礫の山に沈んだ。 そのときには生き残っていた兵装ビルから新しく武器を持ってきた弐号機が到着する。使徒はそのまま弐号機に体を向ける。攻撃方法はあの腕一つ、弐号機も片手で脇腹を切られているが、どうであろうか? 「支援できるのは!?」 どれぐらいのサポートができるかを確かめる。 「今すぐ可能なのはミサイルビルと砲座が1に、通常部隊が若干です」 「構わないわ、気を逸らすくらいならできるわ。仕掛けた瞬間を狙いなさい!」 「了解」 使徒の方から仕掛けた。腕を弐号機に伸ばす…対する弐号機はそれを確認してから一気に間合を詰めながら腕を避け、ソニックグレイブでコアを狙う…しかし、コアに直撃するかと思われた瞬間コアが殻に覆われ、ソニックグレイブが弾かれた。 『なっ!』 アスカが驚いた瞬間、使徒の腕が弐号機に襲い掛かったが、又同時に支援兵器からの攻撃が使徒に浴びせられる。 いくら微々たる攻撃であるとは言え、流石にこれ以上のダメージは拙いのか、弐号機への攻撃を止めて距離を取りATフィールドで攻撃を防いだ。 様子から見て後一歩のはずである…後何か決定的な攻撃を一度仕掛けられれば…ミサトがそう考えている間に弐号機は半壊しているビルによじ登り高い場所から一気に飛び掛った。それと同時に足場となったビルが倒壊する。その時使徒は腕で支援兵器を攻撃していた瞬間で反応が遅れ、そのまま首から脇腹にかけて貫通され、そのまま地面に打ち付けられた。戻ってきた腕を弐号機は躱すが、判断を誤ったのか装甲ビルがある側に避けてしまい、装甲ビルが障害となる。 普通のビルであれば破壊するなりなんなり出来たかも知れないが、装甲ビルではちょっとやそっとではどうにもならなかった。 『え?』 「神経接続カット急いで!!」 ミサトが叫んだ次の瞬間、使徒の帯のような腕が弐号機の首を狩った。首が宙に飛び、少し離れたビルに落下し崩壊させる。 「間に合いました!アスカは無事です!」 マヤの報告にほっと一息つきたいところだが、そうもいかない。瓦礫から這い出した初号機が使徒に向かっているがダメージは決して小さくない…一方の使徒の方は、地面に固定されてしまい、何とかそれを外そうとしているが上手い具合に何かに引っかかっているのか、なんなのかは分からないがなかなか上手く行っていないようだ。 「シンジ君!コアを狙って!」 初号機はアクティブソードを使徒のコアに向けて振り下ろす…コアをガードした殻によって弾かれるが、再び振り下ろす。使徒は腕で初号機を攻撃しようとしたが、もう随分弱っていたのか、比較的簡単に避けられ、再びコアにアクティブソードを振り下ろす。 幾度かそれが繰り返されたとき、遂に殻が割れコアが剥き出しになった。そして、再び攻撃を躱し最後の攻撃を打ち込んだその瞬間モニターが光に包まれ直後ものすごい衝撃が施設を襲った。 発令所の中でもあちこちから悲鳴が上がる。今までに襲われたような衝撃よりも数段上の衝撃であった。 「何が起こったの!!?」 「現在状況分析中暫くお待ちください!!」 1分ほどでモニターなどが復旧し状況がわかった。 最後の瞬間使徒は自爆したのかそれとも単なる爆発だったのかは分からないが、第3新東京市の一部がクレーターと化し、更にその一部は全ての装甲版を貫通しジオフロント、更には本部の上部施設にまで被害が及んでいた。 初号機はジオフロントで発見され、その後の回収班の報告ではシンジは打撲などはあるものの、無事であると言う事である。 暴走に頼らずともあの使徒に勝てた。ミサトはその事を喜ぼうとしたが…モニターに映った壊滅的打撃を受けた第3新東京市を見て、到底喜ぶ事はできなかった。 夕方になってからミサトは中央病院に3人の様子を見に来た。 もう掃除されているが、かなりの数の窓ガラスが割れている。状態はともかくまともにガラスが残っている窓はかなり少ない。そんな通路を医師と並んで歩きながら3人の容態を聞く。 「まず、綾波レイさんに関しては、右半身の神経にダメージを負っていて暫くは痛みが酷いので薬で痛みを抑えています。まあ、2週間もすれば元通りになるでしょう」 「そうですか、」 「次に碇シンジ君に関しては、左手がしびれて動かないようですが、これは2、3日もすれば暫くすれば快復します。他には目立った怪我もなく、明日には退院していただいて結構です」 「最後に、惣流アスカさんについては、右手と右脇腹にシンジ君よりもやや酷いダメージを負っていますが、これも数日で回復します」 「わかりました」 「3人の病室はここです」 病室のドアの脇には3人の名前が入ったプレートがある。 「私は、これで、」 「ありがとうございました」 ミサトは医師にお礼を言ってから、病室のドアを開けた。 ちょうど、レイがベッドに横になっていて、シンジとアスカが脇の椅子に座って、なにやら話をしているている最中であった。 「3人とも体は大丈夫?」 3人の返答は医師から聞いたとおりだったが、みんな元気そうである。 「今日は3人とも大活躍だったわね。ホント、みんなよく頑張ったわ、御苦労様」 今日の戦いは本当にぎりぎりの戦いだった。だからこそ、3人がいたからこそ、3人がそれぞれ活躍したからこそ勝てたという事は本人達も良くわかっていた。それが、アスカの機嫌が非常に良いことにも関係しているのかも知れない。そしてもう一つ、シンジとレイがアスカにちゃんと伝えてくれたのだろう、アスカの価値はエヴァだけではないと…これで、3人にはしっかりとした絆が出来たはず、もう大丈夫だろう。 「レイがこんな状態だし、今すぐって訳にもいかないけど、又どっかつれてってよ」 「分かっているわ、3人が行きたい店、それぞれ行きましょ♪」 ミサトの言葉に3人は笑顔を零した。