ミサトは大あくびをしながら自分の部屋を出た。 「ふぁ〜〜あ、」 「あ、おはようございます」 「…おはようございます」 二人が食卓に3人分の朝食を並べながらミサトに挨拶をかけてきた。 「二人ともおはよ、」 ミサトが椅子に座り朝食が始まった。 暫くして、ミサトは今日の味噌汁の味が普段と違うことに気づいた。 「あれ?シンちゃんお味噌でも変えた?」 「いえ、今日の味噌汁は綾波が作ったんですよ」 「へ〜レイがねぇ〜、うん、なかなか美味しいわよ」 ミサトに誉められてレイはほんのり頬を紅くしている。 (ホント、最近レイもいい感じよねぇ…やっぱり、シンジ君の存在が大きいのねぇ〜) 昼前、ミサトはシンジとレイの二人を連れて本部に向かっていた。 (…確か…今日の午後だったわよね。何事もなければいいけど、何かあったりした時のことを考えると、二人を本部内、それもみんなと一緒にいさせた方が良いわね。それならばみんなの手でエヴァに載せることは出来るし) そして、エレベーターに乗る。 下に加速するにつれて体が軽く感じる……そのとき、突然照明が消えエレベーターがとまってしまった。非常灯の明かりのみがエレベーター内の光源になる。 「ええっ!?」 「あ、停電だ」 「そうね」 二人は単なる停電だろうとして落ち着いているが、時間こそちがえど、今日の停電と言うことは…工作による停電の可能性が極めて大きい…ミサトは冷や汗をかかずにはいられなかった。 ミサトだけがどこかいらいらとしながら暫く時間がたつ、 「…おかしいわ…これだけたっても復旧しないだなんて」 「…どう言うことですか?」 「何者かに故意に電源を落とされた可能性が高いという事ね」 「故意にって、どうして?」 「…ネルフには敵が多いって事よ…私なんかは、今目の前の敵である使徒を倒すと言う事しか考えられない…でも、もっと後ろとでも言うのかしら?使徒とは直接関係のない場所にいる人たちは、使徒戦が終わった後のことを考えているのよ」 「使徒戦が終わった後、世界中廃墟じゃいけないのはもちろんだけど…誰だって残った世界で少しでも良い生活をしたい、少しでも良い地位にいたい、そんな感じ何じゃないのかしら?」 「そしてそのためには、今の内に何かして置いた方が有利になる…それがつもり積み重なったり組織単位の話になってるのね…多分…」 「でも、そんな…」 「ま、私たちがそんなことを考えても仕方がないわね…私たちは今どうするかを考えましょ」 「…マニュアルでは発令所、あるいはそれに準ずる場に向かうようになっています」 「そうね…さて、どうやってここから脱出しよっか…」 「……多分、上からでられる」 「なるほど、そうね!」 まずレイを肩車して上に上げ、続いてシンジ、そして最後に二人に引っ張り上げて貰ってミサトがエレベーターの上に出た。 「……何にも見えないわね…何か、明かりになるような物無かったかしら?」 持ち物を調べてみる。 (しまったわね…今日停電が来るって分かってたんだから、懐中電灯の一つくらい持ってくれば良かったわ) 「ん?」 ポケットにライターがあった。 「ラッキィ〜」 ライターで火をつけると辺りがその光で照らされる。タラップが見える。 「タラップね…どこまで続いてるのかしら?」 当然下の方は全く見えない。これを発令所のある辺りのフロアまで降りていくというのは余りにも危険すぎる。手や足を滑らせたら一巻の終わりである。上の方を見るとタラップの直ぐ横に何か横穴がある。 「…あれは、ダクトね。あそこから行けるわ」 「あそこ…ですか?」 「怖い?」 「はい…」 「でも、このままここでじっとしているわけには行かないの、頑張ってね」 シンジは無言でゆっくりと頷いた。 「じゃあ、行きましょうか」 3人はタラップを登ってダクトに入りその中を進んだ。 「狭いわねぇ」 シンジやレイは結構余裕があるが、ミサトにとってはこのダクトは狭い……その豊かな胸が恨めしく思えてしまう。 (く〜、胸の大きさ自由に変化させられたらいいのに〜) なにやら無茶苦茶なことを考えながらもとりあえず進んでいく、暫くすると分かれ道になっていた。 「む…どっちに進むか…まあ良いわ、こっちに行きましょう」 ミサトの独断と偏見でその後も次々に進んでいくが、いっこうにダクトからでれない… 「…困ったわね…」 今どの辺りにいるのかなど全く分からない…どうすれば良いのであろうか?そうして悩みながら進んでいくと、エレベーターの縦穴にでてしまった…… 「あれ?」 エレベーターは反対側にある…どうやらぐるっと半周回ってきたみたいであった。 「………」 又随分時間がたったが、未だ通路にでることが出来ないでいた。 (あ〜もう、なんでこんなに複雑なのよ〜〜!!!) ふと、ライターのガスの残量が気になった。 「…このままじゃ拙いかも、」 ここをでたとしても、まだまだ発令所までは遠い…途中で消えてしまうと拙い… 「ライター、ガスがもったいないから消すね」 炎が消えると真っ暗闇になる。 「暫く、目が慣れるまで、ここでじっとしてましょ、」 目が慣れてきたらゆっくりと再び進み始めた。 暫くしてシンジが声を掛けてきた。 「……ミサトさん、」 「何?」 「…使徒って何なんでしょう?」 「…使徒が何者か?」 「…人類の敵、セカンドインパクトを引き起こした物…そんな事は聞いてるけど…」 「そうね、使徒が何者なのか…アダムより生まれし存在、私もそんなことは聞いてるけど、後はシンジ君と大して変わらないわね。ただ…ただ、使徒は人類社会にとって脅威になる」 「あれだけの力を持った使徒が暴れただけでどれだけの被害がでるか…その上サードインパクトを起こす可能性があるとしたらなおさらね。人類にとっては間違いなく恐るべき敵よ…私たちが生き残るためには倒すしかないわね。それが分かればいいわ…何故かはおいて置いても、何をなすべきかはわかっているのだからね…何故なのかは分かってもどうしたらいいのか分からないよりは」 「そうかも、しれませんね…」 暫くすると漸く通路にでることが出来た。 「漸く広いところにでられたわぇ〜」 思いっきり伸びをしながら辺りを見回す…やはり暗く、非常灯の光以外ない… 「…ここ、どこかしら?」 ライターの火をつけて辺りを照らすが、本部内ではあまりに典型的すぎる通路であり、特定はとても不可能である。 「これじゃぁ分からないわね、」 「う〜ん、どこだろ?」 「とりあえず、道なりにいってみましょ、」 通路にでてからどれだけの時間がたったであろうか?しかし、依然として、発令所のあるフロアにはたどり着けていなかった。 「たくっ!何でこんなにむやみやたらにでかいのよ!!」 愚痴が飛び出してくる。ふとそのとき、ライターの火が消えた。 「え!?」 ライターのガスが無くなってしまったようだ。 「…まず…」 「ミサトさん…」 心細いというのが声から良く伝わってくる。 「…葛城1尉、あれ、」 「ん?」 見ると明かりがこちらに近付いてくる。懐中電灯の明かりのようだ。 「助かったのかな?」 (一人でのこのこ来るって事は工作員じゃないでしょうけど…) 近くまで来ると懐中電灯を持っていたのが加持であることに気づいた。 「あ〜〜!加持君〜〜!」 「よっ、お姫様方ご無事かい?」 「あ、はい……ところで…貴方は?」 (そっか、まだ、会ったこと無かったんだっけ…) 「え、俺?俺は加持リョウジ、葛城の大学時代からの友達ってところかな」 「そうなんですか、」 「ああ、宜しくな、碇シンジ君」 「え?どうして僕の名前を?」 「そりゃ知ってるさ、」 「まあ、良いわ…それより…」 耳元に口を近づける。 「これアンタの仕業じゃないでしょうね…」 「いや、計画がすこし早まったみたいだ…草鞋をぬいじまったからかな」 加持の言葉が嬉しい反面、その事が結果として、よりやっかいな事態にしてしまったと言うことを考えると、単純には喜べない。 「じゃ行こうか、ここからなら発令所までは1時間もかからないよ」 4人に増えた一行は加持を先頭に発令所に向かった。 発令所の近くまで来ると多くの職員が慌ただしく動き回っているのが目に入った。 (まさか!) 適当な職員を捕まえて事情を聞き出すと嫌な予感通り…使徒が侵攻中であり、現在先にケージに到着したアスカが弐号機を起動させている最中であるという。 「シンジ君!レイ!急いで!」 職員との会話を聞いていた二人は、頷いた後ケージに急いだ。 「さてと…葛城はどうする?このまま発令所に行っても指揮は出来ないぞ」 「確かに…」 こうなってしまったら後は運を天に任せつつ3人を信じるしかない、 「…適当な理由を付けて、発令所を抜け出せるか?」 「こんな時に?」 「こんな時だからだ。」 「分かったわ」 一旦発令所に行ってから、適当な理由を付けて抜け出してきたミサトは少し離れた場所で加持と落ち合った。 「来てくれたんだな」 「ええ…それで、話ってのは?」 「ああ、3足の草鞋…とりあえず、ネルフの物以外は脱いできた」 ゼーレの方も脱げたようだ。 「その分、俺をねらう者も増えてしまったようだけどな」 戯けた口調で…しかし、表情は真剣である。 「…まあ、その辺りは詳しくは詮索しないわ…それで、私が何故知っているのかという理由が聞きたい訳ね」 「そう言うことだ」 「……そっか、もう話すときが来ちゃったのね、もっと後だと思ってたのに」 「今、話してくれるかい?」 「そうね…良いわよ、但し、突飛も無い理由よ、」 無言で話の続きを尋ねてくる。 「じゃ、話すわね…何でそうなったか自体は、わかんないわ…ただ、人生をやり直す機会を与えられたとでも言うか…気を失って気づいたら、本部の駐車場にいたわ…但し、気を失う前の1年前に」 「…過去に戻ってきたというのか?」 「ええ、簡単に言えばそうかもしれないわね」 「そうか…で、何があったんだ?」 「…使徒を全部倒した後、ゼーレは戦自を使ってここに攻め込んできたわ、」 「…戦自がか…」 「到底歯が立たなかったわ…一方的な殺戮が行われた…私は、シンジ君をエヴァに載せるためにケージに連れて行ったけど、その途中で撃たれて、シンジ君をエレベーターに乗せた後意識を失って、気づいたら本部の駐車場だったわ」 「…ねらいは、補完計画か?」 「多分そうでしょうね。でも成功したのか、あるいは失敗したのかは分からないわ」 「なるほど、分かったよ…」 「信じてくれるの?」 まさか、そのまま信じてくれると思っていなかったミサトは驚きを伴った声で聞く 「葛城がそんな夢物語を聞かせてくれるとは思えないからな…信じにくいことではあるけどそれが真実なんだろ」 「で、どうするつもりなんだ?」 「どうするつもりって?」 「補完計画を阻止するとか、そう言ったことあるだろ?」 「……使徒戦だけで精一杯…正確にはそうじゃないけど、計画の事まではとても手は回らないわ…片手間にやって出来ること何かじゃないわ…ましてや既に疑われていたらどうしようもない、その上使徒戦のことだって思い通りには行かない…」 「そりゃそうなだな…何でも思い通りに言ったら苦労しないな」 「ええ…」 「でも、葛城…それならば、どうして今こうして苦労しているんだ?」 「……あの子達を追いつめちゃ行けない…いえ、あの子達のあんな姿は見たくないからね…」 「…そうか、よっぽどの状況だったんだろうな」 「……ええ……」 「ま、なるようにしかならない、自分の出来る範囲で努力すればいいさ」 「そうね」 「で、これからどうする?もし、補完計画を阻止したいのなら、俺達二人だけじゃどうにもならないが」 「そうね…リツコが加われば、話も変わってくるかもしれないけど…深く関わりすぎているわね」 ダミープラントで泣き崩れるリツコ…今、現在碇と肉体関係にもあるリツコが捨てられた後の姿…妄信的に信じていたわけではない、形はどうあれ捨てられるであろう事は分かっていたのだろう。そんなリツコを説得するだなんて極めて難しい、その上、既に疑われている。説得は限りなく不可能に近い…しかも、失敗すれば死が待っている。 「…そうか、でも、リッちゃんくらいしかないしなぁ…」 「…私、そろそろ戻らないとまずいから、この話は又後でね」 「ああ、又な」 ミサトは加持と別れ発令所に戻った。 夕方になり、電力が復旧し、色々と情報が入ってきた。 まず、使徒とエヴァに関して…使徒は殲滅することが出来たが、弐号機が大破してしまった。修復には本部のこともあるため1週間から2週間かかるとのこと、初号機と零号機に関しては、辿り着くのが遅かったため戦闘には参加できなかった。 チルドレンに関しては、アスカは中央病院に、シンジとレイは先に帰宅している。 「アスカのお見舞いに行くか…日向君!」 「はい、」 「これ、纏めといたから、あとお願いできるかしら?これからアスカのお見舞いに行ってくるから」 「分かりました」 中央病院のアスカの病室の前までやって来てドアをノックする。 「アスカ、入るわよ」 「どうぞ〜」 ドアを開けて中にはいると、アスカがベッドに横になって漫画本を読んでいた。 「どう?調子は?」 「ん、なかなか良いわよ、」 「それは良かったわ。それにしても今日は大手柄だったわね」 「あったり前よ、この惣流アスカラングレー様の実力分かった?」 「ええ、アスカがいなかったら大変なことになってかもしれないし、ホント感謝してるわ」 「ふふん」 アスカはかなり得意そうである。 「アスカにはこれからも頑張って貰わないとね、期待してるわ…ところで、二人とは上手く行ってる?」 「ん?レイとシンジ?まあまあじゃない?相変わらずあの二人つきあい悪いけど」 「まあ、二人とも色々とあるからね、」 「そうかもしんないわね…あ、ミサト、夕飯とってきてくれる?」 「あ、そうね、わかったわ」 ミサトはアスカの夕飯をとってくるために病室を後にした。