再び

◆第8話

 ミサトは作戦部の会議室で作戦に関する会議を行っていた。
「ユニゾンを持って当たった場合、ユニゾンが成功しているとして仮定した場合は、零号機・初号機では勝率は92.6%以上、零号機・弐号機では96.5%、初号機・弐号機では97.3%であるものの、ユニゾンのしやすさを考慮すると、零号機・初号機で当たるのが一番妥当と考えられますね」
「ええ、そうね」
 会議の結果は実にミサトの予定通りの結果となった。
 前回、零号機は参加させられなかったという事があったが、今回は事前に手を打っていたために使える。ミサトの予定通りである。
「後、作戦部としてユニゾンの訓練のためにもレイの転居要請を正式に司令部に出そうと思うんだけど、どうかしら?」
「つまり…レイを葛城1尉の元に、と言うことですか?」
「そうなるわね」
「泊まるではなく転居ですか?」
「ええ、泊まるという形式でも悪くはないけれど、今後の事を考えると二人の間が一層深まることは良いはずよ、それならば、」
「良いのではないでしょうか?実際、レイは葛城1尉の元に頻繁に出入りをしていますし」
 日向の一言で会議の流れは決定した。


 総司令執務室に作戦部の決定を報告にやってきている。
「これが、作戦かね」
「はい、もっとも成功率が高いと考えられます。アスカを使う方法も考えましたが、ユニゾンの成功率が低すぎますので…」
「………反対する理由はない、やりたまえ」
「はい」
「但し…転居の件に関しては本人の同意を必要とする」
「分かりました」
 ミサトは軽く笑みを浮かべながら退室した。


 早速、シンジ達にこのことを知らせようと、発令所で3人の居場所を聞いてから、3人がいる食堂に向かった。
 食堂に着くとちょうど3人は食事をとりながらアスカがなにやら愚痴っているようだ。
「とりあえずは御苦労様」
「ミサト〜聞いてよ〜司令アタシに向かってさぁ〜」
 しばしの間アスカの愚痴につきあう。
「まあ、ネルフだって所詮は大きな国際社会の一部分だからね…いくら大きな権力を持っている司令だって、雇われ司令とだって言えるくらいなんだから」
「そうだけどさぁ〜」
「まあまあ、それで、反撃についてなんだけど」
「作戦決まったの!?」
「ええ、まあ一応ね」
「目標は、分離中は相互に補完しあっていると推測されるわ…よって、同じタイミングでコアを破壊しなければならないわ」
「なるほどなるほど」
 アスカはコクコクと頷いている。
 問題はこの後である。
「相手が2体である以上、こちらも2体で当たるしかないわ」
「そりゃそうね、で、どっちがアタシにあわせるわけ?」
 アスカの中では、自分とどちらか一方があわせるという考えなのである。
 確かに単純に戦力と言う意味で考えたらそう言うことになると言うことも、アスカの考えと言うよりも、望む形を後押ししている。
「残念だけど、アスカ・弐号機は3人のチルドレン、3機のエヴァの中で完全に抜けた存在、本来ならば一番大きな戦力となるのでしょうけれど、今回はスペックが近いレイとシンジ君、零号機と初号機の組み合わせで行くことになったわ」
「な、なんですって!?」
「え?僕たちですか?」
「高速戦艦1隻と巡洋戦艦1隻を組み合わせるよりも、巡洋戦艦2隻を組み合わせた方が同じ行動をするには有利と判断したのよ、アスカは能力が高すぎるのよ」
「む、むむむ…だったらアタシがあわせてやればいいだけでしょ、能力を上げるのは難しいけど、低いのにあわせるのはそんなに難しい事じゃないわよ、それに何かあったときは、能力が高い物がいた方が臨機応変な対応が出来るわ」
 熱くなっているときには何を言っても無駄であろうが、冷静な時であればしっかりと何らかの形で返ってくる。まあ、その際でもアスカを立てるのを忘れてはいけないが……
「そうね、確かにそうだけれど、元々同じような能力である二人に任せた方がより楽よ、それと、不測の事態に関しては、やはり、アスカ・弐号機に備えて貰うわ」
「ど言うこと?」
「アスカ・弐号機はユニゾンの外側で備えて貰うわ、最悪、1機で2体を相手にすると言うことも含めてね」
「…わかったわ…」
 アスカは納得できないようだが、論理的に負けてしまったために言い返せなかったので、渋々とある意味妥協した。
「アスカ、使徒戦はまだまだ長いわ、先々活躍してくれることを期待してるわ」
「…そ、」
「で、二人のことだけど…良いわよね」
「僕は構いませんけど…」
「問題ありません」


 アスカと別れ3人になると、ミサトは切り出した。
「レイ、もし、レイが良かったらいっそのこと私たちの家に越してこないかしら?」
「「え?」」
「わざわざ毎日通うのも大変でしょうから泊まって貰うことになるけど…どうせなら、お客様じゃなくて家族になった方が良いんじゃないかなって思ってね」
「で、でも…あ、あのその」
「シンちゃんはレイが家族になるのが嫌なの?」
「あ、あの、その…嫌じゃありません」
「レイは?どうかしら?」
「…宜しくお願いします…」
 小さな声であったが、はっきりと言った。
「はい、じゃあそれで決まりね」


 ミサトはレイのマンションによって荷物をとってきてから…引っ越し荷物ではあるが、大した量ではない…ミサトのマンションに向かった。そして、到着する。
「はい、今日からここがレイの家よ」
「…私の家ですか?」
「そうよ、これからは入るときは、帰ってくると言うことなんだから、ただいまって言ってね」
「………ただいま…」
 少し頬を赤らめながら言う。
「はい、お帰りなさい…ほら、シンちゃんどうしたの?」
「あ…うん……その、お、お帰り」
 シンジの方は顔を明らかに紅くしている。


「さて、ユニゾンの練習だけど…、二人で動きをあわせながらダンスを踊って貰うわ」
「え?ダンスですか?」
「そう、二人の動きをあわせられるようにね」
「…ちょっと恥ずかしいんですけど…」
「う〜ん、まあ慣れちゃって、やってる内に恥ずかしくなんか無くなるわよ」
 そんなことを言って準備を始め、やがて準備が整え終わる。
「さて、振り付けは覚えたかしら?」
「えっと…一応…」
「じゃあ、音楽に合わせて早速踊ってみて貰おうかしら?」
「は、はい…」
 二人は音楽に合わせて踊り始める。
 振り付けをしっかり覚えられていないためシンジは良く戸惑ったり、間違えたりする。それに無理矢理合わせようとしてレイの方も失敗しているのだが、タイミング的には結構あっている
(アスカの時とは大きな違いね…)
 アスカとシンジの時は最初はまるでだめだめだった。
 あれから考えれば遙かに完成は近そうである。
 そして、音楽が終わってから暫くたってから二人の踊りがフィニッシュを向かえる。
「はい、御苦労様、今日のところは、この辺りで良いわ、初めてにしてはなかなか良かったわよ」
「そ、そうですか?」
 やはり恥ずかしかったのか少し顔を赤くしながらも、少し嬉しそうである。
「さっ、ご飯にでもしましょ、久しぶりに私が」
「ぼ、僕が作ります!」
「あら?そんな気をつわなくたっていいのよ、シンちゃんだって疲れてるでしょ」
「ぜ、全然平気です!」
「そう…悪いわね」
「い、いえ」
 シンジはそそくさとキッチンに方に歩いていった。
「レイ、どうだったかしら?」
「…どう、とは?」
「シンちゃんと一緒に踊ったわけだけど楽しくなかった?」
「…そんなことはありません」
「じゃあ、楽しかった?」
 こくりとゆっくりと頷く。
「そう、それなら早い内にうまく行きそうね…」


 次の日、ある程度形になってきたのでアスカの方を見るためにネルフ本部に向かった。
「あれ?こっちで良かったっけ?」
 アスカの訓練は普段とは違う区画で行われているためにそこに向かう途中で道に迷ってしまった。
「本部ってマジで迷路みたいだからね…」
 戦略自衛隊は爆薬で壁を破壊して無理矢理突き進んだ。まあ、今ミサトがそんなこと出来るわけはないが…それにしても困った。
「…どっかに連絡用の電話か端末でもあれば良いんだけど」
 周囲を見回すがそれらしき物はない。地図を見ても、現在位置が良くわからないから意味がない…
「まあ、適当に行って出会った人に道を聞けばいいわね」
 そう言うことでミサトが進んでいくと少し大きめの研究室に出た。
「ん?ここは?」
 研究者の一人がミサトに気づく。
「あれ?葛城作戦部長でしたっけ?ここは技術6課ですけど…どうされました?」
「あ、いやそのね」
 ミサトが説明をしようとしたとき、警報が鳴り響いた。
「何事だ!!?」
「大変です!!漏れてます!!」
「何だと!!?」
「え?な、なに??」
 何があったか分からないが、大変なことが起こったようだ。


 ミサトは隔離されて精密検査を受けて、今はベッドに寝そべっていた。
『ミサト、気分はどう?』
 ガラスの向こうからリツコが尋ねてくる。
「別に…結構快適よ…まあ強いて言うのならばビールが欲しいくらいね」
『そう、ビールはだめだけど、消毒用のアルコールなら良いわよ』
「そんなの飲みたくないわよ…ま、良いけど、二人とアスカの様子はどう?」
『3人にはまだこのことは知らせていないわ、検査の結果問題なければ知らせるまでもないことだからね。アスカに関しては順調よ、二人の様子に関しても順調に進んでいるわ』
「そう、」
『…検査結果が来たわ。……ミサトに関しては全く問題なし、もうこの部屋から出ちゃっても良いわ、良かったわね』
 リツコの言葉にミサトはほっと胸をなで下ろした。


 シミュレーション司令室にリツコと共に入るとちょうど弐号機が仮想空間で使徒2体を相手に戦っていた。
「やってるわね」
「今のところ、使徒の動きは…72%にセットしてあるわね。このクラスなら2体同時に相手が出来るわ」
「それは、互角に戦えると言うこと?とどめを刺せると言うこと?」
「前者ね、後者の場合は…」
「64%では確認しました」
「と言う事よ」
「ふむ…まだまだか、」
「まあ、伸び率は順調なんだけれどね…最後まで続いてくれれば120%まで対応できるようになるわ…でも、それは無理でしょうね」
「悪くても時間稼ぎは出来る?」
「そうね…時間稼ぎだけなら出来ると思うわ、」
 その日、アスカは78%まで互角に72%まで倒すことが可能になった。


 ミサトがマンションに戻ってくると、リビングでは二人が並んで眠っていた。どうやら疲れてしまい一休みしたらそのまま眠ってしまったようだ。
「二人とも御苦労様、」
 掛け布団を1枚持ってきて二人にかけてあげる。
「…二人とも可愛い寝顔ね、」
 無警戒…と言うのだろうか、二人ともすっかり安心した穏やかな寝顔である。
「……ごめんなさいね…ふたりとも…」
 2人に…アスカを含めた3人に戦って貰うしかない、その他に使徒に対抗しうる有効な手だてはない…、3人が生き残るためには、どうあっても3人に戦って貰わなくてはならないのだ……例え、それが3人にとって辛いことであったとしても……3人が生きたい、生き残りたいと思うのならば、その限りそれがどんなに理不尽であるとしても……自分に出来ることはせいぜい、それを出来る限り辛いと思わせないこと、生き残るために、使徒戦に少ない犠牲で勝つために最前の作戦を立てて指揮をすること…それだけしかできない、だが、逆に言えばそれだけは出来る。ならばそれだけはきっちりとしっかりとやっていこう………