再び

◆第14話

 ミサトは加持の部屋で加持が持ってきた多くの情報を見ていた。
 碇達が進めている計画は人類補完計画とは共通する部分もあるが相反する計画であるように思える。しかし、詳細に関してはこれらの情報からは読みとれなかった。
 ただ…初号機に眠るシンジの母親であり碇ゲンドウの妻である碇ユイに深く関わりがある計画であると言うことだけはわかった。
「加持君どう見る?」
「推測…と言うよりも憶測で自信は全くないんだが…司令はユイ博士の復活でもするつもりじゃないかな?」
「碇ユイ博士の復活?」
「その方法が補完計画に関わりがあるなら納得できることもあるんだが…その一方で、リッちゃんが余計に分からなくなるんだな、これが、」
「妻の復活の計画に愛人が手を貸すか?って事ね」
「ああ、いくら惚れた相手に…ってのでも無茶あるだろ」
「そうねぇ…そう考えるとリツコはその真実を知らないのか…あるいは、推測が外れているかって事かしらねぇ」
「どっちかってのは大きいな…前者ならそこをつけばいいとはおもうんだがな…」
 加持は煙草を一本取り出し火をつけた。
「そうね…後者なら、失敗確定か」
「調べられると良いんだが」
「どうする?」
「しばらくは当たってみよう…どう転ぶかは、予想できないけどな」
「駄目なら破れかぶれ、か」
「そうなるな」


 ミサトは執務室で溜息をついていた。
 明らかに棘が…と言うような事はなくなったものの、アスカとの関係はそこからなかなか回復していない、依然として反感というようなものは強い。
「困っちゃったわね…」
 このままでは、後々何か大きな問題が起きかねないとは言え、何か打開策があるわけではない。
 時間に任せるしかないが…それまでに何も起こらなければいいのだが、
 一方、碇の計画に関しては加持が色々と調べているが、今のところ何もでてこない…ゼーレもつかめないような計画である以上それが当然なのかもしれないが、
 何にせよ、不安なことばかりである。
 本日何度目かの溜息をつく。


 夕方、ミサトは帰り道の途中で赤信号で停車すると、反対側の歩道をシンジ、レイ、ヒカリの3人が歩いているのが目に入った。
 買い物の帰りであろうか、スーパーの袋を手に提げている。何を話しているのかは分からないが、それなりに楽しそうに歩いているように見える。
(…あの3人は大丈夫ね…でも…)
 信号が青になったので車を走らせた。
 

 翌日、ミサトはジオフロントの加持の菜園にやって来た。
 丸々と大きくなったスイカが実に美味しそうである。
「やぁ、来たのか…良いだろこのスイカ、一つどうだい?」
「良いわね、一つ二つお土産に貰うわ」 
「じゃあ、後で好きなのを選んでくれよ」
「ありがと。ところで、アスカのことで困ったことになってるんだけど…」
 一言お礼を言ってから今日の本題を切り出す。
「アスカ?どうかしたのか?」
「ええ、アスカが加持君に憧れてるのは分かってるわよね」
「ああ、」
「それで、私たちの事で反感持っちゃってるのよね」
 一瞬意外と言ったような表情を浮かべた後、弱ったなぁと言ったような表情をしながら、頭をかく…手には結構泥が付いているようだが…
「う〜ん、そりゃ又困ったなぁ…」
「それで、どうしようかって思ってね」
「そうだな…今度の日曜日にでもアスカのご機嫌とりでもするかな?」
 加持の提案を考えてみる。それならばとりあえずはアスカの機嫌は回復するだろう。
 だが、それでは根本的な解決にはならない。
 そして、ミサト自身にとっても、加持が他の女の子の御機嫌取りをするというのは、好ましいことではないのだが、他に手が思いつかない以上、ここは自分が引くしかない。
「…お願いしたいわね。でも、それじゃ根本的な解決にはならないわね」
 大小は不明であるが二つの意味であんまり気が進まないというのは、声に良く現れている。
「そうだな、」
 加持はじょうろで畑に水を撒き始めた。
「…根本的な解決か…どうすればいいのかな?」
「わかんないわね。恋人でも出来ればいいのかもしれないけど…」
 今、アスカと接点のある異性は極めて限られている。
 学校に通っていないと言うことも大きいが、接点があるのは、加持、シンジ…後はネルフつながりで、日向などの作戦部・技術部の職員だけである。
 本人達がどう認識しているかは置いて置いてもシンジはレイといい仲になっているし、そう考えるとアスカの回りに適当な存在はいない。
 そして、学校に通わせるとしても、恋人や友人が出来るとも限らないし、シンジの時のようなこともありえ無いとも言い切れない。
「難しいだろうな…」


 ミサトは大きなスイカを2つ抱えてマンションの通路を歩いていた。
「もっと、ちっさいのか一つにすればよかったわねぇ…」
 両手にずっしりとした重さが掛かってくる。
「あれ、ミサトさん?その大きなスイカどうしたんですか?」
 シンジの横でレイが目をパチクリさせている。
「あ、これ、加持君から貰ったの、悪いけど一個持ってくれる?」
「はい、んっ…重いけど、美味しそうですね」
「そね、早速冷やして食べましょ」
 部屋に戻ると冷蔵庫に入れて冷やし、そして夜に切って食べることにした。
 シンジが包丁で切って、それぞれ皿に載せる。
 余った分はラップをして冷蔵庫に戻して置いた。
 皿の上に載っているスイカは綺麗な赤色をしていて、実に美味しそうである。
「さって、美味しそうな色だけど、味の方はどうかしら?」
「いただきます」
「いただきます」
 それぞれスイカを食べ始める。
「うん、良いわね、これなら加持の奴ネルフ首になっても農家でやってけるわね」
「へ〜、加持さんが作ったんですか、美味しいですね」
 レイもコクリと頷く。 
「そうそう、あいつジオフロントに畑つくちゃったのよ、ちゃんと許可とってんのかしら?」
「どうなんでしょうね?」
 軽く苦笑しながら返す。
 その後、加持やスイカについて笑い話をしながらスイカを食べた。


 数日後、作戦会議室、
「と、言うことで、今日のシミュレーションは今までよりも厄介な物を行うことになるわ、」
「厄介、ですか?」
 今日のシミュレーションについて説明をすると、シンジが少し不安なのか、その事について聞いてくる。
「ええ、これまで戦ってきて分かってきていると思うけど、いつも万全の状態で戦えるわけでもないし、使徒だって、どれも違った姿形に能力を持っていたわ」
「確かにそうね」
「それで、マギが様々な状況や使徒を仮定してそれを元に戦って貰うわ」
「今までよりも仮定する範囲が大きいのね」
「そう言う事よ…場合によっては、使徒進行と同時にテロ組織が攻撃してきたとか言う課程もあり得るかもしれないわね」
「全く無茶苦茶な仮定ねぇ」
「実際に起こってからじゃ遅いからね」
「分かりました」
「たくっしょうがないわねぇ、」
 とりあえず、アスカの状態はそれなりには回復しているようである。どんな方法を使ったかは知らないが、加持の御機嫌取りは効果を上げているようだ…流石とでも言うべきなのだろうか? 
 だが、一方でミサトは結構複雑な心境であった。
 更に根本的解決にはなっていないし、場合によっては後々の問題を更に厄介にしてしまうかもしれない。
「…はぁ…結局は先送りか…」
 3人が会議室を出ていった後ポツリと零した。
「どうかしましたか?」
「いえ、気にしないで…」


 執務室で、今度の使徒について考えていた。
 はっきり言えば対処なんて思いつかない。虚数空間だとかディラックの海だとか言う単語を調べてみてどう言った物なのかそれなりに勉強してみようとしたが…完全にお手上げ。さっぱりちんぷんかんぷんであった。
 リツコに聞けばそれなりに分かるように教えてくれるかもしれないが、それは出来ない。結果として、新たな有効な対処など全く思い浮かばなかった。
 今考えているのは二つ。初号機のサルベージ計画で行おうとしたように、NN兵器を大量使用しエネルギーで破壊する。あの時の計画は破壊ではなかった。足りないようなら、米露の保有する核兵器を強制徴発でもするしかないが…
 倒せなかった場合は、いったいその後どうなるのか。核を使用した場合は放射線や放射能はどこへ?等ととんでもないことになるかもしれない…
 もう一つは、前回と同じく初号機に取り込まれて貰うと言う方法。
 しかし、この場合は、シンジを極限状態に追い込むことになる。更に言えば、必ず暴走するという保証があるわけでもないのだ。
「…はぁ…いったいどうせぇってのよ」
 大きな溜息をつき、一つ愚痴を言う。


 そして、遂に使徒襲来の日が来てしまった。
「市内全域に避難警報発令、避難完了までは後8分掛かります」
「弐号機は?」
「まだ、戦闘には耐えないわ。戦わせても良いけれど、5分の力も出せないかもしれないわね」
「そう…アスカは念のためも考えて、弐号機に搭乗させてケージで待機。零号機と初号機はいつでもいけるように射出口で待機させて」
「了解」
 出撃できなかったアスカ…最近のこともあり、これは間違いなく荒れそうである。
 また溜息をつきそうになるが、ここで今つくわけにもいかないので、思考から弐号機とアスカのことをはずすことにする。
 メインモニターにはあの使徒の丸い影が映っている。
(アレが影だってんだから滅茶苦茶ね、しっかし…いえ、考えても仕方がないわね。もう、なるようになれね)
「マギは?」
「使徒とは認識していません」
「富士の電波観測所も反応していません」
「一体どう言うことでしょうね?」
「用心をするに越したことはないわね」
「どうしますか?」
「避難が完了したら兵装ビルから攻撃を仕掛けて」
「了解」
 避難が完了すると兵装ビルからミサイルが放たれるが、球状の影に当たる寸前にATフィールドによって弾かれた。
「駄目です。効果認められません」
「…仕方ないわね、エヴァぁを目標を挟むように射出させて」
「了解しました。各機発進します」
 使徒を挟むようにエヴァが射出された。
「目標は微速で移動を続けています」
「中和距離まで接近しATフィールドを中和後、支援兵器から攻撃開始、それぞれ、目標の行動に備えて…良いわね」
『はい、』
『分かりました』
「各機中和距離に入りました」
「攻撃!」
 兵装ビルからミサイルが放たれ使徒の影に向かって飛んでいく、しかし、着弾する寸前に影がかき消えミサイルは目標を失って明後日の方向に飛んでいった。
「何!?」
「パターンブルー!!」
「どこだ!!?」
「反応は初号機の直下です!!」
「シンジ君!!」
『うわっ!な、何だよこれ!!』
 初号機が使徒に飲み込まれていく。
(…シンジ君…)
 パニックに陥ったシンジが叫び声を上げる。
 ミサトはぎゅっと拳を握る。
「零号機が向かいます!」
「間に合う!?」
「分かりません!」
 シンジの叫びが響く中、指示などが飛び交う。
 そして、零号機が到着したが…使徒は既に大きく広がっていて、初号機に手を差し伸べることは出来なかった。
『さん!!』
 初号機からの通信が消える…完全に飲み込まれたのだ。
 零号機が使徒の影に向けてスナイパーライフルで攻撃を行う、しかし着弾することはなく、影はかき消えビルに着弾しビルが崩れる。
「レイ!逃げて!」
 使徒が零号機に向かって襲いかかってくる。
 零号機は使徒を避けビルに飛び乗るが、使徒はビルごと飲み込み始めた。
「レイ!一旦退却して!」
『でも、碇君が…』
「貴女まで飲み込まれるわけには行かないのよ、闇雲にやったって駄目よ」
『…分かりました…』
 レイは本当に渋々という表情で返した。
 結局、こうなってしまった。
 何にも変わらない…と言うよりもアスカのことを考えると状況は拙い方向に向かっている気がする。
(気が重いわね…でも、これからね、)
「…リツコ、使徒の分析をお願い。私はケージに行ってくるわ。で、出来たら、マヤちゃん借りたいんだけど良いかしら?」
「マヤ?」
 それだけではピンとこないようで、何故マヤを?と言う表情をする。
「多分、一番緩衝になると思うから」
「…分析をするにも重要なんだけれどね…仕方ないわね。マヤ、ミサトと一緒にケージに行って」
「あ、はい分かりました」
 マヤと共に発令所を出る。
「ごめんなさいね。多分私だけじゃ、なかなか上手く行かないと思うのよ」
「アスカのことですか?」
「ええ、貴女の雰囲気とかもあるんだけど、リツコの右腕として技術関係では大きな説得力もあるでしょうし」
「分かりました」
「あと、アスカを宥めるためには、適当な推測やとかも良いから」
 一瞬顔を顰める。
「すまないわね」
「いえ…それが、必要ならば実行します」
 そして、二人がケージに到着するとちょうど零号機が戻ってきたところであった。
 アスカは既に弐号機を降りて、アンビリカルブリッジの上に立って、ミサトの予想通り、見るからに不機嫌のオーラを放っている。
 最近のこともあったが、やはり出撃できなかったと言うことでそれが倍増しているようだ。それが予想以上だったのかマヤは驚いている。
「たくっ、このアタシが出てればあんな事にはなんなかったのにね」
「そうかもしれないわね…でも、そうでもないかもしれないわね」
「何言ってんのよ」
「あ、あのね、アスカ…」
 おどおどと言った風な感じでマヤが切り出した。
「ん?マヤ、何?」
 一旦深呼吸してから、話し始める。
「…今、弐号機は本来の半分の力も出せないわ。もし、使徒の頭が良かったら、戦力が低下している弐号機を狙うんじゃないかしら?」
「そんなのアタシならあんな事にはなんないわよ、実際レイだって、ちゃんと切り抜けたじゃないのよ」
「そうね。でも、問題はアスカじゃなくて弐号機なんじゃない?」
「アスカが上手く対処しても残念だけど弐号機がそれについてこれない可能性は高いわ」
「ちんたらやってたからでしょ」
 今度は不満をマヤ…技術部にぶつけてくる。
「そんなこと言わなくても…24時間フルで、修復してたわよ」
「その割には時間かかってんじゃないのよ」
「…弐号機は本部で作られた物ではないから仕方ないわ」
 零号機から降りてきたレイがアスカに言う。
「ど言う意味よ」
「弐号機を作ったのはドイツの第3支部…弐号機の中枢部に関するノウハウは本部にはないのよ」
 このまま放っておくと展開次第では下手をすると拙い…いくら正しいことを言っていてもアスカの神経を逆撫でしないとは限らない、そんな言葉が飛び出る前に話の方向を変えなければ…
「今…いそがなければいけないのは、シンジ君を助けること。その時には又アスカに活躍して貰わないといけないかもしれないわね…」
「どうやって?」
「それは…これから考えるのよ」
 溜息混じりに答えるとレイの表情が見るからに暗くなった。
 逸れたと言うこととその沈んだ雰囲気で、とりあえずアスカは不満を外に出すのは押さえた。


 作戦会議室でミサト達は、集められ又技術部が解析した情報とにらめっこしていたのだが…やっぱり、ちんぷんかんぷんであった。
「日向君これ分かる?」
「え、えっと……」
「…貴方は?」
「す、すみません…」
「全く…本格的に今回は技術部に任せるしかないのかしらねぇ…」
 書類の束を机の上に放る。
「そうかもしれませんね」
「…技術部の会議に行って来るわ、」
「あ、お供します」


 ミサトと日向が技術部会議室にやって来たとき、中では技術部の各部門の代表が激論をぶつけ合っていた。二人にはちょっと異次元の話し合いに聞こえる。
「ん?ミサト来たの?」
「難しい話してるわね…」
「未だ、結論が出るまでにはかなり掛かるから、ここにいてもつまらないわよ」
「…又後で、来るわ」

 
 展望室でレイがじっとジオフロントの光景を眺めている。
 ミサトは少しレイに近付いてから声をかけ、それに反応してレイはゆっくりとミサトの方を振り向く。
「…碇君は、大丈夫ですか?」
「残念だけど、私には分からないわ。リツコ達と、シンジ君を信じて待つしかないわね」
「…信じて、待つ…」
「何か食堂で食べない?腹が減っては戦は出来ないわよ」
 意外だったのかレイは少しきょとんとしたような表情でミサトの顔を見つめてきた。


 レイと食事をとった後、アスカがいるケージにやってきた。
「未だここにいたのね」
「ずっといたわけじゃないわよ」
「そう」
「使徒戦は今回で終わる訳じゃないわ…いえ、むしろ今回で終わりにしてはいけないわ」
「そりゃそうね」
「だから、これからも、お願い…」
 ミサトはアスカに頭を下げた。
「…ったわよ、」
「貴方に色々と掛かっているのだから…」
「次はちゃんとアタシを出しなさいよ」
「分かっているわ。次の使徒までには、なんとしても弐号機を完全な状態に持っていけるように頑張って貰うわ」
 次の使徒は、参号機を乗っ取った使徒。あの時は自分が指揮を執ることはなかったが、弐号機は真っ先にやられてしまっていた。しかし、キチンと対応できれば間違いなく戦力になるし、応用力が高いから、様々なことが出来るはずである。


 そして、会議で技術部が纏めた案が発表された。
「今回は、初号機のサルベージを最優先に行うわ」
「具体的には残存するNN兵器全てを虚数空間中心部に投下、同時爆発させ、一時的にATフィールドを突き破り虚数空間を開放させ、同時に零号機弐号機のATフィールドを干渉させ浸食、初号機を強制的にこの次元に弾き出すわ」
 ある意味当然だが、同じ方法であった。
「…シンジ君の命は?」
「残念ながら保証しかねるわ…かなり運が良ければ助かるでしょうけれど」
「他に方法はないの?」
「色々と考えたけれど、どれも難しいわ…」
「可能性は?」
「算定不能…不確定な情報があまりにも多すぎるわ」
「そう…仕方ないわね…0ではないのよね」
「ええ、0ではないわ」
 リツコは手元の書類に目を落としたままミサトに視線をあわせずに応えた。


 第3新東京市をめざし多くの爆撃機が飛行を始めた頃、ミサト達は地上での準備を行っていた。
 レイはパイプ椅子に座ってじっとしている。
「作戦開始まで後50分ほどです」
「弐号機は?」
「既に配置させました。現時点で出来る限りの状況ですが、限界は決して高くはありません」
「分かったわ…」
 モニターには第3新東京市を目指す多くの爆撃機が点になって地図上に表示されている。
「レイそろそろ搭乗して貰うわ、私も一緒に行くわ」
 二人は発令車をでて、零号機に足を向けた。
「…葛城3佐」
「何?」
「碇君のこと心配ですか?」
「勿論心配よ、でも心配するだけじゃ何にもならないわ。不安に怯え何も出来なくなってしまってはいけないわね。私たちにはシンジ君の無事を祈って信じて自分のするべき事をするそれだけしかできないけど、それがシンジ君にとって一番じゃないかしら?」
「…そうですね」
「さっ、レイも自分のするべき事、頑張ってきてね」
「はい、」
 レイはリフトに乗り、ボタンを押してリフトを上昇させた。
(…するべき事は…その方法が分からないときって言うのは辛いわね…)
 ミサトは暫くの間空を見上げて続けていた。


 そして、東の空が明るくなってくる頃、第3新東京市上空に無数の爆撃機が姿を現した。
「来たわね…」
「はい、後5分で開始です」
 その時、機器の表示が大きく変化し始めた。
(来たわね…これで、一応は回避されたかしら)
 使徒の影の中から初号機が現れる。
「なんなの…一体?」
 発令車の中はパニックに等しい…他の場所でもそうであろう。
 ふりくらいはしておかないと拙すぎるので、慌てたり、驚いたりする振りをする。
 やがて、初号機が地面に着地し使徒の反応が消え去る。
「…反応消えました…」
「とりあえずは…使徒は倒せたようね。作戦は中止し初号機を回収、パイロットの安否の確認急いで!」
「了解!」


 シンジはやはり無事であった。
 今回は、無事何とかやり過ごすことが出来た。
 次の使徒は、参号機を乗っ取った使徒。果たしてフォースチルドレンは誰になるのであろうか?そして、どういう対処をしたらいいのか?又松代で起動実験が行われるとしたら、果たしてその場にいないで済むことは出来るのであろうか?
 そして、碇の計画とは?アスカにはどのように対処したらいいのか?…問題は山積である。
「…考えることはまた色々とあるわね…ま、でも今はシンジ君の無事を祝いましょうか」
 考えるのもこのくらいにして中央病院にシンジを迎えに行くことにした。