ネルフ本部、作戦部長執務室、 ミサトは報告書を読んでいたのだが、その中に一つ良いものを見つけた。 「ラッキィ〜♪」 アスカに1週間連続で奢ることになった種々の料理のフルコースの費用が経費で大部分が認められた。 駄目もとで出した物だったのだが…これで、財布の中身を心配する必要はなくなったようである。 職員食堂で少し奮発してステーキセットを食べながら、これからのことを考えていた。 後数日で次の使徒がやってくる。細菌型のコンピューター使徒…はっきり言えば、ミサトにとって何もすることはない。完全にリツコ達に任せる以外に方法はない。だが、チャンスと言えばチャンス…マギが使徒と対決するために全ての能力を注ぎ込むから、その間、様々なことが非常に手薄になる。何か行動を起こすとしたら、実にチャンスである。…しかし、何を起こせと言うのか? 「…ここ、良いかしら?」 ふと見るとリツコがトレイを持って脇に立っていた。 「良いわよ」 「じゃあ、失礼して…」 リツコはミサトの正面に座り、サンドイッチセットを食べ始める。 「ミサトはステーキなのね、何か良いことでもあったのかしら?」 「ええ、アスカに奢ることになったフルコース、経費で認められたのよ」 「呆れた…そんなこと経費で請求して…」 「ま、話の経緯でね」 「それにしても、弐号機の修復全くもって大変よ」 「そんなに?」 「ええ、実験の数も多少減らしてでも全力を投入しているけど、それでも未だ時間が掛かるわ」 「迷惑掛けるわね」 「仕方ないわね…今度からはあそこまで激しく壊さないような作戦にしてくれると嬉しいわ」 「心して置くわ…それで、修理はどのくらいまで掛かるの?」 「…そうね、ドイツ支部から送ってもらった予備で足りない部分は、アメリカから参号機と四号機の予備も回して貰っているけれど…互換性のない部分や、予備がない部分は純粋に修復するしかないから、今の感じだと1月が勝負と言った感じかしら」 「1月…か」 随分掛かる…その間、戦力に入れることが出来ない… 影のような訳の分からない使徒が気になる…展開次第で長引けば参号機を乗っ取った使徒にも影響してくるかもしれない。 夜、ミサトは加持とレストランで待ち合わせをしていた。 「今日はお誘い頂き光栄です」 わざと酷くかしこまった態度を示す直ぐに崩す。 「突然で驚いたよ」 「思い出したことがあって、早いほうが良いと思ってね」 「そうか、ま、後で聞くよ」 二人は食事を済ませた後、二人は第3新東京市の郊外をミサトの車でドライブしていた。 「それで…思い出したことってのは?」 「ええ…この次の使徒のことなんだけど…今までみたいに大きな奴じゃなくて、もっと小さな細菌型なのよ」 「…細菌?」 「そう、細菌…それで、コンピューターみたいになって、マギにハッキングを仕掛けてくるのよ」 「これまでの使徒とは全く別のタイプだな」 「ええ…それで、その時マギはハッキングに対抗するためにその全ての力を使っているから、他のところが非常に手薄になるのよ」 「なるほど…その時に何か仕掛けられないか…か」 二人ともそこで黙ってしまい沈黙が続く…この車の走る音、そして時折すれ違う対向車の音だけが耳に入ってくる。 「…具体的な日は分かるか?」 「そうね、確か…あと1週間くらいだけど、あの時は実験の最中に起こったし、その実験が、同じ日に行われなかった場合は、どうなるか分からないわ」 「…そうか…何か起こすと言っても具体的な行動が出来るような状況じゃないな…」 「…そうね、」 再び沈黙に戻る。 数分ほどで、加持の方が沈黙を破った。 「…具体的な行動は起こせないが…ネタをつかんでおく位はできるな」 「ネタ?」 「ああ、何か、これからの行動を考える上で役立つ情報や…場合によっては何か、証拠を押さえておくというのも良いかもな」 「…私は、多分離れられないわ…動ける?」 「ああ、警戒されていなければな…警戒されていたら、難しいかもな」 「何か、何か考えてみるわ」 「ああ、頼む」 ミサトはマンションに向けてハンドルを切った。 翌日、本部で3人に新しい訓練に関して説明をしていたのだが…何かアスカの視線がいつもと違う… どこか全体的に棘のある行動…どう言うことだろうか? 「以上で、説明は終わりだけど、分かったかしら?」 「はい」 「分かりました」 「分かったわよ」 「それじゃ、頑張ってきてね」 「はい」 「あ、ところで…アスカ、何かあった?」 「何にもないわよ」 やはり棘のある口調でそう言い残し、待機室を出ていった。 「…何なのかしら?」 実験司令室、 「マヤちゃん、アスカの調子はどう?」 「アスカですか?いつも通り順調です。良い値を維持しているし、早く、弐号機の修復をすまさなければいけないですね」 「そう…」 (ホント、何なのかしら?) 実験終了後執務室に戻って何をするべきか考えていた。 まず、ゼーレの野望をくじくためには、その計画の情報をつかむことは必須であろうが…例えば、その証拠をつかんだとして、それをどう使えばいいのだろうか? いくら社会的にはネルフの作戦部長として一定の地位があるとしても所詮は一個人にすぎず、単なる血迷い事でかたづけられてしまうだろう… どうしようもない…しかし、それに使い道があるとすればつかんでおくに越したことはない。 とは言え、証拠と言っても、補完計画は余りにも多岐に渡っていすぎる…全貌の証拠など短時間でつかめるものではない。何か選択的に選ぶしかない…がでは、何を? そして、もう一つ碇達に対するカードも持っておくに越したことはないのだが…こちらもどうすればいいのか問題である。 「やっぱり、リツコよねぇ〜」 リツコが協力者になれば、一気に楽になるのだが…それがそうも行かないところが最大の問題かもしれない。 このままやっていても、結果は見えている。どうでそうなるのなら、いっそのこと、駄目元で話してみるか? 3日後、ミサトは又加持とレストランで待ち合わせをしていた。 加持は待ち合わせの時間になっても現れない… (たくっ…大学時代なら間違いなくとっくに帰っていたわね) 結局予定の時刻から1時間ほどしてやって来た。 「お・そ・い」 「いや〜すまんすまん、アスカに捕まっちゃってなかなか放してくれなかったんだな、これが」 「何馬鹿なこといってんのよ」 「それにしても、ちゃんとまっててくれたんだな、あのころは5分も遅れたらもういなかったんだけどな」 「状況が違うでしょ状況が、」 「まな…ホント済まなかった」 そして、例のように食事が終わった後、二人はミサトの車でドライブをしていた。 「…で、何か思いついたのか?」 「このままやってたって、絶対に駄目…だったら駄目元でリツコに話してみようと思うのよ」 「この前否定したんじゃなかったのか?」 「ええ…だから、何か大きな物を突きつけてやるのよ、その上で、なら…ひょっとしたら」 「……そのリッちゃんの心を動かす大きな物をもってこいって事か」 「そう言う事ね」 「いったいどういう物があるのか…さらにはそんな物があるのかどうかする分からないものをと言うのはなかなか厳しい仕事だな…」 「……」 「でも、もし、上手く手に入れることが出来るのなら良いかもしれないな」 「どうする?」 「やってみることにするよ、賭だけどな」 「ごめんなさいね」 「良いって事、どうせ、俺の方から乗った船だ。途中下船はしないよ」 翌日、アスカの雰囲気は悪化していた。 棘が鋭くなっている。 「あの…ミサトさん、アスカと何かあったんですか?」 「いえ…思い当たることは何にもないわよ」 さすがに気になったのかシンジが聞いてくるが、ミサトには答えは分からない。 3人を実験に送り出した後、考えてみる。 そして、加持の言葉を思い出す。 「あ゛っ」 いったい加持がどんなことを言ってアスカと別れてきたのかは分からないが…確か、アスカは加持に憧れていたはず…そう言えば、前回も、徹底して顔をあわせないようにしていたこともあった… 「あちゃ〜〜」 頭を抱える。 執務室に戻り、来週の予定を見てみる。 オートパイロットの実験の予定は来週は入っていない。弐号機の修復でそれどころではないと言うことなのかもしれない。 しかし、そうなるといったいいつ使徒が仕掛けてくるのか分からない。 (いつ…来るのか、) そして、4日後、ミサトが執務室で考えているときに警報が鳴り響いた。 (来たわね…) 発令所についたときにはオペレーター達の悲鳴が飛び交っていた。 その中リツコが指示をとばしている。 「エヴァを地上に射出しろ」 「エヴァぁをですか?」 「そうだ」 「日向君、直ぐに射出して、3人は直接射出されたエヴァに向かわせて」 「はい、分かりました」 エヴァが3機それぞれ順次射出される。 その一方でマギに侵入し、メルキオールをリプログラムしてしまった。 自立自爆を提唱し、否決されるとバルタザールに侵入したが、リツコが対策を講じたため、急速に遅くなった。 「どのくらい持ちそうだ?」 「今までの速度からして…2時間くらいは」 前回とほぼ同じ状態である。しかし、あの時は1秒程度の差であった…果たしてどうなるか… 作戦会議室で使徒の分析とその対策に関して話し合っている。 説明される内容は既に知っているので聞き流しつつ、今、行動しているはずの加持のことに考えを向けていた。 果たして上手く行くのだろうか?機密の方向性は違うとは言え、失敗すればただでは済まないだろう。 心配である…しかし、これくらいしか方法はない… 会議は、カスパーにより自滅プログラムを送り込むという物に決まった。 「…対使徒戦になるのにミサトが何も言わないなんて、意外ね」 会議が終了したところでリツコが声を掛けてきた。 「出来ることなら私がやってやりたいけど…専門外だからね…任せるしかないわ…そんかわり、絶対に失敗しないでよね」 「分かっているわ」 さてこれからどうするか…二つの方法が考えられる発令所にいって、傍観するか…あるいは地上に行き3人と一緒に待機するか… 今は加持が活動していると言うこともある。それをより確実な物にするにはどちらが良いのか…ミサトは暫く考えていたが、結論を出す前に日向が尋ねてきた。 「葛城さんどうかしたんですか?」 「あ、ええ、発令所にいるのが良いか、地上で3人と一緒にいるのが良いのか…って思ってね」 「あ、そうですか…どちらがと言うことは状況によってかわってくるので何とも言えませんが…発令所にいた方が無難ではないでしょうか?情報は発令所の方が入ってきますし…負けた後のことは考える意味が無いですから」 「そうね、そうするわ」 ミサトは日向の提案通り発令所に向かうことにした。 発令所のサブフロアでカスパーを展開してリツコとマヤが作業をしている。 ミサト達はメインフロアからその様子を見下ろしていた。 「使徒の様子はどう?」 「特に変化はありません」 リツコ達は配線の接続が完了したのかノートのキーボードをものすごい速さで叩き始めている。 モニターに表示されているマギの勢力図を見る限り、あと40分ほどと言ったところであろうか? (…まだ長いわね…加持の奴は上手くやってるかしら?) 加持の事を考える。 そして40分ほどが経ち、バルタザールが乗っ取られ、自立自爆が可決され、更に抵抗するカスパーに侵食を開始した。 リツコ達は猛烈な勢いでキーボードを叩いている。 『3・2・1・0』 自爆までのカウント0が宣告されるが、自爆はしなかった…そして、マギの勢力図が一気に反転し、使徒が殲滅され、自立自爆は回避された。 発令所がわき上がりミサトもほっと胸をなで下ろした。 夜、ミサトは待ち合わせ場所の公園で待っていた。 加持が今夜ここに来ることが出来るという保証はない… 待ち合わせの時間から1時間ほどし、もう、駄目なのかと涙をこぼし始めた頃になって漸く加持が姿を現した。 「お嬢さんは僕のために涙を流してくれているのかな?」 「……バカ!!」 加持の胸に飛びつき、涙を流しながら何度も胸を叩く。 漸く収まった後、いつも通り車を走らせながら話を始めた。 「いや…軽く目を通すだけでも時間がかかっちまってね…」 「…何か収穫はあったの?」 「あった…といえるかどうかは分からない…ただ、どうやら…事態は予想していた以上に複雑らしい」 「複雑?」 「…人類補完計画…司令達はその裏で別の計画を進めているようだ」 「何ですって!?」 「多分間違いないだろう…その計画がなんなのか調べなけりゃならないが…」 「…難しいわね」 おそらく、ゼーレもつかんでいないだろう計画…詳細などつかめるのだろうか? 「今回、手に入れたものの中に何か良いものがあれば良いんだけどな…」 「そうね…」 人類補完計画の他にもう一つ計画があった…それはいったいどんな計画のだろうか? その計画次第では、これからの方向性に様々な影響がでてくるかもしれない…